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魔法訓練

「また可愛い子と仲良くしてるねー。ロモロ」

「なんで、そんなニヤニヤしてるの。お姉ちゃんは……」

「デメちゃんはいいの?」

「なんでそこでデメトリアの名前が出てくるのさ……」


 夕方の鐘が鳴ると同時に、ロッコたちに文字を教えるのを終了して、僕らは解散した。

 後半の方を帰ってきたお姉ちゃんに見られていたのは、何か失態だった気がする。


 お母さんは暖炉の傍でネルケにお乳をあげている。

 ネルケはとても素直で、泣いてる時に何を求めていることがお母さんにはわかるらしい。単純に、お姉ちゃんや僕という経験が生きてるのもあるだろうけど。


「それでお姉ちゃんさ。最近やってないけど、魔法訓練はどうするの」

「うーん。ロモロはマナの呼び掛けをやってるんでしょ?」

「それだけは絶えずやってるね。でも、意思を乗せるまでやるとバレるし」


 マナは使おうとする魔法の属性によって、色を発現させてしまう。

 そうなると魔法を使っていることが丸分かりだ。

 できる限り、お姉ちゃんの知る歴史を変えたくない。今バレるのはそこから大きく逸脱する可能性があって怖かった。マティアスさんやヴェネランダさんは、この街の人じゃないし、話さないって信頼できるから話したけど。


 例の誘拐以降、ひとりになるなと言われてるし、お姉ちゃんも常に僕の傍にいられるわけではない。

 誰か、事情を知ってる人が傍にいればいいんだけど。


「今みたいに雪がちらつく中だったら、氷の魔法だったら色的に誤魔化せるかも!」

「雪が降ってる中、ふたりでおかしなことをやってる方が怪しく見えると思うけど」

「うーん……」

「そもそもお姉ちゃん。光らせないように魔法を使うこととかできないの?」

「あたしは聞いたことないなー」

「第一、マナが光るとその色で使おうとしている魔法の方向性がバレるじゃん。そうなると防御も簡単になるでしょ。相手のマナが赤く光ったら炎なんだし、水で防げばいいはずだからね」

「あたしの役目はそういうの関係なく、ぶっ放すだけだったからね。あとはマナを身体に留めて肉体強化するとかね」

「ぶっ放すって……」

「あたしが勇者になって次の誕生日に攻めてきたんだよね。で、リーネア・デ・レジェドって砦で待ち構えてたら、魔族の大軍勢が突撃してきたの」

「その時、黒騎士はいなかったんだ?」

「いなかったね。で、あたしは聖剣に魔法を込めて光を放ったんだ。光が消えたら、魔族はほとんど消えてたし、残ってた魔族も退却してったんだよ」

「聖剣? いや、まあいいや。大軍ってどのぐらいいて、どのぐらいは消したの……?」

「物見の人が魔族は二万って言ってたかな? 九割は消し飛ばしたよ」

「九割!?」


 凄まじすぎる。二万の軍勢が九割消滅って全滅とかいう話ですらない。

 魔族のうちどれぐらいが動員されたのかわからないけど、ほぼ全軍という話なら再建には五年以上はかかるだろうね。


「さすがに疲れる一発だったけどね」

「……疲れる程度で済むんだ」

「無理すればもう一発ぐらい撃てたよ。さすがにマナがほとんど消えたから、少し待つ必要があったけど。ロモロにも見せたかったなー。あの『勇者モニカ万歳!』ってみんなが叫ぶところ」

「そりゃ英雄だろうしね」

「恥ずかしかったけどね……」


 二万の魔族が真っ当に攻めてきたら、対抗するには最低でも十万の軍勢が必要になる。

 うちの国だけじゃ十万は動員できなかったはず。この前デメトリアが持ってきてくれた歴史書を読んでも、他国との戦争では三万が限界のようだった。勇者抜きなら他国も総動員して当たらないと、そのまま蹂躙されるだけだろう。

 それを勇者ひとりでどうにかしてしまったのなら、英雄にもなる。


「それはともかく、どうにかして魔法の訓練をしたいところだね。お姉ちゃん、相手の視覚を妨害する魔法とかないの?」

「相手の目に魔法をかければできるけど……」

「……現実的じゃないね」


 誰が見るかわからないのだから、無理。

 でも、そもそも目に入ってくる風景というのは、光によるものだと本で学んだ。

 なら、その光を乱す、あるいは遮断すれば……。

 ……待てよ? 前世の記憶に引っかかるものがあるな。


「……試したいことがあるんだけど、お姉ちゃん、今時間ある?」

「うん、別にいいけど」


 お母さんに一言断ってから、外に出た。

 もうお母さんは充分に安定しているので、誰か保護する人がいなくてもひとりでも大丈夫なのだ。


 外は寒い。雪は積もるほどではないが、ちらついている。

 こういう時、人通りが少ないのはいいね。


「ここなら、そうそう誰も来ないと思うけど」

「じゃ、お姉ちゃん。ちょっとやってみるから、誰か来たら教えてね」


 マナに呼び掛け、意思を乗せ、魔法を想像する。

 光を遮る壁を張った。

 しかし――。


「周辺が真っ黒になっちゃったよ、ロモロ」

「僕も周囲が真っ暗になった……。そりゃ、光を遮ったらそうなるか」


 むしろ、それでは目立ちすぎる。


「じゃ、次は光を拡散する壁を生成してみよう」


 再び、魔法を起動。想像する。


「駄目だ……。風景がぐしゃぐしゃになっただけだ」

「ロモロが壊れた鏡に写ったみたいになってる……」


 拡散しても意味がないんだよね。これも目立つ。使い道はありそうだけど、今の僕らの目的には合わない。

 光を遮りつつ、相手に幻を見せるような、そんな高度な魔法が必要になるのか。

 それを展開しつつ、内部で魔法訓練? それ訓練する必要がないレベルなんじゃ……。


「ところでさっきから、ロモロってばあたしの知らない魔法ばっかり使ってるね。というか、なんで詠唱しないで使えてるの?」

「あ、あー……」


 そう言えば、詠唱せずに魔法を使ってるところを見せるのは初めてか。


「いらないらしいよ」

「誰に聞いたの?」

「……ヴェネランダさんに」


 本当はマブルって子なんだけど、説明も面倒だし、黙っておこう。

 それにヴェネランダさんも詠唱を省略してたし、似たようなものだろう。


「魔法って詠唱なしでできるんだ」

「想像力に限界を作るから、あんまりよくないとは言ってたよ。定型句を口に出せば想像しやすくて、使いやすくなるのは事実だと思うけどね」


 つまり、雑念が多い人だと詠唱があった方がいいのだろう。

 お姉ちゃんは特に雑念は多そうだ。色々と余計なことを考えてそうだし。

 あと、詠唱が必要なのは協力して魔法を放つ時だろうね。テアロミーナ様の侍女たちが館を作り上げた時のように、統一されたイメージが必要な場合だ。


「うーん……あたしもやってみたい」

「今はマナの光を誤魔化す方が先だよ、お姉ちゃん」

「そうだけどさぁ。でも、なにか方法がありそう? あたしは想像もつかないけど」

「うーん……マナは意思を乗せた段階で淡く光り出すわけで……。想像の段階で使う魔法の属性によって、色や光の強さが変化して……意思を乗せた時の光は、ギリギリ誤魔化せるような気もする……であれば、想像の段階で色が付かず、光らない属性による魔法があれば、どうにかなるのでは……?」

「ロモロが何か難しいことをぶつぶつ言ってる……」

「そう言えば……。お姉ちゃん、ちょっと周り見てて」

「いいけど。なんか思いついたの?」

「試す価値はあるかなって」


 前にお姉ちゃんの言ってたやつが、もしかしたら該当するかもしれない。

 シンプルだから、僕にもできるだろう。


「いいよ。誰もいない」


 お姉ちゃんが周囲に人がいないことを確認。

 僕はマナを呼び寄せる。

 使うのは、二年後お姉ちゃんが必死に使ったのであろう魔法。


 マナがほんの一瞬だけ微かなちらつきを生じさせて、消える。

 そして、僕が狙った箇所が小さく炸裂し、雪を軽く吹き飛ばした。

 雪が宙に舞い、再び地上に落ちていく。


「えっ。今、ロモロ、何したの? ちょっとだけ光ったような……?」

「お姉ちゃん言ったでしょ。マナの力をそのまま叩きつけただけって」

「え? 言ったっけ?」

「自分の言ったこと忘れないでよ……。ほら、街を襲ったモンスターを倒した時の」

「あ、あー……。でも、あれは未熟だったし。魔法だったかどうかは……」

「未熟でも何でもないよ。普通に力になるんだから魔法でしょ。今のはマナの力をすごく少なくしてたけど、多くすればもっと威力は高まるだろうし」


 すると、お姉ちゃんもやろうと手を構える。


「……詠唱、どうすればいいんだろ」

「さあ……。僕は詠唱なしが普通になっちゃったし」


 普通の魔法体系には入ってないのかな。こういうの。


「本当にお姉ちゃんの言ったまんまだよ。マナの力を変化させずに、そのまま叩きつけただけだし」

「うーん。なんだか難しい」

「火とか水を想像するよりは全然、楽だと思うけど」


 詠唱に慣れてると、こういうところでよくないのかもしれないな。


「でも、これで上手くできれば、お姉ちゃんと本気の魔法対決もできるのかな」

「あたしと本気の魔法対決は無理じゃないかな。勝負にならないと思うよ?」

「……そんなに自信があるの?」

「自信と言えば自信なのかなぁ。ロモロ、ちょっとマナに呼び掛けて、集めてみて」


 言われた通り、いつもの感覚でマナを呼び寄せる。

 ……が、マナがまったく集まってこない。

 え、何これ? どういうこと?

 むしろ、お姉ちゃんにすべて吸われていってるような……。


「ロモロが使えないの、わかった?」

「うん。今のは?」

「あたしはちょっと特別みたいでね? マナの優先権みたいなのがあるらしいんだよ」

「優先権?」

「魔法を使う人同士が相対する場合、相性だったり属性だったり、色んな要素でマナは呼び掛けに応えてくれるけど、あたしはそこ全部すっ飛ばして、すべてのマナを自由に使えるんだよね」

「つまりお姉ちゃんの方に無条件にマナが行くから、近くにいたら僕は使えないと……」

「あたしが意識しなければちゃんと使えるけどね」

「理不尽すぎない?」


 本来、魔法の対決というのはマナの奪い合い。それは知ってた。

 でも、お姉ちゃんの場合、そのマナを強制的に奪うのか。


「勝てるわけないじゃん。魔法の素養とか才能とか、そんな話じゃないよ、それ」

「それもあたしの勇者の資質ってことなのかも?」

「お姉ちゃんがわからないのに、僕がわかるわけないじゃん……」


 何にせよ、お姉ちゃんが率いる部隊に、魔法師はいらないってことになるなぁ。

 いても役に立たないだろう。

 お姉ちゃんがリソースを全部使うわけだし。


 勇者って戦闘に長ける者とかじゃなくて、魔法に長ける者なのかもしれない。


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