エピローグ
今はあの革命から30年が経った。
応接室で向かい合う、年を重ねたアレクシーとあの頃と変わらないレオンス。かつては同じ年頃で一緒に仕事をした同僚だった。
「何かごめんな。レオンスだけ仲間外れみたいにしてしまって」
「近衛騎士の中で私にだけ妊娠を隠していた事? もう昔の話だもの別にいいわ。でもどうしてなのかは知りたいわね」
あからさまに私にだけ隠されていた妊娠。でも私は新人だったし、まだ信用を勝ち取っていなかったのだから仕方のない事だと思っていた。
「いやさ⋯⋯だってレオンスが住んでた家の侯爵って口が軽いじゃないか。だから話せなかったのもあるし、何も知らなければ罰せらる事もないのだから、レオンスには知らせなかったんだよ」
なんと侯爵のせいでもあった。確かにあの侯爵は口が軽い人だった。
それに私の事も考えて秘密にしていてくれていたのには少し感動した。
「俺達はさ、副団長に助けてもらった事が何度もあったんだよ。すごい面倒見がいい人で、騎士だけじゃなくて王宮で働く皆が尊敬していた。だからイザベル様との婚約解消とか、その他諸々のすべてが皆許せなかったんだよ。イザベル様付きの俺達近衛は、王がイザベル様を叩いていても何もできなかった。そんな自分たちが情けなくて仕方がなかった。⋯⋯イザベル様の妊娠は王宮の皆で隠していたんだ。革命さえなければ秘密裡に産んでもらって、安全な場所で育ててあげようと思っていた」
あの副団長がそんなにも愛されていたのね⋯⋯
「そういえば私に男装を強要してきたのも何か意味があったのかしら?」
朝から毎度男装するのは面倒臭かったのよね。
「王対策だね。あいつに目を付けられない様にだよ。可愛い人や美人に対して欲望のまま行動する人間だったから。それに王妃の嫉妬回避の意味もあったと思うよ。ちなみに王妃は革命の時に秘密裡に毒杯で自殺した。しかもその遺体はきちんと実家の墓に埋葬されたからね。全く最後まで抜かりなかったよ」
「そう。それは⋯⋯私も副団長には助けられていたのね」
よかった⋯⋯あんな奴らに目を付けられなくて。私の横にいる息子を抱きしめた。
「でも副団長が一番感謝している人は君だと思うよ? レオンス」
「⋯⋯そうかしら?」
「ああ。イザベル様も感謝しているはずだし、それに亡くなった仲間達もだ。アントワヌ様が今国王として立派に生きているのは君のおかげだよ。そして今の平和もレオンスの嘘のおかげだ」
私は大きな嘘を、この国一の大嘘を三つもついた。その重みは想像以上で、この時代に戻ってすぐに騎士団を辞めて両親の家に引きこもらざるを得なかった。アントワヌ様の本当の父親、イゴールの死、お腹の子⋯⋯そして今でも自分の選んだ選択は正しかったのか自信がなかった。
「レオンス、もう時効だよ。その優しい嘘は俺がぜ~んぶ墓場に持って行ってあげる」
「アレクシー⋯⋯」
「で? ちなみに一体いつから団長と男女の――――」
「それは忘れて頂戴」
「ママお腹空いた」
「こりゃ失礼。ではまたなレオンス⋯⋯じゃなくてマリエット、それにフローラン。この平和な世でお幸せに!」
こうしてアレクシーは帰っていった。そして二度と会う事は無かった。
私の重かった重圧はアレクシーに肩代わりしてもらったかの様に軽くなり、息子と二人、前に進もうと思ったのだった。




