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面倒な僕を助けてくれ  作者: 柱蜂 機械
第三章 二年一学期編
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第42話 テスト勉強[5]to know about Hanada

 お久しぶりでございます。

 毎回の通り、ダブルミーニングでテスト終わりましたw

 テスト死ね。

 遂に「独リア充」という神造語を作ってしまった。最早、新語流行語大賞を受賞するのも時間の問題である。フハハ、勝ったな!


 放課後、受賞の時のコメントを考えつつ、例の文芸部を訪れた。一応、ここの部員ではある。

 僕が教室を出た時には彼女も彼女も彼女もまだそこに居た。今、この教室には誰も居ない。だからと言って、鍵が掛かっている訳でも無い。

 手を掛けて扉を引くと、陰鬱とした空間に低い唸りが響いた。

 淀むようにしてゆっくりと消える音を追い立てるように照明を点ける。

 一瞬躊躇ってから、蛍光灯は暖色系の光で教室を照らし出した。


 中央に固められた六組の机と椅子。猫っぽいキャラクターの書かれた黒板。いつの間にか置かれたティーセットと給湯ポット。綺麗に折り畳まれた薄紅色のカーテン。教室の隅に乱雑に、然れど整然と積まれた机と椅子。そして、夕陽を閉ざす暗い雲の覗く窓。

 それが、いつも通りで、いつもと違う今日の文芸部の姿だ。




 再び鈍いガラッという音が、矢鱈と明るい教室に聞こえる。


「あれ……? えっと……警察は110番よね……」

「ちょっと、何さらっと通報しようとしてんの? 僕不審者じゃないんですけど」

「嘘でしょ……?」

「え……。素で驚かないで欲しいんですけど……」

「だって、アンタの顔、交番のポスターに乗ってたわよ?」

「僕は指名手配なんかされてない。これは罠だ。大川井(おおかわい)さんが僕を陥れる為に仕組んだ罠だ」

「別に罠って程じゃないけど……まぁ実刑を受けさせようとしたのは確かね」

「いや僕何にもしてないんですけど」


 僕の言葉には答えず、大川井(はなだ)は悠然とした足取りで、黒の髪を靡かせ美しい所作で着席した。


「ごめんなさい。アンタとは付き合えないわ」

「いや別に告ってないけど……」

「嘘……。追いかけてくるぐらいだから、私の事好きなのかと思った」

「僕はストーカーじゃない」


 大川井さんはイタズラっぽい笑みを浮かべる。

 自信過剰っぷりは相変わらずのようだ。


 一応、ストーカーと間違われても困るので、理由を明言しておく。


「僕は……勉強だよ。提出物全然やってないから。家だとだらけちゃうし、ここでやろっかなぁって」

「ふぅん。真面目クンね」

「どうも」


 それきり、会話は途切れる。


 窓の外は、灰色の雲に覆われしんしんと雨が降る。窓の内は、暖色の蛍光灯が煌々と光を放っている。その中、僕のシャーペンが刻む不規則なリズムだけが聞こえていた。

 その、殆ど静寂と言って良い程の空間を彼女は融かしていく。


「言っとくけど、今日はあの二人来ないわよ」

「へぇ……珍しいなぁ」

「お父さんの仕事の関係で、お食事会らしいわよ」

「あぁ……近々あるとか言ってたな……」

「……生返事ね。何かあったの?」


 大川井さんの言葉に僕はペンを置いて答える。


「テストだよ……。僕は大川井さん程頭良くないからね」

「それ、自分も頭良いって言ってるようなものだと思うけど……」

「どっちって一緒だよ。僕は大川井さんに勝てないんだから」


 僕がため息混じりに返すと、大川井さんはすぐには返事をせず窓の外を見遣る。


「そう……」


 それだけ、呟くように言った。


 「そう……」? てっきり僕は何かしらの自慢をされると思ったのだが、どういう事だろう。まさか大川井さんは、僕がこのテストで彼女に勝てるとでも思っているのだろうか。しかし、そんな事は絶対に無理だ。可能性の話なら、少しはあるかも知れない。0%ではない確率が。しかし、限りなく0%に近い確率が。


 僕が大川井さんに勝利する為には30くらいの点の増加が必要だ。確かに学年一位と学年十位代では、これは有り得ない程の大きな差だ。通常はこんなに差がつく事は無いのだろうが、実際に僕はそれを体験している。しかしながら、これは総合──五教科九科目900点満点の結果である。つまり、僕が各教科で3.33点底上げすれば、届かない点数では無いのだ。まぁそれも今まで出来ていた訳じゃ無いけど。


 そもそもこんだけ勉強して勝てないんだから、この大川井縹って人、異次元の人だ。

 今になって思う事だが、彼女が必死になって勉強している姿なんて見た事無い。あんな点数を叩き出す位だ。膨大な勉強量が必要だと思うのだが、大川井さんには片時もそんな様子を見出だせない。


 きっと何もせずに、何もしなくても出来てしまう人なのだろう。羨ましい。僕は、そんな才能溢れる人間とは違う。平々凡々な一高校生。

 だから僕は努力して、そういう人間に着いていかないといけないのだ。「追い着かなくても、置いていかれても良いのではないか」と、たまに自分に囁かれるが、僕にはそんな事は出来ない。事実、僕はそれ程に心の弱い人間なのだ。

 僕は、弱くて臆病だから今もこうして勉学に勤しんでいる。勉強をやる事で「自分はしっかり学習している。置いていかれていない。大丈夫」という、一種の暗示のような物を自分に施しているのだ。端から見れば頭おかしいとか、キモいだのと言われそうだが、もうそういう人間になってしまった以上、その言葉は甘受せざるを得ない。


 僕の場合は勉強だが、人によってはその限りではないだろう。スポーツにしろ、ゲームにしろ人より秀でた何かがあれば、それだけで自らを肯定する思いが強くなる。だからきっと、僕はその状態をキープしていたいのだ。

 自慢では無いが、僕は小学生の頃から勉強は出来た。小、中なんて授業を真面目に聞いていなくても、ワークをやりまくればテストなどあまり恐ろしい物でも無かった。つまりはどれだけワークを復習したかが勝負の分かれ目だったのだ。しかし、高校ではそうはいかない。授業中スマホいじってる暇なんて無いし、数学なんて黒板の全てを記憶しようとするレベル。

 授業中は眠くなるが、大事な授業はちゃんと起きる努力をしているし、大事ではないのは眠る事にしている。まぁ現国かな? 寝てるのは。もうあれはセンスだわ。


 そして、自分が勉強する理由を突き詰めると、結局は格好付けでしかないのだ。それも、とてもとても痛々しい。大衆の居る授業中は寝て、人の居ない所では勉強をしまくる。あたかも勉強してないけど出来てますよ感を出したいだけなのだ。きっとリア充でも何でもないボッチが皆に振り向いて貰おうとしているのだろう。しかし、そんな事で人間が目を向ける事は無い。

 勿論知っている。

 そんな事はここ十年で身を以て実感している。イキリはイキリ。カーストの低い奴が目立とうと、リアリアな奴に構って貰おうとしても無駄だ。それでも、長い間の悪癖は抜ける事は無い。だから僕は、いつまで経っても僕のままなのだ。


 軽く自己嫌悪に陥っていると、大川井さんが怪訝そうな目付きで僕を見ているのに気付く。


「何……?」


 尋ねると大川井さんは眉を顰める。


「もしかしてアンタ、自分が気持ち悪い顔してるって気付いてない?」

「ついに無表情でも人前に出られない顔になってしまったのか僕は」


 もうどうすりゃ良いんだか。フクベエっぽくマスクでも被ろうかなぁなどと考えていると、どうやら何か違うらしい。


「そんな事言ってないわよ。『今』の話。水野くん、地味にニヤついてるって気付いてないのね。やっぱキモ」

「え……? あぁ……そういう……」


 嫌だな僕。女子の、しかも大川井さんの前で大した意味も無いのにニヤついてるって……。

 本当に、気持ち悪い。


「ごめん……」

「何でそんなキモい表情してるかは知らないけど、謝るくらいならそのやる気の無い顔どうにかしなさい」

「あぁそっちもね……」


 何だ、結局表情も元の顔もダメなのか。やっぱ外歩けないじゃん。マスク作ってともだちになるしかないな。


 僕が落胆していると、大川井さんが再び問う。


「にしても水野くん、授業もろくに受けてないのにテスト勉強なんて意味あるの?」

「……提出物最優先だから。それに殆ど答え写してるし、そんなに頑張ってる訳じゃないよ」


 普通に答えれば良かったのだ。

 それなのに、見栄を張ってしまった。多分心の何処かで、勉強を頑張った挙げ句に大川井さんに負けるのが嫌だと思ったのだろう。どうせそうなったらバカだのアホだのと言われる気がするし、もしかしたらそう言われた時に「いや、別に勉強やってないから」と言い訳をする為に言ってしまったのかも知れない。

 いずれにしろ本当では無い事を僕は口にしてしまった。


 僕の回答に大川井さんは「そ」と応じる。


「まぁ頑張ってね……」


 大川井さんは僕に目を合わせる事なく、おおよそ感情の籠っていないであろう声音でそう言った。他人事とも取れるし、独り言とも取れる、そんな言葉。


 何とはなしに変な気分だ。普通、大川井さんなら「ま、私に勝てるよう精々頑張ってみなさい」などと言うのだと思っていた。


 ……何だろう。今の覇気の無い、意思の無いような声は。


 静かに降る雨に紛れるように、その声は沈んでいった。


「……やっぱり、今日は帰るわ」

「え……?」


 そう言って大川井さんは椅子から立ち上がる。そして僕の目の前に、青色の花のキーホルダーが付いた鍵が置かれた。


「これ、ここの鍵。テスト終わるまで水野くんに預けとくわ」

「え……うん」

「それと、それまで部活──まぁお茶会ね、それはやらない事にするわ。あの二人にも言っておくから」


 そうして、大川井さんは扉まで歩いていき、振り返って一言。


「じゃあね」


 今までに見た事の無い、無理して作ったような微笑を浮かべて彼女は文芸部室を後にした。


 もうこの室内に彼女は居ず、ローファーが廊下を蹴る音が小さく届くのみだ。


 何か……悪い事したのかな……? 明らかにいつもの大川井縹ではなかった。急に元気無くなったっていうか……少し、キレてた……? そんな風に思われた。


 今ならまだ、大川井さんを追い掛けて事の真相を確かめる事は出来る。僕の勝手な勘違いだったらそれで良いし、真実が分かって僕に否があれば謝ろう。

 もっとも、複雑な理由があるのやも知れないし、そもそも教えてはくれるとは限らない。

 しかし、いずれにしろ僕が彼女を追い掛ければ尋ねる事は出来た。


 だが、僕はただ、閉じられた扉を意味も無く眺めているだけだった。


 面倒臭いから。怖いから。そう、理由付けてしまえば心は楽だ。しかし、実際は恐らく違う。きっと本当は……いや、そういう訳でも無いのかもな……。




 結局その後もテスト勉強をしようとしたが、何だかその日は手に付かず諦めて帰宅する事にした。

 扉を施錠した鍵は鈍く光っていたが、ほぼ真っ暗な廊下ではその色ははっきりとは分からなかった。

 帰り道も雨は強くもならず弱くもならず、ただポツポツと灰色の水溜まりに波紋を広げている。

 最後までお読み下さりありがとうございます。

 いやぁテスト勉強って大変ですね。頑張っても頑張っても、結果になかなか結びつかない辺り、テストとは恐らく人生の縮図であり、社会に出る前の準備なのだと思いました。

 本編ですが、不穏な空気を満載してしまいました。自分は割と雨が好きですが、今回はそれと違う感じで頑張りました。どうでしょうか。


 グダグダですが次回(投稿されるとは言っていない)も読んで頂けたら嬉しいです。

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