勇者の正体
俺に掛かっていた魅了は解除された。そして今優先するべきは、カウンター対策と、ヒロインズとシロー君の解放。
「どっちのジョージも不細工な癖に……もう邪魔は入らないぞ」
再び振り下される剣を寸前の所で回避して、ユリアに繋がっている絆の糸を攻撃してみる……結果、切れないが糸はさらに細くなった。
「何で動けるの?俺の魅了は完璧なのに」
ピュリアの一人称が俺になった?まさかブレイブに精神を乗っ取られているのか……こうなればまとめて助けてやるか。
「私生まれも育ちも異世界日本。姓は榕木、名は丈治。人呼んで嫌われ者のジョージでございます……どうやら純粋なレコルト生まれの本物が体内からいなくなったから、動ける様になったらしい」
こうなれば遠慮はいらない。
「動けるからどうした?絆の糸から魔力も生命力も吸収出来るんだぞ」
返事の代わりに矢を放つ。しかし、カウンターで叩き折られた。その隙にバックステップで距離を取る。
(ゲームと同じで攻撃範囲に入った物を反射的に攻撃しているな。これならなんとかなる)
「谷、こっちに来てくれ。お前の力が必要だ」
俺の声が届いたのか、谷は物凄い勢いで入って来た。
「アニエスッ!丈治、なんとかならないのか?」
谷君、恋人の心配はしても親友の心配はしてもくれないのか?
「ユウイチさん、来ちゃ駄目です」
谷の声を聞いた途端、アニエスの意識が覚醒した。
「谷、今からアニエスに思いの丈をぶつけろ。そして俺の合図と同時にブレイブに、なにかを投げつけろ」
谷は真剣な顔で頷いてくれた。
「アニエス、俺はお前の事が好きだ。それに俺の助手はお前しかいない。早くここを出て、患者さんの所に行くぞ。お前は俺の恋人で唯一無二のパートナーなんだ」
よし、アニエスの絆の糸がさらに細くなった。
「アニエスさん、出来るだけ谷に近付いて下さい」
アニエスさんがブレイブの隙を見つけて駆け出す。恋人である谷の下へ駆けて行く。
だけど絆の糸がピンッと張って、それ以上前に進めない。
「無駄ですよ。絆の糸がある限り、私から離れる事は出来ません」
それでも必死に前へ進もうとするアニエスさん。
「親離れならぬ子孫離れは必要だっつうの……谷、今だっ!」
谷が足元に落ちていた石をブレイブに向かって投げつける。少し遅れて俺も絆の糸目掛け矢を放つ。
ブレイブがカウンターで石を叩き落とすも、その間に俺が放った矢が絆の糸を断ち切った。
「ユウイチさんっ!」
アニエスが恋人の胸へと飛び込んでいく。アニエスに向かって再び絆の糸が伸びていくが、谷に張られた結界に阻まれる。
「谷、今のうちに皆を結界の中へ入れてくれ。アイン、ドンガ、動けるか?」
アニエスの絆の糸は切れたので、ブレイブの力も弱っている筈。
「俺は動けますよ…ユリア、忠臣の俺等らがジョージ様に助けてもらってどうするんだ?俺の女はそんなに軟弱じゃないはずだぜ。それとシロー、フレーズは譲ってもユリアは絶対に譲らねえ。あんな良い女を譲ってたまるか!」
アインがよろよろと立ち上がった。アニエスの糸が切れたのも大きいが、反対属性のマリーナの糸が細くなったのが大きいと思う。
そしてアインも石を投げたので、さっきと同じタイミングで矢を放つ。
ユリアもアインに向かって駆け寄ったかと思うと、跳び蹴りを放った。
「アイン、フレーズって誰っすか!?譲る?自分がアインから離れる訳ないっす」
蹴りの後、無事にハグ。ユリアさん、忠臣には触れてくれないんですね。
「ドンガ、いけるか?」
ゲームのドンガなら、へばったままだったかもしれない。でも、ドンガは立ち上がった。勇者の血も引いていないし、特別な才能も持っていないドンガが立ったのだ。
まあ、彼女が期待満面の目で見ているから、そりゃ立つよね。でも、あの二人の後では少しハードルが高い気がする。
「凛、おでは凛が好きだ。この戦いが終わったら結婚してくんろ」
そう来たか。凛は物凄い勢いでドンガに駆け寄っていく。そしてドンガはハンマーをぶん投げた……ドンガ君、まだベルやヴァネッサがいるんだぞ。
ここまで来ると絆の糸はかなり細くなっており、当てるのが難しかった。
「もちろん受けるでござるよー!みんな聞いたでござるよね?じょーじ殿、保証人を頼むでござる」
うん、良いけど……凪さん、どうしよう。
「マリーナ、あんたのジョージがした事を無駄にするのかい?恰好悪い所を見せたままで良いの?」
カリナは一喝した後、俺を見てきた。糸はかなり細くなっていて矢を当てるのは難しい。
「アーマーパージ、ライトアーム」
右の籠手をアーマーパージで飛ばす。ここまで来れば防御力が落ちても気にしない。
「ベルさん、ヴァネッサさん、ユウイチさんは戦闘職ではなくお医者様です。勇者の血を引いている貴女方より魔力耐性は弱いんですわよ。それに私達みたいな素敵なラブラブカップルになりたいんなら、自分が好きになった男性を殴ってでも目を覚まさせなさい」
アニエスさん、それは発破ですか?それともノロケですか?
谷が石を投げたのに合わせて左籠手と右足を飛ばす。
「なぜだ?俺の魅了が……正義は負けない筈なのに……そうか、罪を犯したピュリアがいるからだ」
ブレイブはそう言うと、ピュリアを斬り捨てた……サイコパス過ぎるだろ。
「ピュリアー、ピュリア!ピュリアー」
ミケが無我夢中でピュリアに駆け寄っていく……あの馬鹿猫、自分から的になってどうすんだよ。
「あれ?旦那様だ?どうして泣いているの?」
斬られたショックでピュリアに掛かっていた魅了が解けたらしい。ミケはピュリアを庇う様に覆いかぶさっている……ったく、世話の焼けるドラ猫様だこと。
「アーマーパージ全身!」
残りのパーツをブレイブに向かって飛ばす。ブレイブが撃墜している間にミケとピュリアを回収。
「ジョージ、ピュリアが……ピュリアが死んでまう」
ミケの顔は涙でぐちょぐちょだ……何の才能もないサラリーマンが伝説の勇者と渡りあってるんだ。これだけでも十分な結果だ。
「ミケ、これを使え……谷、俺とお前以外はまた操られる危険性がある。結界から誰も出すなよ」
ミケに万能回復薬を手渡す。これで攻撃されたらお終いだ。でも、こんな素敵な仲間を守れるんなら良いじゃないか。
「君みたいな凡才が僕に勝てると思っているの?むかつく」
凡才に良い様にあしらわれたのが気に入らないのか、ブレイブは怒り心頭だ。
「勇者様、地が出てるぞ。別にお前に勝てなくて良いんだよ。こいつらを逃がして、城を破壊してもらえば、俺達の勝ちだ。凡才領主が伝説の勇者を道連れに出来たら、おつりで家が一軒建つぜ」
ゴールドジョージになれば時間稼ぎは出来る筈。
「ジョージ、絆の腕輪に触れるんや。そいつを触媒にして、お前と縁のある人にメッセ―ジを送る……儂の名はミケ。神使や。今ジョージが命懸けで戦っとる。みんな力を貸してくれ」
絆の腕輪に触れた瞬間、俺は白い光に包まれた。
◇
ふと見ると母さんが必死に祈りを捧げていた。
「神様、どうかジョージを助けて下さい。あの子は私の大切な……可愛い子供なんです」
俺は偽物の息子だっていうのに、母さんは必死に祈ってくれている。この人がいてくれたから、俺は嫌われ者になっても平気だったんだ。
次に現れたのは爺ちゃん。爺ちゃんは天を仰ぎながら、ぽつりと呟いた。
「神様、孫の命を奪うというなら、老い先短い私の命を代わりに捧げます。あの子は……ジョージは大切な孫なんです」
爺ちゃんは厳しくも優しく導いてくれた。この人がいてくれたから、俺は領地を運営できるまで成長出来たんだ。
次に現れたのはアミ。
「神様、私からお兄様を奪わないで下さい。私はお兄様が大好きなんです」
この子がいてくれたから、俺は強くなろうと思ったんだ。
次に現れたのはドンガ。
「おではジョージ様が勝つって信じているだ。絶対に勝つって」
ドンガは。どんな時も俺を信じてくれた。あの泣き虫だった小僧が、今は魔王城で戦っている。
次に現れたのは谷。
「このボケナス。敵もろともなんて、ダサい真似すんじゃねえよ……また一緒に飲むの楽しみにしているんだからな」
谷がレコルトに来てから生活がグッと楽になった。同じ目線で話せるのは、谷だけだ。
次に現れたのはサンダ先生。
「ジョージ様、貴方はこれからのボーブルいやオリゾンに必要な人材です。ここで死んではなりません」
サンダ先生には守られてばっかりだ。精神的には俺の方が年上だけど、この人の背中を見ると安心する。
次に現れたのはボルフ先生。
「この馬鹿弟子がどんな事があっても生き延びろって教えただろうが……お前は俺の自慢の弟子だ。絶対に帰って来い」
この人が鍛えてくれたから、今日まで生き延びる事が出来たのだ。頼れる兄貴って奴だ。
次に現れたのはカリナ。
「ジョージ死んだら嫌だよ。あたいはあんたが大好きなんだ。ずっと一緒にいたいんだ」
カリナが隣にいてくれたから、ここまで来れたんだ。本当俺なんかにはもったいない女だ。
他にもヴェルデ、ヘゥーボ、アイン、アニエス、凛、ベガルさん、大勢の人が俺の為に祈ってくれていた。
◇
光が消えると、体中に力がみなぎっていた。
「お前の魅了で一方的に結んだ縁と違うて、ジョージの縁はお互いに信頼しあって結ばれた縁や。しかも、その縁はオリゾンだけやなく、他国まで広がっておる。ジョージ、頼んだで」
流石にこれだけ期待されたら、逃げる訳にはいかない。
「超竜変身!ゴールドジョージ+ネガティブソード。これならお前にも勝てるぜ」
一気に詰め寄り、剣を振り下ろす……と同時に納刀。でも、ブレイブはやばいと思ったらしく、シロー君の身体から抜け出した。
「シロー、こっちだ。結界の中に入れ」
アインが叫ぶ。シロー君が結界の中に入ったのを確認。これでブレイブは誰にも憑りつけない。
「起動ゴーレムアーマー!ブレイブを取り込め。谷、アニエスさんと一緒に封印してくれ」
バラバラになったゴーレムアーマーを起動して、ブレイブの魂を閉じ込める。
「アニエス、出来るか?俺を媒介にして、封印魔法を放て……それとさん付けは、もうなしだぞ」
アニエスは谷の背中に抱きつきながら、呪文を唱えだした。
「ユウイチ……邪悪なる魂よ。神の御力を持って、お前を封印する……ハイドロシール」
巨大な水の弾が鎧を包み込む。
「封印完了。丈治、あいつはもう鎧その物に封印した。今は鎧が本体だ」
さあ、しめと行こうじゃないか。
「何も知らない癖に。僕の鎧にあるカードを持って、この城の地下へ行ってみろ。絶対にお前等もおかしくなるからな」
シロー君が鎧をまさぐると、カードキーらしき物が出て来た。
「それじゃ、見なきゃ良いだろ……喰らいな、ただの上段斬り」
ありったけの力をこめて、剣を振り下ろす。鎧が真っ二つに割れると、室内に絶叫が響いた。
これで勇者殺しの汚名は俺だけで済んだ。
新作現代忍者転生もお願いします
ジョージへの台詞追加して欲しいキャラがいたら、リクエストに応えます