ルラキ湖血戦
予想はしていたけど、現実は厳しい。思わず報告書を持つ手が震えてしまう。
「報告書を読んだと思うけど、騎士団とエルフ魔術師隊以外の戦意はかなり低いぞ。市民も良い顔をしていない。今の状態で無理矢理参戦させたら、怪我する兵士が増えるだけだぞ」
谷はボーブル城の医者だから、騎士や兵士に直に接している。そして往診のついでに街の様子を観察してもらっている。
兵士の戦意が低いのは間違いないだろう……つまり、今回はうちの主力である獣人兵は使えない。
「しゃーない。今回は騎士団とエルフ魔術師隊を連れて行く……強力なカリスマが欲しいぜ」
無理矢理連れて行って、怪我でもさせたら支持率が下がってしまう。グルウベは絶対にその隙をついてくるだろう。
「カリスマはともかく人気は下がっていないぞ。“ジョージ様は人が良すぎる。なんでヴァルムなんかの味方をするんだ”って意見が殆んどだったぜ」
なんで味方をするのか……ヌボーレ軍にしっかりしてもらわないと、うちがやばいからです。
「俺の人気は獣人でも住みやすい生活を提供したのが、大きな理由なんだぞ。別に俺じゃなくても、今のシステムが維持されればボーブルは安泰だよ。ボーブルを捨てて、俺についてくる奴なんて殆どいない。つまり俺個人の人気はないに等しいって事さ」
それに戦意が下がっているのは、俺にも原因がある。俺は奴隷や獣人のフラストレーションを利用して、支持率を上げてきた。兵士や市民からすれば俺が心代わりしたかのように映るのだろう。
「現実的と言うべきかネガティブと言うべきか……でも、それで大丈夫なのか?」
絶対に大丈夫だとは言えない。でも、やるしかないんだ。
「仕込みはしてあるよ。今回はウォーテックとヌボーレ家に花を持たせたいし」
まあ、六魔枢は俺が倒すんだけどね。
「それでいつ行くんだ?」
聞いた噂だと谷はリップル様からせっつかれているらしい。婿様も、大変ですね。
「工業ギルドに頼んでいる物が出来たら、関係機関に連絡を入れる」
この為に、研究を進めていたのだ。
◇
いよいよウォーテックに行く日が来た。今回ウォーテックに行くのはボルフ先生、サンダ先生、カリナ、ドンガ、凛の五人。谷とアニエスさんはエルフ魔術師と動いてもらい、アイン君とユリアは騎士団と一緒に動いてもらう。
「ジョージ、今さらあんたの恰好をどうこう言うつもりはないけどさ……その背中に背負っている物はなに?」
カリナが俺の背中を指さす。俺が背負っているのは、一見するとただの四角い板に見えるだろう。
「これは今回の秘密兵器さ。少し動きにくいけど、必要なんだよ」
俺は今回後衛でいく。武器はショートボウ。まあ、俺以外はチートな前衛さんばかりで、出番がないってのが正直なとこなんだけど。
「それは分かった。分かったけど、液体薬の空き容器なんて何に使うのさ」
カリナは俺専用のメイドだ。当然荷造りもカリナが行う……正確に言うと詰め方が雑だって、詰め直されたんだけど。
「谷から譲ってもらったんだよ。流石はお医者様だ。理想的な大きさの容器を持っていた」
まあ、板?と違ってこれは運が良ければ使おうって扱いなんだけど。
「カリナの嬢ちゃん、こいつの行動にとやかく言っても疲れるだけだぜ。どうせ、ろくでもない事を考えているんだろうさ」
ボルフ先生が半笑いでカリナに話し掛ける。いや、きちんと考えた上での行動ですよ。
「ジョージ様、やっぱりおでが背負うだよ。従者のおでが持たないで、領主のジョージ様が背負ってるのは、恥ずかしいだ」
普通の貴族は物を持たない。従者や騎士に持たせるのが一般的だ……鞄や傘位自分で持とうよ。
つまり、俺の行為はある意味ドンガをないがしろにしている事になる。
「この役目は俺にしか出来ないんだよ。お前はその分、戦闘で頑張ってくれ」
俺の真意を知ったら、絶対に止められると思う。
「ジョージ、今朝報告があったんだけど、怪しい奴がアランの第三夫人に接触したらしいぜ」
お父様は近頃第三夫人と第四夫人とお遊びになられていないそうだ。だからといって母さんやルミアさんとの仲が復活した訳じゃない。新しく第五夫人をお迎えしたそうだ。
「怪しいと言いますと」
独立したとはいえ、アランは父親でアコーギ領は本領となる。なにかあったら、巻き込まれる危険性が大なのだ。
「聞いて驚け。グルウベの息が掛かった奴らしいぞ」
……聞きたくなかったです。なんでも化粧品を売る商人に扮していたらしい。
巻き込まれない程度に監視をさせておこう。
◇
正直、良く集めたなって、感心する。
ルラキ湖は水棲モンスターで埋め尽くされていた。
その中央にいるのは水の副将魔物使いのイドル。見た目はインテリ系魔法使いって感じだ。
「薄汚い人間がなにしに来たんですか。貴方達は魔物というだけで、私の友達を殺します。私達がなにをしたと言うんですか?」
イドルは猿人である。魔物使いの家系に生まれ、魔物を友として育った。しかし、その所為でいじめにあった……そんな設定だった筈。
ゲームでは、ここで主人公は答えに窮してしまう。そうすると“答えられないのは自分の罪を認めた証です”と戦闘になってしまう。
ちなみにイドル自体はそんなに強くない。ただイドルと戦うまでに、何戦もしなきゃいけないのだ。
水の六魔枢ヴェルソーも回復しまくりで、ストレスがたまるって苦情が届いた……でも、毛色の変わったボス戦を入れないとワンパターンだと言われる。どうしろってんだ。
「罪?まずはルラキ湖の不法占拠。次に魔物を集めて、住民を脅した脅迫罪。魔物の糞で水質が汚れるのも罪になるし、漁師は仕事が出来なくなったし、観光客も激減した。これだけ罪があれば十分だろ」
イドル君、重箱の隅をほじくるのは、俺の方が得意なんだぜ。
反論出来ずに悔しがっているイドルに一匹のシーサペントが近付いてきた。
「なに?それは本当ですか?ジョージ・アコーギ!貴方はここにいるシーサペントの頭におしっこの入った壺を落としたそうじゃないですか?しかも、お肉で釣って落とすなんて、貴方は悪魔ですか!!」
もしかしてフェルゼン帝国行く途中にいたシーサペント?……偶然ってあるもんだな。
言い訳をさせてもらえれば、お肉を落としたのはボルフ先生なんです。おしっこ入りの壺を落としたのは、俺だけど。
「ジョージ、やっぱりお前あの時……」
ボルフ先生はそう言うと、冷めた目で俺を見てきた。半分はボルフ先生にも罪があると思います。
「答えられないのは自分の罪を認めた証です……みんなかかりなさい」
イドルの合図で、水棲モンスターが一斉に動き出す……言い訳位させろっ。
「騎士団に告ぐ。砦ゴーレム、魔法攻撃バージョンにチェンジだっ!」
俺の合図で砦ゴーレムの高さが変化。モンスターの攻撃が届かない高さになると、屋上が広がっていく。そこにいるのはエルフ魔術師隊。
「皆さん、自分達の手でルラキ湖を取り戻すのです。アニエスも頼む!」
ここからが婿……谷にバトンタッチだ。
「はい、お任せ下さい……これは、谷崎先生と一緒に造り上げたオリジナル魔法。つまりは二人の愛の結晶……喰らいなさい。塩酸レーザー」
なんちゅうえげつない愛の結晶だ。塩酸はレーザーの様に一直線で飛んで行くと、モンスターの体内で球状に変化。そのまま内部からモンスターの身体を溶かしていく。
砦ゴーレムはルラキ湖を囲む様に設置してある。つまり四方八方から魔法が飛んでいくのだ。
なす術もなく、次々に倒されていくモンスター。
「砦ゴーレム、橋バージョンにチェンジ」
俺の合図で砦ゴーレムはルラキ湖に掛かる橋へと変化した。そこにいるのは、ヌボーレ家とオリゾンの混合騎士団。先頭に立つのは、傷だらけのヴァルム。以前のちゃらついた顔は消え失せ、今や一端の男だ。
「ヌボーレ騎士団に告ぐっ。俺に続けっ!」
ヴァルムはそういうと、単騎で突進をかけた。その熱にあてられたかの様にヌボーレ騎士団も勇猛果敢に突撃していく。
「俺達もいくぞ。それっと」
俺が狙ったのは、イドルの足。弓は、イドルの足を抜い床に縫い付けた。
「これでチェックメイトだど!」
ドンガのハンマーがイドルを吹き飛ばす。
「愛の剣受けるでござる」
凛の刀がイドルを切り裂く。
「悪いが元アサシンで罪の意識なんてないんだよ」
ボルフ先生のナイフがイドルに突き刺さる。
「貴方は無策で自分の配下を殺しました。この場で罪を償うのです」
サンダ先生の杖がイドルを襲う。
「ジョージの敵はあたいの敵なんだっ!喰らいなっ、アースファング」
カリナの爪がイドルの身体を両断した。
「このまま、城に攻め込みます。騎士団は魔石と魔物の死骸を回収」
青く美しかったルラキ湖は、魔物の血で赤く染まっていた。
黒歴史ノート持って異世界へ 新連載始めました 良かったら目を通して下さい。 それと活躍報告にお知らせがあります




