マエストロ・グライツァー戦 そして
マエストロ・グライツァーが住んでいる城に徒歩で移動していたら、時間が掛かるし戦闘やらなんやらで無駄に疲れてしまう。だからイグニス荒野の移動にはゴーレム車を利用する事にした。
マエストロ・グライツァー戦に参加するのは俺、ボルフ先生、サンダ先生、カリナ、谷、アニエスさんの六人。危ないのでカリナに留守番役を言い渡したら断固拒否されたのだ。
ちなみに今回俺が持って行くのはスパナにトラッシュスライムを入れたバックパック、そしてバックパックにくくりつけた特製の矢。今回のメインウェポンの槍だ。穂先は日本で買った軍用ナイフを着けている。
「ジョージ様、曲がった釘や壊れた武器を何に使うのですか?」
そしてサンダ先生には大量のジャンク品を持ってもらっている。全部、無料で手に入れた物ばかりだ。
「サンダ、気にするだけ無駄だぜ。どうせ、ろくでもない事に使うつもりなんだろ」
ボルフ先生が溜め息を漏らしながら、睨んできた……効率よくマエストロ・グライツァーを倒す為に使うのだ。ちなみにボルフ先生には弓を持ってもらっている。
「そこはお楽しみに……谷、頼んでおいた物もってきてくれたか?」
谷はゴーレム車の運転に慣れたらしく、巧みに魔物をかわしている。イグニス荒野は見通しが利くというのもあるが、魔物に勘付かれない様に距離を取っているのが大きい。
「太めのテープだろ?ガーゼを止める時に使うやつを持ってきたぞ……随分、魔物が増えてきたな」
谷の言う通り城に近付くに連れて、魔物の数が増加していた。魔物が俺達を襲って来ないのは、距離が離れているのに加え、大量投入された軍人と戦っているからだろう。
谷には、油を染み込ませたおが屑をボール状に丸めた物も持ってもらっている。
「ルストラが指揮官の役割を担っていたから、統制が利かなくなっているんだろ。それに加えてイジワール公爵を襲った邪竜は門番なんだ。抑える奴がいなくなって、城中の魔物が出て来てる筈だ。城に残っている魔物は僅かだと思うぜ」
ここ数日調査して分かった事なんだけど、魔物の数が減少し元の数まで復活するまでタイムラグがあった。ゲームでは魔界から召喚している描写があったから、その辺が関係しているのかもしれない。
「要は今が攻め時って事だろ。それでどこから侵入するんだ?まさか、堂々と正面突破なんて言わないよな」
流石元アサシン&俺の師匠であるボルフ先生だ。騎士なら正門から正々堂々と攻め込んだ方が評価が上がるそうだ。
「正門は選抜隊に任せますよ。その為に城の見取り図を渡したんですし」
中ボスや罠の解除法まで明記した攻略本並に詳細な地図である。当たり前であるが、この世界には宝箱なんて存在しない。宝箱は見つけた人間の物にして良いって事にしたら、危険手当減らせたのに。
「……丈治、城が見えてきたぜ。こりゃまた綺麗な城だな。パンフレットか絵本に出てきそうな城だぜ」
六魔枢の城は全部、雰囲気が違う。オボロは日本の城がモデルになっていて、マエストロ・グライツァーの城はドイツのノイシュバンシュタイン城をモデルにしている……ファンタジーなのに、軍事要塞や和風な建物は世界観を壊すと掲示板に書かれたけど、似たような城ばかりだと手抜きと叩かれるのだ。
見えてきたのは荒野にポツンと建っている白亜の城。観光の目玉になりそうな美しさがである。
「確かに綺麗ですが、随分と小ぶりなお城ですね。防衛拠点としては不向きに思えるのですが」
サンダ先生の言う通り、マエストロ・グライツァーの城は三階建てで、高さはあまりない。序盤で広すぎるダンジョンを出すと、リタイアされてしまうからだ。
「それだけマエストロ・グライツァーは自信があるんですよ。それに広さはそれなりにありますし、中は迷路みたいになっています……谷、この辺で停めてくれ」
城の構造は頭の中に入っているけど、まともに攻略する気はない。
「ジョージ、城はこっちだよ。どこに行くのさ」
目的地に向かって歩き出した俺をカリナが止めた。確かに俺は城とは違う方向に進んでいる。
「こっちで良いんだよ。谷、今のうちにテープをもらえるか?……っと忘れてた。シャイニングボディ。それじゃ行くぞ」
テープを受け取り、大回りする感じで進んでいく。
「ここは城の裏手ですか?でも、入り口がありませんよ」
着いたのは城の裏手。サンダ先生の言う通り、裏口の類は一切なく、見えているのはステンドグラスがはめられた窓だけである。
その所為か、裏手には魔物が全くいなかった。攻め込まれる事を想定していないのか、それとも裏手に割く兵力がないんだろうか。
「ちょっと待って下さい。今、入り口を作りますから」
窓にテープをXの形に張り付けていく。ここで取り出したるはスパナ。
「おいおい、泥棒の真似するのかよ」
谷君、残念。俺は泥棒じゃなくアサシンだ。呆れる谷を無視して、窓にスパナを振り下ろす。テープで固定したお陰でガラスは飛び散らず、音も響かなかった。
「ここから入りますよ。手を切らない様にして下さいね……あそこがマエストロ・グライツァーの部屋ですよ」
窓の向こうにあったのは細かな装飾が施されたドア。ゲームではあの部屋にマエストロ・グライツァーがいる……てか、絶対にいる。部屋から強力なオーラを感じるし。
「それでこの辺りを立ち入り禁止にしたんですね」
サンダ先生の言う通り、参加者に渡した地図ではこの辺りを立ち入り禁止にしてある。
「それもありますけど……サンダ先生、ジーオウォールで通路を塞いでもらえますか?ボルフ先生、カリナ、俺の合図に合わせてドアを開けて下さい」
ジーオウォールは石で出来た壁を出現させて、敵の攻撃を跳ね返す魔法だ。俺も使えるが、石ではなく泥になってしまう。
「分かりました……ジーオウォール」
流石というかなんというか、一瞬にして分厚い壁が出現し、通路を塞ぐ。
「ここからは手筈通りお願いします……ドアを開けて下さい」
バックパックから矢を外して、二人に合図を送る。ドアが開いたのを確認し、一気に部屋へと雪崩れ込む。
……いた。マエストロ・グライツァーだ。椅子に座りながら、優雅にお茶を飲んでいる。
「流石はジョージ・アコーギですね。どこから来たのか分かりませんが……」
マエストロ・グライツァーの言葉を遮る様に矢を放つ。純度の高い水の魔石を矢じりに使用した特別製だ。
矢は確かにマエストロ・グライツァーの胸に突き刺さった……やっぱり、これだけじゃ駄目か。
「痛いじゃないですか……そんなに死にたいんなら、焼き殺してやるよ」
次の瞬間、マエストロ・グライツァーを巨大な炎が包み込んだ。そして本来の姿であるイフリートへと戻っていた。ワニを彷彿とさせる凶悪な顔に、高温で真っ赤になった皮膚。そしてルストラよりも屈強な身体。正直、小便ちびりそうな位怖い。近付いただけで火傷しそうだ。
「谷、サンダ先生、お願いします」
俺の合図に合わせて巨大な岩石がマエストロ・グライツァーに襲い掛かる。同時におが屑球を投げ入れた。おが屑球は直ぐに火をあげて、部屋に置かれた絵画を燃やしていく。
「ジョージ、早く。こっちだよ」
カリナの声に従い、部屋を出る。俺が出たのを見計らってドアが閉められた。
「さてと、スライムちゃん頼むぜ」
ドアにトラッシュスライムを噴きかけていく。マエストロ・グライツァーの熱でやられたのか、トラッシュスライムはドアにへばりつくなり、固まっていく。
トラッシュスライムはドアをびっしりと覆い空気が入る隙間もない……マエストロ・グライツァーが窒息死してくれたらありがたいんだけど、それは無理だろう。
「ジョージ、あいつドアをぶん殴ってるぞ」
ボルフ先生の言う通り、マエストロ・グライツァーがドアを殴りつけている様で、ドアどころか城自体が揺れている。
「それじゃ、出来るだけ遠くに逃げますよ。サンダ先生、武器と釘を入れた籠をドアの前に置いて下さい」
窓から逃げて五分くらい経った頃だろうか。物凄い爆音が鳴り響いた。
「上手くバックドラフトが起きてくれたみたいだな……凄いな。まだ生きてるぜ」
おが屑球を投げ入れたのは、少しでも早く部屋の酸素を消費する為だし、武器や釘を入れた籠を部屋の前に置いたのは爆風に巻き込ませてダメージを与える為だ。
でも、マエストロ・グライツァーは倒せなかった。深手は負っているが、こっちに向かって来ている。
「第二作戦でも駄目か……谷、アニエスさん頼む。カリナ、サンダ先生、ボルフ先生お願いしますよ」
槍を構えて、攻撃態勢を取る。
「アニエス、俺の指示した所を攻撃しろ……あそこを狙えるかっ!」
谷はアニエスを背中から抱きしめながら、指示をだす。
「はい、ハイドロカッター!」
アニエスの放ったハイドロカッターがマエストロ・グライツァーの腕を切り裂く。
「よっと、ボディががら空きだぜっ」
呆然としているマエストロ・グライツァーの腹に槍を突き刺す。かなり頑丈な様で、深くは突き刺さらなかった。
「俺にここまで深手を負わせるとはな。でも、自分で懐に飛び込んでくるとは良い度胸だ……」
さっきまで余裕があったマエストロ・グライツァーだが、今は少し顔が青ざめている。
「どうした?俺を攻撃するつもりじゃなかったのか?……良い事を教えてやる、谷とアニエスさんが狙ったのはお前の腕の腱さ。そうしてもう一つ、良い事を教えてやる。俺達は六人パーティーなんだぜ」
正確には上腕二頭筋らしい。爆風で皮膚がボロボロになった事もあり、見事に切り裂いていた。骨は切れなくても、上腕二頭筋が切れると、腕を上手く動かせなくなるそうだ。
「風牙爪っ!」
背中に衝撃が走ったと思うと、カリナの声が聞こえてきた。カリナの爪がマエストロ・グライツァーの首を切り裂く。マエストロ・グライツァーの分厚い皮膚から血が滲んでいる。
「流石はカリナの嬢ちゃんだ。一番斬りやすい所を狙ってやがる」
続けざまにボルフ先生が鉈で斬りつける。同じ個所を狙った事もあり、ボルフ先生の一撃は首の筋肉を切り裂いた。
「お二人共、ありがとうございます。これだけ斬れれば充分です」
とどめとばかりに放たれたれサンダ先生の重い一撃で、マエストロ・グライツァーの首が吹き飛んだ。
……なんとかマエストロ・グライツァーを倒す事が出来た。
……さっきから谷とアニエスさんの視線を感じる。そうですよね、カリナに告るって言いましたもんね。
そしてサンダ先生とボルフ先生も俺を見ている。先生達からも無言のプレッシャーを感じる。
「ジョージ、背中痛くなかったかい?」
そんな事とは露とも知らず、カリナが駆け寄って来る。絶好のチャンス過ぎて逆に怖い。
「大丈夫だよ……むしろ、こんな危ない所まで着いて来てくれて感謝してるよ……その、なんだ。これからもずっと着いて来てくれないか?け、結婚はまだ早いから、恋人からでお願いします」
カリナは涙を浮かべながら、抱きついて来た。
「ずっと、ずっと待ってたんだからね」
そして湧き上がる歓声……?見ると大勢の人が俺達を見ている。
そりゃ、あんなに大きな音を出したら人も集まるよな。
ようやくです。それとこのキャラとこのキャラをくっつけるなとか言う感想は受け付けません。




