第4話 思い出の、迷宮。
結局、探索初日にタイムカプセルを見つけることはできなかった。
あれからさらに一時間ほど、五人は場所を変えながら地面を掘り返した。
木の根元。
大きめの石のそば。
地図の矢印が指しているように見える場所。
いろんな可能性を考慮して、それらしいところは片っ端から掘った。けれど、出てくるのはやはり土と根と石ばかりで、六年前の自分たちが埋めたはずの缶は、どこにも姿を見せなかった。
昼を過ぎたころには、誰からともなく手が止まっていた。
腹も減っていたし、腕も重い。何より、掘っても掘っても見つからないという事実が、五人の気力を空っぽにしてしまっていた。
「一回、町に降りてご飯食べない?」
そう提案したのは珠美だった。
蓮の判断を待つまでもなく、反対する者はいなかった。
五人は道具を片付け、常土山を下りた。商店街まで戻ると、連休らしく観光客の姿がちらほら増えている。さっきまで土と落ち葉の中にいたせいか、店先ののぼりや人の声が少しだけ眩しく感じた。
観光客で混んでいる店を避けて昼食をとったあと、海沿いのベンチに腰掛け、午後の予定について話し合うことになった。……が、柑奈が少し申し訳なさそうに手を上げた。
「ごめん。私、午後から予定入れちゃってて」
「えー、柑奈いないの?」
珠美が不満そうに頬を膨らませる。
「だって、午前中で見つかると思ってたんだもん」
「まあ、俺らもそう思ってたけどさ」
弥太郎が苦笑する。
「じゃあ、残った四人で続きやる?」
蓮がそう言うと、柑奈はすぐに首を振った。
「だめ。私を仲間外れにするな」
ふくれっ面で蓮のことをじろりと睨む。
「私抜きで開けたら絶対怒るからね」
「蓮、そういうとこだぞー」
柑奈の様子を見た珠美がケラケラと笑いながら指摘した。なおも頬を膨らませたままの柑奈を三咲がよしよしと慰める。
「まあ、そういうクールなところが頼りになったりもするんだけどな」
弥太郎がフォローして、笑う。
「悪かったよ」
蓮はバツが悪そうに頭をかきながら柑奈に詫びた。
「じゃあ続きは明日。ちょっと朝早めの時間から再挑戦ってことでいいかな」
蓮の仕切り直しの提案にようやく納得したのか、笑顔に戻った柑奈は頷いた。
こうして、探索初日はそこでお開きになった。
* * *
その夜。蓮は自分の部屋の机に向かっていた。
机の上には、あの宝の地図が広げられている。六年前の鉛筆の線は薄く、木の絵も石の絵も、改めて見るほど頼りない。
たからの地図。
小学生の頃の自分たちは、これで本当に分かると思っていたのだろうか。蓮は頬杖をつき、地図の端を指で押さえた。
なぜ見つからないのか。
一番ありそうなのは、単純に場所を間違えているということだ。
あの地図は、どう見ても正確ではない。目印も曖昧で、六年前の記憶も当てにならない。掘る場所が少しずれているだけなら、見つからないのも当然だった。
たぶん、九割以上はそれだ。そう思う。
思うのだけれど。
それでも蓮の中には、別の可能性がひっかかっていた。
もう誰かに掘り出されている?
たとえば、六年前。自分たちがタイムカプセルを埋めているところを、誰かが見ていたとしたらどうだろう。
自分たちだけの秘密のつもりだった。けれど、小学三年生の五人組が山の中で大騒ぎしながら穴を掘っていたのだ。周囲を警戒できていたとは思えない。誰かに見られていても、まったく不思議ではない。その誰かが、あとから掘り返した。十分に考えられる話だ。
けれど、すぐに別の疑問が浮かぶ。
何のために?
小学生が埋めたタイムカプセルだ。中に入っているのは、手紙やおもちゃや、本人たちにとってだけ価値のあるものばかりのはずだった。
他人が欲しがるようなものなんて――。
そこまで考えて、蓮は思い出す。
珠美の五万円。
五万円。高校生の自分たちにとっても大金だ。大人にとってだって、簡単に見過ごせる金額ではない。もし中に現金があると知っていたなら。子どもの思い出を踏み荒らしてでも持っていこうとする人間がいる可能性は、当然ある。
でも。蓮はすぐに首を振った。
五万円のことを知っていたのは、珠美だけだ。蓮たちですら、その事実を知ったのは、珠美がタイムカプセルを掘り返そうと言い出したあの放課後だった。
だったら、偶然見ていた誰かが知っていたはずがない。
いや。
中身の価値なんて知らなくても、掘り返す人間はいるのかもしれない。
子どもたちが何かを埋めているのを見た。
気になったから掘ってみた。
開けてみたら、たまたま五万円が入っていた。
そういう可能性は、ゼロではない。
待てよ。
あの日の教室で、俺たちの話を聞いていた誰かがいた可能性もある。
いや、その誰かが埋めた場所を知る術はないはずだ。
蓮は小さく息を吐いた。
考えれば考えるほど、答えは遠ざかっていく気がした。
地図の中の下手な木の絵。
そのそばに書かれた、子どもの字。
赤いみがある。
猫の通り道。
大きな石。
どれも手がかりのようで、どれも当てにならない。
ふと、漁港の防波堤に座る黒い影が頭をよぎった。
あいつなら、何か言うだろうか。しばらく会ってないけど、きっと今もあの堤防辺りで潮風に吹かれながら月でも眺めているに違いない。
……いや、まだいい。机に置いてある時計に目をやると、針はもう深夜に差しかかろうとしていた。明日もう一度探して、それでも見つからなかったら。その時は、話を聞いてもらおう。
蓮はそう決めて、宝の地図を丁寧に折りたたんだ。
窓の外は静かだった。
ベッドに体を横たえて、右手を顔の前に出す。スコップで硬い地面を掘る感覚が、まだ残っているような気がした。




