攻略されし者
まさかハードワーク生活が懐かしく感じる日がくるとは……いくら領主生活が忙しいと言っても、生命が危険に晒される事はない。
「地の魔石が買い時だな……大量購入して、工業ギルドに搬入しろ。ボーブルが買ったとばれない様に、ギリアム商会を通すのを忘れるなよ」
幸いな事に爺ちゃんやイジワール公爵から多額の謝礼金をもらえたので、予算に余裕があるのだ。それも命あっての物種。
「他人の不幸は蜜の味ってか……ジョージ、まじで地の六魔枢とは戦わないのか?」
溜め息を漏らしながら、確認してくるボルフ先生。きちんと適正価格で買っているのだから、財政支援と言って欲しい。
「地の六魔枢を倒して得られる物と命の危険を天秤に掛けると、どうやっても安全の方に傾きますからね」
アーシック領の経済状態は良好と言えないから、謝礼金には期待が出来ない。パペータ戦は人数が必要になるから、赤字になりかねないのだ。
「数年前にお宝を手放しているから、現物支給にも期待出来ないしな。まじで感謝の言葉だけで、終わりかねないってか」
命懸けで戦って“此度の戦果嬉しく思う。褒めてつかわす”だけで終わったら、大赤字である。
まだ家宝クラスのお宝は残っているらしいが、そんな物をもらったら恨まれるだけだ。
「とりあえず、いつでも動ける様に、準備だけはしておきますよ。味方につければ、ナイテック家への牽制になりますし」
コーカツ城での暗殺未遂を起こしたナイテックの領主は王様から、こっぴどく叱られたらしい。そしてお約束で俺を恨んでるとの事……まさに逆恨みってやつです。
「王様や王子様が釘を刺してくれたお陰で、うちに侵入しようって馬鹿は減ったぜ。確かにアーシック家を味方につければ、安泰だな。そうなりゃ、ナイテックも怨みより実利を取るだろ」
味方につけておいて良かった暗殺ギルド。
「く、来る訳ないっすよ。岩の陰に潜んだ奴は、拳で岩を砕かれたんすよ。木に登って逃げようとした奴は、蹴りで木を折られったす……オデット師匠の前では隠逃術は無意味だと思い知らされったす」
お茶を運んできた、ユリアが顔を青くして震えている。
そう、捕まえたアサシン達はオデットさんと公開組み手をしてもらったのだ。見学者は俺とオデットさんの配下。
最初はオデットさんを女だとたかをくくっていたアサシンが、俺に泣きつくまでに三分も掛かりませんでした。
「地面に爪痕を残しながら、引き摺られていったもんな……とりあえずアーシック家の関係者から接触があるまで待ちます」
それを見越してお仕事しなければ、受ける準備もしておこう。
それと地の六魔枢はスルー出来ても、谷やロッコーさん絡みで、水の六魔枢とは戦う事になると思う。
その為の仕込みを今からしておく必要があるのだ。
◇
そう、きたか。アーシック家から使者がやって来たのだが、意外な人物だった。
「この度は恥を忍んでやって参りました。ジョージ様、どうかアーシック家に力を貸して下さい」
アーシック家から使者としてやって来たのは、農政担当者ランダさん。以前、ドラ糞を輸出した時に担当してくれた人だ。
(随分とやつれているな……俺との交渉の責任を負わされたんだろうか)
以前会った時は筋骨隆々で、いかにもドワーフといった感じだったが、今や見る影もない。
「条件をお伺いしてよろしいでしょうか?」
さて、どう出て来る?アーシック家は、俺を何なら釣れると判断したんだろう。
「条件はジョージ様に決めて頂きたく……それと非常に申し上げにくいのですが、六魔枢から取れた魔石はアーシック家に寄付して頂けたら……」
言い辛いのか、ランダさんは屈強な身を折り畳ませる様に縮こまらせた。もう最後の方は小声で殆んど聞こえない。
つうか、無茶振りにも程があるぞ。一度会っただけのランダさんに、ここまで任せるかね。
(命懸けで決めてこいとか言われたんだろうな……あまり無茶な条件を突きつけると、ランダさんは責任をとって自殺。その責任を追及する腹積もりか)
だからと言って俺もただで動く気はない。一泡吹かせておかないと、これからも同じ手を使ってくるだろう。
「分かりました。条件は後日然るべき方を通じてお伝えします。悪いようにはしませんから、安心して下さい」
上司の無茶振りのきつさは俺も身に染みている。助け船をだしてあげよう……ただし、アーシックの当主には悔しい思いをしてもらうけどね。
◇
そしてお約束の会議である。今回の参加者はボルフ先生、サンダ先生、ロッコーさん、谷の四人。
「ロッコーさん、今回の件をリップル様に仲介役になってもらえる様お願いして頂けますか?条件はウォーテック領と隣接している鉱山の採掘権です」
工業ギルドで作った重機ゴーレムがあれば、深く掘れて鉱物が採掘できるはず。場所は鑑定を使えば損をする事はないと思う。
「タニザキ様とアニエスが六魔枢戦に参戦させる事にすれば確実かと」
アニエスがマエストロ・グライツァーを谷と一緒に倒した事で、ウォーテック領では祝賀ムード一色らしい。非公式で二人が並んで描かれた姿絵も売られているそうだ。
「パペータ戦ではエルフ魔術師隊にも参戦してもらうから、二人にはその指揮をお願いしようと思っています。谷、クロガネ用に考えた魔法があるから後から見てくれ」
地の六魔枢は巨大ゴーレムを操るパペータだ。そして副将は防御力の高い鎧を身にまとったクロガネである。
「良いけど、俺は戦力にならないぞ。確か地属性の魔物って、防御力が高くて魔法が有効なんだろ?」
谷の言う通り、地属性の魔物は直接攻撃が効きづらく、魔法攻撃が有効だ。そして谷は普通の攻撃魔法は得意ではない。以前の俺と同じく、医者としての知識が邪魔しているそうだ。
「普段は戦いに参加しなくても大丈夫だ。それと、お前にしか出来ない魔法を考えてある」
前に俺が使おうとしたら、知識不足で断念した魔法である……教師役はアニエスにお願いしよう。それと外堀から埋めて逃げられなくしてやる。
「今回は誰を連れて行くんだ?俺とサンダは行くとして、お妃さ……カリナの嬢ちゃんはどうするんだ?」
聞こえません。お妃様なんて言葉、聞こえません。
「カリナ様の戦闘方法は地属性の魔物と相性がよろしくないですが、ハニートラップ対策には有効です。是非、参加して頂きましょう」
サンダ先生もカリナ様扱いしてきたか……友よ、見るが良い。これが外堀を埋められて、天守閣まで攻略された男の姿だぞ。
「当たり前だろ。誰かさんはカリナの嬢ちゃんが作った飯じゃないと調子が出ないとか、のろけてんだぜ。臣下として当然の配慮だ」
何気なく言ったのに、良く覚えているな。そうなると守備要員を増やさなきゃ駄目だな。
「ドンガを連れて行きます。今のうちに手柄を立てておけば、重騎士隊にも入りやすいですし」
ドンガはハンマー系の武器を持たせれば問題ないだろう。
◇
ドンガは快く了承してくれた……そう、ドンガは……。
「嫌でござる。拙者はドンガと離れたくないでござる。ドンガのモフモフに他の女子が魅了されたら、ジョージ様どう責任をとるおつもりですか?」
凛さんが断固として首を縦に振ってくれません。
いや、ジョージ様は風のヒロインを預かっている立場として、危険な目に合わせたくないんですが。何より刀は土属性の魔物との相性がよろしくない。
「しかし、アーシック領には岩の様な外殻を持った魔物がおりまして、凛殿の刀は折れる危険性があるのですよ」
刀は武士の命だ。折れると聞けば凛も折れてくれる筈。
「つまり拙者があーしっくに付いて行くのは問題ないのでござるね。ご心配なさらずに、拙者は槍や鎖鎌も使えますので、硬い敵とも戦えるでござる……ドンガとお泊り旅行楽しみでござるなー」
凛殿、乙女モード全開でござる……ゲームでは先祖の遺言もあり、恋に積極的ではなかったが、今の凛は遺言どころか家からも解放されているのだ。
この話なしよっ……って、もう通じないよね。
お陰様でなろうコン一次、三作通過しました。そしてまた新作を始めてます




