ノックアウト!
ゲームでは魔物を倒した奴が、全てを総取りしていた。金も名誉も……魔石も全て。
いや、まじで、これどうしよう。マエストロ・グライツァーから取り出した魔石は大きさもさることながら、輝きが凄かった。夕陽の様な赤色で、一点の濁りもない。それでいて血で塗られた様な怪しい美しさがある。
「……マジで、どうしたら良いんですかね?」
マエストロ・グライツァーを倒したメンバーに問い掛ける。
誰も見ていないなら、宝石や金の様に小分けにして売るんだけど。あれだけの群衆に見られていたら、それも不可能だ。
「王侯貴族の家宝レベルで、値段はつけられないと思います。喉から手が出る程欲しい人は大勢いるでしょうが、対価を考えれば二の足を踏むでしょうね」
サンダ先生が言う通り、これは王侯貴族の家宝レベルだと思う。ご機嫌取りに贈るのは簡単だけど、このレベルになると有難迷惑だ。
「警備に携わる人間から言わせれば厄介物でしかねえぜ。この魔石一個に警備の人員を割くのは勘弁して欲しい」
ボルフ先生と同じ意見で、俺もボーブルに持って帰る気はない。使い道のない魔石に経費を割きたくないし。
「イグニス荒野で取れたんだから所有権はイジワール公爵にありますとか言って、プレゼントすれば点数稼ぎになるんじゃないか?」
谷の言う通り、それが一番楽だ。でも、そうなると違う問題を警戒しなきゃいけなくなる。
「イジワール公爵に贈るのは簡単ですが、そうなるとお返しを受け取らなければいけません。ジョージさんは爵位がありませんので、何を贈られても断れませんわ。そしてリーズン様は、結婚と同時にボーブルからお離れになります。我が家はロッコーおじ様がおられるので、ボーブルの農産物や製品を優先的に買わせて頂いております。縁を繋げる為の贈り物を警戒しなくてはいけませんわ」
アニエスさんの言う通り、イジワール公爵が親戚の女性をめとれと言ってくる可能性は否定できない。カリナの存在を抜きにしても、勘弁して欲しい。一人をめとれば我が家も我が家もと、迫られ縁戚でがんじがらめになってしまう。
それに、そうなると俺を嫌っている女性を強引に抱かなきゃいけなくなるのだ。近付いただけで泣かれ、触れたら叫び声をあげられる……絶対に出家したくなると思う。抱かなきゃ抱かないで、うちの娘を蔑ろにしているとか怒られるだろうし。
(アニエスも谷の影響で、世事に詳しくなったな……待てよ、ウォーテック家か)
「ウォーテック家、レオパルド家、コルレシオン家、アコーギ家の連名でリーズンの結婚祝いとして贈りましょう。アニエスさん、連絡お願いしますね」
アニエスもマエストロ・グライツァー戦に参加しているから、これが一番妥当だと思う。レオパルド家は婿となるサンダ先生の活躍で鼻高々だし、スノウさんが嫁いだコルレシオン家を巻き込めば、嫁さんを押し付けられる事はないだろう。
……これから六魔枢倒す度に、毎回頭を悩まさなきゃ駄目なんだろうか?
◇
無事にマエストロ・グライツァーを倒せた事で、イジワール城は連日お祭り騒ぎとなった。オボロの時と違いルストラが門まで攻めてきたし、イジワール公爵も襲われている。何よりマエストロ・グライツァーを見た人が何人もいたのが大きかったと思う。
俺は陰の功労者になったけども、流石にパーティーに出ない訳にはいかず、五日もイジワール城に泊まるはめになった。
ちなみにあれからカリナに会えていない。カリナはカリナでご婦人方のお茶会に引っ張りだこになっていたのだ。フライングシップに乗っても恥ずかしいのか、後ろの席に座ってしまうし。
無事にボーブルに帰って来て一安心……とはいかなかった。先発隊がカリナに告白した事を伝えたらしく、お祝いムード一色になっていた。
「なんか城に入り辛いですね」
ボーブル城には“ジョージ様告白成功”とか“ジョージ様、カリナちゃんおめでとうございます”と書かれた垂れ幕が飾られていたのだ。
「お前がうじうじしていつまでも気持ちを伝えないから、皆心配してたんだよ。お前がオドオドしていたら、カリナの嬢ちゃんはもっと帰り辛くなるんだぞ」
ボルフ先生の言う事はもっともだ。でも、これだけ祝われてカリナに振られたら、きついと思う。
「ですよね……って、爺ちゃん!?ホートー様までいるし」
城の前で爺ちゃんとホートー様が待っていたのだ。
「ジョージ、六魔枢退治ご苦労であった。そしてホートー様が褒美を下さるそうだ」
爺ちゃんはそう言うと楽しそうに笑った。
「正確に言うと俺からじゃないんだがな。ジョージ、お前が前に話していた妖精の棲息地はボーブル領に組み込まれる事になったぞ」
ホートーがシェーン王子と組んでアランにプレッシャーを掛けたそうだ。
まずシェーン王子が“王家はジョージの功績を讃えて、褒美を与える予定だ。父としてお前は何を贈るのだ”と切り込む。アランは俺の父親という以外にも、風の谷を有する領主としての立場がある。それ相応の贈り物をしなければならない。
続けざまにホートーが“別に難しく考えるな。ボーブルと繋がっている草原でもやればいいだろ?人が住んでいないから税収もない。王家だけでなくウォーテック家かゴルド公爵も贈り物をするらしいんだぜ。父親のお前が知らん顔していたら面子が潰れるぞ”と脅したそうだ。
これでカカリさんは救われたけど、マエストロ・グライツァーより王子とホートーの方が怖いです。
「全ては、シェーン王子とホートー様のご尽力のお陰です。生きてるうちにひ孫の顔を見られそうで、今から楽しみでございます」
爺ちゃん、俺気持ちを伝えただけで手すら握ってないんですけど。
「そういやお前告白の時、グダグダだったそうじゃねえか。“むしろ、こんな危ない所まで着いて来てくれて感謝してるよ……その、なんだ。これからもずっと着いて来てくれないか?け、結婚はまだ早いから、恋人からでお願いします”いい年したおっさんの癖にもう少し気が利いた事言えないのかよ」
ホートーはそう言うと、深い溜め息を漏らした。俺が貴女の瞳は月の様に美しくとか言ったら、逆にドン引きなんですけど。
しかし、ちょっと気になる事が出来た。
「あの、なんでそんなにお詳しいんですか?」
先発隊が伝えたにしても、一字一句間違わないなんて事あるんだろうか?
「あれだよ。女性陣に大受けだぞ」
にやりと笑ったホートーの指さす先には“アイリーンの紙芝居・ジョージ様の告白”と書かれた看板があった。
「そこでジョージ様はカリナ様を抱き寄せると“むしろ、こんな危ない所まで着いて来てくれて感謝してるよ……その、なんだ。これからもずっと着いて来てくれないか?け、結婚はまだ早いから、恋人からでお願いします”と告白なされたのです」
そこにいたのは俺の真似をしている栗鼠人のアイリーン・エリャである。同時に黄色い歓声が沸く。
最初は告白の話を聞いた母さんが詳しく聞きたいとリクエストしたのが切っ掛けらしい。それを聞いたハウスキーパー部門の職員やボーブルに住む女性陣からもリクエストが殺到したとの事。
「ジョージ、民を喜ばせるのも領主の務めだ。覚悟しろ……それと死者の森に、謎の建造物が建った。落ちついたら、力を貸してもらえぬか?」
爺ちゃんはそう言うと、深々と頭を下げてきた。溜まっている仕事と先に片付けられる仕事……カリナとイチャイチャ出来ないじゃん。
◇
栄養ドリンクが欲しい。仕事が一段落した時には、既に深夜だった。小腹が空いたけど、今から誰を起こすのは気がひける。隠しておいたカップ麺でも食うか。
「ジョージ、お疲れ様。御握り作ったよ」
俺がカップ麺を探していると、カリナがやってきた。前と違い今は恋人同士な訳で……夜中の来訪は色々とまずいのです。
……ガキじゃないんだから、がっつくのは禁止だ。ここは大人の余裕でカリナをリードしてやろう。
パソコンから離れて、ソファーに腰掛ける。
「ありがとう。もらうよ……今日、爺ちゃんから依頼があった。死者の森にも六魔枢が出たみたいだ」
死者の森はトラウマがあるから、あまり行きたくないんだけど。
「火の爪もパワーアップしたから、アンデッドの相手は任せて。闇って事はユリアを連れてくのかい?」
カリナはそう言ながら、俺の隣に座った。これはゴーサインなんだろうか?据え膳食わぬは男の恥と言うし……しかし、間違った場合はカリナを傷付けてしまう訳で。
「それとアイン君だな。ナイテックがユリアを狙ってくるイベントが起きる筈だから、ガード役が必要だ」
気付かれぬようカリナとの距離を縮める。
「そっか……それじゃあたいは寝るね」
カリナはそう言うと素早く立ち上がった。ちょっとがっかりしていると、頬に柔らかな感触が……。
「お、お疲れ様のプレゼントだよ……おやすみっ」
俺は大人だ。ほっぺにチューされたくらいで……見事にノックアウトされました。




