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嫌われ者始めました〜転生リーマンの領地運営物語〜  作者: くま太郎


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おじさんにも勘違いした過去があるのです

活動報告にお知らせがあります

 幸い、ヴァルムは一命を取り留めたらしい。お約束でマルールさんとリガエネは行方不明との事。


「行きたくないけど、ホートーからのご指名だしなー。ったく、振られた位で死のうとすんなよな」

 ただいま、ヌボーレ城へ向かっております。一命を取り留めたものの、目を離すとヴァルムは死のうとするらしい。

 失恋の度に死んでいたら、俺だと命が幾つあっても足りないぞ。


「……しかし、急がないと問題が悪化しますので。行動制限の首輪の使用許可は、その場で発行しますよ」

 ヌボーレ城に連れて行くのは、谷とロッコーさん。行動制限の首輪を使用するには医者と神官の許可が必要なのだ。


「ボーブルにも噂が広まっている。マルールさんを応援する声が殆どだぜ」

 谷は診療所や往診で様々な人と接する。つまり生の声ってやつだ。うちの領民には獣人が多いし、俺も奴隷制に反対している。当然、領民は元奴隷のマルールさんに同情してしまう。


「ボーブルは、まだ良い方ですよ。ゴルド領の奴隷推進派は“奴隷を甘やかすから、こんな事になるんだ"って騒いでるそうです」

 中にはヴァルムに敵討ちをさせろって奴もいるそうだ。

グルウペはマルールさんを使って、オリゾンの世論を分断させるつもりなんだろう。


「一番最悪なのは、ヴァルムが死んでヌボーレ伯爵が暴発する事ですね。次にヴァルムが報復行為に走る事。このまま戦争になったら、やばいですよ。オリゾン内でも意見が割れているって事は同盟国も同じです。最悪共闘どころか支援も受けられなくなる危険性があります」

 ブリスコラの事だ。フェルゼンやランドルに噂を流しているだろう。奴隷との痴情のもつれが原因なんて大義名分に欠けるなんてレベルじゃない。

戦争になったら当然戦死者がでる。絶対に遺族は納得せず、参戦を決めた統治者を責めるだろう。


「肝心の彼氏が、マルールさんの事を本当に愛していればまだ救いようがあるんだけどな」

 谷が大きな溜め息を漏らす。でも、その可能性は極めて低い。


「言える事は一つ。戦争になったらブリスコラはマルールさんにこう言うと思うぜ“貴女の独りよがりな恋愛が原因で多くの奴隷が死にました。元奴隷として彼等やご遺族になんて答えますか?『お陰で私は幸せです』なんていえませんよね”ってな」

 戦争で死ぬ割合いが一番高いのは奴隷だ。その中にはマルールさんの知り合いもいるだろう。


「グルウペで人権があるのは、自国の民か信者のみと言います。恐らく件の獣人も己の信仰心を証明する為に、この策に参加したのでしょうね」

 もし参加しなかったら、不信心者としてそしりを受ける。下手すりゃ国外追放だ。


「このままじゃ、防戦一方か……逆転満塁ホームランとは行かなくても、ポテンヒットで同点位の展開にしないとな」

 そんな都合の良い策ある訳がない。ヴァルムを悲劇の主人公に仕立てるか……無理だ。どう足掻いても月はすっぽんにならない。

良くて、あの噂は嘘なんじゃないかって感じにするしかないだろう……火中の栗ってレベルじゃないぞ。悪いけど、関わらないのが得策だ。


◇

 空気が悪いです。城門の前から空気が澱んでいる。なまじ華やかな城だけに、悪目立ちしている。


「これはこれはジョージ様。良くいらして下さいました。さっさっ、こちらへ」

 身なりの良い中年男性が、揉み手をしながら近づいて来た。その後ろには大勢の騎士。

 前に来た時は、出迎えなんてなかったのに、今回は下にも置かない対応だ。状況が状況だけに、必死なんだと思う。


「挨拶は良い。俺も忙しいんだ。早くヴァルム様の所に案内してくれ」

 奴隷に刺された噂はオリゾン中に広まってしまった。その上ヴァルムが引きこもりになったなんて話が広まったら最悪である。北東軍の戦意は地に墜ち、開戦前から瓦解してしまう。そんな事になったら、巻き込まれ損なんてレベルじゃない。

(要はヴァルムが引き籠っていた時間に意味を持たせれば良い訳か……)

 保身の為に、策だけは練っておこう。


「ですよねー。分かりますー。ジョージ様の忙しさは、オリゾンでも有名でございます。あっ、私はヴァルム様の執事をしているタバー・ツキコメと申します」

 なんだろう。この鏡を見ている様な感覚は……。

 物々しい警備の中進んで行くと、一際豪華な部屋に着いた。ヴァルムの部屋と書かれている。良く見るとマルールの文字が塗り潰されていた。


「ヴァルム様、ジョージ・アコーギでございます。お邪魔します……うん、そうなるよね」

 そこにいたのは、魔法で眠らされているヴァルム。よほど泣いたらしく目が腫れあがっている。

 その隣では魔法使いが断続的に睡眠魔法を掛けていた。


「ジョージ様、行動制限の首輪の使用を許可します」

 ロッコーさんが溜め息混じりに呟く。


「同じく許可しますよ……」

 微妙な顔をしている谷の視線の先にあるのは、ヴァルムとマルールさんの絵姿。絵に描かれたハートマークが切なすぎる。


「それじゃ、俺が首輪を付けたら睡眠魔法を解除して下さい」

  魔法使いにアイコンタクトをおくり、ヴァルムに行動制限の首輪を付ける。


「ここは……マルール?マルール!……やっぱり、夢じゃなかったんだ……そっか、お前それを貸せ……えっ、なんで?」

 マルールさんがいないと分かったヴァルムは、俺から短剣を奪い自分の喉元に突き立てようとした。しかし、短剣は寸前で手から滑り落ちる。何度も拾うが、結果は同じ。


「悪いけど、行動制限の首輪をつけさせてもらいました。効果は自殺禁止です」

 ちなみに俺の持っていた短剣は玩具で、首に突き立てても怪我はしません。


「なんで!死ぬ事も出来ないなんて、酷いじゃないか……そうか。マルールは、ずっとこんな気持ちだったんだ。それを勘違いして、僕は…僕は……」

 ヴァルムは、そう言うと泣き崩れてしまった。まるで子供の様に、人目も憚らず大泣きしたのだ。

 俺も滑稽な片思いをした事がある。ただの親切心を好意と勘違いして、ドン引きされたんだよな……仕方ない、おじさんが一肌脱ぎますか。


「ヴァルム様、このままで良いのですか?このままでは、グルウペの思う壺ですよ」

 俺は今までの調査結果と予想を、ヴァルムに伝えた。マルールさんの幼馴染みがグルウペと繋がっている事も包み隠さずにだ。そしてこのままじゃ、北東軍が瓦解してしまう事も。


「でも、どうすれば……僕に出来るのは、二人の幸せを祈る事位だよ」

 お前は乙女かっ!……逆恨みするよりは良いけどさ。


「一つ質問です。軍をまとめる為なら、なんでもしますか?」

 はい、誘導尋問です。執事や魔法使いの手前、無理とは言わないだろう。


「では……誰か美容師を呼んで下さい。それとヴァルム様の服のサイズを教えてもらえますか?」

 まずは、ヴァルムの長髪を短く刈り上げる。そして華美な服は止めて、実用主義の軍服を着てもらうのだ。

 そして周囲がドン引く位、ハードトレーニングを城の前庭で行ってもらう。


◇

 ヌボーレ家臣団に指示を残して、俺はウォーテックに移動。ここからは自分のお仕事なのです。

 谷がいるお陰で、歓待が凄かったです。そしてヌボーレでのあらましをリップルに報告。


「流石は婿殿とジョージ殿、見事な働きだね」

 順序が逆な感じもするけど、今は気にしないでおこう。


「リップル様、砦ゴーレムの効果はどうでしょうか?」

 急ピッチで進めた砦ゴーレム工事も大詰めを迎え、今やルラキ湖の大半を囲んでいる。


「ああ、お陰で民に被害は出ていない。六魔枢とも膠着状態のままだよ」

 ウォーテックの民はエルフが大半を占めている。ましてや王宮騎士団ともなれば、殆んどがエルフだ。

 

「そろそろ六魔枢との決戦に入ろうと思います。そして、これは私からのお願いなのですが、今回の戦北東軍の初陣にしてもよろしいでしょうか?」

 軍功でヴァルムのマイナスイメージが帳消しになってくれれば良いんだけど。


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