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面倒な僕を助けてくれ  作者: 柱蜂 機械
第二章 春休み編
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第17話 いざ、さらば[4]

 新幹線もうすぐ登場。乗りたいなぁ。金無いなぁ。


※新幹線関連でありますが、連日ニュースで取り上げられている事件。女性を庇い、容疑者に勇敢に立ち向かわれた男性のご冥福を、心よりお祈り致します。

 新静岡(しんしずおか)駅に直結する新静岡セノバは、様々な店舗が軒を連ねる商業施設だ。

 スーパー、服屋、雑貨屋、本屋、飲食店などがずらずらとあり、映画館もあってもうビックリ。

 外から見ても中から見ても、立派な新静岡駅の駅ビルである。

 JR静岡駅にもパルシェがあるが、どっちが便利? と訊かれたら、僕は多分新静岡と答えるだろう。理由は、まぁ言ったようにたくさん施設があるし、家からも静鉄で来やすいという感じだ。

 草薙(くさなぎ)駅(JR)って、僕んちから遠くて、静岡駅まで行きにくいんだよね。

 まぁそんな感じでセノバだった。


 新静岡から新幹線に乗るため、静岡まで少しばかり歩かねばならない。


 セノバを出ると、一度(ひとたび)都会に来たような気分になる。

 高いビルディングがそびえる街の空は狭く、心なしかその色も淡いのだ。


 平日だというのに人の出は多く、洒落乙な並木道を、仲良し女子や髪の毛を茶色にしちゃったチャラチャラ男たちがペチャクチャとおしゃべりしているのだかが闊歩していた。その他にも眉間に皺を寄せた背広姿のおっさんや買い物途中であろうスーパーの袋を引っ提げたおばちゃんもちらほら見かける。


 人は多くて、暖かいはずなのに、家を出た時とは打って変わってその光景には熱がないようだった。


 人が多い場所が嫌い、という訳ではない。

 人が多かれ少なかれ、自身のプライベートな環境ぐらい僕ならキープできるし、そこに侵入しようとする輩も僕にはいない。


 一人で鉄道に乗っている時なんかがそうだ。

 誰も、僕には干渉しない。


 ただ、人とは、自分と異なる行動をする人間が何とはなしに気になってしまうもので、僕がチョコチョコと乗務員室の前まで出ていくと、異様なものを見るような視線を感じる。被害妄想がすぎるだろうか……?

 ただ、あぁ……そういう人か……みたいなちょっぴり呆れや蔑みのあるような目や、何コイツ……? みたいな明らかに嫌がっているような目、子供かよ……みたいな嘲りを含んだ目で見られることが多いように感じる。


 確かにこの世のほとんどの人が、鉄道大好き! ではないので、自分が珍しい存在なのだろうなとは思う。しかし、なぜそんな風に人を見るのだろうか。単純に自らの好きなモノを見て、喜んで、好きなことをして、楽しんでいるだけなのだ。法律とかルールとかマナーとか、そういうものには引っ掛からないはずなのだ。

 

 しかし、人はそれを忌避し、異質なモノとして自らと区別しようとする。


 なぜか?


 それは、人は、周りと異なることを悪と見なすから。


 僕は、大人になると個性が死ぬと思っている。いや、もしかしたら中高生辺りから既にそうなのかも知れない。

 何となく社会へ出ると、周りの統一性に驚き、恐れ、順応しようとする。何だってそうだ。マニュアル通りにした方が仕事も、学習も、恋愛だって上手くいくかも知れない。

 なぜってそれは、マニュアルとは、先人が築き上げてきた最上の手法が詰め込まれた、()わば教科書だからである。

 教科書とは、全てを円滑に進めることができる魔法の書。

 時たま、個性だのどうのと言ってチャラッとイメチェンしちゃうのがいるけど、そのチェンジしたイメージとやらも先人の築いたイメージであるので、踏襲なのだと論破しておこう。


 結局は皆、マニュアルに操られるマリオネットである。

 ルールなんてのは、個性を縛るための拘束具だ。

 まぁ、皆が皆、自由気ままに個性で人を誘拐したり盗みを働いたりしたらたまったものじゃないし、人殺しなどあろうものなら治安は荒れ放題だ。

 それを止めさせるために、あれやこれやと統制する内に通り一遍の社会的存在になってしまったのだろうか。

 個性なるモノを廃絶し、ヘイトを浴びせ、教科書に従わぬ者を罰する殉教者に、僕もなってしまうのだろうか。


 でも、それがこの時代における生きる術だと言うのならそれも甘んじて受け入れよう。


 そして、皆それを知って生きている。

 夢を見て良いのは子供の時だけ。

 大人になってまで夢を見るな、語るな、周りと異なる存在になるなと周りの視線が、声を掛けてくる。


 だから、そういう状況によく似たこの場所は、何となく僕にとっては思い入れというのか、そういうものがないのかも知れない。


 一時黙って歩いていると、セーターの袖をぐいと引っ張られる。

 何だと思って振り返って見ると、体操ご立腹な様子の(そら)が僕を見上げている。


「どしたの?」

「お兄、歩くの速すぎ……。お姉ちゃん死んじゃう」


 ほぅ。僕の歩きによって姉が死ぬとな。中々面白い設定を言うじゃないか。

 姉と弟の間にあったのは、歩行スピードによって最大一万のエネルギーを使うことができる両刃(もろは)の剣! ダメじゃん! ──つまり何が言いたいかと言うと、馬鹿大きなエネルギーが使えるけど、その分体力減って死ぬよってこと。


 後方を見ると、人込みの中をよたよたと歩く老婆の姿が。今にも転倒してしまいそうだ。

 大変! 葬儀の準備しなきゃ! 最近火葬場が全然空いてないって言うし。


 まぁ老婆じゃなくて、(うみ)なんだが。


「は、はやいぃ~……」


 姉はこちらを認めると、手をぷるぷると震わせて、伸ばす。声も掠れて聞き取りにくい。


 ってか何なんだアンタは。吸血鬼か。日光を浴びると灰になってしまうのか。

 それほどに、家に引きこもっていたらしい。


 そして、倒れそうな所にすかさず妹が肩を入れて支える。うん、もう死んだ方が良いんじゃないの?




 そんな調子で歩きながら、地下道から地上の静岡駅コンコースに進入する。

 

 静岡駅は、東海道(とうかいどう)本線と東海道新幹線の二路線が乗り入れる高架駅だ。

 路線こそこれだけだが静岡県の中心駅として立派に、JR東海管内の駅では、一日平均乗降客数は名古屋(なごや)東京(とうきょう)新大阪(しんおおさか)金山(かなやま)に次いで第五位である。

 駅ビルもあって、コンコースは広いし、なにより地方にしては列車の本数が多い。東海道線は上下線とも一時間に六本、新幹線は三本だ。


 コンコースは駅の下を北と南にぶち抜くようにできていて、東側に券売機、改札、西側にASTYとかいう店舗が幾つか入っている施設がある。

 

 僕はこのコンコースが結構好きで、ツルツルした鏡のような四角柱が何本も等間隔で地面から生えているのを見ると、ふおぉ……となる。……うん分かんないな。


 やはりここでも人の出は多く、特に会社勤めの人が目立つなと思う。

 (せわ)しない雑踏はそれだけで、切迫感のある嫌な音たちを紡ぎ出す。

 嫌だなぁと思い、視線を下に落としたくなる。

 しかし、下を向いていて人にぶつかってギロリと睨まれる、なんて事にならないようにしっかり前見なきゃ! そう、上を向いてもダメ。涙こぼれるけど。


 つたつたと正方形のタイルを踏み、全線きっぷを売っているガラス張りの空間に入ろうとすると、呼び止められる。


「お兄、何やってんの……?」


 後ろから追っかけてきたらしい空が、半ば引きずるようにして姉の肩を支えていた。大丈夫かなぁ……この人。


「入場券買うんだよ」

「ニュージョーケン?」


 NEWジョー拳かな? 強そうだね。


 冗談はともかく、中々聞き慣れないもんか。


「ホームに行けるヤツだよ。姉ちゃん、見送るんだろ?」

「あ、うん。あっ……そうか、入場券か……」


 空が納得したようにふんふんと頷く。NEWジョー拳、格好良いなぁ……。

 

 しかし、僕と空、二人分を購入するだけなので、わざわざ三人で行く必要もなかろう。


「僕、買ってくるから。空はちょっと、姉ちゃんと待ってな」


 僕が言うと、空はりょーかーいと返事する。うわぁ、何でそういう素っ気ない態度も可愛いんだか。入場券余分に百万枚くらい買っちゃいそうだぞ。うっわ、そんなことしたら二千八百万円!


 しかし、空は返事をした後、はっと何かに気づいたように表情を固くする。え、何? メロメロ甘風? く、僕は妹の可愛さにメロメロだぜ! 可愛さ余って可愛さ百倍!


「……どした?」


 それでも心配だったので、僕が恐る恐る尋ねると、空はビクッと肩を震わせる。何だか怖いものを感じている、そんな様子だ。視線は明後日の方角を向き、何を見るでもない。え、何? マジでどうしたの? 笑いごとじゃなくて……。


 空はギコギコと音が鳴りそうなくらいのロボットのような首の回し方をして、支えている海の耳に口を近付ける。そして、何かを、ごしょごしょと冷や汗を垂らして囁く。


 すると、海もカッ! と目を見開き、ブルブルと震え出す。ちょ……元気だなぁ……!? さっきまでのは何だったの? ってかこれ何? 病気? 震えずには居られない病なの? 魔女教大罪司教「怠惰」担当さまなの?


「え、二人とも、何? ホントに大丈夫? 具合、悪いの?」


 聞いてみても、答えない。なのに──「マジ……?」「マジ」「マジか……」「マジだよ」と、訳の分からんマジマジ会話を繰り広げている。

 マジマジ言いすぎで、まじまじ見てる僕がマジ卍。


 次第にマジの声は小さくなり、代わりに彼女らの瞳に火が灯る。ぐわーっと、沸き立つような満面の笑みを浮かべる。


「お兄」

「は、はい」


 空が興奮した様子──と言っても生まれつきの吊り目の所為で、初対面の人間は怒っていると思うだろう──で、呼び掛けるので思わずたじろぐ。空はそのまま怒涛の勢いで僕を圧倒する。


「ちょっと、飲み物買ってくる」

「……は?」

()()()、飲み物買ってくる! じゃあ」

「……え?」

「右に同じ! いざ、さらば!」

「……あ、え? ちょっ……と…………」


 空と海は猛ダッシュ──は流石に場所的な問題でしなかったが、それでも機嫌良さげにスキップでもしようかというテンションで、ニコニコしながら遠ざかっていった。


 僕はポツーンと、アホ主人公みたいな間抜けな様相で、その場に取り残されてしまった。


 何か「飲み物」って強調されたけど、二人が行った方向って一番近い、すぐそこの駅内のベルマートと反対方向なんだよなぁ。

 何なのかなぁあの二人は。ホント、どうしちゃったんだか。

 二人が向かったのはASTY静岡の方。土産物屋とか飲食店がある場所だ。

 ホントに飲み物だったら、ベルマートで買えるんですけどどういう事ですかね。小腹が空いた……? 結局ベルマートで良いし、改札の中にもスタバあるんだけどなぁ。アパートの大家さんへの土産を忘れた? いや、もうリュックに入ってるって。


 何で嘘つくのかしらと首を捻っていると、後方からゴホンと咳き込む音が聞こえる。

 うわぁおっさんっぽいなぁと思って振り返って見ると、案の定おっさんが僕のことをギロリと睨んでいる。く、スキンヘッドが、眩しいぜ! と思っていると、再度咳払い。


 そうされてようやく、自分がどこに立っているのかに気が付く。

 そうだよな、ここ出入口だもんなきっぷ売り場の。


 あはは、邪魔になってたのかなあはは。

 ごめんなさいマジですみませんでした。


 申し訳なく思い、そそくさと入場し、券売機列に並ぶ。


 あぁ、怖かった……。

 最後までお読み下さりありがとうございます。

 いやぁ書く事無いなぁ。

 また静岡市でマックスコーヒー売ってる店を見つけてしまった。実はアレ、ご当地商品じゃないんじゃない?

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