第七話:ラクーンの夜
ボードゲームショップを出ると、時計は午後九時を回っていた。
東口の夜はまだ明るい。
ラクーン大宮の前には、ゲームセンター帰りの学生や買い物帰りの人たちが行き交っている。
「腹減った。」
ケンが大きく伸びをする。
「さっき店内でインスタントラーメン食べただろ。」
トシが笑う。
「別腹。」
「便利な腹だな。」
ユイは苦笑しながらトシの腕を軽くつついた。
「私はタピオカでも飲みたい。」
「まだやってる店あるかな。」
五人が歩いていると、後ろから声がした。
「あの、すみません!」
ショウとリクが同時に振り返る。
制服姿の女子高生が二人、少し緊張した様子で立っていた。
「え?」
ショウが戸惑う。
リクも珍しく固まっている。
「私たち、ゲームセンターで見かけて……。」
一人の女子が照れ笑いを浮かべる。
「よかったら、連絡先交換しませんか?」
一瞬、全員が沈黙した。
最初に吹き出したのはケンだった。
「ははは! お前ら逆ナンじゃねえか!」
ショウは耳まで赤くなる。
「いや、えっと……。」
リクは眼鏡を押し上げながら困った顔をした。
「どうすればいいんでしょう。」
「俺に聞くな。」
トシも笑いをこらえている。
ユイは腕を組み、面白そうに様子を見ていた。
「ほら、ちゃんと返事しないと失礼だよ。」
ショウは頭をかいた。
「ありがとうございます。でも、俺、人見知りなんで……。」
女子高生は思わず笑う。
「そんなふうには見えなかった。」
リクも丁寧に頭を下げた。
「お気持ちはうれしいです。でも今日は友達と遊びに来ているので。」
「そっか。」
女子高生たちは少し残念そうだったが、笑顔で言った。
「急に声かけてごめんなさい。」
「いえ。」
「またどこかで。」
二人は手を振り、人混みの中へ消えていった。
姿が見えなくなると、ケンが腹を抱えて笑い始める。
「ショウ、お前の顔!」
「真っ赤だったぞ!」
ショウはため息をつく。
「慣れてないんだよ。」
リクもうなずく。
「僕もです。」
ユイは笑いながら言った。
「二人とも、ちゃんとしてたじゃない。」
「変に期待させるより、ちゃんと断るほうが優しいよ。」
トシも頷く。
「それでよかった。」
ケンはまだ笑っている。
「いやー、今日は事件より面白かった。」
「次はケンの番かもね。」
ユイがそう言うと、今度はケンが慌てる。
「いやいや、俺はいい!女子高生はリスクがたけぇ!」
トシが笑う。
「当たり前だ!」
五人は笑いながらラクーンを後にした。
大宮の夜は、事件ばかりではない。
思いがけない出会いも、笑い話になる出来事もある。
そんな何気ない時間があるからこそ、この街は今日も少しだけ温かく感じられるのだった。




