第62話 文化祭二日目[4]迷子
こんにちは。
何か今頃になって梅雨って、変ですよね。まぁ部活が休みになるだけので全く困ってはいませんが。九州の方では、大雨で土砂崩れなど多数の被害が出ていると聞いています。大変だとは思いますが、一刻も早い復旧を願っております。
※クイズはないよ(べ、別に面倒だったからなんて、そんなこと言ってないんだからね)!
しばらくして、お化け屋敷の中から対照的な表情の二人が出てきた。
空はヘロヘロと疲れて涙目であるのだが、対して四ノ宮奈津は満足といった様子でにこにこと笑みを浮かべている。ふと昨日の姉の様子を思い出す。姉妹でこうも違うか……。
お化け屋敷を後にして、再び廊下を歩き始めるが、空の体調は優れない様である。奈津も少し無理をさせたと思ったのか、心配そうに空を見つめている。
「おい、空ちゃん、大丈夫か?」
「……大丈夫」
「どっかで休んでた方が良いんじゃねぇの?」
「だから大丈夫だって……。お兄心配しすぎ」
彼女はそうは言うものの、何となくいつもの気だるげ感がない。僕への言葉もキレがない。どことなくやつれているようにも見え、心配である。
何か、空を元気にするものはないかなぁ……。空を元気に……。食い物が良いか? 確か甘いものが好きだった気がする。お……そういやここにはアレがあるじゃないですか。ヤダ僕さては天才?
心当たりを思い出し、空に尋ねる。
「空ちゃん、クレープ食う元気はあるか?」
クレープを購入して与えてみると、案の定、効果覿面だった。先程までのディスリとは一転「お兄ってまぁまぁ気効くんだ」と言われるまでになった。アレ、あんま評価上がってなくない? うん、気のせいということで。
空だけに買い与えるのは少々気が引けたので、取り敢えず奈津の分も買い上げた。ついでに僕の分も。
奈津は「私はいいです」と遠慮したが、こちらとしても、奈津は幼い頃からよく知っているし空と同じような存在だと認識しているので、別に良いのだということを告げて、引き取らせた。少し不満そうな顔をされたが、本当に僕がそう思っているので二人には平等に接したいのだ。
だから400円の出費なんて余裕なのである。そう、アレだ。可愛さ税を取られただけにすぎないのだ。こんな可愛い子たちと一緒にいられるとなると、800円なんて安い出費だ。
そう思い込んでまたブラブラと、どこかに食うとこないかなぁと歩き始める。
クレープを買うためにわざわざ外まで出てきてしまったので「校舎に戻って、昨日みたいにベンチ」というのは少々億劫である。ここいらにそのような場所がないものか……。
外は相変わらず人の量が多く、数m先も視認するのは難しい。屋台とかを並べたせいで、明らかにここで人の流れの渋滞が発生している。しかもその分、今日の日差しの強さも相俟って非常に蒸し暑い。ここに居続けるのは無理だ。人のしゃべる声、屋台から聞こえてくる威勢の良い声、何かの放送。人々の声が一緒くたになって、何とも形容できない騒音が耳の中で反響する。正直、頭がおかしくなりそうだ。
僕がこめかみを押さえていると、どこからか、騒音とは違った誰かの声が聞こえてくる。よく聞いていると、どうやら子供の泣き声らしい。はぁ、チビッ子も元気だねぇとか何とか思っていると、空と奈津は「あ、あそこ」「ホントだ。……迷子かな?」などと言って、ふっと群衆の中に消えてしまう。
え、行っちゃうんですか……? 面倒になんないですかね……?
慌てて人混みを掻き分けて追いかけると、そこには泣き声の主らしい、男の子がいた。
背は僕の腹くらい。青と白のボーダーのTシャツに茶色っぽい短パンを着用していて、いかにも幼稚園児然としている。
チビッ子は両の手で目をこすり「ウエー」とか「ウゥーン」とか何とかと泣く。
僕が周りと同じようにその様子を眺めていると、空と奈津はチビッ子の側に駆け寄り、しゃがみ込む。そして、奈津はクレープを空に手渡し、彼の目線の下側から「よしよーし」と手で頭を撫でた。
「大丈夫大丈夫。もう心配ないよ。……あのね、どうして泣いてるか教えて」
チビッ子は彼女たちに気付き泣き止んではいないものの、奈津の呼び掛けは理解したようで応答する。
「ひっ、ひぃねぇがっ……、い、いなくっ、いなくなっ……ちゃっ……た……っ、エェェーウェー……」
「ひぃねぇとはぐれて怖かったんだね。よしよし、頑張った頑張った。偉い偉い」
奈津は頭を撫でてからギュッとチビッ子を抱き締める。
「でも、もう怖くないよ。お姉ちゃんたちがひぃねぇのこと、見つけてあげるからね。……だから、もう泣かない。泣いたらひぃねぇも泣きたくなっちゃうよ」
奈津が背中をさすり、撫でたりしながら子守唄のように言い聞かせる。すると、男の子はグズりながらもだんだんと落ち着いてきた。
すげぇ……子供の扱いに慣れてるなぁ……。
奈津の行動はめざましい効果を発揮して、チビッ子を静かにさせた。彼女が少し体を離してにこりと笑いかけると、チビッ子もにこりと笑った。
しかし、くぅーと間の抜けた音が広がる。
「お兄、こんな時に……」
「いや、僕じゃねぇよ……」
空に呆れ顔を向けられたが、残念ながら本当に僕じゃない。
見ると、チビッ子は自分のおへそあたりを見つめている。どうやら彼の腹から鳴ったものらしい。
「お腹すいてる?」
空が問うと、チビッ子はうんと頷く。
ほぉ……コイツ悪びれもなく……。こうやって、すぐ他人に頼る人間ができていくのだ。あぁ、恐ろしい。
まぁそんなことはどうでも良いが、一応、たまたま食料は持ち合わせている。空と奈津にもクレープを買い上げたから合計3個あるが、そもそも二人には僕が奢った訳だし、自分たちで食べてくれれば結構だ。幸い僕は口もつけていない。昨日もクレープは食ったし、食い物は腹が減ってる奴が食うべきだ。
空と奈津がクレープについて顔を見合わせる中、僕もその隣にしゃがみ込む。
「坊主、これ食べるか?」
クレープを差し出すと、チビッ子はうんと頷き、ひったくるように僕の手からクレープを奪い取った。そして、勝手知ったる様子でムシャムシャと食べ出した。ふと、幼い頃の空の様子を思い出し、微笑ましい気持ちになった。
しかし、これどうすんの……?
空が「お兄、要らない?」と尋ねてきたが、別に構わないと答える。
「それよか、拾ったは良いけど、コイツどうすんの?」
「学校って、サービスカウンターとかないの?」
「ジャスコかよ。そんなんないわ。拾得物なら生徒会が請け負ってくれんじゃなかったかな」
「さすがに人なので、それはちょっと……どうやらお姉さんがいるみたいですけど」
奈津はそう言って、チビッ子に尋ねる。
「ねぇ、あなたのお名前教えてくれる?」
チビッ子は口の周りにチョコをつけたままで「あさぎこうき」と答える。
「こうきくんだね。こうきくん、お姉ちゃんいるの?」
「うん」
「じゃあ、お姉ちゃんのお名前を教えて」
奈津が聞くと、こうきは首を傾げて「どっちの?」と問い返す。「どっちの?」って、もししかして二人も姉ちゃんいんのか……? えぇ……僕だったらあんなの二体も要らないなぁ……。一体でも充分疲れる。
奈津もそのことには気付いたようで、再び問う。
「ひぃねぇは、どっちかのお姉ちゃんのことで合ってる?」
「うん。ひぃねぇはお姉ちゃんだから」
「それじゃあ、ひぃねぇのお名前を教えてくれる?」
こうきはうーんと唸る。
「ひぃねぇのお名前……? ひぃねぇはひぃねぇだよ」
ダメだこりゃ……。まぁ「ひぃねぇ」「ひぃねぇ」って渾名で呼んでたら、本来の名前なんか気にしねぇよな……。
今度は空が問う。
「今日は、ひぃねぇとずっと一緒にいたの?」
「ううん。最初はママといて、次にひぃねぇといたの。でも、ひぃねぇ……いなく、なっちゃって……」
こうきが再び泣き出しそうになったので、はぁとため息をつき、手を頭の上に置いてやる。
「泣くな、男の子だろうが」
こうきがうるうるした目をこちらに向けてくる。ガキンチョはガキンチョなりに頑張ってんのかも知れない。
「ひぃねぇはこのお姉ちゃんたちが一緒に見つけてくれるから、それまで我慢しろ、な?」
「……うん」
こうきは頷いて、涙を忘れるためか、再びクレープにがっつき始めた。よし、それでこそ男だ。
良いことしたなぁと自分を誉め称えていると、空がジッとこちらを見ている。
な、何だ……!? ま、まさか、改めてお兄に惚れ直したのか?
そんなことを思っていると、空は吐き捨てるように言う。
「お兄って言ってることクズいよね」
「まぁまぁ。でも、陸くんもひぃねぇ探すの手伝って下さいよ?」
「……はい」
奈津は空をたしなめながらも、僕に注意してくる。良いオカンになりそうだなぁ……。
ずっと人混みの中でこんな話をしていても埒が明かないし、迷惑だろうということで、僕たちはこうきを連れて、人の少ない日陰に移動した。
ようやくあの蒸し暑い地獄から脱出してきた訳である。
元々探し求めていた、日陰で座って休めるところは、やはり校舎の裏側であった。昨日ここで、中村綾とクレープを食べていたのは内緒である。変な誤解をされるのは御免だ。
聞いたところによると、こうきがひぃねぇとはぐれたのは校舎の中でのことらしい。そこからこうきは外に出て探し回ったが、とうとう堪えきれなくなったらしく、泣き出してしまったと、そういうことのようだ。
空と奈津子はこうきと一緒に三段くらいある小さな階段に腰掛け、クレープを食べている。
「にしても、どうやって探すんだ、ひぃねぇ?」
僕がこうきを見下ろして言うと、奈津が応答する。
「やっぱり、生徒会とかに相談した方が良いんじゃないでしょうか? きっとひぃねぇさんもこの子のこと探しているだろうし。放送とかが使えればそれも使いたいですけど」
「そうだよなぁ……」
じっとしたり、無駄に探し回ったりするのよりも、今回は使える手段がある訳だし、それを頼るのが良さそうだ。向こうももしかしたら、困って生徒会の方へ向かっているかも知れない。
だが、母とここに来て、その後はひぃねぇと一緒となると、母の行方も気になるところだ。
僕は再びしゃがみ込み、こうきに尋ねる。
「なぁ、ママはどこ行ったんだ?」
こうきはクレープを口に含んだまま「お仕事」と言う。日曜日も仕事か。大変だな……。
「ひぃねぇじゃない方の姉ちゃんは、今日は来てないのか?」
高校生とかだったら、わざわざ他高校の文化祭行くくらいだし、みんな文化祭しか楽しみがなさそうだが、どうやら来ていないらしい。
「あっくんはいっつもおうちだから」
な……いっつもおうちって、引きこもりか、それ……?
「……ってことは学校にはひぃねぇしか家族がいないってこと?」
空が訊いてくるので「まぁ、そうっぽいな……」と答える。
「とにかく、生徒会に迷子でーすって言いに行かねぇとな。今日はこんなだし、職員室も事務室も役に立たなそうだし。生徒会が一番だろ」
「そうですね」
奈津も同調して、こうきを向いて手を握る。
「じゃあ、ひぃねぇを探しに行こう!」
「うん!」
こうきは元気よく返事をした。
完読ありがとうございます。
という訳で何故か迷子回でした。ストーリー構成がショボすぎて何の前触れもなく幼児が出てきました。まぁ迷子なんて唐突に現れるものですし、多分セーフ。で、何故ここで迷子が出てきたかってことは、後々(結構後の方)に分かると思いますのでご確認よろしくお願い致します。
幼児の扱いについては私の独断と偏見で書いているものなので、不適当な要素が多々あると思われますがご了承下さい。
それではまた次回!




