第八話:夜の狂気
土曜日の夜。
大宮駅東口は、週末らしい賑わいだった。
トシとケンは、コンビニで缶コーヒーを買い、駅前を歩いていた。
「今日は静かだな。」
ケンが言う。
「静かな夜ほど気をつけろ。」
トシが短く返す。
そのときだった。
東口の先から、人々の悲鳴が響いた。
「逃げて!」
「誰か止めて!」
二人は顔を見合わせ、一気に走り出す。
現場は大宮ラクーン近く。
一人の男が興奮した様子で周囲に向かって刃物を振り回し、人々は必死に距離を取っていた。
店の前には倒れた自転車や散乱した荷物。
パニックになった人たちが我先にと逃げていく。
「ケン!」
「ああ!」
ケンは周囲へ向かって叫ぶ。
「みんな離れて! 警察呼んで!」
リクのスマホに通報が入る。
「110番は済みました! パトカーが向かっています!」
ショウは周囲を見回した。
「一般の人を避難させる!」
ユイは転んだ女性へ駆け寄る。
「大丈夫ですか?」
「立てますか?」
女性を安全な場所まで誘導する。
男は周囲を見回しながら叫んでいた。
「全部終わりだ!」
「何もかも!」
トシは男との距離を保ちながら声を掛ける。
「落ち着け。」
男は振り向く。
興奮した表情のまま、一歩踏み出した。
その瞬間、遠くからサイレンが近づく。
男は逃げようと走り出す。
「走った!」
ケンが叫ぶ。
トシたちは無理に追い詰めず、距離を保ちながら進路を見守る。
逃げた先は細い路地。
そこへ到着した警察官が男を制止する。
「止まりなさい!」
男は抵抗したが、多数の警察官によって取り押さえられた。
男は警察官に取り押さえられながら、興奮したまま叫んだ。
「なんで俺ばっかりなんだ!」
「金が全部なくなった……。」
息を切らしながら、途切れ途切れに言葉を吐き出す。
「パチンコで……全部負けた……。」
「もう終わりだと思った……。ジェットカットの店で…クソォ……」
周囲は静まり返る。
トシは男を見つめたまま、静かに言った。
「どんな理由があっても、関係ない人を巻き込んでいい理由にはならない。」
男は何も返さず、うつむいた。
警察官は男をパトカーへ誘導する。
現場には重い空気だけが残った。
ケンが小さく息を吐く。
「自分の腹いせで、人を傷つけるなんて最低だ。」
ユイは避難した人たちを見回しながら言った。
「みんな無事で、本当によかった。」
騒ぎはようやく収まった。
救急車も到着し、現場は慌ただしく動き始める。
ユイは深く息をついた。
「怖かった……。」
ケンも珍しく真顔だった。
「本当に一歩間違えたら、大変だったな。」
ショウは散らばった荷物を拾い集める。
リクは警察へ目撃した状況を伝えていた。
事情聴取を終えた帰り道。
駅前には、少しずついつもの人の流れが戻ってきていた。
ユイがトシの隣を歩く。
「こういう日もあるんだね。」
トシは人通りを見つめながら答えた。
「理由が何であっても、人を傷つけていい理由にはならない。」
ケンが静かにうなずく。
「だから俺たちは、困っている人を見たら助ける。」
リクも続ける。
「事件は止められないこともある。でも、被害を減らすことはできる。」
ショウは夜空を見上げた。
「それが、この街でできることなんだ。」
夜風が駅前を吹き抜ける。
ネオンはいつもと変わらず街を照らしていた。
大宮の夜は、今日も続いていく。
そしてトシたちもまた、この街を歩き続けるのだった。




