第8話 オッサン、手本を見せる。
「――何か、来る?」
「コルリ、この距離で気づいたか。腕を上げたなぁ」
ヤイロは、皆とサンドイッチを食べていた。ノスリがアイテムボックスから出したサンドイッチは、冒険者ギルドの食堂で売られているものだ。
出来立てのように美味しいそれを食べていたら、ふとコルリが呟いて、ノスリが答えていた。
「え。なんだなんだ?」
「どうしたの、皆?」
イスカもヤイロも、意味が分からなくて問い返した。コルリだけは、何かを察知して身を固くしている。
なのに、ノスリだけはパクリとサンドイッチを食べきって笑っていた。
「ゆっくり食べてて良いぞ。粗末にしたら、もったいないからな」
「え? え?」
ヤイロには、事態がよく分からない。その後、男の声が聞こえ、奥から人が出てきたのを見ても、冒険者とブッキングしたくらいにしか思っていなかった。
――怖い。
その後の目まぐるしい展開は、完全に置いてきぼりだった。スキルが上手く扱えなくて向けられた人の視線とはまた別の、まるでモンスターでも相手にしているような心地だった。
――先生は、どうしていつもと変わらないの? 平気、なの……?
サンドイッチなんて食べてる余裕はなくて、固まって動けなかった。ただ、ノスリの大きな背中をじっと見つめていた。
◇◆◇◆◇◆◇
「おい。お前ら、合わせろ!」
「えぇ、変なスキルを使わせなければ良いのよ!」
男が隣の女と後ろの男に声を掛ける。二人はそれに同意して、構えた。男は剣を、女は拳を、後ろの男はロングスタッフを。
――無傷で送りつけたら、煩いんだよなぁ、アイツ。
このまま部屋へ通過させられれば、楽なのに出来ない理由はその後の小言が面倒だった、の一言に尽きる。
「イスカ、コルリ、ヤイロ、こっちに攻撃は一切来させないから、少しだけ離れるな?」
チラリと目だけ振り返れば、恐怖を顔に張りつけたヤイロと目があった。
安心するようにと目元を和ませてみたが、これを機に冒険者を辞めてしまうかもと、ノスリの胸に哀愁が一瞬過った。
「《アクアスプレッド》!」
「ノスリ!」
コルリの焦った声が聞こえた。ザバッと現れた水の波に、身の危険を感じたのだろう。
「言っただろ? 来させないって」
ノスリは落ち着き払ったまま、その激流を一滴残らず収納した。
「はぁ――? 魔法、を!?」
「返すぞ」
魔法を放った男の眼前に、再び激流を出現させる。男はそのまま水に呑まれ、奥の通路まで押し流された。気絶したところを、部屋へと通過させる。
「怯むな、まだ俺たちで――!」
「こんなの反則、よぉ!!」
向かってきた男と女、ノスリも子どもたちから離れて二人へと距離を詰める。
「どんなに強いスキルでも、どれほど弱いスキルだったとしても、扱う人間次第だ」
最初にぶつかる壁、とも言える。その葛藤は、スキルに依存した世界ならではだろう。
――何が反則だ。剣術スキル持ちに、本当に剣では勝てないのか。
そんなことはない。前世、最初から出来る天才もいれば、並々ならぬ努力で成功を修める者もいる。
「この、ぉ……お!!」
ノスリは手元に剣を出して掴むと、迫り来る男の剣と打ち合う。ギリッと、その力は拮抗した。
「先生っ!?」
「そこ!」
ヤイロが悲鳴を上げる。女が、ノスリの脇腹を狙って拳を突き出していた。
「――いや、隙だらけだ」
剣を持つ力を緩めていなし、僅かに手元を狂わせた男の胸ぐらを掴むと、女に向かってノスリは背負い投げる。手放した剣は、収納で回収済みだ。
「きゃあ!?」
「ぐっ」
もつれるように倒れ込んだ二人の頭上に、今度は白い粉をばら蒔く。
「麻痺茸のパウダー。ちょっとしばらく痺れるぜ、俺のお手製だ」
声すらも上げられなくなった男女を一人ずつ、部屋へと送りつけた。
「オッサン風情が、何を、偉そうな講釈を――っ!!」
地面に転がっていた男が砂を掻いて、立ち上がる。荒い息を吐いて、ギラギラと殺意を燃やしていた。
「そんな怖い顔向けるなって、子どもが居るんだぞ。それにな? 出し入れするにも、緩急だってつけられる」
ノスリは男を囲うように、長剣を幾つも出現させ投下すると地に縫い止めた。
「――っ!?」
「……ああ、あったあった。カルシウム不足なお前には、電気治療だ」
頭の中でカタログを広げるように、ノスリは目当てのものを見つけて朗らかに笑った。
そうして出したのは見た目には激しく、バチバチと音を鳴らしている電撃。
「ガァ、ッ!!」
バチッと一際大きく光が爆ぜ、男は感電すると白煙を上げながら地面に倒れた。ノスリは造作もなく、収納で通過させた。順番に送りつけたのだから、じきに回収もされるだろう。
「……雷、魔法?」
「おう、コルリよく分かったなぁ。昔、拝借したままだったんだよ」
「オジサン、強……」
「いやいや、そうでもないぞ。ここ数日、君たちが立派に戦えてたお陰で、この空間を隅々まで把握出来たから成せたことだ」
「え?」
「任意の場所に自由に出し入れが出来る。ただな、万能じゃなくて、任意の場所ってのが癖だ。適当にしたら地面や壁にめり込んだり、潰れたりするからな。スキルが難しいっていうのはヤイロなら分かるだろ?」
子どもたちの前にしゃがんで、ノスリは安心させるように笑うと手を伸ばして抱きしめた。
「悪いな、怖がらせて。ただ、これが冒険者だ。討伐して輝かしい世界もあれば、ああ言った輩や、後ろ暗いこともある世界なんだ」
「いや、ノスリさんのせいでは……」
「……、それと悪いが事情聴取にも応じてくれるか? 今回のこと、証人になってほしい」
子どもたちの震えが止まるまで、ノスリはただ抱きしめる。巻き込んだのは、他でもないノスリ自身だったからだ。




