表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

PR
37/145

学校について

「街へのモンスター襲撃がいつなのかを思い出してほしいんだけど。今すぐ」

「そんなこと言われても、そこまで覚えてないよぉ」


 翌日、お姉ちゃんは白い色のついた溜息を盛大に吐いた。

 雪交じりの風が、白を散らしていく。

 この時期はもう雪が消えないから、せいぜい屋根の雪を落とすぐらいしかやることがない。

 薪は秋のうちに全部集めたしね。冬を越せる分の備蓄がある。


「テアロミーナ様は別件でしばらく近衛隊ごと、この街に駐留するから、その間に返事をしたい」

「……なんか嬉しそうじゃない? ロモロ」

「何を言ってるのかわからない。ともかく、普通に過ごしてれば僕らは街中にいるだろうから、いつモンスターが来ても構わない……って考えだったけど、学校に入るとなると話は変わる。二年後のモンスター襲撃がいつなのかわからない以上、学校へ行くのは街のリスクが高すぎる」

「そもそもこの時期に学校に入るとか前はなかったし、大丈夫なの?」

「わからないよ」

「ええーーっ!? ロモロってばそんな適当な!?」

「でも、この時期に王立の学校に入る意義は大きいよ。前回お姉ちゃんが失敗した原因は、貴族側の繋がりを軽視してたというか、取り入ることができなかったからでしょ?」


 前回のお姉ちゃんの話からすると、バグナイアの街を治めるスパーダルド州は孤立していた。

 努力不足だったのか、あるいは別の要因なのか、そういう環境にならざるを得なかったということだ。

 だけど、その前に多くの貴族と友誼が結べれば、情報と支援を得られるかもしれないのだ。


「どちらにしろ、僕らがここにいてもやれることは少ないし。学校に行けるなら知識も得られるし、貴族との繋がりも作れる。何よりもこの国の内情や大陸の情勢だって知ることができる。お姉ちゃんの覚えている中で一番危険そうな出来事は敵国への宣戦布告やクーデターからの内戦だし、お姉ちゃんを引き取る領主の暗殺もある。それを防ぐ根回しは僕らがここにいてもどうしようもない」

「それはそうだけど……学校かぁ」


 あまり学校にはいい思い出がないみたいだからな……。

 お姉ちゃんは気が向かないようだ。


「僕がなんとかするっていう大群の獣の襲撃もある。その後の勇者選定のこともあるけど、僕は街の人を死なせたくない」

「それはわかってるけどさあ……」

「せめて季節ぐらいは思い出してよ。春夏秋冬とかさ。モンスター襲撃の頃にどういう格好してたかとかぐらい覚えてない?」


 うーん、としゃがみ込んで頭を悩ませるお姉ちゃん。


「モンスターの時は半袖……だった気がするなぁ。爪に腕を傷付けられそう……って場違いに思ったし。長袖でも防げないんだけど、剥き出しだと不安だったしね」

「半袖、ね。そうなると、夏か」

「……そうかな。あっ、そうだ! 夏だ! 思い出したよ! あの時、ジーナのおばさんに夏野菜もらったんだ! それを持って帰る途中だったはず!」

「信用するよ?」


 お姉ちゃんの記憶を僕の中に移植したい。

 記憶がもっと確かなものなら、こんなに悩むこともないのになぁ。


「でも、夏だけだとまだやっぱり難しいな。テアロミーナ様曰く、大きな休みは一ヶ月前後って話だったし」

「夏だとちょっと長いもんねぇ。月まではさすがにわからないなぁ……」

「勇者選定は決まった時に行われるものじゃないしね」


 そもそもお姉ちゃんがモンスターを撃退。

 その後、その噂が王都まで渡って勇者選定という流れだ。


「他にもわかったことがあったらすぐに言ってよ。モンスター襲撃だけじゃないけど。できれば僕の解決する獣の襲撃の方も思いだしてね」

「はーい」


 お姉ちゃんの気の抜けた返事は、真剣に考えているのか疑ってしまうものだった。不安すぎる。

 学校に行くのは危険かもしれない。

 どうしようか迷っていた夜――僕らはけたたましい鐘の音で起こされることになった。


 何度も何度も鐘が鳴り、非常事態の警告が街に響き渡る。

 外に出ると朝日が上る少し前ぐらいだっただろうか。

 だが、空は煌々と明るかった。

 太陽ではない。いつも行く僕らの森が燃え盛っていたのだ。


「おいおい……どうなってんだよ」

「なんであんな場所が……」

「あそこって確か……」


 同じように外に出ている人たちも呆然とした様子で森の方を見ている。

 まだこちらに飛び火することはないだろうが、このままでは森は全焼するだろう。そして、鎮火しなければ街にまで被害が出るかもしれない。


 こんな時に限って空気は乾燥して、雨や雪の降る気配はなかった。

 すでに兵士の人たちは慌てたように森へと向かっている。


「ロモロ! どうしたの!?」

「お姉ちゃん、見ての通りだよ。森が燃えてる」

「消してこなきゃ!」


 お姉ちゃんが考えなしに行きそうだったので、腕を掴んで止めた。

 魔法を使えば鎮火は可能だろう。ただ、それがどの規模になるのか、想像もつかない。


「それだと消すために、お姉ちゃんが魔法を使うところを見られるよね?」

「魔法を使うからそれはそうだけど、今はそんな場合じゃ……」

「それはそれでマズいことになる」

「なんで!? このままじゃ森が……!」


 そう。このままじゃマズいのは事実。

 森がなくなるという以外にも、あらぬ疑いをかけられかねない。

 あの辺りで火と言ったら原因はひとつしかないのだ。


「今は説明してる暇はないよ。ただ、お姉ちゃんの言う魔法って、お姉ちゃんが直接水を放出して……ってことでしょ?」

「当たり前じゃない」

「だったら、確実に消す方法があるよ。お姉ちゃんが魔法を使ってるところを見せずに」


 お姉ちゃんは一瞬迷ったようだが、僕を信じたのか頷いた。

 僕はお姉ちゃんの腕を引っ張り、ひとけのない場所へと移動する。


「それでロモロ。お姉ちゃんはどうすればいいの?」

「合図を送ったら、森の上空に冷気を送ってほしい。水と違って冷気なら見えない」

「上空!? 燃えてるのは森だよ?」

「いいから! お姉ちゃんの魔法を見せずに消すには、自然の力にも頼ればいいんだよ」

「ええーっ。どういうこと……」


 まずは、種を作る必要がある。

 雲というのは小さい水滴――雲粒の集まりだ。

 水蒸気を含んだ空気を上昇させればいい。


 僕はマナを集め、意思を乗せ、想像する。

 細かな水が森の上空で生み出るが、それは森の火勢によってすぐに蒸発していった。

 煙と共に水蒸気もまた空へと昇っていく。

 あっという間に簡易的な雲ができあがていった。


「お姉ちゃん! 今だよ! 空に向かって冷気を!」


 未だに悩みつつもお姉ちゃんは、空に向けて手をかざした。


「えーと……確か。冷えよ、虚空。冬の息吹よ。凍牢の如き鋭さよ、貫け! 〈レスピロ・フレッド〉!」


 お姉ちゃんの周囲に薄青い光が満ち、僕らの周囲が一気に冷えてくる。

 お姉ちゃんの手から上空に向かって冷気が放たれた。


 その変化は自然に現れた。

 ぽつぽつと、少しずつ雨が降り、それがさらに強くなっていく。

 土砂降りへと変わっていった。街の人たちもたまらず屋根の下に逃げるくらいに。


「な、なんで?」

「雨の降る原理をそのまま使ったんだよ」


 雨の種を作り、雲の上を冷やし、飽和水蒸気量を操作。

 雨粒は少しずつ大きくなり、それは地上へと落ちていく。


「魔法を使ったのは街の人たちにはバレてない、と思うけど」

「……スゴいね、ロモロは」

「本で知ってた知識ってだけだよ。それに僕じゃ種を作れても、お姉ちゃんがいないと冷気が足らなくてすぐに雨を降らせることができなかったから」

「よくわからないけど……あたしたちの力ってわけだね! 姉弟の共同作業!」

「まあそうだけど」


 頷くとお姉ちゃんは嬉しそうに笑った。

 森を覆っていた火は、少しずつ消えつつある。

 そして、火が完全に消えた頃に、街を照らす太陽が上がってきた。


「これで安心だね。いやー、危なかった」

「危ないのはこれからだよ」

「え? どういうこと?」

「すぐにわかると思う」


 首を傾げるお姉ちゃんと帰路につくと、僕の予想通りのことが起こっていた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ