革命当日
「朝か⋯⋯」
とうとう革命の朝がやってきた。昨日は侯爵の魔術に弾かれて侯爵邸には入れなかったけれど、町の端の宿屋の一室を借りる事が出来てベッドで休む事ができた。防御魔術の展開を提案したのは私。でも侯爵はちょっと酷いと思う。
「体調が悪い」
イゴールはもう王都を出たのだろうか。どこの国に向かっているのか? 任務が私一人の肩にのしかかる。もうイザベル様のお腹の子の父親は分かっているので帰らなければならないのだが、もう少しだけ、イザベル様の出産とその子の行先だけは見届けてから帰りたい。
レオンスは重い腰を上げて王宮に向かった。
王宮の周辺はすでに人だらけで、農具を持った女性や鈍器をもった男達で溢れ返っていた。
「う⋯⋯臭い、気分が悪い」
「大丈夫かい? お嬢さん?」 「泣いてんのか?」 「怖気づいてしまったか?」
「⋯⋯いえ、大丈夫です」
全然大丈夫じゃない。でもどうしても一目だけ⋯⋯
「門が開いたぞ!」 「おりゃ!」 「息子の仇!」 「金を返せ!」 「王を捕まえろ!」
一気に人が押し寄せる。レオンスも潰されて押されて、どんどん王宮の庭を進んでいく。
その方角は図らずも王の私室の方角であった。
「王はあっちだ!」 「よし! 続け!」 「こっちだ!」 「俺がヤる!」
どうやら王宮に詳しい者が先導しているらしい。第一騎士団の者だろう。廊下にも王の私室の前の廊下にも騎士はいなかった。すでに寝返ったのか、それとも逃げたのか。いずれにせよ流血が少なく済んでよかった。
「ここだ! 開けるぞ!」 「構えろ!」 「近衛がいるかもしれない」
――バン!!――
「行け!!」 「狼狽えるな!」 「王がいるぞ!」
一気に大勢の人が室内に向かう。レオンスも流されて中に入ると、そこには騎士団長と椅子で眠る王だけがいた。そして⋯⋯
「息子の仇!」 「お前らのせいで!」 「家族を返せ!」 「お前らなんか死ね!」 「この悪魔が!」 「殺せ!」 「消えろ!」
「あっ!」
騎士団長は市民に剣を抜く事もなく、逃げる事もなくそのまますべてを受け入れた。
王は眠ったまま。
「あ、ああ⋯⋯」
「子供を返せ!」 「税金を何だと思ってんだよ!」 「俺らは家畜じゃねぇ!」 「死ね!」
それでも市民の怒りは収まらない。本来ならば拘束し、裁判に掛けて処刑するべきなのに、それすら待てないと怒りを発散し続ける。歴史の教科書には革命時に死亡とだけ書かれていたが、現実はこの凄惨な有様だった。
「⋯⋯もう、もう⋯⋯」
レオンスの目には市民こそが悪魔に見えた。すでに息絶えた遺体を楽しそうに甚振り続けるその姿は、そこにある王と本質は変わらないのではないか。
まだ王に対してなら分かる。だが市民は知らないとはいえ、誰よりも真面目に生きていた騎士団長までも⋯⋯
「⋯⋯⋯⋯」
「大丈夫かお嬢さん? ああ、これは女性にはキツイよな。あんたも王に家族を処刑されたんだろ? これやるよ。死んだ命は戻らねぇが、金目な物はもらっておけ」
「は、はい⋯⋯」
男に手渡されたのは図らずしも騎士団長が愛用していた剣だった。
市民たちが王の私室の略奪を始めたので、吐き気を催したレオンスはフラフラと人込みをすり抜け、気づくと第一訓練場に来ていた。
ここには略奪する物もないので周りに人はまばらだ。レオンスは行儀悪く、その場に座り込んで休んだ。
「こんな結末だったなんて⋯⋯⋯⋯」
初めから知っていた。25年後の騎士団長は別人だし、その前の騎士団長も違う名前の方だったから。だから目の前にいたあの騎士団長は、革命の時に亡くなった方なのだとすぐに気づいた。
仲良くなっては駄目だと、好きになっても無駄だと思えば思うほど止まらなくなってしまって、今ではこんな状態になってしまっている。私はつくづく馬鹿だなと呆れてしまう。
でも想像していた最後とは全く違っていて、私は勝手に最後まで騎士らしく戦って命を費やしたのだと思っていたのに⋯⋯まさか無抵抗で、なすがままになるなんて⋯⋯でも騎士団長は市民に攻撃なんてできない人だった。その結果、残ったのは人だったと思われる物だけになるとは。
「うっ⋯⋯」
気分が悪い。酷く悪い。あの大勢の市民が流れ込んだ中で一瞬団長と目が合った気がした。
好きだった人が目の前で殺されても何もできず、動けなかった私が一番の悪魔かもしれない。
「おい! お前いい物持ってんじゃん?」 「女には剣なんかいらねーだろ? 俺に寄越せ――――」
――スッ――
「⋯⋯⋯⋯何か言った?」
「ヒッ!」 「お、お前、騎士か?! 騎士だろ!」
剣を喉に当ててやったら、大きな声で騎士だと叫ばれた。その声につられて市民が数人こちらに向かって来た。
「騎士だと?!」 「殺せ!」 「どいつだ?!」
「こ、この女だ!」
「⋯⋯⋯⋯」
すぐに目が血走った市民に囲まれた。何か、もういいかな⋯⋯と、そう思ってしまった。だけど⋯⋯
「違ぇよ! レオは革命家仲間だよ! どうせお前が怒らせる様な事を言ったんだろ?」
あの臭い革命家がここにいた。これが運命という物なのかな。
「は?! 騎士だろ?! 剣使えんだぞ?」 「すげぇ早業なんだって!」
「だからここに連れて来たんだ! 騎士と戦う戦力としてな! レオ、お前はコイツらに何をされたんだ?」
「私が手に入れた大事な剣を奪おうとした」
「お前らなぁ、女から物を奪うなんて王と同じじゃねーかよ。この革命はそんな事の為にしたんじゃねーぞ!」
「いや、だって⋯⋯」 「高そうだったし」
少し投げやりになっていた私だけど、男達のやり取りを見ているうちに毒気が抜けてしまった。
「⋯⋯生きよう」
私にはまだアントワヌ様を見守る仕事があるから⋯⋯




