第7話 オッサン、襲われる。
「そう言えばさぁ、今日も依頼残ってたよな?」
「ん、ああ。ここ最近ずっとそうだね」
三層の見通しがよく拓けた場所で皆で休憩がてら腰を下ろす。昼食のサンドイッチをかぶりつきながら、イスカが思い出したように呟いた。それにコルリが同意する。
「まぁ、朝から押し掛ける人数も減ったからな」
「そうなの? なんで、先生そんなこと知ってるの?」
「待ち合わせがギルドだからなぁ。朝から眺めてたら目に入るんだよ」
朝イチは、中堅ランクの冒険者たちが依頼の争奪戦をする。その後が新人、低ランク冒険者たちの争奪戦、だがその数が明らかに減っていっていた。
――ランクアップして、狙いが変わったとかなら良かったんだけどな。
そう思いながら違うことを、ノスリは知っている。姿自体を見かけなくなったからだ。
拠点を変えた可能性もあるにはあるが、全てではないだろう。その証拠に――。
「――何か、来る?」
「コルリ、この距離で気づいたか。腕を上げたなぁ」
「え。なんだなんだ?」
「どうしたの、皆?」
残ったサンドイッチを口へ放り込み、ノスリは立ち上がった。気配のする方へ、子どもたちを庇うようにゆっくりと立った。
「ノスリさん?」
「ゆっくり食べてて良いぞ。粗末にしたら、もったいないからな」
「え? え?」
にっと笑ってノスリが伸びをすれば、ボキボキと背骨がなった。短時間でも身体が固くなっていけない。
「おいおい、オッサンが前に立ってるぜ?」
「まさかアレで守ってるつもりかよ?」
「……偶然を装うことも、油断させることもしないか。まあ、舐めてかかってるよな。新人キラーってのはホントに、救いようがないねぇ?」
現れたのは、男が四人に女が一人。その五人組のうち一人の男がロングスタッフを持っていた。後の四人は軽装だ。
卑下た声を出したのは、先頭を歩く男二人だ。ノスリはそれに、ただ、ため息を吐いた。
「あらぁ、オジサマ。私たちのこと知ってるの?」
「ガキなんかに寄生してないでよ、俺たちとつるまねぇか? アイテムボックス持ってんだってな?」
「君らこそ、まだ若そうだ。ここらで更生したらどうだ? 上に掛け合ってあげても良いんだぞ」
豊満な胸をこれ見よがしにはだけた衣装に身を包んだ女が、くねりと腰を揺らした。
その隣の男が女を抱いて、ナイフをちらつかせて提案してくる。
――子どもの前で、教育によろしくないだろ。
ノスリはそれに頭痛を覚えて、ただ一度だけ問い返す。おずおずとした様子で、後ろからコルリが服を引っ張った。
「ノスリ、さん……」
「ああ、大丈夫だ。これは大人の仕事だからな。任せろ」
「かっこつけやがって、なら、身体に教え込んでやるよ。身ぐるみ剥がしてやっからよぉ!!」
「いやいや、オッサン相手になに言ってんの」
前の男が剣を抜いて、ノスリたちへと距離を詰めてくる。後ろで子どもたちの息を呑む気配を感じながら、ノスリは笑って落ち着いたものだった。
「――っ!?」
「バカ真面目に相手するわけ無いだろ」
「あっ、ぁぁぁぁぁぁあ!?」
バッと赤いモノが一瞬で現れ、男の頭に覆うようにまとわりつく。悲鳴を上げて、地面に倒れた男がのたうち回った。
「な、何しやがった! 後ろのガキかぁ!?」
「――ひっ!?」
ヤイロに殺気を飛ばした男が怒声を上げ、後ろでヤイロが身を竦ませる。それにピクリと、ノスリは反応した。
「ぐっ、あぁぁぁぁ!?」
同時に、その男も赤く包まれ、絶叫と共に地面に倒れる。手で顔をかきむしるように、目を真っ赤にして涙を流す。
「ひっどいなぁ。君らと違ってこの子たちが、人を攻撃するはずないだろ? それにそれは、ただのとうがらしパウダーだよ」
「と、とうがらし?」
「あれ? 彼女知らないの? 痴漢撃退グッズで有名だろ。とうがらしパウダーとか、スプレーってさ。んで、かなり痛いらしいな、これ」
「は――???」
名指しした女性は、呆気に取られている。ノスリは人の良さそうな笑みを向けて、彼らに見えるよう空間から瓶を手で取り出した。
空中に放り投げたその中には、赤い粉が入っている。宙に浮き、落下を始めた瓶は、何もない空間に音もなく消えた。
「アイテムボックス、なんだろ? オレのスキルはさ?」
「ゲホッ! ふ、ざけんなぁぁあ!!」
最初に倒れた男が、鼻水に涎を垂れ流し、立ち上がる。そのまま剣を持って、襲いかかってきた。ノスリはそれに臆することなく、静かに地面を見つめた。
「任意の場所で、自由にモノの出し入れが出来る――それが、スキル【収納】」
地面の上、男の足が着地する場所へタイミングを合わせ――短剣の刃を出現させる。
「あ、ぁぁぁあ!!」
踏み込んだ足にぐさりと短剣が刺さり、男は今度こそ地面にのたうち回ったまま起き上がれない。動けば動くほど、地面に血が飛び散った。
「さて、先ずは一人、だな」
首をこきりと横に鳴らして、ノスリは呟いた。短剣が刺さった男を、【収納】が飲み込んだ。
「は……、え? 消え、て……?」
女の隣で笑っていた男が茫然と、指を指して呟いた。女も、その後ろのロングスタッフを持つ男も言葉を失っている。
「おま……、アイテム……ボックス、だろ?」
「ああ、【収納】には時間停止機能がある。だから、ストレージに生き物は入らない。ただ、通過させることなら可能だ。エラーを起こし弾き出される先を選ぶことも、な」
男は、なおも信じられないといった様子だ。だからこそ、冒険者として成功出来なかったのだろう。諦めた者に、スキルの可能性は開けない。
――転生して、スキルに目覚めた俺が極めた道がこれだった。
「安心しろよ、生きてるから。送った場所は、ギルドのとある一室だ。情操教育に良くないことを、子どもの前でする気は無いんでね」




