第十話:防犯カメラの異常検知
その日は、いつもより静かな夜だった。
トシ、ケン、リク、ショウ、ユイは、大宮駅の東口で合流していた。
「今日は何も起きないといいね」
ユイが笑いながら言う。
「そのセリフ、だいたいフラグだよな」
ケンが返す。
トシは缶コーヒーを飲みながら、駅前を見ていた。
人は多いが、空気は落ち着いている。
そのとき、リクのスマホが鳴った。
「……変だな」
「どうした」
ショウが聞く。
リクは画面を見せる。
「同じ場所で、何回も防犯カメラの異常検知が出てる」
場所は、大宮の商店街裏の小さな路地。
トシはすぐに言った。
「行くぞ」
路地は狭く、街灯が少ない。
人通りもほとんどない。
そこに、ひとりの男が立っていた。
年は三十代くらい。
手には何も持っていない。
だが、様子がおかしい。
近くの自販機を蹴っている。
「おい」
ケンが声をかける。
男は振り向いた。
「……うるせぇな」
声は低く、荒れていた。
リクが小声で言う。
「この人、さっきパチンコ屋から出てる」
「負けた後か」
ショウがつぶやく。
男は笑った。
「負けた? ああ、負けたよ」
「全部だよ」
一歩、前に出る。
「金も時間も、全部だ」
空気が変わる。
ユイが後ろで小さく息をのむ。
トシは動かないまま言った。
「その話と、ここで暴れるのは別だろ」
男は首を振る。
「別じゃねぇよ」
「負けたら終わりなんだよ、この街は」
そのまま、男は路地の奥へ走り出した。
「追うぞ」
ケンが走る。
トシは短く言う。
「無理に押さえるな。周り見ろ」
リクはスマホで警察に連絡。
ショウは逃げ道を予測する。
ユイはその場に残り、通行人を遠ざける。
やがて男は、数分後に路地の出口で止まった。
逃げ道が塞がれていた。
トシが静かに言う。
「終わりだ」
男は肩を落とした。
「……ほんと、ついてねぇな」
そう言って、その場に座り込んだ。
数分後、警察が到着。
男は抵抗しなかった。
ただ一言だけ、ぼそっと言った。
「パチンコで全部なくしたんだよ」
誰も何も言わなかった。
店に戻ると、ユイが言った。
「今日は本当に何もない日って、ないのかな」
ケンが笑う。
「大宮だからな」
ショウは地図を見ながら言う。
「“何もない日”のほうが、珍しい」
リクはスマホをしまう。
「でも、全部が事件ってわけでもない」
トシは缶コーヒーを飲み干して言った。
「ただ、人が壊れかける瞬間が重なるだけだ」
ユイは少しだけ黙ってから言った。
「じゃあ、せめて一緒にいるか」
トシはうなずく。
「それでいい」
夜の大宮は、またいつもの明るさに戻っていった。




