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止まらない革命の竜巻

 深緑が増え始めた五月、まだ服で隠せてはいるが、イザベル様のお腹は以前よりも膨らんでいる。お腹の子は順調そうだ。

だが誰もその話題には触れない。本当に奇妙な感じがする。


「本日の王都第一病院への慰問は延期にしましょう。最近治安が悪いですから」


「⋯⋯そうですか。残念ですね」


近頃第二婦人であるイザベラ様の噂が酷いのだ。どうやら下世話な大衆紙が王族を面白可笑しく書いて部数を伸ばしているそうだが、どうにも誰かの介入を感じる仕上がりになっている。


第二婦人は王を誑かして第二婦人の座を手に入れ、国のお金を使い贅沢三昧をしているとか、見目麗しい男を夜な夜な寝室に連れ込んでいるだとか⋯⋯どう考えても王妃の差し金だと思われる。だが何も知らない国民は信じてしまうのだ。いや、真偽などどうでもいいのかもしれない。今この国では王家の失態はある意味国民の最高の娯楽であり、ストレスのはけ口であり、ある意味生きる希望なのだ。


人は敵を定め、同じ考えを持つ者が集い出すと強固な集団になる。そして次々に竜巻の様に賛同者を巻き上げ力を増して進んで行く。




――オルメオー王国南、マリティマ領――


「王弟、お願いします。もう限界なのです!」 「食べ物がないのです。子供がこのままでは⋯⋯」 「主人が病気で薬を買うお金もないのです」 「墓場すらもう足りません」


「私とてこの現状に嘆いておる。しかし私は妾の母を持ち、王家の人間とは数えられない者として育った。今は只のマリティマ公爵だ。その私に力は無いのだ」


 アルバン・オルメオーは前国王の子だが母親は王宮で働いていた元侍女で妾だった。彼は小さい頃から優秀であったが為、王妃の子である異母兄から嫌われた。そして異母兄が今の国王になってから彼は、王都から遠く離れた南のマリティマ侯爵領に婿入りを命令されてマリティマ公爵となった。


彼はそこで真面目に領地経営をし、人々から頼られる良き領主となった。

私生活では子供はいないものの夫婦仲も良かった。


「どうするか⋯⋯嘆願書は送ったが、なしのつぶてだ。王都へ向かい、国王に直接言うべきだろうが⋯⋯私は義兄に嫌われている。話を聞いてくれるだろうか?」


散々悩んだ挙句、その後アルバンは王宮へ向かう事にした。



「ねぇ聞いた? 王弟のマリティマ公爵の件!」


「それよりもアレクシー、今日もそれしか食べないの?」


「うん。ってそうじゃない! 王弟が不敬罪で捕まったヤツ! 今あの怖~い地下牢獄にいるらしいよ!」


「⋯⋯そう」


歴史の教科書に必ず書かれている六月に起きた王弟投獄事件。国民を代表して民の声を届けた王弟が不敬罪とされ投獄されたのだ。この事件によって南に住む国民の怒りは頂点に達する。


「ねぇアレクシー、イザベル様のお腹だけど――」


「あ~~もっと何か食べようかな~? ちょっと頼んでくる~」


明らかに妊娠しているのに、この手の話をすると同僚に逃げられてしまうのは何故? 自分だけ仲間外れをされている気分になるし、私から何を守っているのだろう。もう妊娠は隠せなくなってきているのに、いつまで誤魔化すつもりなのか。



 今日は久々の休日だ。町の治安が悪いので質素な服装をして町を歩いてみる。

商品の少ない八百屋の前を通り過ぎ、どこからかパンの焼ける匂いがしてきたのでその香りを辿ると、そこは裏路地で、数人が古いパンを焚火で炙って白湯に浸して食べていた。彼らは家賃が払えず路上で生活している者達だろう。


町の至る所に簡単に刷られた紙が貼りつけられ、そこには王宮の腐敗や現王政廃止の文字が並ぶ。馬車から見る景色とは違い、実際に歩いてみると町には妙な熱気に溢れていた。


「どうぞ」


「はあ、どうも」


帽子を被った男に質の悪い小さな紙を渡された。そこには同志募集と書かれていた。

これが革命前の町か⋯⋯数か月前には先の見えない暗い表情の人々が通り過ぎて行ったのだが、今は熱い意志を隠し持った戦場に向かう前の戦士の様だ。革命が今を生きる希望なのだろうか。



――王宮謁見室――


「何だ?! 北の辺境伯! もう一度言ってみろ!」


「我々の宗教を禁止しないで頂きたい!」


 先日、王国北部で信仰されている自然神信仰を国王が禁止した。北は雪深く厳しい土地ではあるが、目には見えない神々がそこにはいて、人々を守っているのだと昔から人々は信じ、自然神を崇め、作物の豊穣や早めの雪解けを願ってきた。それを時代遅れだと王は言い、信仰を前面的に禁止したのだ。


そして北を治めるモゼル辺境伯が王への嘆願にやって来た。


「なんて反抗的な者だ! その者は我が国にはいらぬ! 牢獄に入れろ!」


「⋯⋯」


「騎士共は何をしていいるんだ! 早く動け!」


「⋯⋯はっ」


騎士達も仕事だ。首になったら収入が無くなる。彼らはしぶしぶ王に従った。そこにはすでに王族への敬意などは微塵も無かった。

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