春の狩猟大会と第一騎士団
今日は春の狩猟大会だ。通常は秋に行われる狩猟大会だが、王が気まぐれに春も行う事を決めたらしい。
三月下旬の今日は少し肌寒いが天気も良く、男性は騎乗し森へと狩猟に向かう。貴族女性達は男性を応援しつつお茶会を楽しむそうだ。
私はイザベル様の後ろで護衛任務である。
革命まで残り五か月。私は正直焦っている。イザベル様の妊娠はいまだに確認できていないし、同僚からも部屋に男が出入りしている話は聞いていない。残り三か月以内に妊娠をしないと計算上、獄中出産が出来ないのだ。
「?」
今日は野外なのでいつも以上に慎重に護衛任務をしていると、遠くから敵意のある目線を感じた。危険回避のために目線の送り主を確認すると、今日狩猟を行っている、この王都の森を管理している下働きの者達からだった。
「どうした? レオンス?」
「アレクシー、いや、何でもないよ」
彼らはそのまま仕事へと戻ったので特に危険性はないと思い、気にするのは止めた。
このくらいの敵意の目線にはもう慣れている。
「天気がよろしくて良かったですわね~」
「今日私の婚約者が狩った青狐で次の秋冬用の素敵なマフラーを作る予定ですの」
「いいわね。私は雪うさぎで作りたいわ~。でも春先の毛並みは秋の物より――――」
女性は会話に花を咲かせ、お昼前から始まった狩猟大会はそれなりに盛り上がり、夕方には終了した。
私はイザベル様と共に王宮に戻ったので、その後については知らなかった。
「ふざけんなよ。飢えてるヤツらも多いのにお遊びの為に動物を狩りやがって」
「動物達も春先に出産したばかりで親子共々殺されてな。毛皮が欲しいだの言って狩りやがって。食べもしねぇのに」
「秋だけじゃなくて春まで森を荒らしたら動物がいなくなるぞ。何を考えてんだよ」
国民の不満はどんどん積み重なってゆく。薪を買えず、飢餓に苦しみながら冬の間に凍死した人間が少なくない今の現状で、この春の狩猟大会は王都の人間の不満を十分に煽った。
「この間はすまなかった」
「お気になさらずに。イザベル様の護衛の交代時間には間に合いましたから」
昼休み、天気が良かったのでたまには外で食事でもしようかと思っていた私は、王宮を出ようとした所で騎士団長に出くわした。そして挨拶もそこそこに、先日騎士団長が毒で倒れそうになった件について謝られてしまった。
「しかし――」
「では私が酔って送ってもらった件と相殺でお願いします」
「ふっ、そうか、それで頼む」
騎士団長の珍しい笑顔を拝めた。あぁいつの間に団長に会えると喜んでしまう自分になってしまったのか。困ったな⋯⋯駄目なのに。不毛にも程があるけど、心が言う事を聞いてくれない。
「騎士団長! 国王がお呼びです!」
「あぁわかった。すぐに行く。では午後も仕事頑張って」
「ありがとうございます。団長も」
お忙しい団長はすぐに消えてしまった。
「次はいつ会えるかな⋯⋯って駄目駄目過ぎる。まさか私って悲劇のヒロインになりたい願望でもあったのかな?」
朝担当の日は早朝から鍛錬に勤しむ。相変わらず誰もいない訓練場で普段は一人、黙々と鍛錬をしているはずの団長が今日はいなかった。何かあったのだろうか。
一人でする鍛錬は寂しいので王宮警備の第一騎士団が練習をしている第二訓練場に行ってみる事にした。さすがに朝早すぎたのかパラパラと自主練する騎士しかいなかったが、その中にあの人がいた。
「おはようございます。お久しぶりですね? 覚えていますか?」
「あ! お前は剣持ちの近衛だな? 何の用だよ?」
「お忘れですか? 手合わせしましょう!」
「はぁ?!」
久しぶりの騎士団長以外の騎士との手合わせだ。二十五年前の騎士との手合わせなんて楽しみで仕方がない。私の生きる二十五年後は魔法と剣を用いた戦い方なので、純粋に剣だけで戦う騎士の強さに興味が惹かれる。そして集中して鍛錬用の剣を構える。
「おい? 本気か? まぁいいけどよ、来い!」
――カン――カン――カン――カン――カン
体格がいい騎士らしく力が強い。この騎士は革命の時どうするのだろうか。王宮に攻め入る平民に剣を向けるのだろうか。
「は? お前近衛のくせに強いな!」
「ありがとうございます。レイピアではなく、騎士団の剣を持つにふさわしいですかね?」
「あ、それについてはすまなかった。攻撃の往なし方が上手いな。騎士団長も上手いが、お前も中々だ」
「あ! 負けました。ありがとうございました」
さすが王宮警備騎士だ。強かった。
「俺はアルノーだ。第一騎士団第三班班長だ」
「レオンス・ローヌです。イザベル様付き護衛騎士です。お手合わせ、またよろしくお願いします!」
強い人との手合わせは学ぶ事が多い。楽しい気分で鍛錬を終える事が出来たのだった。




