第37話 久々の
こんにちは。
台風24号、とんでもなかったです。家が、揺れました。自分の家はすぐに復旧しましたが、静岡県全体では大規模な停電をしてるみたいです。断水してる地域もあるみたいです。一刻も早い復旧を願うばかりですね。
今日のお昼はいつも通りの渡り廊下ではなく、文芸部室だった。無理矢理文芸部に加入した身ではあるものの、これまでに二回しか来たことがないのはいかがなものだろう。とは言っても、これから来る予定もないし、来る気もない。まぁこういう風に呼び出しを食らったら行かざるを得ないのだろうが。
廊下の突き当たり横にある文芸部室に入ると、何だか随分と明るい場所のように感じられた。ガラス窓から差し込む日光は、床の木目を照らし、教室の天井や壁を柔らかい黄金色で美しく染め上げている。前の二日が夕方で少し暗かったというのもあるのだろうが、いやはや普通教室と大差ないどころか、少し、幻想的とも言えた。
昼間ってこんなもんなのかなと思い、取り敢えずここの主──大川井縹促されるまま着席する。
四ノ宮紅葉は初めての文芸部に感嘆(?)しフオォ……と、興奮と緊張とが混合したような声を発して教室内をキョロキョロと見回している。
一方、こちらも初めての由比藤紫苑は表情をあまり変化させない。つまんないのかしらん……?
大川井さんも着席して、結局四人が班の体形っぽく机を固める事となった。
布陣は、僕の左隣に大川井さん、正面に紅葉、一番遠い左斜め前に紫苑である。
……こうなってくると、ハーレム主人公に転職しよっかなぁ、などとろくでもないことを考えてしまう。……っていうか何でここ来た? 四人で飯食べましょうって、そんな空気じゃないと思うけど……。
大川井さんをちらりと横目で見ると、大川井さんも僕に目を合わせてきた。え、何? 「あいこんたくと」とかいうヤツですか? それともメデューサ? ちょっとよく分からなかったが僕は固まらずに目を逸らしちゃいました。羞恥心によって。
すると、大川井さんは唐突に口火を切る。
「ま、今日は二人のための部活動場所紹介も兼ねてるから、水野くんがそんなにビビる必要ないわよ」
「え、いや、ビビってないけど……」
何だこの人、急に僕がビビってるって。そ、そそそ、そんな訳、な、なな、なな、ないしぃ!?
……いやビビってないのは事実だ。しかし──
「僕要るの? これ」
要るか要らないかって言ったら要らないよなぁ。ほぼ幽霊部員みたいなもんだし。
大川井さんは眉を顰める。
「要るわよ。この部活に入った男のなれの果てとして」
「僕は落ちこぼれちゃったんだな……」
「何言ってんのよ。元々アンタが落ちて溢れるような器なんてないんだけど?」
「いやドヤ顔してるけど、大して上手いこと言ってない」
「口答えするようになったのね。アディダスのくせに」
「メーカー間違えないでくれる?」
何か頭の悪い会話だった。
げんなりしていると正面からクスリと笑う声がした。メディシンじゃないよ。
紅葉は口元を押さえて、にこにこ笑っていた。
「何だか、二人の話、面白いね」
……ウケていた。
「そうか……?」
「うん。『アディダス』……フフッ」
……ツボっていた。
僕が苦笑いしていると、紫苑がボソッと呟く。
「低レベルな……」
大川井さんはしっかりと聞いてしまったようで、開き直るように言う。
「そうね。低レベルだったわね。でも水野くんなんかと話してると自然にそうなるわよ」
「それが、あなたの程度ということでは?」
「それはどうも。お嬢様ベッタリなどこかの盲目さんと違って私は優秀だから、水野くんみたいなのに合わせて会話ができるのよ」
「そのような不貞極まりない表現は慎んで頂きたい。私はただの付き人です。それに水野君ごとき、誰だってその程度の会話など余裕綽々でこなせます。ですから低レベルだと、申し上げたまでです」
「ごめんね低レベルで……」
何でこの人っちが喧嘩すると、僕のことが出てくんのかなぁ……。何だか気が滅入ってしまう。
「まぁ、確かに程度の低さなら誰でも合わせられるかもね」
「肯定しちゃうのかぁ……」
僕が肩を落としていると、堪らなくなったらしい紅葉が声を上げる。
「もう、二人ともケンカ止めてよ」
「紅葉が仰るのなら止めましょう。しかし、これは喧嘩ではなく、一方的に振りかけられた戯れ言に応対していただけのことです」
紫苑は大川井さんを睨み付けたまま言う。政治家みたいな口振りだなぁと、密かに感心する。
対して大川井さんは──
「私も、喧嘩なんてしてた覚えないわね。ちょっと、うるあい小バエを殺そうとしてただけよ」
うへぇ……小バエって……。何だかこう、もっとおしとやかっていうか上品なものの言い方できないのかな。うるさかったから殺すとかこの人もう千人単位で人殺ししてるじゃん。
その言葉を聞いた紫苑はギラリと大川井さんを睨み、対する大川井さんも高圧的な態度で紫苑を見据える。
「何でしょうか?」
「そっちこそ、何なの?」
「私はただ、あなたという人間を憐れんでいただけですが。そちらは?」
「私はそんなことしかできないお子様さんを蔑んでいただけよ」
「よくもそんなに侮辱的な言葉がベラベラと出てきますね。一体どのような環境で育たれたのか。ご両親の教育方針は相当に歪んだものなのでしょうか?」
「歪んでるなんて失礼ね。……ウチの家訓は『我の振り見て、他人の振り直せ』よ」
すげぇ歪んでる! あなたのご両親、ぜひ見てみたいわ。
なんて思っても、火花が飛び散り、両者一歩も譲らない。睨み合ったままだ。
っていうか、ガチでこの場からドロンしたいんだが。何でこんな仲悪いんだろう。第一印象が悪かったのかなぁ……。
このチリチリと焦げるような、緊迫した空気を打ち破ったのは果たして、紅葉であった。
「二人とも、止めて」
珍しく、泣きそうになるでもなくピシャリと言って、両手で二人を制す。大層ご立腹のようだ。
二人は一瞬呆気に取られたようで、それはそれでバツが悪かったのかすごすごと身を引いた。というか、睨み合いを止めて互いにそっぽを向いてしまう。
いやぁ、二人とも素直じゃないなぁ……。
紅葉もそう考えたのか、二人の手を取って指切りげんまんの形を作って重ねる。器用だな……。
「仲直りしてね」
紅葉は満足といった様子で笑みを浮かべる。
……が、彼女は持ち前の天然というかうっかりというか、そんな感じのを遺憾なく発揮し、決定的なミスを犯していた。
「……紅葉」
「何? 紫苑ちゃん」
紅葉は、付き人の言葉の困惑に全く気付かず笑顔で問いを返す。
紫苑は苦笑いする。
「あの……手が逆です」
つまりは、紅葉は紫苑の左手と大川井さんの右手を取って──どちらも紅葉から近いため──重ねたのだ。しかし、勿論シェークハンドや指切りは相手と同じサイドの手、指を差し出す必要がある。今の場合、ただ指がかち合うだけなのである。さっきの二人のようにですね。
紅葉は暫く二人の重なった手を見て首を捻っていたが、やっと気が付き赤面する。
「あ、あわ……ご、ごめんなさい……」
すぼんでゆく声がする。
……さっきの格好良い姿が霞んでいくなぁ。やっぱ紅葉には格好良いは似合わない。
彼女の声を受けてか、大川井さんの大仰なため息が発せられる。そして、意外にも大川井さんは一言紅葉に言う。
「良いわよ別に。そんなのでいちいち謝らないで」
紅葉はビクつき「ご──」と口を開きかけるが、それを制したのは意外にも紫苑だった。よく考えてみて下さいと、言っているようだった。
紅葉も考えて、あっ……と、気づき、えっと……と、言葉を選択し口にする。
「ありがとう、縹ちゃん」
彼女はニコリと微笑んだ。
大川井さんはその言葉に、一瞬虚を衝かれたようだった。しかし、そこは流石に大川井さん、すぐにも立て直──
「べ、別に……そんなこと言われる覚えないわ……。こっちこそ、その、何か私も、一応アレ……だったし」
──せてなかったぁ! 全然なかったわ! やべぇよキャラズレが!
大川井さんは、紅葉から顔を背けた上でさらにほんのりと頬を赤く染めている。
うおぃ、自称可愛いさん、予想以上にデレが強いでござる……。
僕が本気で興奮していると、クスリと誰かの笑い声が漏れる。
「……何笑ってんのよ」
大川井さんが紫苑を睨むが……全くいつもの怖さがない。顔は上気し、唇はムズムズと動き、睨もうとしている目そのものが泳いでいた。全く以て恥ずかしさを隠せていないのである。
憎さ余って、可愛さ百倍ってか……。
もうこうなってくると恐ろしいなんて感想は微塵も出てこず、それどころかイジりたい衝動の方が強くなる。
紫苑も面白がってシラを切る。
「さぁ、何のことでしょうか……?」
「……ッ」
大川井さんは何か言いたげだったが、フンッとそっぽを向いてしまって「……何でもないわよっ」と、それだけ言う。
フ、素直じゃないですね……。
まぁこれにて一件落着かな。僕としては嬉しい限りだけど。多分、ニヤケが止まってねぇ……。ははッ。
今みたいに突っかかったり遠慮したり、言い争うことは、会って二日ならよく見られる光景だろう。この三人、性格がまるで極端なのだ。大川井さんと紫苑はいがみ合ってるし、大川井さんと紅葉は何か期待できる感じだし、紅葉と紫苑はベッタリと言っても良いほどの仲の良さなので、結局今後もこの人達の動向は気になるところではある。
僕が考えている中でも紅葉が仲介してツンツンさん二人に指切りをさせている。良いねぇそういうの。
どんなものが本物で、どんなものが本物じゃないかなんて僕には到底分かり得ない。
それでも、紅葉のように望むのならばそれを邪魔するのはきっと悪なのだろう。だから僕は彼女達を見届けたい。
失った三年間とかこの前の二週間とか、長さの話ではないが、もうこうして巻き込まれている以上少なからず僕もそれを見届ける義務、権利があるのではまいだろうか。身勝手で傲慢で、自分でも変態だと思っているが、こうやって端から見ていればそれで良い。
僕は恐らくこの場には必要ない。せいぜい口喧嘩の話題になるくらいだ。僕がいたところで、何もしないし、できないし、そもそもする気もまい。
彼女達が自ら結び付きを作れるのだから。
四月はまだ始まったばかり。日を重ねるごとに光が、暖かさが、強まっていく。
最後までお読み下さりありがとうございます。
何だか、いつの間にか初の感想が書かれていました。思わず四度見くらいしました、はい。本当にありがとうございます。これからも感想はバッチ来いな状態なので、書いて下さると嬉しいです。
※漸く自分が忙しい状況に居ると理解しました。
テストです。
次回はもう暫く先になりそうです。
もし、楽しみにして下さっている方がいらっしゃいましたら、ごめんなさい。寛大な心でお許し下さい。




