第2話 オッサン、荷物持ちをする。
「全員のギルド証の提示を――」
「あぁ、はいはい」
ノスリを始め、子どもたちが首から下げた冒険者証のネームタグをダンジョンの入口に立つ男へ見せる。
「確認取れました。無茶のないよう、お気をつけて」
「おう、ご苦労さん」
丁寧に返してきた男へ、ノスリはヘラリと笑って応え、服の中へ入れる。
子どもたちもそれぞれ、しっかりと衣服の中へ仕舞っていた。
「はぁ……。冒険者ランクは一つしか違わないのに、やっぱり大人ってずりぃなぁ」
「仕方ないよ。俺たちにはまだ実績も無いし、見た目で侮られるから」
「いや、この歳でEランクって逆にやばくないかな」
「ヤイロ、荷物運びは実績を積みにくいんだよ。世知辛いとこつかないで……」
ダンジョンの入口から中へと進みながら、子どもたちは感心していた。
ただ、持ち上げたところで落とされると、正論なだけにノスリにグサリと来る。
普通のクエスト、依頼を受けていれば、Dランクまでは普通に上がれるからだ。
「でも、受付でもすんなり受注出来たし、一つ上のEランクって言っても、ノスリのオジサンはやっぱり信頼を積み重ねてるんだよ。下なりに」
「俺らだと、大丈夫か? って再三聞かれて進まねぇもんなぁ! 深層降りるわけでもないのに、納得いかねぇ!」
「コルリ、ノスリでいいよ。敬うほどの者でもないしねぇ。戦闘中も、そんな悠長に呼んでられないだろう?」
「ノスリは戦闘しないでしょう。後ろに居てくれたら良いですよ。前に出ないで絶対」
「手厳しいなぁ。まぁ年長者らしく言うなら、なんでわざわざダンジョンなんだ? クエストなら街の外でも十分だろう? そうすれば、受付でも、入口でも聞かれることはない」
街の外にもモンスターは居るし、Fランクでも受けれるクエストも多種多様だ。
ダンジョンは入口まではタグを目視するだけの簡易チェックがあるが、その後は無い。
――実力以上に深層へ進めば、簡単に命が散る。
ノスリからすれば、周りの大人が止める気持ちも分からないでもないのだ。
「……じゃない」
「ん?」
「……街の外だと、人に当てるかもしれないからですよ。ダンジョンには、ヤイロの魔法の練習が目的なんです」
口ごもって聞こえないかったヤイロの言葉を、コルリが引き継いで説明してくれた。
「そうそう。ここならブッパしても、人への心配要らねぇだろ?」
「なるほど、ヤイロは強いんだ?」
――だから、オッサンの俺が必要だったと。
あっけらかんと言ったのは、イスカだ。
おそらく彼らの目的として荷物持ちは、二の次だったのだろう。その証拠に、子どもたちから預けられたのは、昼食やポーションと言ったちょっとしたもので形ばかりだった。
――深くは潜らないと言ったから野営準備もないし、おそらくドロップ品も大したことはないからな。
「幾らスキルが強くても、ちゃんと使えなきゃ意味ないです」
「いいや、そうでもないよ。スキルに胡座をかかず、堅実に行くのはとても良いことだ」
「オッサンのアイテムボックスみたいにか?」
「あはは、身の程を知っていることが、冒険者として長くやる秘訣なのは確かだなぁ」
ツンツンとしたヤイロは、ちょっと気が張っているようだ。ノスリとしては、もう少し気楽に構えた方がいいのにとお節介に思ってしまう。
「ノスリこそ、荷物持ち専業としてどこかの専属とかでやっていけそうなのに、なんでフリーなんかしてるんですか?」
「いやいや、もういい歳してるからなぁ。固定パーティーじゃあ、ついていけなくなるんだよ。睡眠が浅くなるし、朝は起きるのは起きるけど、一日動いてると弱くなってくるし……はは、はぁ……」
ノスリは笑いながら虚しくなってきて、最後はため息になった気がする。
幾ら恵まれたスキルを持っていても、おそらく誰も歳には勝てないだろう。
「オッサンも大変なんだなぁ。なら、しばらくオレらパーティーに付き合ってくれよ。オレたち無茶しに来たわけじゃねぇから、後ろで休んでても良いぞ」
「そうね。私の前に出てこなかったら良いです。当たっても自業自得って返せるので」
「ああ、見てるよ。よろしく」
通路が開け、ダンジョンの内部に辿り着く。子どもたちはそれぞれ武器を構えた。
予想通り、イスカが前衛、後ろにコルリ、そのすぐ後ろにヤイロが杖を構えて立った。
――やはり真面目な子たちだ。ちゃんと警戒出来てる。
今いるのは、街から馬車で直通の初心者向けダンジョン。その構造は不変で、冒険者ギルドで地図も売られているほどだ。
――確か、一層はレンガ調の広い通路に迷路のような作りだったな。
前か後ろからしかモンスターが現れず、屋内と言えどかなり広い通路なので立ち回りも安全に行えるのだ。
「コルリ、モンスターをヤイロに近づけるなよ。オレは数を減らす」
「言われなくても、いつも通り行こう。前方、来るよ!」
イスカが声を掛け、コルリが応じた。その後ろ、ヤイロは表情が固い。
ノスリは最後尾で、空間に手を伸ばした。手の先が歪み、アイテムボックスの中へ消える。引き寄せて出したのは、一本の剣だ。
――まぁ。念のため、な。
通路の奥から、四体のモンスターがこちらに狙いを定めて近づいてきていた。




