お酒は危険
「ねぇアレクシー、今夜は暇? 他の皆はどう? 奢るから、ぱ~っと飲みに行かない?」
隣国との昼食会にガーデンパーティーと続き、朝の七時から働きっぱなしで、やっと交代できた今は、すでに夜の19時を回っていた。
「え~? 俺はもうクタクタだよ。一歩も歩けない。また今度誘って~」
「俺も今日は疲れたわ。明日も朝から仕事だし、俺はパス」
「う~」
王から投げつけられたお金を何となく持ち帰りたくなくて同僚を飲みに誘ったが、半日も立ちっぱなしだった彼らの体力は限界だった。全く⋯⋯鍛錬を疎かにしているからだ。
この王宮にいる知り合いは非常に忙しい侯爵とイゴール、そして近衛の同僚くらいだから、もう誘う相手もいないし⋯⋯でも一人飲みは寂しいしどうしようかな? と考えていると――
「ローヌ嬢、少々いいだろうか?」
「あ、騎士団長、もちろんです」
この世界での私の知り合いがもう一人いた。
「今日はありがとう。本当に助かった。ローヌ嬢の気転のおかげで場の空気を下げずに済んだよ」
「いえ、他国の王族の方々もいらっしゃいましたから、あの場を上手く収拾できてよかったです」
それに震えるイザベル様を守りたかっただけだから、そんなに感謝されなくていいのに。
しかも私としては魔術を披露する機会を得られて嬉しかった。 戦闘力の無い魔術はなかなか使いどころが無いし、でも自分的には綺麗だから沢山の人に見て、喜んでいただけてよかったと思う。
「ローヌ嬢は謙虚だな。『貸しを作ったぞ!』くらい言ってもらっても構わないが⋯⋯」
「あ! でしたら――――」
「本当にここでいいのか? もっと高級料理店でもよかったのだが?」
「このビストロくらいが丁度いいんです。お酒も美味しければ文句無しです。乾杯!」
寂しい一人飲みを回避出来た私は、王からもらったお金を使い切るべく食べて飲んでを繰り返す。景気の悪い王都なので期待はしていなかったが、食事もお酒もとても美味しい。大衆酒場よりは少々値が張りそうだが、このお店は大当たりだ。
「騎士団長も飲んで下さい! 団長はお酒強そうですから私の三倍飲んで下さい!」
「⋯⋯すでに酔っているのか?」
「酔っていません~しかし騎士団長の剣は強いですね~やっぱり強さは年の功ですか~? あと何十年頑張れば団長みたいになれますか~? 団長の年くらいかな~先は相当長い~」
「⋯⋯俺の年をいくつだと思っているんだ⋯⋯」
今まで記憶を飛ばした事も泥酔した事もなく、人よりお酒が強いと思っていた私は、ハイペースで飲み続け、完全に酔い潰れたのだった。
「う~? あれ目が開かない? 何で?!」
いつもの部屋で起きた私は異常に視界が狭かった。何だか怖くなり、すぐにベッドから立ち上がって洗面所の鏡で目を確認すると⋯⋯
「えぇ?! 顔が浮腫んでる?! どうして?!」
とにかく昨日の自分に何があったのか記憶を探ってみる。 昨日は長丁場の仕事が終わってから大当たりのビストロに行って⋯⋯
「あれ? 騎士団長と飲みに行ってからの記憶がない。もしかして飲み過ぎた?」
上司の前で何という失態⋯⋯ あり得ない。昨日の自分に絶望する。しかも王の動向とか、イザベラ様の部屋に王は通っているのかなどを、さりげなく聞き出したかったのに、私は何をしていたのだろう?!
「お目覚めですか? レオンス様」
「え、はい⋯⋯」
「ご気分はいかがですか? 昨夜は大分酔ってらしたので」
「その、昨日私はどんな風に帰って来ましたか?」
知りたくない聞きたくない。今すぐ逃げ出したいほどに恐ろしいが、何が起きたのかは把握しないと駄目だと思う。
「旦那様のご友人であるモーリエ侯爵様がレオンス様を送ってくださいましたよ」
「う⋯⋯そ、そうでしたか」
あぁやってしまった。一新人騎士である私からお忙しい上司を誘ったくせに飲み潰れ、挙句の果てに家まで送ってもらうとは。しかも昨日王から投げつけられたお金がそのまま残っていた。
「私って女性にしては大柄だし、筋肉って重いのよね⋯⋯」
⋯⋯フラフラの私に肩を貸してくださったのだろうか? 絶対に重かったはず。あぁ恥ずかしい。でもやってしまった事は消えないし、騎士団長にはとことん謝りましょう。それ以外に道はないわね。
だが直ぐに謝りたいと思っていたのに最近は昼担当が多く、私の仕事の始まる15時には騎士団長が王の護衛により不在で、仕事終わりの23時ではすでに帰宅されていて遅すぎたのだった。
結局それからも騎士団長には会えず、しばらく時間が経ってしまった。




