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空が白んできた―
上層階が吹き飛んだ廃ビルに立つ赤守猛也…
彼は何を思うのか―?
同刻 虎ノ門五丁目 廃ビル5階
膨大な量の光が収まると、その中心地には赤守猛也が立ち尽くしていた。
HUDには"The system is fully operational and has been transcended. Congratulations and welcome, Transcendence Takeya Akamori"と表示されている。
その立ち姿は、何処か物悲しげだった。
黒い影の男は、もうその場にいなかった。
空が白んできている。
何時の間にか夜明けの時間となっていた。
上の階が吹き飛んだビルでは、その確認は容易だった。
正美「う…くっ」
その衝撃でようやく意識を取り戻したのか、正美が身を起こす。
猛也「よぉ…志良川…」
正美「あっ…! 赤守?! これ、一体何が…?! てか助けろよ!」
立ち尽くした猛也に気付いた後、それまでの身勝手な振る舞いを思い出し、最後の言葉は強めに、敵意全開で、刺す様な言葉を投げた。
猛也「悪ぃな…出来ねぇ」
正美「…は?!」
帰ってきた言葉は、予想外過ぎた。
断るとは思っていたが、申し訳なさそうな、気遣っている様な…
あの赤守が?!
その態度に正美の脳が軽くパニクる。
猛也「気を付けろよ…じゃあな」
一方的な最後のその言葉は、やけに真剣だった。
正美「?はァア?!!」
だが、ワケが分からない言葉をその達観した感じで言われ、混乱した頭ではいつもの上から目線に感じ、正美のイラつきが頂点に達する。
しかし、そんな正美の気持ちを意に介さず猛也は続けた。
猛也「お前も大変だったんだな…気にしないで大丈夫だぜ」
明らかに上から目線と感じたその達観した最後の言葉に、
正美「はァ?! アンタ何様…! てオイ!」
反論しようとしたところ、猛也は既に空高く跳躍していた。
正美「何処行くんだ! お前ッ! 赤守ッ!」
麻妃『繋がりました! DVG-02β! DVG-02α装着者はいますか?!』
ノイズと共に麻妃の声が聞こえる。
正美「え? あ、いや…今どっかに…」
マーカス『行かせてはならない!』
そこまで話を続けると、マーカスが割って入る。
正美「!隊長…?」
普段見せない余りの剣幕に、驚いてしまう。
マーカス『彼はギアの能力を解放出来たんだ…! 数値を見る限り、彼は"トランセンデンス"になったんだ!』
正美「え…!?トラン…?」
聞いた事の無い単語で混乱してしまう。
マーカス『つまりは、彼がギアのスペックを引き出し稼動させたが、その状態で大規模な多重次元震動を引き起こし、我々のセンサーを攪乱させ、この場からいなくなったという事なのだよ!』
正美「え…?!どういう…」
マーカス『私も解らない…彼の心情と行動が…全く理解不能だ…!』
正美「そんな…!アイツ…! …でも、ギアの機能を稼動って…どんな能力なんです?」
勝手な行動の猛也に怒りも湧いたが、そこが気になる。
どんな能力を持ち逃げしたのか。
マーカス『ギアの稼働限界、及びリミッターの排除…』
正美「そんな…! それじゃあ、重要機密所持でとんでもない破壊力を持った武器を持った上での逃亡ですか?!」
マーカス『そうなるな…口惜しいが、イクシードを稼動させられたのは彼だけだったのだよ…』
口惜しそうなマーカスのその言葉を聞いて、正美の猛也に対する怒りは決定的になった。
正美「アイツ…! 上から目線で…偉そうに言っときながら…! 選ばれもしたくせに…! それを持って逃亡…?! 勝手過ぎる! 許せないッ…!」
言った正美の握り締めた拳はギリギリと音を立てる程だった。
初陣で何も出来ず、よく解らない介入者に無様にやられ、気絶しかしていなかった、などと…恥と苦痛の極みだった。
こんな事では、姉を越える認められる人間になる事は到底出来ない。
そう思う正美の目元からは滂沱の涙が零れていた。
マーカス『志良川正美 辛いとは思うが…』
正美「マーカス隊長! 自分に赤守猛也追跡をさせて下さいッ!」
マーカスからの労いの言葉を聴き終わる前に涙を拭い終え、正美は述べた。
マーカス『…構わないが、良いのか? かつての仲間だ… 相応に辛い命令や選択をしなければならないが…』
一間置いて答えたマーカスは、言葉を選んでいる様だった。
正美「構いません! アイツは裏切り者ですから!」
その正美のハッキリとした意思に、マーカスは再び少し間を置いて答えた。
マーカス『…解った 君をDVG-02α追撃任務に編成しよう これから本部に戻って申請する 先ずはフリングホルニに戻ってき給え 疲れたろう』
正美「お気遣い感謝します! 更新終了!」
そう言って、通信を切った。
正美に新たな目標が出来た。
裏切り者、赤守猛也を捕らえる事…
それが、彼女、志良川正美の新たな生きる理由になった。
人を超越した赤守猛也は少し離れた廃屋へ向かう―
そこには…?




