第6話 オッサン、昔を語る。
「あぁ! また炭になっちゃった」
プスプスと白煙を上げるゴルフボールサイズの黒い球体。かつてスライムの核だったもの。
それを見たヤイロが杖を握りしめて、悔しげに声を上げた。
「まぁ、ロングスタッフに新調したし、そんなものだよ。扱いに慣れてから、核の周りだけ燃やせるように調整したらいいからね」
「はい!」
スライムをヤイロが担当し、イスカとコルリが他のモンスターを討伐する。一層では役割を分担することを念頭に、慣れてから二層に降りてきた。
――俺、ホントに初日以外、口しか出してないんだけど。
端から見たら、この光景はどんな風に見えるのだろうか。ふとそんな疑問が沸いてくる。我ながら、それは絶対に情けない姿ではないだろうか。
「はぁ……。そろそろだと思うんだけどな」
雑念を抱くのを申し訳なく思いながら、ノスリは三人を眺めた。
継続は力なり、基礎固めに専念した子どもたちに、最初のような危なげな初々しさはもう見られない。
「へっへっ! お前の動きはもう見切ったぜ!」
牙を剥いて飛んできたラットの身体を、剣で斬ったイスカは笑っている。
その背を狙ったもう一体のラットにも、剣を振った勢いをそのまま生かし、斬り上げて対応していた。
「身軽さを利用した回転斬りか、様になってるな」
ラットも軽くて小さいモンスターだ。重さが剣に乗らずとも、ちょうどいいのだろう。
「きゃあ! こっちに飛ばさないでよ!」
斬られた二体目のラットが、血を撒き散らしながらヤイロの近くへ転がる。
悲鳴を上げた彼女には、以前と違い抗議の声を上げる余裕があった。
「――っ」
そんな動きの激しい二人から離れて、コルリは音を立てず、イスカを狙っていたゴブリンの背後を取って喉元を斬り裂いた。
吹き出た緑の血を浴びることなく距離を取り、剣の血を払って、淡々と戦況を見つめている。
「低層のモンスターなら、もう大丈夫そうだなぁ」
それを眺め、ノスリは安心したように口許に笑みを浮かべて呟いた。
◇◆◇◆◇◆◇
「買取をお願いします」
コルリが素材買取の受付で声をかける。近くにいた職員がカウンターにやって来て対応してくれた。
「この量を、君たちが……?」
「なんだよ。オレたちが不正したとでも?」
「ちゃんと倒しました!」
カウンターの上に並べられた素材の多さを訝しんだ職員へ、イスカとヤイロが潔白を主張した。
反論されて見るからに嫌そうな顔を浮かべた職員に、イスカはさらに口を開こうとする。
「はいはい。落ち着いて、落ち着いて」
その言い方は互いに口論になると、ノスリは早々に間に入る。日に日に腕を上げる彼らは、討伐出来る数も増えている。結果、素材の数も増えるのは自然なことだ。
――揉めたら、取引が面倒だからな。
ノスリは、倒したモンスターの解体に関しても口は出すが、手は出していない。
彼らが持ってきた素材をひょいひょいとアイテムボックスに入れるだけの役割を忠実に守っていた。
「君は、彼らを担当するのが初めてだね。俺がアイテムボックス持ちなんだよ。ここ数日の買取記録を確認してもらえれば、不正をして無いことは明らかだと思う。子ども相手だからって、不誠実に扱わないでくれないかな」
「はぁ……。ここに代表者の名前を記入して……、査定には少しお時間いただきますから」
大した額にもならない低層のモンスター、その大量の素材買取の作業が、この職員は嫌なのかもしれない。
――仕事は仕事で割りきれよな。不正もしてない真っ当な取引相手に、オンオフ大事だろ、組織人ならさ。
「ああ、よろしく頼むよ。ほらイスカたちも、待ち時間は掲示板でも見に行こう」
ノスリは愚痴を飲み込んで、賑やかに職員へお願いをする。そのまま、納得のいっていないイスカたちを連れてその場を離れた。
「納得いかねぇ! あぁ、腹立つ!」
「まぁまぁ。その怒りは、モンスターにぶつけたら良いからさ」
「……ノスリさんは、怒らないですよね」
「そりゃあ、これだけ生きてたら、理不尽の一つや二つきりがねぇからな。ただ……」
ノスリの前世も合わせれば、かなりいい歳だ。ヘコヘコと頭を下げるのには慣れきってしまっていた。
「俺だって人の子だからなぁ、何も感じないわけじゃあない。イスカみたいに腹が立てばムカつくし、ヤイロみたいに出来ないことで泣いたこともあるぞ。コルリみたいに無茶をしたこともな?」
「えぇ! ノスリのオジサンが!?」
「おいおい、イスカ。俺だってガキの時代はあるんだぞ……」
オーバーな反応に、ノスリは自虐ネタが効いたと笑って返す。
「ちょっと信じられない……、泣いた?」
「ああ、みっともなく泣いたな。周りが呆れるくらい」
物言いたげなコルリとヤイロの疑いと一歩後ろへ引く眼差しには、心がグサッと刺さるものがあった。
――あぁ……。墓穴を掘りすぎたかもしれねぇ。




