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大宮ストリート・クロニクル ~この街は、見ている人間にだけ本性を見せる~  作者: レモンティー


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5/12

第五話:替玉二杯

翌日の夜。

仕事を終えたトシは、ケンと大宮東口へ向かっていた。

「今日は腹減ったな。」

ケンが背伸びをしながら言う。

「ああ。」

トシも短く返した。

二人が入ったのは、東口で知られた博多ラーメンの店。

替玉二杯無料。

学生も仕事帰りの会社員も集まる、夜遅くまで賑わう店だった。

「いらっしゃい!」

元気な声が飛ぶ。

カウンターに並んで座ると、トシは迷わず注文した。

「ラーメン、ばりかた。」

ケンも続く。

「俺もばりかた。」

数分後。

白い湯気を立てた豚骨ラーメンが二人の前に置かれた。

濃厚な豚骨の香りが鼻をくすぐる。

トシは卓上の紅ショウガをつまみ、いつもより少し多めにラーメンへ入れた。

真っ赤な紅ショウガが白いスープに浮かぶ。

割り箸を割る。

麺を持ち上げる。

細い麺がスープをまとい、湯気を立てる。

「いただきます。」

勢いよく麺をすする。

ズズッ――。

ばりかた特有の歯ごたえ。

豚骨の旨味。

紅ショウガの酸味。

その組み合わせが、仕事終わりの体に染み渡る。

ケンも夢中で麺をすすっていた。

「やっぱここでいいよな。」

「北海道系のラーメン屋がうまいけど値段はこっちの方が安い」

「だな。並ばずに喰えるし。」

黙々と食べ進める。

麺が少なくなったところで、トシは顔を上げた。

「ばりかた。」

店員が笑顔でうなずく。

「替玉一丁、ばりかた入りまーす!」

間もなく、小さな器に入った替玉が運ばれてきた。

トシはすぐには丼へ入れない。

卓上の「かえし」を手に取り、替玉の器へ少し回しかける。

箸で麺を持ち上げ、器の中でしっかりと混ぜ合わせる。

麺一本一本に、かえしが均一に絡んでいく。

それを確かめてから、静かにラーメンの丼へ投入した。

麺がスープに沈み、再び湯気が立ち上る。

さらに、紅ショウガをもう一度。

今度も少し多めにのせる。

赤と白のコントラストが鮮やかだった。

「毎回それやるよな。」

ケンが笑う。

トシは箸を持ったまま答える。

「替玉は、最初に味をつけたほうがうまい。」

「なるほどな。」

ケンも真似をして、かえしを替玉に回しかけた。

「確かに、こっちのほうが麺に味がなじむな。」

トシは何も言わず、また麺をすすった。

ズズッ――。

店の中には、麺をすする音だけが心地よく響いていた。

事件も、人探しもない夜。

そんな時間も、この街では大切だった。


ラーメンを食べ終え、店を出た午後八時過ぎ。

東口の商店街を歩いていると、突然、自転車が歩道へ飛び込んできた。

「ひったくりよ 誰か捕まえて」

女性の叫び声が夜に響く。

前かごには黒いショルダーバッグ。

男はそのまま逃げようとする。

「ケン!」

その一言で十分だった。

ケンが走り出し、トシは逃げ道になる路地へ回り込む。

男は細い裏道へ入ったが、角を曲がった瞬間、目の前にはトシが立っていた。

「終わりだ。」

男は急ブレーキをかけて自転車を捨て、走って逃げようとする。

しかし後ろから追いついたケンが腕をつかんだ。

「逃がすか。」

男は抵抗をやめ、その場に座り込んだ。

数分後、駆け付けた警察に引き渡される。

バッグは無事に持ち主へ返された。

女性は何度も頭を下げる。

トシは軽く手を振るだけだった。

「よかったですね。」

それだけ言うと、ケンと二人、夜の大宮駅東口を静かに歩き出した。

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