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面倒な僕を助けてくれ  作者: 柱蜂 機械
第三章 二年一学期編
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第50話 曇天

 こんにちは。

 遂に大晦日ですね。全く実感が湧きません。まぁ言ってみれば「365日の中の一日」というだけなので、普通の日とほんの少しも差異は無い訳ですが。

 僕がその場に立ちすくんでいると、不意に左肩をポンと、優しく叩かれる。振り返ると、焦げ茶色の髪の女の子──四ノ宮(しのみや)紅葉(くれは)が明るい表情をこちらに向けている。


(りく)、帰ろ」

「お、おう……」


 ま、まさか、女子と二人で下校って、これからアレっすか!? 放課後デートってヤツっすか!? リアリアしちゃって、パーリーな連中の仲間入りっすか!?


 と、思ったが、急に背筋に悪寒が走る。紅葉の後方を見ると、やはり例によって金髪のクォーターさん──由比藤(ゆいとう)紫苑(しおん)がいて、鋭い双眸を向けていた。残念ながら僕の夢はあっという間に砕け散ってしまったようだ。……あーあ、放課後にデートしたいなぁ。


 紅葉は、僕のぎこちない返事にニヒヒと、白い歯を見せて嬉しそうな笑顔を作る。うっわぁ……コイツ、僕が男だって事、ちゃんと分かってこういう事やってんのかなぁ……。僕じゃなきゃ告ってフラれてるとこなんだけど。いやぁ流石僕。ここで敢えて告らない事で、フラれた後のダメージを回避するという高等テクが出てしまったかぁ。自分の才能が怖い。


 しかしながら、紅葉に目を向けているのは精神衛生上、あまりよろしくない。彼女から視線を外す為に顔を上げる事にした。

 クラスの連中はテスト結果に夢中になっており、またそれについて談笑していた。僕らの事を気にしている奴はそう居ないようだ。

 良かったぁ。学校の中でも最高峰の可愛さを誇る少女と、カーストパワーが殆ど0に近い僕が一緒に帰るだなんて一大スキャンダルだ。危うくセンテンス スプリング キャノンを浴びせられる所だった。そんな事されたら炎上どころじゃない。マジで放火される。

 しかし実際、もうLINEなどでは炎上しているのだろうか……? いや、僕同様当該者である紅葉や紫苑が加入しているクラスLINEでそんな事は無かろう。あるとしたら、よりプライベートに近い十人程度のリア充グループLINEで、だろうか? 確かにそちらの方が色々と「アイツ、最近イキってね?」的な事をされているかも知れない。止めてよぅ……!

 しかし、その心配も勿論無い。グループでの会話はグループの中での事で完結するのが当たり前。無闇矢鱈と、どうでも良い人間のどうでも良い話なぞ、するはずも無いのだ。そんな事は時間の無駄なのである。

 人は仲間内に入ると、割りと外界に興味が無くなる。そして、仲間内で、取り繕った薄っぺらい会話に執心する。そうやって外と内で色々な事を使い分けているのだ。


 安心、安心と、胸を撫で下ろしたが、よく見るとそうも言っていられない。


 僕は漸く、紅葉との距離を自覚した。目を逸らすのに精一杯で、彼女との距離がこんなにも近い──言っちゃうと20cmくらい──とは全く以て気が付かなかった。

 異様過ぎる近さに異様過ぎる羞恥を感じ、何も言わず、逃げるようにさっさと教室のドアへ向かって歩き出す。


 最後に一度と思い、振り返って教室を眺める。


 目で探しても、その人は結局見つからなかった。


 紅葉は僕の行動に案の定驚いたようで慌てて「待ってよ」と小走りで着いてきた。おいコラだから男子にそうやって軽々しくくっついてくんな。死ぬぞ、僕が。


 紅葉との距離にどぎまぎしつつ、階段を下って行く。


 廊下、階段にはテキトーに掃除を済ませようと画策する輩や、それを注意する事もなくついつい談笑に興じる先生の姿があった。さらには文化祭の準備などで駆り出されて駆け回る生徒などもおり、普段より活気に溢れているようだった。


 とは言っても、集団で何かをするという事は僕にはあまり関係も無いので、その中をスルスルとくぐり抜けていくまでだった。


 校舎外へ出ると、また、曇りだった。重いような、黒の強い灰色。


 僕が天上に目を細めていると、あっと思い出したように紅葉が問い掛けてくる。


「そう言えば、陸、化学一番だったね。すごいなぁ……」

「まぁな……」


 短く相槌を打つ。


 紅葉は驚いたように目を開いてから、少し演技掛かったため息をつく。


「……私なんか、ギリギリ二ケタだったよ……」

「そっか……」


 へぇ……少し意外だな。紅葉なら三ケタものかと思ったけど、やっぱ努力はしてんだなぁ……。


 僕がそんな事を考えていると、紅葉は怪訝そうに眉を顰めて尋ねてくる。


「陸……どうかしたの?」

「は……?」


 足を止めて紅葉を振り向く。

 その表情は怪訝というよりは、どちらかと言うと、僕を心配するような物だった。


 彼女は両の手をショルダーに引っ掻けたまま、小さな口を開く。


「何か……変な、感じ……」

「……僕が?」

「うん」

「そうかな……」


 天を見上げる。そこには、何も無い。


「そうだよ。……何か、あったの?」

「何かって、そう言われてもなぁ……」


 紅葉の言わんとする事は少々理解し兼ねるが、別段、僕に何かがあった訳では無い。確かに、化学で良い順位取ったり、総合が良かったりして多少は心が浮わついているのかも知れない。しかしながら、自分は、今は結構落ち着いていると思われる。故に気分の高揚がその主たる原因とは思えない。

 それに紅葉だって、そんな事でいちいち尋ねてはこないだろう。


 僕が困惑する中、今まで黙っていて紫苑が言葉を発する。


「いつもの面倒臭そうな顔や、下らない事を言う元気は何処に行ってしまわれたのですか?」


 彼女は心底つまらなそうな顔をしていた。


「あぁ……そっか」


 僕は紫苑の発言に得心した。

 確かに、今はそういう事を考えてはいない。成る程、紅葉の言う「何か……変な、感じ……」とはこういう事だろう。

 今は、急を要する事では無いが、何かについてずっと無意識に考えてしまっていたのだ。

 先程からあの違和感が拭えない。

 アレは、何だろうか。


 分からないが、気持ち悪い。どうでも良いはずなのに、どうしてか、簡単に他人事とは割り切れない。


「二人とも……今日大川井(おおかわい)さんに何か言われてないか?」

「え……?」

「大川井さんから、ですか?」


 彼女らは顔を見合わせる。


「何かって……いつもみたいな話だけど……?」


 紅葉の表情からは明らかに困惑が見て取れる。

 この反応だと、やはり二人はあの変なのを見ていないのか……。


 僕は視線を二人から外す。


「そっか……」


 二人には見せず、僕には見させ聞かせたあの表情、あの言葉。タイミングと言い、恐らくはテストの結果も要因の一つと考えられる。僕に負けたのが相当悔しかったとか、そういう事では無い。

 あれは悔恨でも満足でも悲嘆でも欣幸でも無い。


 言うなれば、幻滅。若しくは諦観。


 彼女はそんな表情で僕を見ていた。


(はなだ)ちゃんが、どうかしたの?」

「いや……何でも無い」


 不安そうに訊いてくる紅葉に僕は否定を返す。大川井さんが二人に見せなかった物を、見た僕がわざわざ言う必要は無いと思ったのだ。


 紅葉は何か言いたそうだったが「なら、良いけど……」と少し不満げに了解した。


 紅葉には悪いが教えられない。彼女が僕にあの様に言い残した以上、これは僕と彼女の問題だ。他者の干渉はあるべきではない。


「……悪かったな、何か、その、変な事聞いて」


 僕がそう言っても、紅葉は口を真一文字に結んでうんともすんとも言わない。その代わり恨めしそうな目が向けられる。


 怒らせた、な……。


 彼女はコレでも結構意地っ張りというか、強情なのだ。普段は明るい天然お嬢様キャラというベールを羽織っているが、実態はこうである。こうなってしまうと後が面倒になる。困ったな……。


 僕がアレコレ考えながら紅葉と視線を交錯させていると、紫苑が紅葉の両肩にそっと手を置く。


 紅葉は驚いて後ろを振り返る。


「紫苑ちゃん……?」


 紫苑はご主人様に微笑を返し、凛とした瞳で僕を見据える。


「水野君。大川井さんと何があったのかは存じ上げませんが──何とか、するのでしょう?」

「……あぁ」


 僕が答えると、彼女は微笑する。


「それなら安心です。紅葉も、いつまでもそのように不機嫌でいないで下さい」


 紫苑は苦笑して紅葉の頭を撫でるように手を添える。ご主人様は、ムーッと口を尖らせて抗議していたが満更でも無さそうだ。


 空を見上げる。


 何とかする、か……。


 曇り空は、まだ晴れない。

 最後までお読み下さりありがとうございます。

 遂に50話を迎えてしまいました。四月から投稿しているので、もう八ヶ月も経つんですね。それなのに本編内では二ヶ月しか進んでいないというこのダラダラ具合。申し訳ございません。

 この調子でいくと、完結するのはいつになるのやら……。途中で失踪、というのも考えられます。本当にいつ終わるか分かりません。

 しかし、ここまでやってこれたのも、やはり読んで下さっている皆様がいらっしゃるからの事だと思います。ありがとうございます。

 感謝も込めて、来年も宜しくお願いします。

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