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面倒な僕を助けてくれ  作者: 柱蜂 機械
第三章 二年一学期編
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第59話 文化祭二日目[1]仲直り

 こんばんは。

 暑くて気が滅入っちゃいますね。

 ジメジメしてきて、そろそろ梅雨だなぁなんてことも考える今日この頃です。

 文化祭という行事は、人の身を心を縛り付け、ボロボロに腐食させる。他人と常に関わっていられるほど、人の心は強くない。いくら群れるのが好きなリア充やパリピにしたって、一日中などは無理だろう。

 心の形状は歯車そのものだ。上手く噛み合っていれば何事もなくスムーズに進む。

 しかし少しでも歯の大きさが違ったり、回転のスピードが変わったりすれば、その車は途端に不協和を奏でる粗大ゴミと成り果てる。グギギ……とかゲンみたいになりそう。人と関わっている間、嬉しいこともあれば苦しいこともある。こう言えば、何か友情を分かち合ってる感があるが、実際はそんなことはなくただ痛みを押し付け合っているだけである。僕の場合は圧倒的に押し付けられてる方が多い。その内ペタンコになっちゃう。

 そして、その両方が歯車に傷を付けていく。いずれにしろ異なる何かと終始接触しているということは、それをわざわざ発生させようという無駄な行為なのだ。そんな風に、他人と噛み合っていれば、いずれギアは破壊され、人は人でなくなる。つまり軋轢ということだ。

 人は独りになるのが何よりも肝要肝心。

 何とも接触していなければ傷付くことも、すり減ることもない。自分は何も、苦しくない。


 ただこの時、歯車は歯車ではなくなる。

 歯車は噛み合い、回ることで、また別の歯車を回す。

 回らない歯車など、あったところで意味はない。




 文化祭二日目も昨日に引き続き良い天気だ。いや、良い天気という形容は正しくない。実際は()()()()陽気である。

 ということで、今日はバッチリ夏服を着用している。昨日のように目立つこともない。ただ、アイロンはかかっていない。それでも妹が「これで100%滅菌だね」と言って、去年愛情が籠められたムシューダをしてくれていた。これで永遠に清潔だね! ただ、何でゴミを見る時と同じ目でお兄ちゃんを見ていんたのか未だに分からないんですがそれは。

 群衆に紛れ、体育館へ向かう。本日は二日目、一般参観日なので、ここでは点呼しかされない。後は、各自クラスなり部活動なりの展示に向かえということだ。


 ムワッとした空気の中、クラスの連中の場所まで辿り着く。相も変わらずだが、皆ウェイウェイと特有の鳴き声を発していた。全く疲れそうなものだが、そういう雰囲気を感じさせない辺りやはりパリピのプロフェッショナルということなのだろう。そろそろNHKに出演が決まりそうだ。

 暫くして、HR委員による点呼があり、生徒会の人間の「今日も頑張りましょう」みたいな言葉があった。頑張ってる人に頑張ってって言うなよと思ったが、自分が全然頑張ってないので無理でした。

 そうこうしている内にその話も終わりになる。自由解散的に皆バラバラと、そもそもそんなにしっかりしていない隊列を崩し始めた。

 僕も戻るかなと、ノロノロ歩き出した時、横を追い越していく人がいた。その人物は夜のような黒い髪をなびかせ、颯爽と側を行く。色白の肌や、身長に相応ではない長い脚。そして、その女王様然とした堂々たる足取り。紛れもない。


 大川井(おおかわい)(はなだ)

 あれからろくに口も聞いてなかった。僕が軽率にも「助けてやる」と息巻いていた対象こそ、彼女である。だが、彼女のあの表情や、彼女の友達の話が、僕の偽善と慢心を綺麗に洗い出してくれた。最終的に、僕は彼女を「助けたい」などとは思っても、その資格も能力も有していないのだ。

 そんな僕がすることは間違っているかも知れない。いや、間違っているだろう。だが、彼女のことを思う人と約束した。僕のことを信じる人と約束した。

 僕は、僕と彼女の、間違った関係を終わらせる。


 手を伸ばして呼び掛けようとした時に──余所見をしていたからだが──前方で誰かの身体にぶつかった。

 それに気づいて、ほぼ反射的にペコリと頭を下げる。


「あ……ごめんなさい」

「ご、ごめんなさい」


 どうやら相手もこちらに謝ったようだが……。

 ……聞いたことある声だな。

 そう思って顔を上げると、確かに見覚えのある──というか、見慣れた顔がそこにはあった。


「あ……」

「あ……」


 そこにいたのは、赤っぽい瞳を大きく見せ、ほんのりと頬も赤く色づかせた女子生徒である。奇しくも、僕が昨日、悶絶して全く眠れなかった原因の人だ。

 そして、そのことを思い出すと、何だかまたむず痒くなり、顔面が火照ってくる。意図せず、視線を外し下に向ける。

 目の前の少女──四ノ宮(しのみや)紅葉(くれは)も僕と同様で、顔をさらに紅潮させたり何にも言わなくなったりしてしまった。


 周囲の喧騒の流動は止まらない。その中で立ち止まっている二人は、どうやら流れを逸した存在になっているようだ。


 何だか前にもこんなことあったなぁと思いつつ、ちらと紅葉の方を見遣る。ほっそりとした脚に、それとよく似た雰囲気の白色の細い腕や小さな手。それもこれも、明らかな彼女の特徴で、原因はその低い背にある。決してバカにしている訳ではないのだが、彼女のそれらは、童顔もあってより一層彼女の可愛さを引き上げているとも思われる。いやロリコンでもねぇから。


 彼女の胸元辺りまで視線を上げて、止めた。また視線が合ったりしたら困る。


 だが、この状態が続くのも良くない。男女が向かい合って下向いて何も言わないとか、意味不明すぎて逆に怖い。何かの宗教儀式でも始まりそうだ。アーメン。

 それでも、この状況を打破できる正解を僕は知らない。何も言わずに立ち去るのも「じゃあノシ」とか言って立ち去るのも、どちらも不自然だし、彼女の気分を害するだろう。どうしようにも、避けられないのである。


 沈黙して思考していると、僕と彼女の横に立つ人物が現れる。


「いつまでそこでご起立なさるおつもりですか?」


 ため息混じりの声の方を見ると、金髪がよく目立つ人物がそこに立っていた。


 由比藤(ゆいとう)紫苑(しおん)は体育館を見回して口を開く。


「皆様、もう殆ど出口に向かっていらっしゃいます。ここでそうやって甘酸っぱくしていらっしゃると不審に思われるかと……」

「何かアオハルっぽいこと言ってますけど、全然そんなんじゃないんで」

「ツンデレのつもりですか?」

「チゲぇよ。何で僕がお前にツンツンしなきゃなんねぇんだよ」


 ジトッとした目を向けると、紫苑は意に介していないようで「それもそーですね」と棒読みで返された。コイツ……!


 しかし──1mmも甘酸っぱくなんかないが──目立つのは事実だ。さっさと離れなければ。


 そう思っていると、どうしたことか金髪女子は僕と御主人様を見比べ、今度は両方の肩をグイッと引き合わせ、出口の方を向かせる。


「ッ……オイ……」


 近いよ!! っていうか肩くっついてるって!


「紫苑ちゃん……!」


 驚いて、後ろの怪力女を向くと、彼女は澄ました顔で言う。


「何があったかは存じませんが、いつまでもその様にモジモジされていてはこちらとしても接触に困ります。早いところ、仲直りでも何でもなさって下さい」


 強引に捲し立てつつ、ドンッと今度は背中を押される。

 つまずいて、危うく転倒しそうになったが、何とかそれは回避できた。

 キッと後ろを睨むが、紫苑は「では、私は少し用事がありますので」とか何とかと言って、僕たちとは別に、スタコラと出口に向かってしまった。あの野郎……。


 だが、それよりも、だ。


「大丈夫か?」


 紅葉を見て尋ねると、少し驚いた様子で返答される。


「う、うん……平気」


 どうやら紅葉は僕よりも大分弱く押されたようで、怪我などはないようだ。心なしか、顔が赤いような気もするが、それは僕とて同じことである。さっきも、肩一瞬くっついてたし……。恥ずかしい……。

 思い出すと悟られそうだったので、思考を止める。ついでに時間も止めたかったが、どっかのメイドではないので無理だった。


「……ったく……何なんだ、アイツ」


 出口を向いて、気を紛らす言葉を吐いても何にもならない。だが、紅葉がその答えをくれる。


「……紫苑ちゃん、ああいう感じでもホントは優しいから……多分言ってたみたいに仲直りしてねってことだと……思う……」


 僕の隣の少女は薄く笑みを浮かべて、視線を出口の方から僕に向ける。


「そっか……」


 仲直り……。

 別に仲が悪くなった訳でも、どちらか一方がとんでもない悪事を働いた訳でもない。お互いがお互いに、どう接すれば良いのか分からない、そういうことなのだろう。

 だが彼女は、きっと僕に謝ろうとするだろう。彼女の責任感の強さは、今まで過ごしてきて分かっているつもりだ。だから、何でも先に、自分から進んで来てくれるのだ。

 対して、僕は受ける一方で、何も自分からしてこなかった。僕は責任を感じたくないから、責任を背負いたくないから、何でも人が先にすることに乗っかているばかりなのだ。そして、それを寧ろ良いことだとしていた。責任なんて背負いたい奴が背負えば良い。僕に、そんな面倒なことを押し付けてくれるな。そう思っていたのだ。

 だが、いつまでも彼女にそうやっていて、本当にそれで良いのか。やはりそれは、彼女に対する裏切りの行為なのではないか。そうやって逃げ続けていたら、彼女は僕をどう見る?

 いつまでも今のまま、彼女がこの場にい続ける訳じゃない。それが突然、一瞬にして、無くなってしまうことくらい、僕はこの身を以て知っている。それなのに、また前のように失ってしまっても良いのか。何もしないまま、それで終わって良いのか。

 良いはずがない。

 僕はもう、後悔したくない。彼女たちに失望したくない。そのことで自虐したくない。だから、この終わりの知れない有限の中で、僕は何かしらの変化をしなければならないのだ。


 ふぅ、と息を吐き、再び吸う。考えごとを口にする。


「昨日は……ごめん。何か、怖がってたのに、どうにもできなくて……」


 恥ずかしながらも、一応謝罪の体を取れた。ちょっと何言ってるかよく分かんない感じになったが。

 おかげでまた心拍が速くなり、顔が上気するどうも良くない。


 紅葉は暫くぽけーっとしていたが、はっと我に返ったか、首をブンブンと振って否定する。


「ううん……。私の方こそ、怖いの苦手なのに、わざわざお化け屋敷なんか行って……ごめんね。迷惑だったよね……」


 紅葉は苦笑いだったものの、その言葉尻は殆ど消えかかっていた。


 だから、思わず「いや、別に迷惑なんかじゃ……」と返してしまったのだ。


「何て言うか……その、紅葉らしくて、良いと思うけど……ああいうの」


 やっちまったと思い、再び顔を逸らす。あ、体育館の天井にボール挟まってる。あはは、不思議ー。


 無理矢理意識を逸らそうとしたが、隣から、聞かれたくない質問が発せられる。


「……私らしいって、どういう……」


 それを聞いた瞬間、ゾクッと背筋が震えた。意地の悪い質問だ。もちろん隠すつもりなどないが、はっきりと言える自信もない。何よりも、メルタン──じゃなくてメンタルが持たなそうだ。

 だが、僕がどうであれ、彼女がその答えを求めているのは事実だ。また、受動的に、答えなければならない訳だ。


「えっと……その……紅葉の──」


 もう喉まで出かかった言葉は、カラカラになりながら、そこで進行を止める。

 息も止まり、ダブルパンチで苦しくなる。

 口は動くのに、舌が回らない。


 言いたいことが、言えない。だから、余計に苦しい。


「……あぁ、やっぱ無理ぃ……」


 ぷはぁと息を吐き出す。


「えぇ?」


 出てこない言葉は「可愛らしい」とかそこら辺。口から全然吐き出される気配がない。別に今までは何度も思ったり、或いは口にしたりしたこともあったと心得ている。だが、それなのに、言えない。何、これ? まさか、恋!? はい違う。


 紅葉はムスッとした表情で、顔を寄せてくる。


「な、何で何で? 何で無理なの?」

「いや、何でって言われても……」


 僕が身を引いても、彼女は頬を赤くしたままで攻勢を緩めようとはしない。

 ちょ……そんなに気にしなくても……。っていうか、だから近いんだって。何なの近眼なの? コンタクトしなさいよ。


 どうやら「私らしい」が非常に気になっているようだが、僕としてもその中身を言うのは中々に憚られる。

 苦し紛れにぽそっと呟くように口にする。


「恥ずかしい、から……」


 ちらと紅葉を見ると、さらに顔を紅潮させていた。同時に口をわなわなと震わせ「は、恥ずかしい……?」と問うてきたのだ。


「うん……まぁ……」

「何で、って、理由聞いても良い……?」

「だめ」


 そう言うと「ん~っ」とでも言いたげに、口を真一文字に結んで、目をうるうるさせる。そして、そっぽを向いて先にさっさと歩いていってしまう。ありゃりゃ……?


「ちょっと……ごめんってば……」


 彼女に近づいていって、小さな背中に声をかける。すると、ボソッと一言。聞き漏らしそうな音量で、彼女は独り言を呟いた。


「え……今『ケチ』って言った……?」


 そう。微かな口の動きと音が僕に「ケチ」と知覚させた。


 何だ? 教えなかったのを怒ってんのか……?


 問うと、紅葉はムスッとした目を僕に向ける。


「別に……そんなこと言ってない」


 普段見慣れない彼女の怒った様子に気圧され「な、なら良いんだけど……」と簡単に引いてしまった。


 しかし、せっかく仲直りしようって時に、これじゃマズいな……。紫苑のお膳立てを無為にすることにもなりそうだし、どうにかして紅葉の機嫌を取り戻さないと……。


 その場に立ち止まって、深呼吸する。真っ直ぐ、正面に紅葉を見据える。

 こんなことで、彼女の機嫌が良くなるとは思わない。もしかしたら、その逆で、今の機嫌をさらに損なわせるかも知れない。だが──僕を引っ張ってくれたことに感謝することの他に、僕の取り得る道は無い。

 それが、僕から彼女へ、唯一の誠意であるならば。


「紅葉、昨日は……ありがとう」


 そう言うと、彼女ははっとして目を見開く。


「僕、昨日は、あのままダラダラ過ごすつもりだったけど……。紅葉が来て、一緒に行こうって言ってくれたから、ああやって見て回れた。……多分、一人じゃつまんなかったと思うし、他の奴といても、その……そこまで楽しくなかったと思う……」


 大分痛いことを言ってる気がするが、致し方無い。途中で止めたら、全部パーだ。


「……だから、昨日は……紅葉と一緒に文化祭見て回れて、良かった……。こんなこと言うのはアレだけど──」


 緊張で喉が渇いて痛い。唾も上手く飲み込めない。ジトッとした汗が頬を伝う。握った手が熱い。頭がフラフラしそうになる。

 それでも、僕は珍しく、目を逸らしてはいなかった。

 逸らして虚偽を伝えても、そこに意味は無いから。

 見つめて真実を紡ぐのが、僕にとっての彼女への感謝だから。


「……ありがとう。昨日は、楽しかった」


 最後は、声がかすれた。


 だがいつの間にか、彼女は俯いていた。表情も見せずに、ただじっと俯いていた。


 暫くその様子を見つめていると、遂に徐に顔を上げる。


「……私も、楽しかった」


 それを聞いて、安心した。彼女の顔を見て、嬉しくなった。

 彼女の、恥ずかしがったような笑顔がそこにあったから。間違っていなかったと、実感できたから。


 紅葉は眉を八の字のようにして、照れた笑顔を見せた。

 すると、くるりと僕に背を向け、両手を後ろで組み合わせる。そして、上体を屈めて僕を見上げる。


「行こ」


 照れと安心からであろうその笑顔が、僕の目にしかと写される。

 だが自然と、恥ずかしさも感じずに素直に頷けた。


「? 何で今笑ったの?」

「さぁ……。ほら、行くんだろ」

「……うん」


 こうして、昨日の事件は解決した。


 僕と紅葉は友達同士。お互いはお互いに恋愛対象ではないが「友達」という位置からはワンステップ上がったかも知れない。

 このままめでたくゴールインとかは……無いですねはい。妄想が過ぎました。


「そういや、何で昨日、お化け屋敷とか行こうって言い出したんだ? 結局、苦手なんだろ怖いの」

「あ、えっと……そ、それは……。……ま、まぁ良いじゃん。もう終わったことだし、うん」

「? 何かありそうな感じだな……」

「べ、別に、何にも無いって。ほ、ほら早く行こ」

「あ、前見て──」

「きゃ……! あっ、ご、ごめんなさい!」

「あぁ……言わんこっちゃないな」




 だが、僕はここで大きなミスに気づく。当初の目的──大川井縹に話し掛ける──を何も実行していなかったのだった。

 完読ありがとうございます。

 いやぁ似たような展開が多くて困っちゃいますね。どうしてこうなった。

 相変わらず文章力と構成力は上がる気配がありませんが、一応諸々の合間を縫って細々とやっておりますので、生温かい目で見てやって下さい。

 次回もお楽しみ(いつになるかって、そんなこと聞かないでね☆)。

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