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面倒な僕を助けてくれ  作者: 柱蜂 機械
第三章 二年一学期編
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Girls' Turn part.1(#58.5)

 こんにちは。

 お久し振りです。

 えー、テストが終わったのですが、またテストがあります。どうなってんのこの世界。

 という訳で続きですが、タイトル通りこちらは女の子サイドの話です。主人公視点でのみ楽しみたいという方は、また次回をお楽しみ頂きたいです。ご了承下さい。

 水野(みずの)(りく)の悶えから遡ること小一時間。


 とある邸宅でも同様に、一人の少女がクッションを抱き顔を埋めていた。

 今の彼女には、両親が購入してくれた大きく柔らかいソファや、その上に鎮座するお飾りのようなクッションもどうでも良かった。いや、どうでも良かったという表現は適切ではないかも知れない。

 そんなことを気にしていられるほどの心のゆとりを兼ね備えてはいなかったのだ。

 ただどうしても、収まっても溢れ出てもくれない胸の(わだかま)りをどうにかしようと、そのためにクッションを抱き締めるのだ。


 だが、そうこうしている内に、そのことが却って昼間の出来事を思い出させるように思われた。


 学校で気絶しかけ、気がつくとを既にそこに彼の姿はなく、いつもの廊下の喧騒が溢れているばかりだった。由比藤(ゆいとう)紫苑(しおん)に抱き抱えられたまま尋ねると「どこかに行ってしまわれました」と返ってきた。そしてその後、彼とは会っていない。

 自分のことを避けているのか。そう考えると、やはり紅葉は羞恥に堪えられなかった。


 始まりは、自分がお化け屋敷に行こうと言い出したことだった。紅葉は怖いのが苦手だったが、普段色々なことに無頓着な彼がどういう反応を見せるのか少し気になったのだ。何かあったとしても、あわよくば、彼に女の子っぽい所を見せてみようという甘い考えもあった。しかし、入ってみると、思いの外恐怖は強かった。そのせいで、自分の頭は爆発寸前にまでなってしまった訳である。

 どうして彼に対してあのようなことを口走ってしまったのか。しかも必死になって、泣いて、しがみついて、挙げ句には気絶までしかけてしまった。身体の底から謂われのない感情が湧いててくる。羞恥、後悔、自分への苛立ちや怒りでもない、そんな感情。気持ち悪いのでもなく、反対にどこか心地好くて暖かいような感情。


 一体自分はどうしてしまったのだろうかとうんうん唸る。


「お姉ちゃん、どうしたの?」

「ふぇっ……!?」


 ふいに声が掛けられ、驚いて顔を上げる。そこには怪訝そうな表情で紅葉を見る、顔立ちのよく似た少女の姿があった。


 紅葉はホッとして、胸を撫で下ろす。


「なんだ、奈津(なつ)かぁ……」

「なんだって……そんな声に出して驚くような人、ウチにいないでしょう?」

「え、えぇ……うん、まぁそうなんだけど……」


 妹の発言にゴニョゴニョと言葉尻を濁らせて答える。だが、仕方がないことでもある。自分が物思いにふけっている時に人が現れるのは、自分の考えごとを覗き見されているように思われるものだ。


 そんな姉の様子に妹は首を傾げる。


「何かお姉ちゃん、帰ってきてからずっとそんな感じだけど……何かあったの?」

「え、えぇ? な、ないよ、何にも。うん、何でもない」


 まさか先ほど考えていたことが妹に勘づかれては良くないと思い、否定する。しかし、どうにも彼女は過敏に反応してしまったらしい。

 奈津はニヤリと意地悪そうな笑みを浮かべる。


「あー、やっぱり何かあったんだ。お姉ちゃん嘘つくの下手すぎだよ」

「う、嘘じゃないってば。ホントだよ……」

「分かってる分かってるって。何かあったんでしょう? でも、いつもフワフワしてるお姉ちゃんがポワポワしてるって……何だろう?」

「ムー……信じてないでしょ」

「信じてるって。何かあったことぐらい分かるってば」


 紅葉の必死の抵抗もむなしく、奈津は「何かあった」と決めつけてしまったようだ。


 確かに、何かあったことにはあったが、それは誰にも知られる訳にはいかない。もっとも、一番知られたくない相手には、自分の目の前で目撃されてしまったので何とも救いがたい。


 奈津は急にググッと顔を紅葉に寄せる。


「な、何……?」


 紅葉が少し身体を引き気味にして尋ねると、奈津は何に影響されたのか手を顎に当てる。そして一言。


「男か……?」

「え……えぇっ!? ち、ち、違うよっ?」


 紅葉はうろたえるようにして否定するが、奈津は既に得心したようだ。


「ふーん、図星だね。うんうん、ついにお姉ちゃんにも良い男子(ヒト)ができたんだね」


 奈津はわざとらしく喜んでみせる。「だから、違うってば」と紅葉が言っても、聞く耳を持たない。しかも、しゃがんで紅葉を覗きこみ、嬉々として問うてくる始末である。


「ねぇねぇ、どんな人? どんな人?」

「だから、違うって……」


 そう否定はするものの「どんな人?」と訊かれ、ダメだと思いながらもふっと考えてしまう。

 脳裏をよぎるのは彼の無気力そうな顔。それでも、時おり見せる笑顔や照れている姿。

 それを思い出す度に口元が綻びそうになってしまうのだ。


「あ、お姉ちゃん顔赤いよ。やっぱり……」


 奈津は諦めが悪く、紅葉を追及する。


 またもや図星を言い当てられ、紅葉は逃げるように顔をクッションにうずめる。


 まさかここで「ホントは……」なんて言える訳もない。そもそも「好き」であるかどうかも疑わしいのだ。確かに、今日、彼と何かはあった。しかし、彼は紅葉の幼馴染みであって、恋愛の対象ではない。男の子に少しくらい可愛い女の子をアピールしてみようとか、そういう気持ちはあったがこれは女の子なら当然の気持ち……のはず。このモヤモヤはきっと他の何かが原因なのだ。


 そういうことを考えたついでに、紅葉は追及を緩めない悪い妹をどうにかしようと思う。このままだと、気持ちがすり減ってうっかり口を滑らせてしまうかも知れない。


 思い立ち、紅葉はガバッと起き上がり、今度は自分から妹にグッと顔を近づける。


「さっきから、私のことばっかり言ってるけど、奈津こそ好きな子いるんじゃないの?」


 これぞ形勢逆転の一手とばかりに繰り出したのは、質問返しである。

 紅葉の放ったカウンターは果たして、口の減らない妹の言葉を詰まらせた。


「え……っ? べ、別に、いる訳ないでしょう? そんなの……」


 効果覿面だ。

 奈津は分かりやすく頬を紅潮させて、姉から顔を背ける。奈津が自分の失態に気づいて姉の方を再び向いた時には既に手遅れで、してやったりという顔がそこにはあった。


 紅葉は難を逃れたという安心と仕返しの成功の喜びを感じていたが、逆に面食らってしまった。まさか、本当に妹に思い人がいようとは……。ちょっとした冗談のつもりだったのだが、冗談が冗談ではなくなってしまった。

 しかしそうだと分かれば、人の心というのは変わりやすいもので、紅葉の中にも先ほどの奈津同様の思いが芽生える。


「ねぇ、どんな子なの?」


 紅葉が笑みを隠しきれずに訊く。


 奈津は、今度は面と向かって反論する。ただし、その顔は依然として不自然な赤みを帯びている。


「だっ……いないって!」

「へー、どうだろー?」

「うー……お姉ちゃんの意地悪」

「先に奈津がやってきたんでしょ」


 紅葉がピシャリと言うと、奈津は閉口する。


 少し言いすぎたかと紅葉が思っていると、奈津はすっくと立ち上がる。そしてリビングのドアの前まで歩くと、後ろを振り返る。


「言っておくけど、本当にいないからね。お姉ちゃんは知らないけど」

「私だっていないから。奈津の方こそ知らないけど」


 姉妹のバチバチと火花の散りそうな視線の交錯があった。


「おやすみ」

「おやすみ」


 だがそれでも、就寝の挨拶を律儀にもする辺り、仲は良いのだ。


 奈津がリビングから出ていくと、紅葉はまたソファで寝転がる。

 そうして言い聞かせる。


 好きな男の子なんていない。


 再びクッションに顔を沈める。

 紅葉の胸からモヤモヤが消えることはなかった。




 姉妹の一部始終の様子をキッチンから盗み聞きしていた由比藤紫苑は、水道の蛇口をひねり水を止める。そして、ふぅとため息をついた。


「素直じゃないお嬢様方ですね」


 その独り言は誰にも届かない。

 完読ありがとうございます。

 こういう三人称視点って今までやったことがなかったのですが、どうだったでしょうか。一応これは伏線的な意味合いもあるので、ニヤニヤして頂けると幸いです。

 次回は運命の文化祭二日目です。またテストがあるので、いつ投稿できるかは分かりません。気長にお待ち下さい。

 ではまた次回!

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