監獄襲撃
今いる監獄から朝日に照らされた王都自然公園の様子が見える。大通りもよく見えるし、貴族学校や士官学校も見える。
そのどこも熱気を帯びた市民で溢れ返っていた。
「食事です」
「あー後で食うわ」 「zzzz」 「何か外がヤベぇな」 「腹減った」
ここは三角州にある監獄。市民達の狂気は対岸の火事とも言えるけど、ここには逃げ場も無い。
この石造りの孤島にまで妙な熱気と地響きが聞こえてくるので、少し緊張してしまう。
⋯⋯今朝の食事には下剤が入っている。仲間の看守達は寝たふりをして食べないみたいだ。事前に知らされていたから避けているのだと思う。最終的に約15人は下剤入りのスープを食べた。そしてトイレは三か所しかない。どうなるのだろうか⋯⋯革命くらい怖い。
確か監獄襲撃は昼前だったはず。こちらに市民が押し寄せるまでには、あと少しだけ時間がある。
囚人に多めの水と調理場に残ったすべての食事を与えて、その時を待つ。心なしか下の階にあるトイレが騒がしい。
「辺境伯を助けろ!!」 「公爵を救え!」 「出せ!」 「開けろ!」 「助け出せ!」
どうやら時間が来たみたいだ。革命仲間の看守が寝返っていない看守を拘束し、跳ね橋を下げて重い扉を開けた。私はあその様子を小さな窓から見て牢獄の鍵を開けていく。
「出てもいいのか?」 「罰せられないか?」 「何が起きているのでしょう?」
「間もなく市民が押し寄せますよ。もうこの牢獄は包囲されていますから、機能しません」
私が開けるのは政治犯として王が理不尽に牢獄に送った者達だ。凶悪犯の牢まで開けるつもりはない。
ここに送られた人達は王に意見をした者、言うことを聞かなかった者、ただ単に気に食わなかった者⋯⋯
そんな事が曲がり通っていたのだ。
「北の辺境伯様とアルバン様を助ける為に南と北から市民が来てますよ。ここの明り取りの窓からご覧下さい」
「なんと⋯⋯」 「本当に、こんなに⋯⋯」
この監獄に大勢の声が響く。最低限の流血で監獄は市民の手に落ちたのだった。
「レオ、ありがとう。この礼はさせてもらうよ」
「いえ、ではいってらっしゃい」
政治犯達は市民に保護されて監獄を後にした。そして私も市民に紛れて監獄を出た。
「これでアルバン様は大丈夫。次はイゴールときちんと話したい」
侯爵家に帰ったがイゴールはいなかった。きっと王宮の研究室にいるのだろう。私はイゴールに会いに行った。
「あれ? いつもと違う⋯⋯」
いつもなら受付や歩いている魔術師がいるのに今日は誰もいない。仕方がないのでイゴールの研究室に行ってみた。
「イゴールいる?」
「レオンスか? どうぞ」
「失礼しま――――あ、失礼、来客中でしたか?」
室内には以前受付で見た女性がいて、イゴールは何やら片付けをしていた。
「ちょうど良かった。こちらから会いに行こうと思っていたんだ。レイラ、少し出てくる。レオンス、歩きながら話をしよう」
「うん」
私はイゴールと外に出て歩きながら話をする事になった。
秘密の話をする時は歩きながらがいいとは聞くが、魔法陣の話だろうか。
「まずはこれを。この魔法陣を上下、左右に展開する。そうすれば帰れるから」
「え? 小さいわね。で? イゴールが魔法陣を発動するんでしょ?」
どうして私に魔法陣を渡すのだろう? イゴールが持っていればいいのに。
「本当にすまない。俺は帰れない」
「は?!」
何を言っているの?!
「彼女は妊娠してる。このまま彼女と生きたいんだ」
「あ、あなたね?! そんな事が許される訳ないでしょ?!」
任務中なのに! 過去を変える様な事が許される訳がないのに! 身勝手にも程がある。
「俺は革命に巻き込まれて死んだ事にして欲しい。これから彼女とこの国を出る。二度と戻らないと誓うよ」
「そんな⋯⋯本気なの?」
⋯⋯お相手は先ほど部屋にいた女性だろうか。片付けをしてたのではなく、国外へ向かう為の準備だったのね。
「俺はさ、25年後に帰った所で落ち目の伯爵家の四男だよ? 家族とも疎遠で、俺の死なんて誰も気にも留めないさ。でも彼女のお腹には俺の子がいるんだ。父親は俺しかいない。代わりはいないんだ」
イゴール⋯⋯マシューの家は没落寸前。そこの四男なんてほぼ平民と変わらない。でも⋯⋯帰らないなんてそんな⋯⋯
「レオンスお願いだ。俺は革命で死んだんだ。これを持って帰ってくれ」
「これは⋯⋯髪の毛と魔術師のタグ⋯⋯」
イゴールから手渡されたのはイゴールのタグ。もちろんマシューのタグではない。でもこのタグは戦争時に遺体の代わりとして持ち帰る身分証明書となる物だ。彼は本気なのだろう。
「本当にごめん」
「⋯⋯もう決めたのね?」
イゴールの意思は固かった。そしてまた一つ、私は嘘を付かなくてはならなくなった。
イゴールと別れて王宮から続く道を歩く。すでに王宮に向かって市民が歩いていた。
革命は明日だ。いや、監獄を開放した時点ですでに革命は火蓋は切って落とされているのかもしれない。




