三角州にある監獄
「こんばんは」
「あ、レオか。どうした? 仲間に加わる気になったか?」
「まぁ、少しお手伝いが出来たらな、と思いまして」
騎士団長にもう遅いから帰れと言われたので、仕事帰りに革命家のいるパブに寄ってみた。
「どんな風の吹き回しだよ?」
「それが⋯⋯監獄に知り合いが収監されているみたいなので助けてあげたいな、と」
国王になるアルバン様がきちんと保護されるのかを見届けたい。私とイゴールという異分子が来た事によって多少なりとも未来が変わってしまうのではないかと今更ながら気づいたのだ。
本来ならばイザベル様の周りに私はいなかった訳で、捕まってしまった場合に赤子のその後を託されたのは私ではなかったのかもしれない。その託された方が重大な働きをしていた場合、私のせいで未来が変わってしまう。
「それなら手伝って欲しい事は多いぞ」
「いや待て、なんだろうな、レオから貴族っぽい匂いがするんだよ。信用できないぞ」
いつも疑ってかかる男がまた私に絡んで来た。でもその疑いは正しい。
「⋯⋯私は商人ですよ? 身綺麗に整えておかないと客商売はできません。あなた方も信用を得たいのならまずは服装に注意したほうがいい。⋯⋯クサ⋯⋯うっ⋯⋯」
「⋯⋯確かに」 「俺三日も服変えてねーよ⋯⋯」 「俺はもっと」
「⋯⋯噓でしょ? おえぇぇぇ」
革命家が汚かった。もし私が教師になったら真っ先に後世に伝えてやる。奴らは臭かったと。
何だかんだ言いながらも私は革命家の手伝いをする事になった。
「レオンス、今日で一週間だ。君にこれを」
「何でしょうか?」
副官として書類仕事を手伝う約束の一週間が終わり、騎士団長は私に封筒を手渡しで渡してきた。それはとても厚みのある物だった。
「そのまま持って帰ってくれ」
「でも⋯⋯これお金ですよね? 受け取れませんよ」
この中には大金が入っている気がする。それもかなりの。
「何も言わずにもらって欲しい。それが私の最後の望みだ」
「⋯⋯その言い方は少し狡いと思いますが?」
そんな事を言われたら断れる訳がない。それに最後なんて言わないで欲しい。たとえ最後だとしても。
「短い間だったけど、ありがとうレオ――――」
「フン!」
最後に抱き着いてキスしてやった。そして夏の夕日に照らされた廊下を進む。あと一週間でこの静かで豪華な廊下には大勢の市民が押し寄せるのだ。そしてここに飾られているよくわからない絵画も略奪されるのだろう。
「あ、よく見れば綺麗な風景画だったのね」
立ち止まってゆっくりと絵を見る機会なんてなかったから、どんな絵だったのかなんて知らなかった。
一瞬、ぼんやりとした作風だと思ったのに、瞬きをした瞬間に風景がはっきりとした。どうやら私は歩きながら泣いているらしい。
「大の大人が⋯⋯25年前の公衆の面前で何してるのよ⋯⋯」
廊下に誰もいなかった幸運に感謝をしながらレオンスは王宮を後にした。
「レオン、お前は監獄の方を頼む。いいか?」
「うん。いいよ」
暇になった私は次の日から革命家の下で手伝いを始めた。監獄の騎士は半数がすでに仲間になっているらしい。そして監獄で下働きをしていた老人が危険回避の為にちょうど辞めたので、私が働きに入る事になった。
「当日の飯に薬を入れて欲しいんだ。別に死ぬ様なもんじゃない。腹が半日下るだけだ」
「え⋯⋯汚い⋯⋯」
「お前そればっかり! かなりの綺麗好きだな!」
とにかく私は監獄に向かった。そこは川の中州にある堅牢な石造りの古い城を改造した物で、中の騎士が跳ね橋とドアを開放してくれないと攻め入るのは難しい場所だった。下剤を盛る私の責任が重大過ぎる気がする。
そしてここにアルバン様と北の辺境伯も収監されているらしい。早く安否を確認したいけど、下働きの私の仕事はここにいる騎士の食事の世話と掃除くらいである。
「こんにちは。今日から働きますレオンです」
「あぁ、そういえば今日からか。やっとまともな飯が食えるな」 「へ~若い女なんだ。美人じゃん」
挨拶を交わしながら誰が仲間なのか、強そうな人はどれ位いるのかを見定めていく。
「く、臭い⋯⋯」
牢獄内は酷く臭かった。最近そんな事ばかりだ。生きるか死ぬかの革命前だから、看守の騎士も身を清める気分にならないのだろうか?
⋯⋯騎士団長はいい香りがしたのに。今日も王宮で仕事かな?
「ここで調理をしてもらう。あと洗濯もある」
「⋯⋯分かりました」
調理室は地上階にあり、まあまあ清潔ではあるが虫や鼠が出そうだった。
とりあえずレオンスはスープを作り始めた。そこでふと25年後の世界の、私の部屋にあるスープを思い出した。あのスープはきっと私が帰るまでに腐る事はない。なぜなら私はもうすぐ任務を受けたあの日に帰るのだから。
⋯⋯体は1年1か月ほど年を取ったのよね? 不思議⋯⋯
「食事です」
「お! まともじゃん」 「ありがたい」 「外に食いに行かなくて済むぜ」
監獄内の騎士はやる気が無かった。一日中酒を飲み、カードゲームをしていた。
「あの、囚人への食事は?」
「あ? そんなものいらねーだろ」 「食えないほど硬いパンでいいぞ」 「水をもって行け。俺たちは忙しいからな」
「分かりました」
囚人への食事を持って行くのは騎士の仕事なのに、彼らは私に水を持って行く様に命令した。だが多分、水を持って行けと言った人は仲間だ。水のついでに食事を持って行けと言っているのだと思う。
お盆に水とパンを置き、ポケットには果実を入れて囚人の部屋に向かう。酷い悪臭に吐き気を催すが、順番に水を与えていく。そして30人を超えた頃に私の知る25年後の国王よりも若いアルバン様がいらっしゃった。
「アルバン様、大丈夫ですか?」
「ああ。君は? 水を持ってきてくれたんだね。ありがとう」
かなりやつれている。でもただの水を持ってきた私にまでお礼を言うアルバン様は、本当に人格者だと思う。
「果物とパンです。食べてください。あと少しの我慢ですから」
「申し訳ないね。真面目に働いて生きていても飢えて死ぬ者がいるのに⋯⋯監獄の中の犯罪者に食事があるなんて」
「あなたは何も罪を犯しておりません」
「いや、兄を止められなかったよ」
それは⋯⋯。ふと騎士団長の顔を思い出した。アルバン様もクソ真面目な方なのだろう。
その後レオンスは北の辺境伯も見つけ、多めの果物とパンを与えて市民の監獄襲撃の日までに体力を付けてもらう事にした。




