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面倒な僕を助けてくれ  作者: 柱蜂 機械
第三章 二年一学期編
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第60話 文化祭二日目[2]見つけたのは

 テストが終わったその日の内に次のテスト範囲表が配られました。どういうことなの……。暑さと勉強で頭がおかしくなりそうだヨ。

 皆様もお身体には充分お気をつけ下さい。

 身体を融かすような炎天下、馬鹿だなぁと自分で自分をなじった。


 何が馬鹿って、結局、朝の内に大川井(おおかわい)(はなだ)に接触することが叶わなかったことだ。

 もちろん、四ノ宮(しのみや)紅葉(くれは)と微妙な空気でいるのは非常に良くない。紅葉とのあの場があったことには感謝すべきだろう。

 しかし、こちらの問題もそれと同等の重大さである。しかし、それは問題にすらなっていない。それを勝手に問題にして解決しようとしているのがこの僕──水野(みずの)(りく)である。

 僕はまず彼女に謝らなければならない。僕は、彼女を誤解し、歪んだレンズで彼女を見ていたのだ。それは僕が勝手にしていたことで、彼女に直接的に告げたことはない。その歪んだレンズを通して見た彼女を、自分が助けてやるなんてことも思ったが、それも口にはしてない。つまりは、何も起こっていないのだ。

 だから、僕は何もしなくとも、別に構わないし、構われない。

 しかし、それ以前に僕は大事なことを忘れていた。

 彼女は天才、可愛い、スポーツ万能とか何とかともてはやされているが、それは彼女に周囲が付けたレッテルでしかない。レッテルで塗り固められた人物を見れば、そこにはその人物の破片など何も無い。

 さらにレッテルを全部ひっぺがしてまえば、そこにうずくまっているのは、きっと一人の少女だ。どこにでもいる普通の女の子。

 だから、僕は認識を改めることにした。僕は、皆の憧れの高嶺の花なんか救わない。

 一人の少女が、迷って、困って、つまずいて、それでも逃げられないというのなら、僕はそれを助けたい。

 だから、自分が迷うことは出来ない。してはいけない。そんなことで人を助けようとしたところで、それは所詮偽善と欺瞞でできた紛い物。本当などではない。

 助けるという意志を持っていなければ、ソイツに誰かを助ける資格はない。




 固く拳を握り、口を開く。


「えー、21HRお化け屋敷やってまーす。南校舎三階でーす」


 色々なことを考えつつ、昨日同様、看板を持ち上げて人を呼び込む。昨日の始めに比べたら大分声が出るようになった。恐らく人を見すぎて、人を人と認識できなくなってるのが原因。軽く麻痺ってる。


 しかし、それも無理からぬことである。予報によると、今日は何と摂氏30度まで上がるとか。着ているシャツもグッショリとして、男の大事なところも蒸れてきて気持ち悪い。

 梅雨? 何それ美味しいの? というレベルでサンサンもっと暑くなっている状態である。最早アローラ。


 取り敢えずどこかの「ひでり」のとくせいを持っている奴をぶん殴ってやりたいところだが、生憎手が離せない。助かったな、僕が仕事してて。

 しかし、ここまでうだるように暑いと、身体が持たない。かれこれ二時間近くこんな役回りをやらされているが、僕の頑張りは人を21に集めているだろうか。もしそうなら安心だが、そうでなかったら骨折り損も良いところである。もっとも、僕にそもそもそこまで集客力は無さそうだ。うわ、何で僕仕事してんの?


 もうそろそろ、十一時。漸く交代の時間だ。最後の一踏ん張りでもするかなと、再び看板を高く掲げる。

 そして、また21HRがどうの~とかいう呼びかけを始める。


 と、その時、僕の目は見慣れた髪の少女を見つける。


 校舎から少し離れた校門のところからこちらに向かってくる少女。彼女が後ろを振り返った時に、名前の通り尻尾が揺れた。くせっ毛のポニーテールである。

 首を伸ばして、目を凝らして視認する。やはり、僕が最もよく見慣れた彼女である。友達も一緒にいるようだ。


 すると、今まで疲労困憊で動かすのもやっとであった両の足が嘘のように軽くなり、持ち上げていた看板は重さを失い、のぼせた頭はパーフェクトにスッキリする。

 軽くスキップでもしたい心地になって、足を彼女らに向ける。


 人混みなど気にせず、ずんずん近づいていくと、その姿も大きくなっていく。

 彼女たちが着ているのは元僕の中学のセーラー服。深い青色のリボンに、胴部と同じ白色のカラー、ヒラヒラのスカートが特徴である。


 二人は楽しそうに談笑したり、物珍しそうに校舎や屋台を指差したりしていて、こちらに気づいている様子はない。

 良いところまで来てから立ち止まり、ふぅと一息。そして、何事もなかったかのように看板を持ち上げる。


「21HRでお化け屋敷やってまーす」


 彼女たちはゆっくりとこちらに近づきつつある。目の前を通るタイミングで宣伝してやろう。そうすれば向こうもこちらに気づくはずだ。


 二人は僕のいる方向とは反対を向いて「あ、わたあめだって」「食べる?」などと和気あいあいと可愛らしく笑い合っている。はい可愛い。


 そして僕のところまであと3mに迫ったところで、再び声を上げる。


「えー21HR──」


 2m。


「お化け屋敷──」


 1m。


「やってまーす──」


 0m。


「是非──」


 -1m。


「来て……」


 -2m。


「くださ……」


 ……通り過ぎた。まるで、何事も無かったかのように。こちらに脇目を振ることもなく。ただただ、僕の目の前を通り過ぎた。


 呆然としたが、すぐに思い至る。


 いや、いくら僕の声が小さかったからとしても、この至近距離で聞こえない訳がない。寧ろ驚いてこちらを向くのが人間の行動として自然である。しからば、彼女らの行為は不自然以外の何物でもない。不自然な行動を取るのは、それが意識的であるからだ。意識的──つまり、僕の目の前を通過する以前に僕の存在を確認していたということか。


 キッと少女二人の後ろ姿を睨み付けると、視線を感じたのか、けだるげそうな目がこちらを向く。


 アハ……可愛い。


 少女──(そら)はうげぇという顔になる。同伴者──四ノ宮奈津(なつ)も振り向いて、僕と空を見、微笑んだ。


 空ははぁと脱力したように項垂れて、こちらに向かってくる。そして、目の前でヌッとその首をもたげる。


「お兄はさ……何でアタシが睨んでんの見て、あんなキモい顔になんの……?」

「そりゃ、空が可愛いからに決まってんだろ。空はそんなことも分かんないの?」

「ウザ……。あー……何でこんなキモくなっちゃったかなぁ、お兄は」


 空はジトッとした視線を僕に向ける。

 ……やっべ、見つめられてる。ぐうかわでときめいちゃって、お兄ちゃん恥ずかしいゾ☆

 でも、お兄ちゃん一つ気になるんですけど……。


「それよか、空ちゃん、制服とかそんな風で良いの?」

「何、どういうこと?」

「いやさ、その、袖折ったり、スカート折ったりみたいな……。ほら、なっちゃんはアレじゃん、普通じゃん」


 空のセーラーは、袖が七分まで折られていて、スカートも膝丸見えで、何だかミニスカに近づいてませんか大丈夫ですか。あと何で靴は履き潰したランシューなんでしょうか。めっちゃピンクなんですけど。ってか靴下どこいったんですか。

 それに対して奈津はと言えば、セーラーは夏用の半袖のもので、スカートも膝までかかっている。靴も中学でよく言われていた白い運動靴で、靴下もそれである。


 空はキョロキョロと自分の制服を見回し、ちょこっと後ろを見遣ってから、ブスッとして言う。ふて腐れた感じの顔も可愛いですね。


「別に、良いからやってんの」

「あぁ、なら良いんだけどさ……。何か空ちゃんがボッチヤンキーの方向に進んじゃわないか、ちょっと心配なんだよ……」

「ボッチヤンキー……? 何言ってんの? ってかお兄、余計な心配しすぎだから」


 我が宇宙一可愛い妹はそう毒を吐いてから振り返って、近寄ってくるもう一人のの少女に謝罪する。


「ごめんね、なっちゃん。お兄キモくて」

「言い過ぎだよ、空。大丈夫、キモくなんかないですよ、陸くん」


 奈津は苦笑混じりに答える。


「妹が可愛いのは、誰だって一緒だと思いますから」

「優しいなぁ、なっちゃんは……」

「それに、空はおしゃれだし、少しくらいは見逃してあげて下さい」

「……空もこのくらい優しかったらもっと可愛いんだけど……」

「これ以上お兄にキモくなられたらマジで困るんですけど。見逃すって……そんなことお兄に言われる筋合いないし。……なっちゃんはお兄に甘すぎ」

「えー? 空がキツすぎるだけだよー。それに、空が可愛いっていうのはホントのことじゃない?」

「うえっ……!? ちょっと……なっちゃんまでそんなこと言い出さないでよ……」


 顔を赤くして、脱力したようにゴニョゴニョと言葉を発する空を、奈津はフフッと楽しそうに笑う。僕も、思わず口元が緩む。

 すると、空はこちらを睨み付けて言う。


「もう、お兄ホントにキモい。マジで止めてくんない?」

「やだ」

「……最悪」


 空は諦めたようでガックリとうなだれる。奈津は苦笑いで空の手を握り、もう片手で背中をさする。


「ごめんごめん。でも、ホントのことだから許して」

「もう、またそうやって……」


 空はウゥと唸りながら、奈津のことを恨めしそうに見る。

 奈津は少しふざけながらも、僕の方を向いて口を開く。


「陸くんも、空が困らない程度で可愛がってあげないとダメですよ?」

「うーん……それもそうなんだけど……」


 僕としては、空を困らせて、その困ってる空を見るのが至福なんだがなぁ……。まぁあんまり怒らせて、僕のこと嫌いになってもらっても、それはそれで僕が困るな……。まぁ言うても、空は(きっと)僕のこと好き(なはず)だからな。今のままで良かろう。

 空は怨念がましい声を発する。


「……っていうか、可愛がってもらわなくて結構なんですけど」

「ダメだ! 兄として妹を愛でるのは義務だ! 職務だ! この世の条理(ルール)だ!」

「恥ずかしいから、ホントに止めて……」


 空は両手で顔を覆ってしまう。え、僕、そんなに恥ずかしいことしてました……?

 審判ジャッジは? と奈津の方を向くと、左右の人差し指を交差させてバッテンを作っている。


「困らせないでって、言ったばっかりですよ」


 ム……そうか。ギリギリギルティか。あんまりやり過ぎると、僕の目から逃れようと空ちゃんが顔を隠してしまうということかな(大間違い)。まぁ、そんな姿が可愛いんですけどね!

 だが、まぁここは妹の友達が言っていることだし、従って(おくフリをして)おこう。


「分かりました。ここは一つ、兄として身を引きましょう」


 胸を張って言うと、空がボソッと呟く。


「……どうせ嘘だ」


 黒い視線が僕を貫く。ゲッ……バレてるな……。


「ちょっと、空ちゃん? お兄の言うことが信用でき──」

「ない」

「……左様で。……まぁ、否定しはないけど」

「ほら」


 あぁ……遂に空にも見限られてしまうのかしら……。嫌だなぁ……。僕って人望ないのかなぁ……。


 僕と空が互いに落胆し合っていると、奈津はフフッと笑い声を漏らす。一瞬、その笑い方が姉に似てるなぁなんて思ってしまったのは内緒だ。


「やっぱり仲良いね、空と陸くんは」

「……そう見える?」


 空は顔に諦念と疲労の色を滲ませて、奈津に問い返す。奈津はにこりとして「うん」と返した。


「何だか、お互いホントに思ったこと言ってるなぁって……。そういうの、普通できないと思うな」

「そんなもんかなぁ……」


 空はいまいち釈然としない様子で呟く。


 確かに、僕と空は、一般的な「きょうだい」というものよりかは、本音を話すことが多いと思う。だから、大筋では奈津の言うことも納得できる。

 だが、何もかも本音だけでできている訳じゃない。兄妹という関係は、通常よりも相手のことをよく理解できるものだ。だから、どこまでが踏み込んで良い場所なのか分かると同時に、どこからが踏み込んでいけない場所なのかも分かるのだ。嘘を言う訳ではない。全て本当のことを言っているだろう。ただ、言わないで内に秘めている本当のこともあるということだ。空だって、ああいう性格だが、敢えて口にしないことはいくつかある。僕であってもそうだ。

 意識的にも無意識的にも、長年の付き合いでそういうことは分かるようになるものだ。それに、それだけではなく「きょうだい」という特殊な関係も何らかの影響を及ぼしていると思われる。恐らく奈津自身も、紅葉や紫苑(しおん)との距離の測り方はわきまえているだろう。こういうクローズな関係は周囲から隔てられる一方で、より密度の高い情報を得、自分から供給することができるのだ。

 だから、よく兄妹で恋愛とかそういうのが二次の世界であるが──現実ではそうそうないだろうが、あながち無きにしも有らずである。人の知的欲求は基本的には、知れば知るほど深くなるという。だからきょうだいのことを知れば知るほど……というのは有り得るのだ。ま、まぁ? ぼ、僕がそういうの狙ってるとか、そそそ、そういう訳じゃ、ないんだけどねッ!?


 そんなことを考えていると、空は「はぁ」とまたため息をついて、顔を上げる。


「もう止めよ。お兄がキモいの今に始まったことじゃないし、いい加減慣れないと……」

「お、良い意気込み」

「ウザ……。自重して」

「無理」

「知ってる」


 そう言った後、空は何度目かのため息をつく。だが、一瞬、口元が緩ませているようにも見えた。


 そう。これで良い。結局、僕と空の距離というのはこんなだらしのない会話だけで、お互いに充分測れるのだ。


 僕も少し嬉しくなって微笑むようにしていると、不意に後ろから声が掛かる。


「お、なになに? これ、両手に華ってヤツ? カーッ、いいねぇ」


 何かチャラくてムカつくしゃべり方だったので、睨み付けてやろうかと思い後方を振り返る。そこにいたのは、僕より少しばかり背の低い坊主頭の少年である。ニヤニヤとしていて、なぜか人をムカつかせる笑顔だった。

 んん……? 何か見たことあるような無いような感じのモブだな……? いやまぁ何でも良いけど、何かウザいなコイツ。


「な、何か用……?」


 若干身を引いて尋ねると、坊主はキョトンとしてから、すぐ僕の背中をバシバシと叩き出す。


「おいおい、それ持つのの交代に来たんだよ。昨日も来ただろ? 忘れちゃったのかよ?」

「お、おぅ……ありがと……」


 おおぅ、ワリぃ、忘れたわ。ってか、イテェんだけど……。殴るぞ。


 非難の眼差しを坊主に遣るが、某の目は新しい人物を捉えていた。


「君っち、水野と知り合い?」


 空は引き気味に「あ、アタシは……妹、ですけど……」と答える。


「へぇ、君は?」


 坊主は、今度は奈津にも話し掛ける。奈津は笑顔で「私はこの子の友達です」と答える。やべぇ、何あの愛想笑い……。メチャクチャ怖いんですけど……。


 っていうか、コイツ、何の権利があって空と奈津にこんなキモい目向けてんだ(特大ブーメラン)。

 「かわいいね」とかほざいてる坊主の肩に手を置き、ドスを利かせて睨む。


「じゃあ、替わってくれる?」


 割りと頑張ったはずなのだが、某はすぐにクリアクリンかってくらいに白い歯を見せて笑い「おう!」と良い返事をしてきた。どうしよう、反応に困る……。


 坊主は引ったくるようにして僕の手から看板を奪い取り、背中を押してくる。


「わっ……!?」

「んじゃ、せいぜい楽しめよ、少年!」


 某は転びそうな僕の背中にそう声を掛ける。

 何とか踏みとどまり、坊主を見ると「お気をつけて」とか何とかと言って手を振ってきていた。マジで何なのアイツ。

 まぁ仕事は終了した訳だし、逆に感謝せねばなるまいのだが、何かウザい。というより、何なんだあの女子に対しての挙動は。およそ、一男子高校生のあるべき姿ではないと見えた。クソッタレが……。


 グッと睨め付けてから、もう奴は知らんと決めつけ、身体を起こす。


 目の前には二人の少女。片方は何だか呆けたような顔。もう片方は相変わらずニコニコしている。だから、何か怖い……。


「じゃあ、行きましょう」


 言葉を発したのはニコニコ顔の少女だ。




 遠い後方では、某の勧誘の声が張り上げられていた。

 完読ありがとうございます。

 はい、まぁ今回は休憩回というか、そんな感じの回です。多分こういう回がこの作品の9割を占めていると思いますが、気にしてはいけません。ネタバレしますが、次回、次々回、次々々回はこういうのが続きます。ご了承下さい。ギアルギギアルギギギアルみたいになったのはたまたまです(マジで)。

 それではまた次回!

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