第55話 文化祭一日目[5]仕事終わり
はじめましての方ははじめまして。そうじゃない方はお久し振りです。
という訳で、本日から投稿を再開したいと思います。イエーイドンドンパフパフ。
はい、自分の告知がヘボすぎたせいで「こいつ失踪したな」とか思った方がいらっしゃるかも知れませんが、ご安心を。このようにちゃんと生きております。
前回までは、後先考えずどんどん投稿しまくったせいで原案みたいなものができる前にネタが尽きてしまっていました。そのせいで今回のような休載に追い込まれた訳です。ですのでこれからは一話ずつの原案が完了し次第、こちらでも一話投稿しようと思います。これで休載というのはなくなると思います。ですが、逆に時間を取られてしまうので投稿のペースはさらに落ちると思われます。目標は二週間に一話。ヒェェ終わるのがいつか分かんないよぅ……。
そんな感じでやっていくので話は全く進みません。それでも良いぜと思って読んで下されば、自分としても嬉しい限りです。
うひー仕事楽しー! と、疲労困憊の精神と肉体に鞭を打ち、満身創痍ながらもしっかりと午前のタスクを終えた。うっかりポケgo始めそうなくらいの仕事である。看板持ってる人とか、ティッシュ配ってる人の仕事の辛さがよく分かった。
途轍も無い虚無感。この一言に尽きよう。
並みの心では決して務まる物ではない。やはり仕事をする人間というのは偉大だ。社会主義が成立するのも納得。みんな平等嬉しいな!
時間になったので、仕事を調子乗ってそうな坊主頭のクラスメートに譲って、今は「弁当」とやらを何処で食べるか思案中だ。ってか誰アイツ?
よく考えると学校中の生徒がうろちょろしている故、何処にも安寧の地が無いのだ。何ここ監獄? 文化祭の弊害はこんな所にも顔を覗かせているらしい。
何処で飯を食うか予め検討をつけておくべきだった。完全に僕のミスだ。家帰りたいぃ。
どーしよーかなー……。もう選択肢トイレしか無いんですけど。でもそれって完全にボッチ陰キャのやる事だしなぁ。
何、やっぱ僕さリア充じゃん? そういうのって僕がする事じゃないと思うんだよね。うーん、どーしよ(尚友達と飯を食うという選択肢は無い模様)。
うんうん考えながら歩いていると、ふと重要な事に思い至る。
別に、いつものとこで食えば良くね?
そうだ、展示は南校舎全階と、北校舎の一階、体育館。この三つは一本の通路で接続されているため、人の流動は、そこがメインになる。そして僕と何処かの眼鏡が使っているもう一つの渡り廊下はそのルートからは大きく外れているから、使用者は殆どいないはず。
最初に気付くべきだったと思い、直ぐ様目的地を東側渡り廊下に定める。
キャッキャワイワイウフフな廊下はまるで遊園地のようだ(ろくに行った事などないが)。仮装した連中は宣伝しながら行列を作り、男子は何故か雄叫び、女子は「ヤバい」「マジ」を連呼し、男と女はお互い楽しそうにその頬を緩ませる。何それ相当な便利ワード。
文化祭のあるべき姿を横目に一路渡り廊下へ、意図せず早足になっていたのを感じつつ到着する。
案の定、人通りは少ない。が、一部のベンチがカップルに占領されている。おい、あと3m離れて座りやがれ!
学校でイチャ付くのは本当にけしからん。目に毒。気分が悪い。逆説的にイチャイチャしていない僕を見れば幸せになるという事だ。さぁ皆僕を見て! 背景だと思わないで!
そう考えながら、わざわざ来た訳で他に行く所も思い付かないので、もうここで食べる事にし、空いている端のベンチのさらに端に腰掛ける。
どっこいしょと一息つき、ふと、首を後ろに倒す。
空は青い。半分だけじゃくて全体青い。
高気圧が張り出してきただどーのと天気予報が言っていたから、そういう事なのだろう。青空なんて飽きるくらい目に出来ると思っていたが、近頃はそういう事でも無いらしいと感じるようになった。
視線を自分の膝に移す。そこには先程引き換えた「弁当」が。ご飯、フライ、サラダなどが入っており、シンプルな感じだ。「弁当」が500円ねぇ……。
まぁ金の事は、もう支払ってしまった訳だし、言ってもどうにもならない。あんまり気にし過ぎると守銭奴などと言われてしまう。僕が欲しいのは妹の愛だけだ。妹の愛だーい好き♡ 危うくお尻で潰してしまいそうだった。
それよりも食べ物なのだから味の方が重要である。これが悪かったら返金でもしてもらおうかしら。あ、また金か。
そんな心持ちで弁当の、プラスチック蓋を取って容器に重ね、箸を割って──あ、ミスった……──いざ実食である。
まずはご飯だ。まぁ日本の心だしな。さぞ美味かろう。
口に運ぶ。
パク。
ん、んん……まぁ冷えてるしな。多少の固さは否めないだろう。
次にフライに目を付ける。メインだしな。これが仕上がってこその弁当だ。
口に運ぶ。
パク。
ん……。まぁ時間経っちゃってるからね。少し位衣死んでても気にしないさ。
三番目はサラダだ。サラダこそ、野菜が如何に美味いか分かる指標だしな。これで料理の美味さが分かると言っても過言ではない。
口に運ぶ。
パク。
うん……? まぁ舌がご飯とフライに持ってかれちゃったからな。味がしなくても仕方無いや……。
その後も口にしてはウンウンと唸り、首を傾げたりしかめっ面になったりしながら食べ進めていった。
で、結論から言うと、是もなく否もなく、と言ーった所である。正直に言うと、別に特別美味いとかいうのは全く無い。又、特別不味い事も無い。つまり微妙。
果たしてこれは、僕の貴重な500円玉を投じるに値する物であったのだろうか、という疑問が拭えないがまぁ良い。
僕の人間としての生理的欲求はこれに於いて満たされた訳である。これ以上何を求めると言うのだろう。まぁもうちょっと美味くても良いよなぁ……。
さて、午後は暇だし、やる事も無い。寝よ。
首を前方に足らし、直ぐに眠りの姿勢を整える。
ではGood night。昼だけど。
夢を見ていた……鉄道の。
高尾から211系に乗車する夢だ。
現在中央東線の普通列車は一部を除き211系で統一されている。ついこの間までは115系が唸りを上げて爆走していた記憶があるのだが、東日本の置き換えスピードは甚だしい事この上無い。211系は0番台、1000番台はセミクロス。2000番台、3000番台はロングだ。そして不運にも僕はロング車に乗車してしまったのだ。
しばらくして、うーんケツが痛いと、堪らず何処かの駅で下車してしまう。立ったはずなのにケツはまだ痛く、何故だろうと考える。勿論、夢が夢だと気付くのは夢から脱出してからの事であるため、気付く訳も無く何処だろうと辺りを見回す。しかし、辺りにはぼんやりとした空間があるのみで、何も見えない。
ホームとおぼしき場所をうろうろと歩いていると、嗅覚を良い香りがつつく。
何だろうと思うと、どんどんとその芳香は強くなっていく。
果物の香りのようだが……。そう言えば塩尻のホームにはブドウの木があったな……。
目の前にいきなりブドウが現れる。
ぎょっとして目を見開く。
ボンヤリと明るくなっていく視界の左側には綺麗な、ぷるんとして柔らかそうな輪郭。ワインのように深く赤い瞳とも似つかない球状の果物。また、赤く色付いた唇のような果肉。
「ブドウ……?」
「ふぇ……? ……あ……や、はぅぁ……」
目の前の果実はさらにその色を濃くし、震え始める。その度に僕の鼻腔には、例の甘いような酸っぱいような香りが広がる。やっぱりこの果実が……ってんな訳あるか!
果物──否、四ノ宮紅葉は顔を真っ赤にして僕の隣を50cm、100cmと、座ったまま横にスライドして遠ざかる。
何のアピールか手をブンブンと振るが、全く以てコイキングの「はねる」と同義である。つまり効果無し。
内心ホッとした。さっきのは夢か。夢の中で果物だと思った物がまさか現実で目の前に現れる訳無いよな。紅葉で安心したわ。目の前が紅葉でも美味しく頂け無い訳だし。……ん? 目の前が、紅葉って、言った……?
もう一度考えよう。
一、夢を見てました。
二、現実でベンチに座ってたから夢の中でもケツが痛くなりました。
三、良い香りがしました。
四、果物だと思いました。
五、目を開けました。
六、目の前に紅葉がいました。
七、芳香の元は紅葉でした。
夢の中でしばらく香りがしていたのは、紅葉が目の前にいたからでした。は?
ちょ、僕の推理がウルトラビーストで超合衆国ないつも一つの真実をメイクアップしちゃってるんだけど。何語?
つまり、僕が、寝ている間に、紅葉がその顔を、僕の顔を除き込むように近付けていた……だと……?
バッと、紅葉の方を向く。多分、今までこんなにも時間差でドキドキした事無いレベルで今ドキドキしてる。
何? 何なの? 何かメッチャ恥ずかしいんですけどお……!
「な、何してた、の……!?」
息切れしながら尋ねると、紅葉は明らかに目を逸らして答える。
「べ、別に……ま、まだ何にもしてないよ……うん……!?」
……何かしようとしてたのかよ!?
何? おでこに「肉」とか書いてタイムラインに上げるとかそういう事? 「ヨダレ肉マン定期」「キャーネガオカワイー」「自分で書いたんとちゃうんかw」とか言われるヤツ? 大丈夫!?
い、いや僕の知っている紅葉はそんな事をするような奴じゃない。もっとこう、天然でアホみたいな事しか考えていないはず(偏見)。考えろ。ここで四ノ宮先生ならどうするか。
まず、相手と近い訳だから、息とか掛かって……って、何考えてんだこの変態! い、いやそれよりも、誤ってぶつかってしまう事の方が怖いな……。ぶつかるのは危険だ。でことでこが当たれば痛いし、鼻と鼻が当たっても痛い。口と口が当たったりしたら……口と口ィ!? いや待て。それは止めろ。流石にそれはキモ過ぎる。妄想たくましいなおい。その「キ◯」とか「接◯」とかは、清く正しい一高生徒には有ってはならない。そうだ。それは不純だ。紅葉だってそんな事ぐらい分かってるから。まして「接◯」は恋慕を抱く相手にする物であって、そこらの下衆の男に軽々しく頂戴させてやる物ではない。そう、そうなんだよ。紅葉が僕の事が好きでもない限り、そんな「接◯」なんて……。好きでもない限り……。
ふう。今ここで「ワンチャン紅葉が僕の事、好きだったら……?」とかいう説を考えちゃったので一度頭を冷やす。寧ろ一生コールドスリープさせたいまである。
グイッと自分の頬をつねる。イッタい……。
「え、ええ……!? な、何してるの!?」
「ごめん……」
「何が……!?」
紅葉は元気の良いツッコミを返す。お陰で僕の妄想も終焉を見る。こんな良い奴に僕は何て事を……。ヤバい妄想し過ぎたな……このバカ。
十秒くらい本気でつねっていると、だんだんと涙が流れてきたので止める。何かの制御が利かなくなった時は、意識を別の方へ向けるのが大切だ。
すーすーはーはーと金栗四三並みの呼吸を実効し、拍動を整える。っていうか苦しい。
紅葉もその間に落ち着きを取り戻したらしく、足元をガン見していた。
……が、そのままだった。
どちらとも、何を言えば良いのか言葉の選択に迷い、ただただ何処とも呼べない所を見つめるだけであった。
何となく居心地が悪くなって、せめてもの紛らわしに辺りを眺める。
昼の時間はそろそろ終わりなのか、ベンチで食事を摂っている者は誰一人として見当たらない。ここの渡り廊下を通る人間も先程から全く居ない。その一方、紅葉を視界に入れないように校舎に目を遣ると、廊下は賑々しく人でいっぱいだ。三時過ぎには今日の分の展示も終了なので、各々最後の集客に躍起になっているのだと思われる。
ここからは21HR前の廊下の様子も見える。どうやら盛況の様だが、紅葉がここに居るという事は、今は非番なのだろう。
一応明記しておくが、反対側の渡り廊下からは、こちらの様子が丸見えだ。日本人の視力であれば、個人の同定は恐らく不可能であろうが「男子と女子が居る」という事ぐらいは分かってしまいそうだ。何それ明らかにデキてる。
謎の無言タイム。
前にも無言についてはそれ程苦手ではないという話をしたが、今はそういう訳にもいかない。
本来、無言タイムというのは、自分が相手に興味が無く、また誰も自分に興味が無い時に言葉が発せられずにいる状況の事だ。そう考えた時、今現在僕が紅葉に対して興味希薄かと言えばNOである。だが、だからと言って「興味ある=好き」ではない。ちょ、嘘じゃないし……!
紅葉の方こそどうかは分からないが、僕は緊張しているのだ。女子と二人っきりとか緊張しない方が頭おかしい。下手すると自分を見失って「好きです→イヤです→不登校」の可能性が大いに高まる。フラれるの前提なのかよ。
だが、告ってしまうのも致し方無い。それは全て女子が悪いのだ。女子という存在が、全ての男子を盲目に陥れ、その心を幻惑に導く。一般的に、男子は女子に弱いのだ。やっぱ女性は原始から太陽だった。
正直、紅葉は可愛い。いやマジで、ホント、タイプ。多分フェアリー。とかいう事を考えて、それに対してベッドで悶絶している訳だが、しかしそれは、ある意味男子が直面する至極当然の状態であると見える。タイプなのかそうでないのか、それは人それぞれだ。だがしかし「タイプ=好き」の方程式は本当に成り立つのであろうか。
例えば、親父なんかを見ても、テレビに出ている美人の女優にはデレデレと気持ちの悪い言葉を捲し立てる割には、母さんにはそういう態度を取らない。ツンデレなのか、単に老けて当時の様子とは違うのか、理由は分からないが、少なくとも「タイプ=好き」では無いように思われるのだ。こうかはいまひとつのようだ。
故に、紅葉と居るこの何とも言えない空気が、緊張感が、何による物かいまいち説明が出来ないのだ。
だからこそ、この何も喋っていない時間が非常に居心地悪い。
という訳で、何か言わなきゃなと思った所、やっぱりさっきの顔面接近が気になる。それを考えて、また鼓動が速くなった。最早自分の動きだけが加速しているかのようだ。固有時制御──二重加速! 危うく聖杯で清水の街を焼き尽くしてしまうとこだった。僕がマスターじゃなくて良かったな。ってかさっきのマジで何?
尋ねようとして口を開き掛けた時──「あ、あのさ……」と、先に言葉が発せられる。ラブコメでよくある「あの」が被る現象が発生しなくて良かったと内心でホッとしつつ(それやったら四重加速行くわ)紅葉の方を見る。
「文化祭さ、一緒に回らない?」
その少し照れた顔を目にして、不覚にも「やっぱ『タイプ=好き』なんじゃね?」と思ってしまった僕が居た。死にたくなったのは言うまでも無い。
完読ありがとうございます。
いやぁまたこの人出てきましたね。何か、作ってると、この人よく登場させちゃうんですよね。ヒロインとの絡ませ回数間違ってますねごめんなさい。次とその次はもっと絡んじゃいます。許して下さい。
いつの間にか投稿を始めて一年経っていました。話は二ヶ月ちょっと進みました。どうなってんの……。ともあれここまで続けることができたのも皆様のおかげです。ありがとうございます。これからものんびりと進んでいくので、暇な時に暇潰し程度に読んで下されば幸いです。
それではまた次回。




