光る土地なむありける
「(た、ただいまー)」
囁くように言い、玄関からそーっと家に入って来たつもりだが、古い木造建築の家は歩く度にギシッと軋む。
「お帰り、お兄!」
「お、おお。三琴もお帰り」
すぐに帰宅に気付いた妹の一ノ瀬三琴(22)が、Tシャツにショートパンツとラフな格好で玄関に顔を出した。
都内の大学に通っていた三琴の久々の帰省。
せっかくなら、明るい話題で迎えてやりたかったが……。
「あのな、三琴。今日の見合い……」
「あ、うん。ダメだったんでしょ? 電話の声暗かったからすぐ分かったよ」
「ぐふっ!☠」
既にバレていた。
「ドンマイドンマイ! 残念会しよ? ホラ、そこ座って! 妹ちゃんが話聞いたる!」
「み、三琴ぉ……」
涙目になる駄目な俺を見て、俺に似ずよく出来た妹は、居間へと促し、テキパキビールと煮物を、テーブルの上に並べ始めたのだった……。
「ぷはっ。というわけで、玉砕してしまったんだ。 んぐんぐ。しかし、佐川さんの煮物上手いな?」
煮物をつまみ代わりに、ビールを飲みながら、その感想も述べながら今日のお見合いの顛末を全て話すと、三琴は、頷いた。
「うんうん。カリポリ。レンコンとかも味しみておいしいよね〜。佐川さん、特製のあごだし使ってるんだって。
ってか、だからさ〜、お兄は東京の大学にいる内に、弍乃ちゃんなんてやめて、他の女の子捕まえて置けばよかったんだよぉ! 驚異の身体能力で、陸上の新記録出してた頃なんか、お兄めちゃめちゃモテてたのに、俺には弐乃がいるからなんて全部断って勿体ないっ!」
一年前まで婚約者だった従姉妹の外池弍乃(30)の事を持ち出して怒っている三琴を前に俺は頭を搔いた。
「いやぁ、でもあの当時は弍乃も優しかったんだぜ? じいちゃん亡くなって俺も落ちてたし、従姉妹の私と将来結婚して譲り受けた土地で暮らしていこうって言われて嬉しかったんだよ」
両親が小さい頃に交通事故で亡くなって以来、俺と三琴を育ててくれていた祖父の一ノ瀬零は、俺が高校二年の時亡くなった。
幸い、それなりに財産を遺してくれていたじいちゃんのおかげですぐに暮らしに困る事はなかった。
「自分に才能があるならそれを伸ばす為の投資は惜しまない事」
「この家をどのように使おうかは自由だが、人手に渡す事なくこの土地を守ってくれ」
じいちゃんはこの二つの遺言を孫の俺達に残した。
俺は弍乃と婚約し、家は俺・弍乃・三琴の共同で相続する事になったのだが……。
三琴は悔しそうに拳を握り締めた。
「いや、弍乃ちゃんは、じいちゃんの遺産とハイスペックで女子に人気があるお兄を手放すのは惜しいと思ってそう言っただけだよ。
散々キープした挙句、大学で知り合った男と結婚する事になったから婚約を破棄したいとか。あ〜もう! 本当にムカつく! じいちゃんからの血があの人にも受け継がれてるとは信じられない! いつか痛い目見ればいいのに!」
「まぁ。そう言ってやるな。俺にふがいないところがあったのかもしれないし、誰にも自分の幸せを求める権利はあるだろう」
俺は三琴を宥めながらも、その後の事をしょっぱく思い出した。
昔から体が丈夫でスポーツが得意だった俺は、この地にたまたま通りがかった陸上コーチに気に入られ、スポーツ推薦で都内の大学に通う事になり、婚約者の弍乃も同時に上京し、大学に通う事になった。(弍乃の両親の叔母夫婦はこれを期に都内に引っ越した)
才能を伸ばせというじいちゃんの遺言を守る為、弍乃に相応しい男になる為、大学で陸上に打ち込むも、卒業後に弍乃から告げられたのは「他の男と結婚する」という言葉だった。
失意のまま、俺はこの地に戻り、近所のじいちゃんばあちゃんの畑を手伝いながら、農業を教わった。ようやく自分の畑が安定した収益を上げられるようになって来たのでそろそろ嫁さんでも探そうかという時には俺は30になっていた。
昔から賢く語学が得意だった三琴は、やはり才能を伸ばせというじいちゃんの遺言に従い、今は都内の外語大学に通っている。
「三琴も卒業後、もし自分にやりたい事が見つかるならそのまま東京で暮らしてもいいんだぞ?」
「お兄、気持ちは有難いけど、お人好しが過ぎるよ! 自分の事を一番に考えていかないと、幸せになれないぞ?」
逆に自分を心配してくる三琴に、兄がこれではいかんと、無理にでも笑顔を作った。
「あ、ああ。自分の事もちゃんと考えているさ。次こそは婚活で成果出すよ!」
「うん! その意気だ! 夏休みの間は三琴ちゃんが、手伝ってあげるから、元気出せ?」
妹は安心したように笑顔を浮かべたのだった。
✽
翌日、帰省直後にも関わらず、三琴は朝早くから、野菜の収穫を手伝ってくれた。
畑仕事はしばらくぶりの筈だが、ブランクを感じさせる事なく、三琴はテキパキ動いてくれたので、仕事を前倒しで終わらせる事が出来た。
早めの休憩となり、昼には三琴と共に規格外の夏野菜を使ってパスタを作った。
三琴特製のトマトソースは、爽やかな酸味と甘さがマッチして絶品だった。
「ねぇ。トマトソース多めに作ったし、昨日煮物くれたお返しに、佐川婆ちゃんにお裾分けして来てもいっかな?」
「ああ。それはいい考えだ。喜んで貰えるんじゃないか? 俺、車出すよ」
トマトソースを瓶に詰めながら、いたずらっぽい笑顔で尋ねてくる三琴に俺は親指を立てた。
兄が不出来なのに、本当によく出来た妹なのだ。
まるで、某猫型ロボットの兄妹のように。
しかし、いつまでも、妹に頼り切りでもいかん。《《今度異性と出会いがあったら》》、《《命懸けで口説こう》》と俺は心に決めた。
✽
ブルン……。
先に、俺が外に出て車の準備をしていると、リュックを背負った三琴がパタパタと駆けて来た。
「ちょ、お兄! お兄!」
何だかいつになく三琴が焦っているようだった。
「おお、どうした? そんなに急がなくても、佐川さん、午前中はずっと家にいるって……」
車を出て、そう言いかけた俺に、三琴は叫んだ。
「うち光る土地なむ一所ありける!!」
「えっ。何だって? 三琴と違って、俺、古文は苦手で……「とにかく来てっ!」うわっ!」
思わず聞き返す俺の手を取り、三琴は走り出した。
そして庭の正面まで連れて来られると……。
ピカァーーーッ!
?!
庭の縁側から、洗濯物を干している場所まで数メートル範囲の円形状に、地面が眩い金色に光っていた。
「これ、おかしくない? まるで地面の内側から光が放たれてるみたいに……!」
「あ、ああ……!」
不可思議な現象を前に、三琴と俺は顔を見合わせた。
これは一体……!?
かぐや姫が出て来るとでも言うのか?
✽あとがき✽
読んで下さり本当にありがとうございます!
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