黒幕
終わった。これで全部終わったんだ……有給使いまくってやる。その前にダウンしている人を運ばねば………まあ、俺と谷以外全員ダウンしているんだけどね。
どうもブレイブ・アイデックの魅了はかなり体力を奪うようだ。
「ジョージ、ほんまにありがとう。まさか、お前がここまでやってくれるなんて……いや、儂は信じてたで……せや、万能回復薬が残ったんで返しておくで」
ピュリアの身体が小さい分、使う量も少なかったらしい。
「……封印用の器を良く信じられたな。お前帰りたくて仕方ないだろ?」
ミケはさっきからそわそわと落ち着かない。そのミケにはピュリアがべったりくっついている。
「魂は同じ人間にしか封印でけんのや……礼は今度ちゃんとするから。ほな、またな」
ミケはそう言うと、ピュリアを背中に乗せたまま、飛び去って行った……俺が選ばれた理由はそれだけなのか。
「さて、人を呼んで皆を運んでもらうか……谷、フライングシップを持って来てくれ」
幸いな事にジョウノさんやダーハさん達が駆けつけてくれたので、みんなを運んでもらえた。
そして俺はフライングシップが来るまで魔王城で待機……暇なので、ブレイブが言っていた地下にでも行ってみるか。
◇
魔王城はグルウベ城の土台に出現した所為か、地下は昔のままだった。
地下には代皇専用の礼拝所があり、グルウベの肖像画が掛けられていた。白髪の優しい顔立ちをした老人である……こういうのって、絶対にイケメンだよな。
礼拝所をぶらぶら歩いていると、古代文字が書かれた部屋を発見。しかもカードキーを刺す所もある……あるけど。
(システム管理室?なんで、ここにあるんだ?)
カードキーで開けてみると、そこは異世界というより近未来な部屋だった。何台もの巨大コンピューターに沢山のディスプレイ。
ディスプレイには水のマナ収集量や火のマナ収集量等が表示されている。
そして奥に一際でかいコンピューターがあった。
「おいおい、パスワードなしでも、イン出来るのか……セキュリティが、ガバガバじゃねぇか……アハハ!マジかよ。こりゃ傑作だ。そりゃブレイブもおかしくなるわ」
万能回復薬を一口だけ飲む。これから何徹もしなきゃならないんだ。
「丈治、ここにいたのか……つうか、ここはなんなんだ?」
谷も呆然としている。待ち合わせ場所に俺がいないので探しにきてくれたようだ。
「谷、俺は何日かここに泊まる。だから、飯を運んできてもらえるか?領主は一時休業だ。プログラマー榕木丈治の復活だ」
腕まくりをしてキーボードを叩く。
◇
久し振りに夢中でパソコンに向かっていた。髭は伸び放題で髪はバサバサだし、目には隈が出来ている。
「これでよしっと……帰って寝よ」
リーマン時代なら、牛丼でも買って帰ったんだろうけど。
「なーにが帰って寝よだ。みんな心配してんだぞ。聞いても何も答えないし……ここは一体なんなんだ?」
谷に頼んで俺がここにいる事は内緒にしてもらっている……とてもじゃないが、レコルトの人間には言えない。
「ここはシステム管理室だよ。ここはサブだけど、メインコンピューターにもハック……アクセス出来た」
コンピューターにアクセスしてみたら、この世界のからくりが分かった。
「システム管理室?なんで、そんな物がここにあるんだ?」
この国は狂信的とも言えるほど、グルウベを崇拝している。システム管理室を置くにはうってつけの場所なのだ。
怪しくても、誰も疑わないしね。
「論より証拠。これから面白い物を見せてやるよ」
これは谷以外には絶対に見せられない。
◇
礼拝所に立ち、祈りを捧げる。すると神々しい光が溢れ出し、一人の老人が姿を現した……いや、老人と言うのは少し語弊がある。
「我が名はグルウベ。この世界を治める神だ……代皇は滅びたか。予定より遅かったな……うん、日付けの表示が変だぞ」
グルウベの顔が青ざめていく……代皇が死んだことより、いつの間にか日付けが進んでいた事の方がこいつにとっては一大事なのだ。
「大丈夫ですよ。あんたがスリープ状態だった間もマナは予定通り、送られていました。安心したでしょ?マナ収集システムグルウベ様」
こいつは神様でもなんでもない。それにレコルトの平和にも興味はないだろう。
「なぜそれを?秘密を知ったからには、悪いが死んでもらう……あれ?」
グルウベは俺に向かって手をかざすが、何も起こらない。まあ、起こらないのが分かっていたから挑発したんだけどね。
「あんたは俺を……いや、この世界の全ての物を害する事は出来ないんだぜ。スリープ状態の間に書き換えさせてもらった」
セキュリティーがゼロのプログラムだったから、思い切りいじらせてもらった。他人が作った高度なプログラムを弄るのが、こんなに楽しいとは。
こいつを滅茶苦茶にしても、罪悪感が湧かないし。
「丈治、一体なにがあったんだ?それにこの人は?」
あまりの展開の速さに谷は呆然としている。
「さっきも言ったろ?こいつは神様じゃなくて、ただのシステム。マナを本国ならぬ本星に送るのが、こいつの仕事。神様業は、収集を円滑にする為の副業みたいなもんさ……詳しい話を聞きたいか?」
谷が頷いたので、俺はここで得た知識を伝える事にした。
◇
俺達が生きていた地球から分岐した世界。並行異世界の住人が、黒幕だったのだ。
その世界は俺達の生きていた地球より、さらに発展した文明を持っていた。それこそ、他の星に行けるレベルだったらしい。
そしてある星で未知のエネルギーを見つけた。そのエネルギーは無尽蔵にあるもので、しかも高出力を得られる奇跡のエネルギーだった。
「まさか、それがマナだっていうのか?」
流石は谷君。呑み込みが早いし、ショックが少ない。
「ああ、でもマナには二つの大きな問題があった。一つは濃度が薄くて、量を確保するのが大変だって事。もう一つは、その星の人間の身体に悪影響を及ぼすって事だ」
文明が発展し過ぎて、抵抗力が激弱になっていたらしい。
「まさか、エルフや獣人はその為に作られたのか?この星でも生きられるように遺伝子改造されたって事か」
前に日本でカリナ達の遺伝子を検査してもらった所、遺伝子操作されている可能性があるって結果が出た。
同時期に、適合手術を受けた人間も、この星に来た。だから古い時代の猿人は、自分達の事を真人と呼んだらしい。
「作られたのは獣人だけじゃないぜ。そいつ等はマナを体内に溜め込む生き物も作った。それが魔物さ。俺達が知っている魔物と似ていて当たり前だ。元は同じ世界だったんだからな」
そしてグルウベは定期的に新しい魔物を作っていたらしい。その際にグルウベが命令出来る様にしていた。そう、自分を信仰している町には手をだすなとか……だから、この世界の魔物は町を襲わないのだ。
「それで毒の方は、どう対処したんだ?」
これがばれたら、レコルト全土が大パニックになると思う。
「魔石を使うと、その属性を司っている神様にエネルギーが届くんだよ。その時に大気に排出されるらしい」
正に美味しいとこ取りってやつだ。ちなみに信仰心が篤い程、濃度の高いマナが届くとの事。
ブレイブが見捨てられたのは、グルウベ以上に人気を集めたからだ。
(ゲームでフェルゼンが滅んだのは、魔石のエネルギーを全部使ってしまう兵器を作ったからだろう)
俺が介入して、滅亡を免れた……証明する手立てがないから、手柄にはならないけど。
「それじゃハイドロ様や、ミケ様はなんなんだ?」
谷君、パニックです。俺はゲームで、この手の展開に慣れていたから平気だったけど。
「だから名前が水力なのさ。六属性の守護者は神様じゃなくて、転送システム兼フィルターだったんだよ。そして神を信じさせる為に作られたのが、ミケ達神使。神使の役割は、人の守護とマナ収集システムの維持……さて、黒幕とのご対面だ」
うずくまっているグルウベを立たせて、システム管理室に向かう。
◇
グルウベを椅子に座らせて、本星と連絡を取る様に促す。
「グルウベ、やっと繋がったか。今、本星では奇妙な病気が流行っている。住民がドット化するのだ。原因究明の為、マナの送量を増やすのだ」
ディスプレイに現れたのは、CGみたいな人間。こいつ等は永遠の命を得る為に、自分達を電子化したらしい。
電子の身体を維持するのは、マナが多量に必要らしい。 むかっ腹がたったので、ドット化するウイルスを仕込んでやったのだ。
「断る。今日から、あんた等と俺達は対等だ。今後、この星に手を出す事は許さない。もちろん、魔王勇者システムも廃止だ……言っておくけど、レコルトに攻撃しようとした時点で、事態は更に悪化するからな」
CG人間達に動揺が走る。見せしめを兼ねて、一人をドット化してやったら、静かに頷いた。
あんな為政者泣かせのシステムなんて絶対に廃止にしてやる。
「まさか魔王も造られた存在だっていうのか?」
谷君、またしても正解です。
「そ、魔王を作った目的は二つ。一つは、レコルトの文明が一定以上発展するのを阻止する事。もう一つは、品質が劣化したマナを廃棄する事らしいぜ。しかも魔王はナンバリングされていたんだ。三ステリーオ、“四ャグラン、五ライアスって感じでな」
そして魔王に対抗出来る能力を持った勇者を誕生させる。そうするとグルウベへの信仰心が高まり、マナ収集システムが円滑に進められる様になると。
ピュリアの言っていた運命の書って言うのは、魔王勇者システムの企画書みたいなもんだ。
こいつらにとってはマナが確保さえできれば問題ないから、書き換えられても気にしなかったのだ。
「お前は何者だ。何を要求するつもりなんだ?マナが無くなったら、私達は生きていけなくなるんだぞ。可哀想だと思わないのか?」
それ以上にお前等の方が酷い事してるだろって、突っ込んでも無駄である。こいつ等絶対的支配者である事が当たり前になっているのだ。こいつ等にとってレコルトの人間はゲームの合成素材位の感覚しかない。
「俺はプログラマーだよ。でも、お前等の態度如何ではハッカーにもクラッカーにもなる」
外れ能力だと思ったプログラミング能力だけど、ある意味チートだった。見た事もない高度なプログラムも簡単に理解出来るんだし……だから、こいつらのプログラムを好き勝手にいじる事が出来たのだ。前世で、この能力があったらバグと無縁だったのに。
「まさか創造神様……創造神様と破壊神が同一の存在だと言う伝説は本当だったのか……マナの供給を止めると言うのですか?」
異世界に行ったら、創造神と呼ばれました。まあ、知識は一緒だけどね。
「さっきも言ったろ?こっちに手出ししない限りは対等だって。俺の要求する事は一つだけだ」
ここまで魔石が生活に浸透してしまっては、禁止するのは不可能だ。
◇
数日後、俺は魔王戦に参加したメンバーと共に、グルウベの礼拝所に来ていた。
「今回は儂の不手際でお前達に辛い思いをさせてすまなかった……時にマリーナよ。死んだジョージ・アコーギに会いたくないか?お前が望めば、ジョージ・アコーギの魂が転生した世界に、転生させてやるぞ。その為には家族や友人と永遠の別れをせねばならぬがの」
グルウベが神妙な顔で語りかける。みんな感動しているんだから、俺を見てびびるのは止めましょう。
俺が出した条件は本当のジョージを幸せな世界に転生させる事。そしてマリーナが望めば、後を追わせる事だ。
「もちろんです。好きな男の子の前で格好悪い女で終わりたくないですから。家族とは夕べお別れを済ませておきました……少しだけ、好きになりかけたんですよ。これはお詫びとお礼です。それじゃ、行ってきます」
マリーナはそう言い、俺の頬にキスをすると想い人のいる世界へと旅立っていった。
カリナさん、今のは不可抗力ですので、拳を鳴らすのは止めて下さい。




