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第39話


 セイル・グランツが去ったあと、応接室にはしばらく誰も喋らなかった。


 扉は閉じている。窓も閉じている。机の上には手をつけられなかった茶が残っている。茶面はもう揺れていない。だが、真壁悠の胸の奥だけが、まだ変な揺れ方をしていた。


 あなた、もう普通には戻れませんよ。


 最後に残された言葉が、妙に静かに刺さっている。


 脅しではない。


 少なくとも、セイル本人は脅しとして言ったつもりではないのだろう。事実を告げた。観測した結果を置いた。ただそれだけ。そういう声音だった。


 だからこそ気持ち悪い。


 怒鳴られた方がまだましだった。敵意を向けられた方が分かりやすかった。だが、あの男は違う。真壁を怖がらせるために言ったのではない。むしろ、親切のつもりさえあったかもしれない。


 それが一番嫌だった。


「……最悪だ」


 真壁はようやく声を出した。


 ララ・バーンは閉じた扉を見つめていた。ヴォルフは壁にもたれ、腕を組んでいる。二人とも表情は違うが、黙っている理由は同じに見えた。


 セイルという男を、軽く見ていない。


「観測官って何ですか」


 真壁は聞いた。


「見る仕事って言ってましたけど、具体的に何を見るんですか。俺、もうかなり嫌な予感してるんですけど」


 ヴォルフが肩をすくめた。


「人、街、金、噂、危険人物、嘘、裏切り、戦争の芽。だいたい何でも見る」


「最悪の部署じゃないですか」


「だから評議会の猟犬って呼ばれてる。噛む前に見る。噛む場所を決める。噛んだ後は、噛まれた奴が悪かったことにする」


「説明が怖すぎる」


 ララが静かに言う。


「特別監査局は、評議会直属の調査機関だ。表向きは不正や危険の監査。実際には、政敵の調査、情報統制、危険人物の管理も担っている」


「危険人物の管理」


 真壁は自分を指差した。


「俺?」


「向こうはそう見ている可能性が高い」


「終わった」


 真壁は椅子に沈み込んだ。


 危険人物。


 自分が。


 四畳半で紐を打っていただけの無職が。


 確かに、異世界へ来てから色々やった。剣を消した。鐘を逸らした。銀糸を読んだ。地下の失敗作を止めた。こう並べると、自分でも怪しい。だが、それは好きでやったことではない。ほとんど全部、巻き込まれただけだ。働きたくなかった。帰りたかった。今も帰りたい。


「危険人物じゃなくて、被害者寄りじゃないですか」


「その自覚は大事だ」


 ララが言った。


「自分を危険そのものだと思う必要はない」


「でも向こうはそう見てる」


「ああ」


「嫌だなぁ……」


 真壁は頭を抱えた。


 セイルの視線を思い出す。


 測られていた。


 重さ、間、呼吸、反応。全部を見られていた。


 あの男は、真壁と似ているのかもしれない。


 ララはそう言った。


 それが何より嫌だった。


「ララさん」


「何だ」


「俺、あの人と似てます?」


 ララはすぐには答えなかった。


 真壁は少しだけ胸が詰まる。


 即答で違うと言ってほしかった。アルゴの時みたいに。だが、ララは迷った。その迷いが答えの一部だった。


「見方の一部は似ている」


 ララは正直に言った。


「でも、人としては違う」


「そこ、分けられるんですか」


「分けなければならない」


 ララは真壁を見る。


「お前とアルゴも、構造を見るという点では近い。だが、お前はアルゴではない。セイルとも同じだ。似た目を持っていても、何を見るか、何のために見るかは違う」


「……何のために見るか」


「そうだ」


 真壁は黙る。


 自分は何のために見ているのか。


 好きで見ているわけではない。


 見たくないものばかり見える。ズレ、罠、壊れ方、戻らないもの。見えるから気持ち悪い。気持ち悪いから止めたくなる。止めないともっと悪いことになる。だから動く。


 それは目的と言えるのか。


 反応ではないのか。


「俺、見たいから見てるわけじゃないです」


「ああ」


「見えちゃうから、仕方なく見てる」


「それでも、お前は選んでいる」


「選んでます?」


「地下で、アルゴに直せないと言った」


 ララの声は静かだった。


「評議会で、議長に壊れていると認めさせた。認識票の名前を読んだ。昨日、私にズレへ入るなと言った。全部、見えてしまっただけではない。そこからどうするかを選んだ」


 真壁は視線を落とした。


 選んだ。


 そう言われると、少し重い。


 だが、完全には否定できない。


 ヴォルフが壁際で言った。


「セイルはな、見たものを棚に並べる。危険度、利用価値、処分の必要性。そういう風に分ける」


「やめてください。俺、もう棚見るの嫌いになりそう」


「お前は違うだろ」


「違いますか」


「お前は見たものに文句言う。嫌がる。腹立てる。金も要求する」


「最後だけ急に俗」


「でも、そこが人間っぽいんだよ」


 真壁は困ったように顔をしかめた。


「人間っぽいって褒め言葉なんですか」


「今はな」


 ヴォルフは笑った。


 その笑いは、いつもほど軽くはなかった。


   ◇


 応接室を出た後、ララはそのまま真壁を中庭へ連れて行った。


「なんでですか」


 真壁は露骨に嫌な顔をした。


「今日はもう休みでは?」


「休ませるためだ」


「中庭へ連れてくる休ませ方あります?」


「部屋に戻れば、セイルの言葉を考え続けるだろう」


「否定できない」


「なら、別のことを考えた方がいい」


「それが鍛錬?」


「軽くだ」


「軽い鍛錬って何ですか。軽い拷問みたいな言葉ですよ」


 中庭には、先ほどの騎士見習いたちがまだ残っていた。ララが来ると、すぐに姿勢を正す。真壁はその視線を浴びて、肩をすくめた。


「見ないでほしい」


「見られることにも慣れろ」


「嫌です」


「私も昔は嫌だった」


「ララさんも?」


「ああ。剣を振れば見られた。勝てば見られた。失敗しても見られた。だから、視線の中で動く訓練もした」


「騎士って大変ですね」


「お前も今、大変だ」


「巻き込まれ大変職です」


 ララは木剣を二本持ってきた。


 一本を真壁へ差し出す。


 真壁は受け取らない。


「無理です」


「振れとは言っていない」


「じゃあ何ですか」


「持て」


「持つだけ?」


「ああ」


 それなら、と思って真壁は木剣を受け取った。


 重い。


 いや、実際にはそこまで重くないのだろう。だが、真壁にとって剣は責任の重さがある。持っているだけで嫌だ。何かを斬る道具。何かを守る道具。使い方を間違えれば壊す道具。


 ララは真壁の向かいに立った。


「構えなくていい」


「助かります」


「ただ、私を見るな」


「え?」


「私を見ずに、私がどちらへ動くか感じろ」


 真壁は顔をしかめた。


「無茶振りでは?」


「昨日、お前は私にズレの中へ入るなと言った。見方を言語化しろとも言った。なら、今度はもう少し具体的にする」


「俺もよく分かってないのに」


「だから一緒に探る」


 一緒に。


 その言葉が、少しだけ引っかかった。


 ララは真剣だった。


 真壁を使おうとしているのではない。少なくとも、セイルのように測ろうとしているのではない。真壁の感覚を技術として拾い、真壁自身が呑まれないように形にしようとしている。


 そう見えた。


「……分かりました」


 真壁は木剣をだらりと下げたまま立つ。


「で、どうすれば」


「まず、私を見るな」


「ララさんを見ない」


「足元も見るな」


「どこ見ればいいんですか」


「全体だ」


「出た、曖昧」


「お前の説明も曖昧だった」


「言い返せない」


 真壁は視線を少しぼかした。


 ララを見るのではなく、ララの周囲を見る。


 中庭の地面。


 風。


 騎士見習いの視線。


 木剣の重み。


 自分の呼吸。


 すると、少しだけ分かる。


 ララが動く前に、空気が薄く傾く。


 いや、実際に空気が動いているわけではないのかもしれない。ララの重心、服の揺れ、視線の変化、肩のわずかな張り。それらをまとめて、真壁の感覚が“ズレ”として受け取っているのだろう。


 ララが右へ動く。


 真壁は反射的に言った。


「右」


 ララは止まる。


「合っている」


「おお……」


 自分で少し驚く。


「もう一度」


 今度はララが左へ行くふりをした。


 真壁の口が開きかける。


 左、と言いそうになる。


 だが、気持ち悪い。


 左ではない。


 左へ動く形を見せているだけで、戻る場所が違う。


「……右後ろ」


 ララが目を細める。


 そして右後ろへ踏み込んだ。


「合っている」


 騎士見習いたちがざわついた。


「今の、分かったのか?」


「見てなかったよな?」


 真壁は顔をしかめる。


「ざわつかないでほしい」


 ララは少しだけ満足げに頷いた。


「やはり、お前は動きではなく、動きが作る空白を読んでいる」


「空白」


「私が左へ動くふりをすると、左に視線が集まる。だが本当に使う場所は右後ろだ。だから、そこに妙な空白が生まれる」


「……なるほど」


 真壁は木剣を見下ろした。


「それが見えてたんですかね」


「おそらく」


「怖いな」


「怖いままにするな」


 ララの声が少し強くなる。


「名前をつけろ。形にしろ。そうすれば、セイルやアルゴに拾われるだけのものではなくなる」


 真壁は顔を上げた。


 ララは真っ直ぐこちらを見ていた。


「見えすぎることが危険なら、見方を決める。見る範囲を決める。見た後の行動を決める。それがお前を守る」


 真壁は黙った。


 それは、ララなりの防御だった。


 剣で守るだけではない。


 真壁の感覚そのものが、真壁を傷つけないようにするための。


「……ララさん、やっぱり最近優しいですよね」


「必要な判断だ」


「そういうことにしときます」


 その時、中庭の塀から声がした。


「いい訓練じゃん」


 ヴォルフだった。


 またいつの間にか塀にいる。


「見てたんですか」


「見えてた」


「その言い方やめてください」


 ヴォルフは塀から飛び降りた。


「ただ、ララの言う通りだ。見えるもん全部拾うな。名前をつけるのはいい。けど、拾いすぎると引っ張られる」


「引っ張られる?」


「ああ」


 ヴォルフは真壁を見る。


「戦場で索敵が上手い奴ほど早く壊れることがある。敵の殺気、味方の恐怖、地面の罠、遠くの弓、全部見えすぎる。全部拾って、頭が先に死ぬ」


「嫌な話」


「だから切る。見る場所を決める。捨てる情報を決める」


 真壁は中庭を見回した。


 風。


 土。


 騎士見習い。


 ララ。


 ヴォルフ。


 全部が情報だ。


 全部見たら、たしかに壊れる。


「……見ない訓練ですね」


「そうだ」


 ララが頷く。


「見る訓練ではなく、見ない訓練だ」


「前にも言いましたね、それ」


「ああ。今度はお前自身にも必要だ」


 真壁は木剣を握り直した。


 重い。


 でも、さっきより少しだけ持てる。


「じゃあ、俺が見る範囲を決めるとして」


「うん」


 ヴォルフが促す。


「まず、評議会の人は見ない」


「それはただの現実逃避だな」


「駄目ですか」


「駄目だろ」


 ララが少しだけ笑った。


 真壁も少しだけ笑った。


   ◇


 訓練は短時間で終わった。


 真壁の限界が早かったからだ。


 身体的にはほとんど動いていない。だが、視線をぼかし、空白を探し、動きの偏りを読む作業は、思った以上に疲れる。終わった頃には、真壁は中庭のベンチに座り込み、木剣を膝に置いたままぐったりしていた。


「……頭が疲れる」


「慣れていないからだ」


 ララが水を渡す。


「慣れたくないです」


「慣れろとは言わない。扱えるようになれ」


「言い方変えただけでは?」


「少し違う」


 真壁は水を飲んだ。


 冷たい。


 頭の熱が少し下がる。


 ヴォルフは塀にもたれ、何か考えている顔をしていた。


「どうしたんですか」


 真壁が聞くと、ヴォルフは顔を上げた。


「セイルのことだ」


「思い出させないでください」


「あいつ、たぶんわざとお前に会いに来た」


「そりゃそうでしょう」


「いや、評議会の使者としてじゃなく、“観測官として”だ」


 ララの表情が変わる。


「どういう意味だ」


「セイルは効率主義だ。無駄な接触はしねえ。あいつが直接来たってことは、評議会が真壁を欲しがってるだけじゃない。セイル本人も、お前を見たかったんだ」


 真壁は嫌そうな顔をする。


「嬉しくない」


「だろうな」


「見てどうするんですか」


「分類する」


 ヴォルフは短く言った。


「使えるか、危険か、壊れるか、取り込めるか、殺すべきか」


「最後」


「そういう連中だ」


 ララが低く言う。


「真壁を渡す気はない」


「知ってる」


「なら、向こうは別の方法で近づいてくる」


「ああ」


 真壁は水の器を見つめた。


 水面が小さく揺れている。


 自分の手が震えているせいだ。


「……俺、普通に戻れないんですかね」


 ぽつりと漏れた。


 ララとヴォルフが黙る。


 セイルの言葉。


 もう普通には戻れない。


 あれは、真壁の中でずっと引っかかっていた。


「俺、別にすごい人になりたいわけじゃないんですよ」


 真壁は水面を見たまま言った。


「働きたくないし、戦いたくないし、政治とか絶対嫌だし。静かな部屋で、誰にも怒られず、できれば飯があって、家賃収入があって、紐が揺れてたら、それでよかったんです」


 それは本音だった。


 異世界に来て、色々なものを見た。


 人と関わった。


 ララと出会い、ヴォルフと出会い、騎士団やギルドや工務局の人間とも関わった。


 それでも、前の生活を恋しいと思う気持ちは消えない。


「でも、今はもう、街歩いててもズレとか見えるし、罠とか気になるし、人の避け方とか見ちゃうし。セイルさんみたいな人に“こっち側”みたいな言い方されるし」


 真壁は小さく笑った。


 笑えなかった。


「普通って何だったんですかね」


 ララが静かに言う。


「戻れないかもしれない」


 真壁は目を閉じた。


「……ララさん、正直」


「嘘を言っても意味がない」


「まあ、そうですね」


「だが、戻れないことと、進む先を選べないことは違う」


 真壁は顔を上げる。


「進む先」


「セイルが言う“普通ではない”場所へ、お前がそのまま行く必要はない。アルゴのように見る必要もない。評議会の観測官になる必要もない」


 ララは真壁を見た。


「お前は、お前の見方を作ればいい」


 真壁は黙った。


 ヴォルフが付け加える。


「まあ、名前つけるなら“ヒモ流”だな」


「最悪の流派名やめてください」


「いいだろ。創始者、真壁悠。二十年の歴史」


「引きこもりの暇潰しを流派にしないで」


 ララが少しだけ笑う。


「だが、名前は必要かもしれない」


「ララさんまで?」


「真壁の見方では長い」


「じゃあ、ズレ読みとかでいいです」


「そのままだな」


「俺の命名センスに期待しないでください」


 ヴォルフが笑った。


 軽い笑い。


 その軽さに、少しだけ救われる。


   ◇


 夕方。


 真壁は自室に戻った。


 その日は、もう何も起きないはずだった。


 ララは評議会への返答を保留にした。セイルへの対応は騎士団上層部と相談する。ガレウス・ノートの件も、オルデンの追加聴取後に動く。地下の名前分け作業は、真壁の負荷を見ながら少しずつ進める。


 予定だけ聞くと、十分すぎるほど面倒だ。


 だが今日の夜だけは、少なくとも現場へ行かなくていい。


 真壁は机に置かれた夕食を見て、少しだけ安心した。


 肉が二切れ。


 スープ。


 パン。


 そして、焼き菓子が一つ。


「……待遇が上がってる」


 金と食事は大事だ。


 それだけは間違いない。


 椅子に座り、食べる。


 今日は味が近い。


 セイルの気持ち悪さは残っているが、地下の後よりは食べられる。


 食事を終え、真壁は寝台に倒れ込んだ。


「……普通じゃないか」


 呟く。


 普通には戻れない。


 でも、進む先は選べる。


 ララはそう言った。


 信じたい。


 完全には信じられない。


 だが、信じたいとは思った。


 その時。


 コン、コン。


 扉が鳴った。


 真壁は身体を起こす。


「ララさん?」


 返事はない。


 嫌な予感。


 真壁は扉を開けない。


「誰ですか」


 返事はない。


 代わりに、扉の下から一枚の紙が滑り込んできた。


 金属片ではない。


 紙。


 白い封筒。


 評議会の封蝋。


 真壁はしばらく見つめていた。


「……最悪」


 触りたくない。


 だが、見える。


 封筒の表には、整った文字があった。


『真壁悠殿』


 差出人。


 セイル・グランツ。


 真壁は扉を開けず、まず廊下へ声をかけた。


「誰かいますか!」


 すぐに騎士が駆け寄ってくる。


「真壁殿、どうされました!」


「評議会から手紙です! 触りたくないです!」


 騎士は一瞬戸惑ったが、すぐにララを呼びに走った。


 数分後。


 ララとヴォルフが部屋へ来た。


「またか」


 ヴォルフが封筒を見て言う。


「またです」


 真壁は寝台の上で膝を抱えていた。


「俺の部屋、郵便受けじゃないんですけど」


 ララが封筒を布越しに拾う。


「罠は」


 真壁は封筒を見る。


 見たくない。


 でも見る。


「……物理的な罠はないです」


「開けるぞ」


「はい」


 ララが封を切る。


 中には一枚の紙。


 短い文章。


 ララが読む前に、真壁には何となく分かった。


 整いすぎた文字。


 音の少ない文章。


 セイルの気配。


 ララが読み上げる。


「『本日のご返答、確かに保留として承りました。なお、明朝より第三隊長ララ・バーン殿には評議会警護任務への出向命令が下ります。真壁悠殿の身柄については、協議の上、改めて通知いたします』」


 部屋が静まった。


 真壁は意味を理解するのに数秒かかった。


「……ララさんを?」


「ああ」


 ララの声が冷たくなる。


「分断か」


 ヴォルフが低く言う。


「やってきたな」


 真壁の胃が冷えた。


 セイルは、真壁をすぐに取り込めないと見た。


 だから、まずララを離す。


 真壁の一番近くで守っていた人間を、評議会警護という名目で遠ざける。


「……あの人、嫌いです」


 真壁は低く言った。


 ララは手紙を見つめる。


「私もだ」


 珍しいほどはっきりした声だった。


 ヴォルフが笑う。


「さて、どうする騎士さん」


「正式命令なら拒否は難しい」


「だろうな」


「だが、穴はある」


 ララの目が鋭くなる。


「評議会警護任務なら、警護対象の危険確認が必要だ。真壁を同行補助として申請する」


 真壁が顔を上げる。


「え、俺も行く流れですか?」


「分断されるよりはいい」


「いや、それはそうですけど」


 ヴォルフがにやりと笑った。


「向こうが引き離そうとするなら、一緒に行けばいい」


「発想が強引」


「でも有効だろ」


 真壁は頭を抱えた。


 評議会。


 セイル。


 ガレウス。


 警護任務。


 最悪の単語がまた増えた。


「……普通じゃないなぁ」


 呟く。


 ララが見る。


「後悔しているか」


「毎日してます」


「そうか」


「でも」


 真壁は封筒を見る。


 整いすぎた文字。


 気持ち悪いほど音の少ない文章。


 真壁を物のように協議すると書いた手紙。


「見られっぱなしは、腹立ちます」


 ララの表情が少しだけ変わる。


 ヴォルフが笑う。


「いい顔だ」


「してません」


「してる」


 真壁は深く息を吐いた。


「じゃあ、行きます。でも報酬」


「交渉する」


「神」


「騎士だ」


 いつものやり取り。


 だが今回は、その向こうに評議会の影がはっきり見えていた。


 セイル・グランツ。


 ガレウス・ノート。


 見すぎる者たち。


 真壁は封筒から目を逸らさなかった。


 普通には戻れない。


 ならせめて、自分を勝手に分類しようとする奴らの思い通りにはならない。


 そう思った。


 かなり嫌々ではあるけれど。

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