第5話 オッサン、提案する。
「あれ、今日依頼が結構残ってる。珍しい」
「え、受けられそうなものあるか?」
ノスリたちはいつものように、冒険者ギルドで待ち合わせをして集まった。
ヤイロが嬉しそうに声を上げ、掲示板を見つめている。生活費のために、常設されてるダンジョンのクエストを受けてから向かうことが日課だった。
「ノスリさん、オレたちが受けられそうなのはありますか?」
「え、そうだなぁ。依頼か……」
コルリがノスリに訊ねてくる。ギルド常設のクエストと違い、依頼は依頼人が居て、期日が設けられていたり、失敗すると違約金などペナルティがあるからだ。
――慎重なのは良いことだな。
パーティーを組んで基礎を鍛えている彼らは、今も夜営をしない。冒険者ギルド併設の格安の宿舎で暮らし、生活費と余剰を少し稼いだら帰る。
子どもとは思えないほど、質素倹約だった。村を出たばかりの頃に、かなり苦労したのだろう。
「コボルトの牙素材は、五層からのモンスターだから除外だなぁ。飛行系も相性が悪いから除外。ダンジョン内の鉱石採取と……、あ、これはオススメだな」
「なに?」
「スライムの核、納品……?」
「通常、物理攻撃だとスライムは核を壊さないといけない。そうすると素材としては価値がなくなるのは知ってるかな?
核が欲しい場合は、周りの粘体部分から核を引き剥がせれば、素材として持ち帰れるんだ」
理屈は分からないが、おそらく核全体が空気に晒されることで死ぬのだろうと、ノスリは当たりをつけていた。
「物理って剣はダメなんだろ? じゃあ――」
「――あ! 私の【火炎魔法】!」
「そういうこと。ヤイロの火炎で核を破壊せずに周りだけを燃やす。次の訓練としても、ちょうどいい」
イスカはピンと来ず首を捻っていたが、ヤイロが気づいて声を上げる。
三人でも改めて話し合ったようで、今日はこの依頼を受けてみることになった。
「あら。貴方たち、またダンジョンに潜るの? 無茶しないでよ?」
「なんだよ、ノスリのオジサンが居るからいいだろ?」
「……はは、どうも」
受付に持っていくのを数歩離れて見ていたら、イスカの大きな声がノスリの名を呼んだ。気恥ずかしさから、ノスリは笑ってペコリと頭を下げる。
「これは特に今、若手の皆に言ってることだけど、無謀なことはダメよ。たとえベテランがついてたとしてもね?」
「分かってるよ!」
困り顔の受付嬢から依頼受注の控えを貰い、ギルドを後にする。ノスリは三人の後ろを歩きながら、声をかけた。
「イスカ、コルリ、ヤイロ、提案なんだが、そろそろ一度、武器のメンテナンスと新調を考え始めた方がいい」
「え、でも、武器は高いから……」
「オレの剣も大丈夫だぞ?」
「ああ、二人のメンテナンスは順番にしてもいい。けど、ヤイロはいつまでもその杖ではダメだ」
隠し杖を使うヤイロに、以前ノスリは理由を訊ねた。魔法を使えない魔法使いであることを周囲から隠すためだと、彼女は言っていたのだ。
「前もそうだったけど、これはそんなにいけないの?」
「れっきとした武器として、武器屋で売られてるわけだから悪いことではないよ。ただ、ヤイロのスキルとは相性が悪い。いずれ火力に耐えられなくなるからね。
どうしても隠し杖のサイズが良いなら、それなりに値の張るものにしないと弱いんだ」
「もう隠す必要もないし、ロングスタッフの方がいいと言うことですか」
「ああ、コルリ。そういうことだね」
ロングスタッフはサイズが大きい分、価格が低かろうが性能が安定するのだ。同じ値段で隠し杖のショートスタッフとロングスタッフを比べるなら、ロングスタッフの方が戦闘向きなのである。
――まぁ、武器職人でも無いから、詳しくは聞き流してたけど。
いくら専門的なことを熱心に語られても、魔法が使えないノスリには理解が出来ないのだった。
「ロングスタッフなら、最悪鈍器にもなるしな!」
「え、やだ」
手で架空の杖を握ったらしいイスカは、振り下ろす動作をする。ヤイロは、それに嫌そうに顔を歪ませて引いていた。
「まぁまぁ、スライムの核納品は期限もゆとりがあったし、せっかくだから武器屋を覗いてから行かないか? この街には一件、オススメがあるんだ」
「行く!」
「賛成!」
武器屋の単語に目を輝かせたイスカは、まさに少年らしい。ヤイロも杖のある服を擦って答えていた。
◇◆◇◆◇◆◇
人通りの多い通りから、一本外れ、街の外壁沿いに歩いたところに一件の建物がある。
中からカーン、カーンと規則正しい音が響いていて、煙突から煙がもくもくと上がっていた。
「――おう、旦那か」
「あぁ、久しぶりだな」
中へと入ると、ベルがカランカランと音を立てた。イスカは立て掛けられた剣を見に行き、コルリとヤイロはノスリの後ろを歩きキョロキョロと辺りを見渡していた。
奥からずんぐりとした髭に覆われた店主の男が出てきて、ノスリたちに声をかけてくる。
「なんだ、メンテナンスか?」
「いや、今日はこの子の杖を探してる。オススメはある?」
「ど、どうも……」
ノスリが、後ろに隠れたヤイロを紹介する。明らかに驚いてしどろもどろしているヤイロに、店主の男は気を害した風もなく上から下まで眺めた。
「えらく小さいな。あまり長いと、持つのも大変か。すでにショート使ってるなら、ショートか?」
「いや、上位スキルなんだ。第一に耐久と安定感がいる。早めにロングに慣れさせておきたい」
「ああ、安もんじゃ爆ぜるわな。待ってろ」
「あのノスリさん。オレたち、そんなにお金はまだ……」
すごすごと奥の作業場へ消えていった店主の姿を見送りながら、コルリが恐る恐る話しかけてきた。
「ああ、ここはいいよ。ヤイロに師がいなかったことへの俺なりのケジメだから」
「でも……」
「じゃあ、出世払い。君たちが一人前になって金払いの余裕が出来た時、うまい飯と酒をこのオッサンに奢ってくれ。それなら良いだろ?」
一人飯は味気ない。将来有望な子達と再び出会い、酒を汲み交わす。そんな未来を楽しみにするのは、悪いことではないだろう。
「ズルいです。そんな言い方……」
「はは、独り身のオッサンだからな。若い子から元気を貰えるなら、金には換えられない格別の褒美だな」
「ガキなんだからよぉ。顔立てて使わせてやれやぁ。金の使い方に困ってるような男だ、ロングスタッフで空になる財布でもねぇ」
「いや、レジェンドやゴッズの買い取りなら足りないぞ、多分……」
奥から店主の男が戻ってきて、カラカラと笑う。ノスリの財布事情など勝手に計らないで欲しい。
「ルーキーにそんな最上級を渡すかよ。武器に驕りが出ちゃいけねぇ。身の丈に合わせたもんが一番成長に繋がるんだからな、知ってるだろうが」
「じゃあ、それが?」
「おう。耐久良し、威力補正無し、頑丈だから長持ちするわな。殴っても折れねぇぜ」
「殴らないから!!」
持ち手が青く、ヤイロの身長の半分以上はある長い柄だ。上部には拳大の琥珀色をした玉が固定されている。
と、それまで後ろで隠れていたヤイロが、わっと叫んだ。




