表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
大宮ストリート・クロニクル ~この街は、見ている人間にだけ本性を見せる~  作者: レモンティー


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
9/12

第九話:焼肉とラウンドワン

日曜日の夕方。

珍しく、誰からも電話は鳴らなかった。

トシは仕事を終え、駅前で缶コーヒーを飲みながら空を見上げる。

「今日は平和だな。」

スマホが震える。

ユイからだった。

「今日は事件じゃなくて、ご飯ね。」

「了解。」

続いてケンからもメッセージ。

「北大宮の焼肉きんぐ、予約した。」

「食べ放題だぞ。」

トシは思わず笑った。

「珍しく仕事が早いな。」

「肉のためなら動く。」


夜七時。

五人は北大宮の「焼肉きんぐ」で待ち合わせた。

大宮駅から歩いて数分の場所にある。

店に入るなり、ケンがメニューを開く。

「今日は元を取る。」

「毎回言ってるな。」

トシが冷静に返す。

リクはタブレットを操作する。

「最初は網がきれいなうちに牛タンですね。」

「わかってるじゃん。」

ケンがうれしそうに笑う。

ユイは飲み物を注文する。

「私はウーロン茶。」

トシもうなずく。

「俺も。」

やがてテーブルいっぱいに肉が運ばれてきた。

牛タン。

カルビ。

ロース。

ハラミ。

ホルモン。

「いただきます!」

五人の声が重なる。

ジュワッ。

肉が網の上で音を立てる。

香ばしい匂いが立ち上る。

しばらくして、リクがタブレットを見ながら言った。

「サンチュとサンチュ味噌、追加します。」

ケンが即座に反応する。

「きた、優勝アイテム。」

ショウが呆れる。

「またその言い方。」

すぐにサンチュが運ばれてきた。

リクは手際よく一枚を広げる。

焼き上がったカルビをのせる。

サンチュ味噌を少し。

キムチを一切れ。

小さめのご飯を少し。

「完成。」

包んで一口で食べる。

「……うまい。」

珍しくリクが感情を出した。

「今のは信頼できる評価だな。」

ケンが笑う。

真似するようにケンもサンチュを広げる。

「俺は肉三枚いく。」

「やめろ。」

ショウが即ツッコミ。

ケンは構わずカルビを重ねる。

サンチュ味噌をたっぷり。

キムチも追加。

「いくぞ。」

一口。

「うまっ!」

声が漏れる。

ユイも笑いながら続く。

「私はハラミで。」

丁寧に包んで食べる。

「これ、いくらでも食べられるやつだね。」

トシも続いた。

焼いたロースにサンチュ味噌を少し。

キムチを添えて包む。

「……いいな、これ。」

ショウは冷静に言う。

「今日の議題:肉とサンチュで人は幸せになるか。」

ケンが即答する。

「なる。」

誰も否定しなかった。

「この時間が一番幸せだ。」

ケンが真顔で言う。

「まだ一枚しか食べてない。」

ショウが突っ込む。

「だから幸せなんだ。」

ユイは笑いながらトングを動かす。

「ケン、焼けたよ。」

「ありがとう!」

リクは焼き加減を見ながら肉を裏返す。

「まだ早いです。」

「もう少し。」

「リクは細かいな。」

「焼き過ぎるともったいない。」

トシはみんなの皿を見ながら、焼けた肉を配っていく。

「はい、ユイ。」

「ありがとう。」

「ショウ。」

「助かる。」

「リク。」

「ありがとうございます。」

ケンが笑う。

「また人の世話してる。」

「クセなんだ。」

「仕事でもそうなんだろ。」

「たぶんな。」

ユイはそんなトシを見て、小さく笑った。

「そういうところ、好き。」

トシは少し照れくさそうに笑う。

「急に言うなよ。」

ケンは大げさに肩をすくめた。

「はいはい、ごちそうさま。」

みんなが笑い出す。

食事は続く。

石焼ビビンバ。

冷麺。

韓国のり。

サンチュ。

そしてデザート。

「もう無理。」

ショウが背もたれにもたれかかる。

「まだアイスがある。」

リクが真面目な顔で言う。

「デザートは別腹です。」

「お前まで言うのか。」

ケンが笑う。

ユイはソフトクリームを受け取りながら言った。

「こういう時間っていいね。」

トシもうなずく。

「事件がない日のほうが少ない気がするからな。」

「だから今日は大事。」

ユイが答えた。


店を出ると、夜風が心地よかった。

ケンが腹をさする。

「次はしゃぶしゃぶだな。」

「まだ食べるのか。」

ショウが呆れる。

リクはスマホを見ている。

「次はコスパ計算してから店決めましょう。」

「計算すんな、飯に。」

ユイが笑う。

「まだ元気じゃん。」

トシは空を見上げた。

「こういう夜が一番いい。」

「事件がない夜。」

誰もそれに異論を言わなかった。


ラウンドワンへ

ケンがふと思い出したように言う。

「なあ、ラウンドワン行かね?」

「今から?」

ショウが聞く。

「今から。」

ケンは当然のように言う。

「大宮の。」

ユイが笑う。

「賛成。」

リクもうなずく。

「軽く運動にはいいですね。」

トシは少し考えてから言った。

「負けたやつ、ジュース奢りな。」

ケンが指を鳴らす。

「勝負決定。」


大宮・ラウンドワン

ネオンに照らされた巨大な建物。

中はボウリング、UFOキャッチャー、ゲームコーナーで賑わっていた。

「まずボウリング。」

ケンが即決する。

「賛成。」

ユイも笑う。

リクは真面目にスコア表を見ている。

「フォーム解析したいです。」

「やめろ。」

ショウが即答。


一投目。

ケンが豪快に投げる。

ガター。

「は?」

全員爆笑。

「ウォームアップだ!」

二投目。

またガター。

「おかしいだろ!」

さらに笑いが広がる。

ユイは安定したフォームでストライク。

「やった。」

「うま。」

トシが素直に言う。

リクも静かにスペアを取る。

「計算通りです。」

「怖いわお前。」

ショウは冷静にストライク。

「普通に上手い。」

「なんでお前もできるんだよ!」

ケンが叫ぶ。

ゲームが終わるころには、ケンだけが圧倒的に負けていた。

「おかしい。今日は運が悪い。」

「実力だろ。」

トシが即答。

ユイは笑いながら言う。

「ジュースよろしく。」

「はいはい。」


夜の帰り道

ラウンドワンを出ると、空気は少し冷たかった。

五人は並んで歩く。

ケンがコンビニへ向かう。

「奢りジュース買ってくる。」

「素直だな。」

ショウが言う。

ユイはトシの横を歩く。

「今日は平和だったね。」

「ああ。」

トシは短く答える。

「こういう日が続けばいいな。」

ユイは少しだけ笑う。

「続くよ。たぶんね。」

トシは夜の大宮を見た。

ネオン、人の流れ、笑い声。

事件のない夜は少ない。

だからこそ、こういう時間はちゃんと覚えておこうと思った。

五人はそれぞれのペースで、駅へと帰っていった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ