どうやって誤魔化す?
残る六魔枢は土・水・光……もう俺は関わらなくても大丈夫だと思う。だって爵位もないペーペーの領主が半分倒したんだぞ。これ以上はひんしゅくを買ってしまう。闇の魔石は爺ちゃんに献上したし、俺は政務に邁進しようと思う……仕事も溜まってるし。
取り敢えず溜まっているデータをパソコンに打ち込んでいく。余計な事を考えずに出来るから、気分転換にも丁度良い……若干、かなり目を逸らしたい数字があったけど。
「まじかよ……もう、勘弁してくれよ」
思わず心の声が漏れてしまう。俺、前世で何か悪い事したかな……身に覚えがあるのはスピード違反と立ちしょん位だけなんだけど。
「ジョージ、お茶淹れてきたよ……渋い顔してどうしたの?」
声を掛けて来たのは俺専属メイドにして恋人のカリナ。手にお盆を持っており、ハーブティーとクッキーが乗せられていた。疲れているから甘い物を用意してくれたんだろう。カリナの優しい気遣いが心に染みる。
「次の六魔枢はアーシック領に出るんだよ」
土の六魔枢はパペータ。こいつは、スーパーロボットみたいな巨大ゴーレム陸王丸を操る。アニメや漫画のキャラならともかくモブの俺では太刀打ちできない。
副将のクロガネは、防御力の高い鎧を身にまとっている。その正体は不明だが、剣術に優れ部下からも慕われている。頭がキングオブザ小物のパペータでも、軍としてやっていけているのはクロガネの存在が大きい。正直、どっちも戦いたくない相手だ。
冒険者か騎士に丸投げしたいんだけど。
「でも、アーシックには行かないんだよね……これ、まじ!?」
パソコンのディスプレイを見たカリナの顔が引きつる。そして俺の顔も引きつっていた。恋人同士シンクロして幸せだねとはいかない。
「地の魔石が市場でダブついて価格が急落。それに伴いテッラ台地に行く冒険者も激減……詳しい情報を聞きたいからユリアの両親を呼んでもらえる?」
アーシック領を訪れた冒険者を示す折れ線グラフが、ゲームのフォークボール並みに急降下している。ここまで下がるには、地の魔石の買い取り価格が下がった以外にも要因がある筈。
◇
まずい。下手したらまた巻き込まれてしまう。もう少ししたらグルウベとの戦争が始まる。その準備をしたいんだ。パペータは騎士や冒険者に丸投げしたいのに。
「飯や宿屋をぼったくり値段にしたら冒険者が減ったと……地の魔石の買い取り価格が下がってるのに、そんな事したら冒険者は稼げなくなる。誰も来なくなるの当たり前だろ」
報告によるとテッラ台地付近の宿屋や飯屋の料金が三倍近くになっていた。観光地も真っ青なぼったくりである。
ボルフ先生の言う通り、この値段だと冒険者の稼ぎは少ない。命懸けで戦って、稼ぎが少ないんじゃ誰も来なくなるのは当たり前だ。
「冒険者に転職した人の大半が農業に戻ったそうです。しかし、畑を売ってしまった人も少なくないそうです」
荒れた土地を肥やす為にドラ糞の売り上げが伸びている。喜んで良いのか、微妙な所だ。
「アーシック家との付き合いは多くないですから、余計な口は挟まない様にします。それとドワーフの皆さんはどんな様子ですか?」
最初ドラ糞の代金を後払い制にしようかと思ったが、それはアーシック家に喧嘩を売っているような物だ。余計なお世話ってやつだ。
そして俺はベルに嫌われている。誰かがベルの母親の霊を演じて、嫌う様に仕向けたのは分かっているが証明する手立てはない。下手に証明しようとすれば、事態を悪化させるのは目に見ている。
「お前のアーシック行きを反対している奴が殆んどだ。テネーブル伯爵の魔石を工業ギルドに持ち込んだのが効いたみたいだぜ」
情報規制は敷いているが、俺が六魔枢のうち三人を倒したと知っている人は少なくない。世間では『俺に任せておけば良いんじゃね』って声が一定数あるそうだ。絶対に嫌です。
「ボーブルに住んでいるドワーフにとって、ジョージ様は命の綱でございます。今の充実した生活を犠牲にしてまで、故郷を助けて欲しいとはならないでしょう」
俺が爺ちゃんにボーブルを託した事は秘密にしてある。そうなれば六魔枢と戦って俺が死んだら、ボーブルは本領に吸収合併されるのが本筋だ。
そしてアコーギ家の当主アランは猿人至上主義、ドワーフやエルフさえも軽視している。もし本領に吸収合併されれば、全財産没収される危険もある。
「ホートー様は何も言ってこないのか?」
ボルフ先生の懸念はもっともだ。俺を動かせるのは王家か爺ちゃんくらいである。特にホートーは俺の直属の上司になる。
「あの人はしたたかですから。あまり王家のご意向を乱発させると効果が薄まるのを、分かっているんですよ」
時代劇の印籠じゃないけど、ここぞって時に出してくるつもりだろう。逆にホートーは俺に六魔枢を倒させろって騒いでいる貴族を抑えてくれている。
◇
仕事も一段落し、今日からようやく高校生生活だ。部活は無理だけど、カリナと放課後デートをしたい……だから俺を余計な事に巻き込まないで欲しい。
「シロー、ジョージ様は忙しいんだ。無茶を言うな」
アイン君、頑張れ。超頑張れ。ユリアも見ているぞ。おじさんが応援したから、彼女が出来たんだぞ。
「でもアイン。アーシック領に変な建物が出来てベルが困っているんだ。六魔枢の事はジョージ様が一番詳しいっていうじゃないか!ジョージ様、お願いします。ベルを助けてあげて下さい」
シロー君は、この短期間でベル・マリーナ・ヴァネッサの三人と親しくなったそうだ。勇者補正って凄いね。今のところベルとヴァネッサとは友人以上恋人未満、マリーナとは仲が良い友人関係らしい。
マリーナ達のファンクラブはシロー君を非難するどころか、応援しているそうだ。俺に関わらず、みんなで青春して下さい。
「そのベル様がジョージ様を毛嫌いしているんすよ。第一、貴方はベル様のなんなんですか?男はアインやジョージ様みたいに一途でなきゃ駄目っすよ」
ユリアがシロー君に食って掛かる。シロー君は勇者の子孫といえども、まだ非公認の状態だ。ユリアがため口をきいても問題はない。
「考えてはおく。でも、俺はベガル・コルレシオン様の結婚式に招待されているんだよ。ちなみにアイン君とユリアも招待されている」
そう、いよいよスノウさんとベガルが結婚するのだ。二人のキューピッドと言っても過言ではない俺が参加しないのはまずい。
「ア、アインも呼ばれているの?コルレシオン家って公爵だよね?」
シロー君が目を丸くして驚く。そりゃそうだ。ついこの間まで田舎で貧乏生活をしていた幼馴染みが、貴族の結婚式に招待されているんだから……嫌な言い方かも知れないが、勇者の子孫に囲まれてシロー君は得意満面だったと思う。でも幼馴染みのアインは、その上を行く生活をしているのだから。
「ベガル様は剣の師匠だ。それに父さんから『将来の為に、今から社交界慣れしておけ』って言われているんだよ」
ギリルはアイン君を自分の跡継ぎにするらしい。ちなみにクレアさんは現在妊娠中、兄としての自覚が出来たのかユリアの影響なのかアインのマザコンはすっかりなりを潜めた。
「俺は立場上、アーシック家から依頼がないと動けない……陸王丸の警備を増やせって進言しておく」
爺ちゃんや本領は身内だったし、イジワール家はリーズンが陣頭指揮を執っている体にしたから問題なかった。
俺がパペータを倒したら、アーシック家の面子は丸潰れである。まあ、家格が上のアーシック家が俺に頭を下げる可能性は低いと思う。
◇
厳かな空気の中、結婚式が進んでいく。何よりベガルとスノウさんが幸せそうで、皆が二人を祝福してくれているのが嬉しい。
「ジョージ殿が来てくれなければ、イリスとベガル殿を無理矢理結婚させていただろう。感謝する」
声を掛けてきたのは、ムー君ことムート・ファルコ伯爵。ムー君は、週末になるとボーブルに来てサユリママの店を手伝っている。
「俺は切っ掛けを作っただけですよ。それよりファンはどんな感じです?」
サユリママの店には恋に悩む騎士や兵士が通っている。奥さんを取られたファンも常連になったらしい。
「あの若者なら大丈夫だ。何より支えてくれる女性がいるしな。それよりこいつを見てもらえるか?」
話を聞いてみると、その女性はフーマ三姉妹の長女萩野だった。どうも身辺調査しているうちにファンに惚れたらしい。萩野をファンの補佐役にしよう。
「これは魔法兵器ですか?」
ですかと言ったが、おれはこの兵器をよく知っている。フェルゼン帝国を滅亡に導いた兵器なのだから。
「なぜかアルメー様が作製を反対されておるのだ。お主なら原因が分かるだろ」
アルメーはフェルゼン帝国の守護神使だ。きっと何か問題があるんだろう。
この手の兵器の弱点は発射に時間が掛かる事だ。魔石の力を百パーセント引き出すのに、時間が掛かるって設定だった。
「この手の武器は慣れないと命中率が低いです。それに敵に取られたり、故障したりしたらまずいので、性能を落として数を増した方が良いと思います……そうですね。加工した魔石を射出出来る様にした方がよろしいかと」
火薬ではなく魔法で発射するようにすれば、普及率も抑えられる。
「ふむ、検討してみよう。次はジョージ殿が結婚する番ではないか?ボーブルの民も期待しておったぞ」
カリナと結婚……魔王ゴライアスが倒されたら、前向きに検討しよう。




