魔王城潜入
マルールさんを無事に海外追放……移住してもらった。がちで扱いが面倒だったので、とりあえず一安心だ。
死刑にすれば獣人や女性陣から反発が出てくる危険性が高い。だからと言って許したら、ヌボーレ家の面子が丸潰れになってしまう。放置しても、奴隷推進派に狙われる危険性が高い。
縁もゆかりもない海外に送って、あの人は今の状態にしておくのが一番なのだ。
「ジョージ、工業ギルドから鎧が届いたぞ。ゴーレムジョージの技術を応用したフルアーマー型パワードスーツか……お前、魔王と戦うのか?」
フライングシップに備え付けたデスクで仕事をしていると、谷が報告にやってきた。
見た目地味だけども、かなり高性能な鎧である。アーマーパージに対応しているし、短時間なら魔力で操作可能なのだ。アーマーパージ後に背後から攻撃も可能なのである。
「誰がそんな事言ったんだ!?流石に、今回は行かないぞ。大きな手柄は若い子達に譲るさ」
魔王城には、シロー君を始めとする各国の代表の方々に行ってもらう。
俺の仕事は魔族を引き付ける事と、シロー君達の退路の確保だ。この鎧は現場で指揮する時に使うのだ。魔王戦ともなれば長時間の戦いになるだろう。
せっかく魔王を倒せたのに、重さと疲れで後詰がダウン。帰路が確保出来ていませんでしたなんて笑えない。
「言うも何も思いっ切り組み込まれているぞ。六魔枢を、全員倒したお前が選ばれない訳がないだろ」
そう言って谷が渡して来たのは、陣形配置表。ボーブルの指揮担当が俺から、ロッコーさんに変えられていた。
「嘘だろ?ホートーからも“お前は十分に頑張った。後は勇者達に任せて現場の指揮を頼む”って言われたんだぞ」
魔王を倒したら、名実ともに英雄扱いされてしまう。俺は清廉潔白とか正々堂々って、文字とは無縁の人間だ。英雄なんて窮屈な立場はごめんだ。
なにより魔王ゴライアスが怖い。
「間違ってねえぞ。魔王城攻略班現場指揮官さん」
恐る恐る魔王城攻略班と書かれた場所に目をやる。
第一パーティーはシロー君とヒロインズパーティー+アイン&ドンガ。
フェルゼン帝国から重戦士ジョウノキ・ヤーミと軽戦士ローウフ・ローゼのコンビ。
ランドルからはサーツカ・ミナトとダーハ・アミノが率いる女性魔導士パーティー。その他有名冒険者や強力なパーティーが目白押し。
確実に言えるのは、みんな俺より強いって事だ。
そして魔王城攻略班のおおとりは、俺の率いるパーティー。
メンバーは俺・サンダ先生・ボルフ先生・カリナ・ミューエさん・谷の六人。
谷に聞いた話では、全員のり気らしい……リーダーがギブアップ寸前なんですけど。
「でも、退路確保する人員が必要だぞ。魔王軍の中にはガーゴイルみたいな飛空タイプもいるし。そうなると砦ゴーレムを動かせる俺がいなきゃまずいだろ?」
砦ゴーレムを変形させて、そこから攻撃を仕掛けるのだ。
「心配するな。この人達がいれば心配ないだろ」
谷の指さす先にあったのは、オデット特戦隊の文字……そういやオデットさんサキュバスを鍛え上げて、フェニックスを倒せるまでに育てたって言ってたもんな。
(待てよ、俺は指揮官だ。魔王城の入り口に待機していても、おかしくない)
城門を閉じられたら、大ピンチなんだし……決まった。俺は魔王城の城門を死守するんだ。
◇
それは雨の日の事だった。激しい落雷がグルウベ城に落ちたかと思うと、忽然と魔王城が姿を現したのだ。
ゲームだと物々しい音楽が流れて盛り上がるシーンなんだけど、現実だと一瞬過ぎて、頭にハテナマークが出てしまう。マジック並みの早変わりだったし。
「現場監督、いつ攻め込むんだ?」
開戦時期をいつにするか、ガチで悩んだ。今はまだ魔王城が出来たばかりで、魔王軍の士気が高揚している。でも、あまり引っ張り過ぎると、こっちの戦意が中だるみしてしまう。
「一週間後、祭りで大きなイベントを行います。それに合わせて、全軍を前線に集結させるそうですよ」
文字通り毎日お祭り騒ぎで、大勢の人が前線に来ている。騎士や魔法使いが一般客に扮装してくれば、魔王軍も気付かないと思う。同時に一般人は速やかに帰還してもらうのだ。
「これが魔王城の見取り図か……どう考えてもグルウベ城より、デカくないか?」
魔王城はラストダンジョンだけあり、かなりでかい。ボルフ先生の言う通り、グルウベ城には収まらない規模だ。
「中は異空間になっているっていう設定でした。つまり、城門を閉じられたらお終いなんです」
我ながら自然な入りだ。ここから俺達で城門を守りましょうって繋がっても不自然ではない。
「ああ、ベガルとリーズンが城門守備部隊に決まったそうだ。あいつ等なら同じ釜の飯を食った仲間だから、安心して背中を預けられるだろ」
待って、現場監督その話聞いていない。
「は、初耳ですよ」
現場をないがしろにするのは、止めて欲しい。確かに、ここ数日下準備やマッピング作業で本部に顔を出せなかったけど。
「期間ギリギリで決まったんだよ。危険過ぎる割りに、得られる名誉は少ない。誰もつきたがらなかった配置に自ら立候補してくれたんだぜ」
つまり、顔見知りばっかりだからバックレられないと。
◇
いよいよ魔王城に攻め込む時が来た。まず夜明けと同時に全軍で攻め込む。ここ数日わざとお祭り会場でバカ騒ぎをしていたから、魔王軍は油断しているはず。きっと混乱するだろう。
「こっちに降った騎士の情報で、魔王城の戦力が分かりました。こちらの全勢力に対抗するには、魔王城を空にしなくてはいけない」
俺達は事前にフライングシップで魔王城付近に移動。隙を見て城内に潜入。時間になったら、城内から門を開けてベガル達を招き入れる手筈だ。
「家庭教師の仕事を請け負ったら、魔王と戦うはめになるとはな。全く、とんでもない弟子を持っちまったぜ」
ボルフ先生は、そう言うと大きな溜め息を漏らした……なんで魔王と戦う事が確定しているんでしょうか?
「ええ、まさか自分が歴史の一ページに名を残す事になるとは思いませんでしたよ。夢も恋も諦めていた頃は、想像もしませんでしたよ。ローレン様がお声を掛けてくれなかったら、こんな幸せは訪れなかったと思います」
サンダ先生は、そういうとミューエさんに笑い掛けた。ミューエさんも幸せそうな笑みを浮かべている。
「ローレン様と言えば、変な噂を聞いたぜ。コーカツ城や王城の宝物庫に賊が侵入したけど、なんの被害もなかったそうだ」
王城の宝物庫の警備が厳重で、蟻の子一匹入る隙もないという。でも今は戦力を戦場に割いているから、宝物庫の警備は手薄になっているらしい。それでもそれなりの警備は敷かれているから、盗らなかったんじゃなく、なにも盗れなかったんだと思う。
(準備はばっちりだ。鎧のなかにルラキ湖で手に入れた万能回復薬も入れてある)
魔王城に潜入して無傷で済むとは思えない。いざって時は躊躇なく使おう。
◇
魔王城は禍々しい雰囲気を放っていた。その造りは堅牢で、どんな攻撃魔法も跳ね返すらしい。
「裏庭に隠し扉があるので、そこから潜入します。城内は迷路みたくなっているので、気を付けて下さい……雰囲気ぶち壊しじゃねえか!」
魔王城、潜入してみたらまだ建設中でした。足場はまだ残っているし、壁も板で代用している。
思わず大声で突っ込んでしまう。敵に見つかると思ってヒヤヒヤしていたら、一匹のオーガが近付いてきた。
「悪かったな!魔王様に降臨して頂くのが精一杯で、城まで手が回らなかったんだよ」
良く見るとオーガはかなりやつれていた。本来は後二年期間があったんだけど、俺が六魔枢を倒してしまった所為で、猶予がなくなったのか。




