魔剣?
パネトーネの一味が全員捕えられてから、翌日のお昼。
お父さんと一緒に、僕とお姉ちゃんが街長の屋敷にまで招かれることとなった。
「大変、ご迷惑をおかけ致しました」
そして、テーブルに着くなり、頭を下げられる。
「汚職を見逃していたなど、この街の長として慚愧に堪えません」
「いえ。彼を派遣を認可したのは領主である私の父よ。父も謝罪すると言っていたわ。父に代わって謝ります」
この場にはテアロミーナ様もいて、そちらからも頭を下げられた。
お父さんは少々居心地が悪そうだ。僕もお姉ちゃんもそうだけど……。
「い、いえ。死人も出ませんでしたし、無事に捕まったとのことですので……」
「それで鍛冶屋の再建につきまして、資金の方はすべてこちらで請け負いますが――」
お父さんと街長の話し合いが始まり、僕らはお役御免になる。
隣の部屋に移って、テアロミーナ様やベルタ様の歓待を受けることになった。
「迷惑をかけてしまったわね」
「いえ。これで街の治安も回復するでしょうから。テアロミーナ様がいなかったら、彼らをこうも簡単に追い詰められなかったと思います」
「森の所有権に関する書類についても偽物であることがわかりました。少々、気になるところはありましたが、公的なものではありません」
「そうでしたか……。結局、彼らの目的は何だったんでしょう」
本当に森の支配権がほしかっただけなのか。
僕の誘拐への関与はなんだったのか。
「まだわかりませんね。何にせよ、一度我が領都へ移送して尋問にかけることになると思います。ただ……」
「ただ?」
「貴方たちのお父様は、うちの国の出身なのかしら?」
「いえ。母はファタリタですが、父は北の方の出身って言ってましたね」
「なるほど……」
テアロミーナ様が何か得心がいったかのように小さく頷く。
「父に何か問題があります?」
「い、いいえ? 何も問題はないのよ? 少し訛りが気になっただけだから」
あんまり気にしてなかったけど、お父さんの発音は少し鈍っているらしい。
テアロミーナ様も少し隠していることはあるみたいだけど、そこまで重要なことではなさそうだ。
そうであれば、もっと厳しそうな表情をしているだろう。
「それにしても、モニカは強いわね」
「えっ……。そ、そうですか? テア、ロミーナ様の方がずっとお強いですよ」
「それは私に一日の長があるからよ。やはり貴方たちふたりは王立学校にほしいわね」
「………」
お姉ちゃんが少し考え込む。
そして、真剣な顔でテアロミーナ様に向き直った。
「テアロミーナ様、学校で剣の師は見つかりますか?」
「あら。モニカは剣士になりたいの?」
「魔法でも強くなりたいですけど、ある人に師を探せって言われて……」
「そう。それならもちろん候補がいるわ。王都流の師範、彗剣流の師範代、二刀真流の達人に、神剣術の使い手……。もちろん、モニカのお眼鏡に適わなければ、領内にいる達人を招致することもできますよ」
そう言われて、再びお姉ちゃんは考え込んだ。
お姉ちゃんも学校行きを前向きに捉えている。
ただ、やはりこの街を守るために、どうすればいいか解決策が見つからない。
そうしてしばらく他愛のない話をしていると、ノックが聞こえてきて、テアロミーナ様が許可を出すと、お父さんと街長が入ってきた。
「話し合いは終わったぞ。待たせたな、モニカ、ロモロ」
「あっ、お父さん。どう? 話し合いはいい感じだった?」
「ああ、モニカ。二週間もすれば再開できる。その間は少し暇だから、モニカやロモロに付き合うぞ。母さんのことも手伝わないとな」
「ネルケの世話もしないと忘れられちゃうよ」
「毎日やってるから大丈夫大丈夫」
僕らは街長やテアロミーナ様に挨拶をして、屋敷を出て帰路につく。
「問題は解決しましたが、私たちはしばらくこの街に滞在します。事後処理もありますからね。学校のことについて聞きたいことがあったら、いつでも来て下さいね」
そんなありがたい話を受けたもの、僕らの意見は纏まっている。
問題はどうやって街を守る算段をつけるかだった。
◇ ◇ ◇
それから二日ほど経って、何の進展もないと焦っていた頃。
この日の夕方に、再びマティアスさんとヴェネランダさんがやってくる。
ふたりは珍しいことに疲弊していた。現在進行形で。
「はぁ、はぁ、はぁ、はぁ、はぁ、はぁ、はぁ、はぁ、はぁ……」
「ホントに何なのよこれ……。もう無理……」
家に入ると、マティアスさんがもう限界だというように、テーブルの上へと手を叩きつけるように何かを置いた。
その手の下には、奇妙な短剣が収まっている。
緑色の細い木の枝で編んだような柄。柄頭には小さな宝玉があり、流麗な彫刻を彫られた鍔の中央は半球状に盛り上がっている。
お父さんはすぐにその正体を看破したようだった。
「魔剣の類か、これは……」
「ああ、そうだろうな。俺ひとりでは持てなかった」
「私が魔法で重さを軽減してこれだからね……。あーキツかった。マジでキツかった」
「そんな重さならテーブルも壊れてると思うんだが」
「人が持つ場合に限り重いようだ。おそらくは制限がかけられているのだろう。お前はどうだ?」
「……ダメだな。持ち上げられる気がしない。こんなものをよく運ぼうと思ったな」
お父さんが短剣を掴んで持ち上げようとしたが、すぐに諦めた。
「お前はこの手の鑑定には優れているだろう。何の代物かわからないか?」
「もっと調べてみないと何とも言えんが、そもそもこれはどこに手に入れたんだよ」
「オレたちが行った洞窟、あの中だ。台座があってそこに置いてあった」
「魔物か何かの集落でもそこにあったのか?」
「元々はその殲滅依頼だったのだがな」
……なんだろう。
刀身が見えないのに、僕はその短剣から目が離せない。
三人が話し合いをする傍ら、僕はその短剣に自然と手を伸ばしていた。
掴み、持ち上げる。
まるで羽のようで、まるで重さを感じなかった。
「ロモロ……?」
僕が持ち上げているのを見て、マティアスさんが驚愕の顔を浮かべる。
「持てるのか?」
「え……ええ。持てましたね……」
「ロモロ、お前いつの間に、怪力に……ということはないよな?」
「何言ってるの、お父さん……」
「私が九割以上重さを軽減してたのよ。これは子供どころか普通の人間ひとりに持てるものじゃないわ」
まるで僕が普通の人間じゃないみたいに……。
すると、お父さんが思い出すように言う。
「いや、もしかしたら……魔剣の中でも一際、強大な力を持つものは何かしら条件に適合しないと使えないと聞いたことがある」
「あんたんところの言い伝えね。ロモロくんが条件に合致したってこと?」
「年齢か、性別、それら複合条件にな。それか、もっと上の魔剣であれば、使い手として選ばれたという可能性もあるが……」
「こんな片田舎の傍の洞窟に、そんな魔剣が無造作にあるか普通? しかも、その使い手まで傍にいるなど……」
再び三人は喧々諤々と意見を交わす。
僕は短剣を持ったまま置いてきぼりだ。
「ロモロ。短剣を落としても問題ないように、鞘を抜いてみてくれ。刀身を見れば、いつ頃に作られたものかわかるだろう」
僕は小さく頷き、テーブルの上で丁寧に鞘を引き抜いた。
その瞬間――。
「ロモロは「この国の「警備を「お前はいつ「魔法の「魔物が「この頃「困ってて「この季節は「領主様の「砦を「ここから「あなた「わたし「弟が「雪解けを「学校に「暗殺の「彼は「吟遊詩「海を「国王は「税がまた「不漁でね「全滅した「魔族を「嬉しい
頭の中へ一気に情報が強制的に叩き込まれた。
街中の会話をすべて聞き取りをさせられているような強烈な不快感。
視界が脈絡のない風景を重ねたような色に汚染されていく。
何も考えることができず、耳を塞いでもずっと入り込んでくる。
結局、僕はそれに耐えきれず、意識を手放した。




