第7話 思い出の、手がかり?
五人は、商店街の中にある喫茶店「メキシカン」で、少し早い昼食をとっていた。
観光客も通る商店街の中の店ではあるけれど、ガラス張りの明るい店構えや、写真映えする看板とは無縁だった。明るい外からは、中の様子が見えにくい。古い木目調の入口の横には、少し色褪せた食品サンプルが並んでいた。木枠の扉を押して中へ入ると、昔からそこにあるものが、昔からの場所に置かれているような店内が広がっている。
店内では、店主のおばあちゃんがカウンターの中でコーヒーを淹れていた。湯気と一緒に、少し苦い、けれど落ち着く匂いが店内に満ちている。
昼時にはまだ少し早いせいか、客は多くなかった。奥側の席に座る常連らしい老人がひとり。カウンターで新聞を広げている老人がひとり。観光客らしい姿は見当たらない。
蓮たちは、中央のテーブル席に座った。四月末としては強めにかかっている空調が、山の中での労働を経てきた蓮たちにはちょうど心地よかった。
注文を終えても、五人の空気はあまり明るくならなかった。暗くなりすぎないように、それぞれが少しずつ気を遣っている。けれど内心では、もう全員がタイムカプセルのことを諦めかけているように、蓮には思えた。
「ダメそうかな、やっぱり」
そういう空気を真っ先になんとかしようとするのは、たいてい弥太郎か珠美で、今回は弥太郎だった。悲壮感が出ないように、わざと軽い調子で口火を切る。
「はー」
珠美がテーブルに肘をつき、深いため息を吐いた。
「私の場合、ノスタルジーだけじゃなくて懐事情も絡んでるから、けっこう深刻なんだけどな」
深刻だ、と言っている割に、その声にはどこか自嘲気味の響きがあった。笑いに変えようとしているのだろう。
「なくなるわけはないと思うんだけどな」
蓮は、つぶやくように言った。
半斗缶だ。しかも、五人でビニール袋に包んで、テープでぐるぐる巻きにした。六年経ったからといって、土の中で煙のように消えるものではない。
「やっぱり、あれじゃね?」
弥太郎が、少し声を低くする。
「土守様」
怪談話でも始めるような調子だった。
またそれか、という空気がテーブルを囲む。珠美が苦笑し、柑奈が呆れたように肩を落とした。
「でもさ」
弥太郎は、わざとらしく両手を広げた。
「そうとしか考えられなくないか? 超常的な力でも働かない限り、半斗缶は消えないだろ」
「土守様、そこまで万能なの?」
「山の神様だからな。半斗缶くらい余裕だろ」
「神通力って便利だねえ」
珠美が気のない声で言う。
蓮も笑いながら二人のやりとりを聞いていた。冗談の形をしているのに、弥太郎はその話をなかなか手放そうとしない。
「ねえ、弥太郎くん」
三咲が、静かに口を開いた。
「もう一回聞かせてくれる? 土守様の話」
「オッケー。……って言ってもなあ」
弥太郎は頭をかいた。その続きを、珠美が代わりに引き取る。
「山に物を置いていくと、土守様が持っていく。……以上」
「短っ」
柑奈がぼそっと突っ込んだ。
「それで土守様が犯人だとしたら、あまりにも証拠不十分で不起訴だな」
蓮が言うと、珠美が「間違いない」と頷いた。
その時だった。
「若いのに珍しいねえ」
唐突に、横から声がした。
五人が顔を上げると、カウンター席に座っていた老人がこちらを見ていた。白髪を短く刈った、背筋の伸びたおじいちゃんだった。手元には飲みかけのコーヒーがあり、皿の上には半分ほど残ったトーストが乗っている。
「えらい古い話をしとるわ」
「……土守様のことですか?」
弥太郎が、思わず身を乗り出す。老人は目尻に皺を寄せて笑った。
「土守さんじゃろ。久しぶりに聞いたわ」
「あら、辰さん」
カウンターの中から、店主のおばあちゃんが顔を上げる。
「なんか知っとる話なん?」
「知っとるよ。わしは東側の生まれじゃけえな」
辰さんと呼ばれた老人は、ゆっくりとコーヒーカップを置いた。
「この町でも、東側のもんしか知らんのやないかな。今じゃ、わしみたいな年寄りくらいじゃろうけど」
「……じいちゃんの作り話じゃなかったんだ」
弥太郎が、半分呆然としたようにつぶやいた。
「どんな話なん?」
店主のおばあちゃんが尋ねる。辰さんは、店主にも、蓮たちにも聞かせるように、少しだけ体の向きを変えた。
「土守さんっていうのはな」
店内のコーヒーの匂いの中で、老人の声だけが、少し低く響いた。
「常土山の土を守っとる神様のことよ」




