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第1話 オッサン、フラれる。

「出来そうな依頼は……」


「ゴブリン行くか?」


「薬草採取にしようかなぁ」


「今日、なにする?」


「ダンジョン潜ってみようぜ」


 朝イチのピークを過ぎた冒険者ギルドの掲示板。今度はそこで、初心者だろう若い少年少女たちのいくつかのグループが、受注について意見を交わしあっている。


「あのぉ……。そのクエスト、俺も混ぜてもらっても良いですか?」


「うげ、なんだよ。このオッサン」


「暗! びっくりしたぁ」


 誰になんて声をかけるか、そう考えていたら結局、魂に染み付いた日本人としての口調が転がり出た。そう。前世持ちと言うヤツだ。


「あはは。よく言われるよぉ。そのクエスト持ってるってことは、ダンジョン潜るんだろ? 俺のスキル、アイテムボックスなんだ。ダンジョンだったら役に立つよ、どう?」


「えぇ、オッサンだろ? 来るとこ間違えてねぇ?」


「私らみたいな新参じゃなくてさぁ、相応のとこ行けばぁ?」


 収入のほしい低ランク冒険者。だが初心者向けの階層ではドロップ品は安価でしか売れず、持ち帰るのにも荷物の兼ね合いで多くは持ち帰れない。


 ――薄利多売するにも、課題が山積みだからなぁ。 


 そこで出番になるのが、アイテムボックス持ちだ。そう思って声を掛けたのだが、若い連中には見事ドン引きされる始末だった。


「いやいや。俺だって冒険者の端くれだからな? 自分の身は自分で守れるけどさ、深層に進むには、ほら……な?」


「だからって、俺らに寄生かよ。どうするよ」


 懐が寒いなぁとへにゃりと笑えば、目の前の彼らとさらに距離が出来たように思う。

 確かに、身なりは粗雑な装備のいかにもな低ランク冒険者だ。朝から張っていたから白髪混じりの茶髪はボサボサで、髭も剃っていない。

 子どもに話しかけるのに背を丸めたから、姿勢の悪い猫背にも見えただろう。


 ――言いたいことは分かる。どう見てもオッサンだし、アイテムボックスは、荷物の心配をしなくて良いだけだからな。


 一人に一つ与えられるスキル、剣技や魔法といった戦闘特化のスキルは冒険者を始め、成り上がりの花形である。

 生活に特化したスキルでも、平穏に過ごすには十分だ。


「ないない。行こ、行こ」


「オッサン、商人にでも転職すればぁ? あ、でもその年じゃあキツいか。……あぁ、朝から変なのに遭遇したぁ」


 二人組の子どもに振られ、一人ポツンと取り残される。子どもたちは他にもいたが、話をしている間にすでにおらず行動が早い。

 ティッシュ配りで、一つも受け取ってもらえない時の心境だ。


「あぁ、今日も空振りか……」


 異世界に転生して四十年。何をやっているのかと時々思う。一人では、ダンジョンに潜ったところで意味はない。

 もう少し粘ってだめなら、身の振り方を考えなくてはいけない。


「暇だしなぁ。クエストの薬草採取でも行っとくか?」


「――あの!」


「依頼人がいて、不履行の罰則や期限のある依頼よりは、常設の気楽なクエストの方が……」 


「――すみません。そこの中年男の人!!」


「ああ。ごめん、ごめん。俺に話し掛けてたのか」


 ――それにしても、中年男……。


 グサリと胸に響いたのはなぜだろう。いや、気にしたら負けなのかもしれない。

 目の前に居るのは、先ほどの子どもよりも幼さの残る女の子一人に、男の子が二人の三人組だ。


「オレたち、パーティーを探してて、アイテムボックス持ちなんですか?」


「ああ。荷物持ちなら任せてくれ」


 初めに声を掛けてきたのは女の子で、今度は男の子が代表で話を持ちかけてきた。

 さっきのやり取りを見られていたのかと、少し哀愁が漂いそうになり――咳払いをして、返事をした。


「なぁ、本当に良いのかよ。稼ぎも期待出来ないぞ? あと、荷物持ちだけなら、こっちだって守る余裕はないから、自己責任で頼むぞ?」


「俺より半分以上も歳が若い子どもに、守ってもらわなきゃならないほど、情けない姿は見せたくないなぁ」


「あ、あの。私たち、まだ冒険者として駆け出しで、ダンジョンについてきてくれるだけでありがたいんです。それで良いなら、お願いしても良いですか?」


「ああ。こちらの方こそ、よろしく頼むよ。俺のことはノスリって呼んでくれ」


 ――素直な良い子たちじゃないか。これは、応援したくなるな。


 さっきまでの荒み乾いた心に、三滴の水が落ちるようだ。じんわりと、胸が温かくなり目頭が熱くなる。


「うわ! オッサン泣くなよ!?」


「どれだけ感極まってるんです?」


「年取ると……、涙脆くていけないよねぇ」


「その次元? ちょっと情けな――声、かけるの間違えたのかな」


 女の子は時々、言葉がとても辛辣だった。ノスリは涙を拭って引っ込めると、改めて三人の顔を見る。


「まぁ良いや。オレ、イスカね」


「オレはコルリ」


「私、ヤイロです」


 砕けた言葉遣いで距離が近いのがイスカ。赤みの強い茶の短髪が跳ね、ツンツンとしている。つり目の黒い瞳が印象的だ。


 ――腰にあるのは剣か。胸当てに、腕には籠手を着けて、前衛なんだな。


 まとめ役な気質で、一応ノスリにも節度を持って接してくれるのがコルリ。パッと見は馴染みある黒髪だが、光りに当たると青く見えた。長い前髪からは灰色の瞳が覗いている。


 ――腰にある剣、胸当ては同じ、腕には小盾。なるほど、タンクかサポートだな。


 可愛い外見に似合わず、容赦のない言葉選びをするのが女の子のヤイロ。腰までなびくロングの髪は、深みのある青とも緑ともつかない色でまるで海のようだ。パッチリとした大きな瞳は、明るい水色だ。


 ――服で隠してるが杖だな、あれ。なら魔法か。やっぱりコルリは、彼女の守りも兼ねてそうだ。


 実際のところはまだ分からないが、バランスの良さそうなパーティーだった。

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