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嫌われ者始めました〜転生リーマンの領地運営物語〜  作者: くま太郎


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入学式

 ようやく四月になった。これで俺も高校生となるのだ。つまり新規事業を開始してもオッケーなのである。

 キミテと同じ展開なら、各地で魔族や魔物の動きが活発になってくる。ゴールドラッシュで一番儲けたのは、採掘道具を取り扱った業者だという……それなら、これから来るのは携帯食関係だ。


「谷崎先生、新規事業として乾パンやインスタント食品の製造を始めようと思うんです。だから製薬部門でフリーズドライの研究開発をやってもらえますか?」

 机に両肘をつき、拳を額にあてながら谷に話し掛ける。我ながら、出来る領主の雰囲気満点だと思う。


「やってもらえますか……じゃねえよ。フリーズドライなんて、簡単に再現出来る訳ないだろ!それにまだ入学式前だぞ。新規事業に着手するのは、まずいんじゃないのか?」    

 今日は4月1日だ。そして谷の言う通り、高校の入学式は7日である。俺が高校生に入学したかどうかは、グレーゾーンだろう。


「やっぱり、難しいか。魔法を一定温度に保つのは難しいんだよな。味噌玉を受け入れてもらう下地はまだ出来ていなし」

 お陰様で味噌と醤油の製造は順調である……そう製造は順調なんだよな。


「外国で日本食が定着するまで時間が掛かったもんな。味噌汁なんて泥汁扱いだったって言うし。それと、あんまり無茶するとまたアミちゃんに叱られるぞ」

 ボーブルで和食を好んで食べているのは俺と谷だけなのである。気分転換で食べる人はいるけど、まだメジャーとは言えない。


「対人戦がバレた時は参ったよ」

 アミは俺が対人戦をしたと知ると、涙を流して側を離れようとしなかったのである。子供の頃のように俺の服をつまんだまま、泣きじゃくったのだ。お兄様が罪悪感で心を折られたのは言うまでもない。


「そういやお前の親父さんはアコーギ家に勇者の血を入れたかったんだろ?お前が駄目なら、アミちゃんを結婚させようとするんじゃないか?」


「いや、一度アミを社交界から身を引かせたから無理だよ。アミはボーブルに来てからパーティーにも出ていないし」

 多分、アランは今子作りに励んでいると思う。アミが健康だと知れ渡ると、パーティーの招待状が山のように届いた。参加はアミに任せたんだけど、どうもまだ出る気にはなれないらしい。


「アニエスさんから聞いたけど、アミちゃんを強引に口説いていた奴がいたらしいな。今、そいつの実家がやばい事になっているんだってよ」

 アミが出席を渋ったのは伯爵家の嫡男が、しつこく言い寄ってきたのが原因だった。

 そいつはアミが盲腸に掛かったと聞いた途端、他の女を口説き始めたそうだ。そしてアミが健康になったと聞くと何通もラブレターを送ってきたのだ。  

 ……俺は速攻、アサシンギルドとナイトクロウに命じて、そいつの事を徹底的に調べあげた。


「叩けば埃って出るもんだな。脱税に密輸。おまけに婚約者がいる女にも手を出していたんだぜ。日本なら週刊誌が食い付いただろうな」

 しかも、その婚約者が自領の騎士だってんだから、たちが悪い。きちんと廃嫡まで追い込んでやった。


「しかし、この世界の貴族ってスケベが多いよな。ライテック家救済基金も、すぐに集まったんだろ」

 谷の言う通り、ライテック救済基金は数日で目標額に達した。アコーギ家が融資した金額も耳を揃えて返したらしい。俺とライテック家との繋がりはなくなったのだ……これで謎の存在が妨害を止めてくれたら助かるんだけどな。

 なんで助けるんですか?って意見もあったけど、マリーナの力は魔王との戦いに役立つ。強力な駒は多ければ、多いほど有利になるのだ。


「仕方ねえだろ。この世界にはエロビどころかエロ本すらないんだぜ。お陰様でサキュバス娼館は毎日満員御礼。サキュバスも増えてて、ただ今増築中だ。ファルコ伯爵が娼館の守護騎士を自認してくれているから、引き抜きもないし」

 しかし、俺は近付く事すら禁止されているので、どんな風になっているのか全く分からない。


「サキュバスって言えば、非番のサキュバスを集めてオデットさんが鍛錬してるんだってな……丈治、どうした?顔が青いぞ」

 オデットさん、鍛錬……その二文字が俺のトラウマを刺激する。あれ以来仕事を部下に割り振りし、時間に余裕が出来た。しかし、トロイアーとの一件を聞いたオデットさんが鍛錬を本格化してくれたのだ。

 ジョージ様、ニホンで見たこんぼなるものを身に付ける事が出来ましたので、体感してみて下さい……コンボと書いてタコ殴りと読む。コンボ、回復、コンボ、回復の無限地獄を体験しました。


「だ、大丈夫だ……携帯食は徐々にやっていくとして、入学式まで別荘でゆっくりするよ。それともう一つお前に頼みがあるんだ。別荘で話すから来てくれ」

 醤油があるので、魚介に舌鼓をうつんだ。このまま、別荘にフェードアウトすれば誰も気付かないはず。

 部屋から出ようとした瞬間、何故かドアが勢いよく開かれた。そこにいたのは珍しく慌てているボルフ先生……。


「ジョージ、ボーブルの各地に魔物が現れたぞ。今のところゴブリンやコボルトだけで、大きい被害の報告は届いてねえそうだ」

 1日になった途端、活発になるのかよ。魔王ゴライアスさんは、随分と期日に正確なようだ。漫画やラノベだって地方だと、発売が遅れるんだから、うちみたいな小規模領地は後回しにしても良いのに。


「緊急会議を開きます。メンバーの招集をお願いします」

 対策が一時間遅れただけで、どんな被害が出るか分からない。久し振りにデスマーチとなるだろう。


 ◇

 会議の参加者は俺・ボルフ先生・サンダ先生・ギリルさん・ミューエさん・ベガル・ハンマーさん・ロッコーさん・谷の九人……俺一人から始まった魔王軍対策も、今はこんなに心強い味方が揃っている。


「前から計画していた派出所制度を開始します。町や村に派出所を設置、兵士数人を派遣し普段は治安維持や道案内等の対応をさせます」

 こうなってくると、規模に関係なくどこが襲われるか分からない。でも、まだ魔族が動き出した事は知れ渡っていないのだ。いきなり兵士が来たら不安を覚えさせてしまう。


「各町村と縁がある騎士や兵を向かわせますね。人選は私とミューエが行います」

 サンダ先生の発言にミューエさんが頷く。この二人に任せておけば、問題ないだろう。


「次に弓兵隊をヴェント谷と距離が一番近い街へ派遣して下さい」

 ヴェント谷に住む恐鳥類の相手は、一般の騎士や兵士では分が悪い。恐鳥類が襲ってきそうな町に集中的に弓兵を常駐させれば、被害を減らせると思う。


「ヴェント谷はイグニス荒野みたいな門がないし、作っても恐鳥類が相手だと意味がねえもんな」

 ゴブリンみたいな魔物なら門や塀で動きを制限出来る。しかし、恐鳥類には無意味だ。塀を作っても費用対効果が最悪になってしまう。


「それと爺ちゃんのところに光の魔石を送るので、ギリルさんお願いしても良いですか?」

 恐鳥類と同じく死者の森に出現するゴーストも門や塀は無意味だ。でも光の魔石を地面に埋め込んでおけば、ゴーストだけじゃなくアンデットの動きを制限できる。


「分かりました。手配しておきます。今年に入ってから、コーカツ領で光の魔石の価格が上がっているそうなので、ローレン様もお喜びになるかと」

 光の魔石は、死者の森に出現するアンデットと戦う上で必需品だ。魔物の動きが活発化すると、値段が上がるのは自明の理である。爺ちゃんなら買い占めも出来るんだろうけど、そんな事をしたら価格が青天井になってしまう。光の魔石は照明器具にも使われるので価格は一定に保たなきゃいけない。


「ロッコーさんは谷と一緒にウォーテック領に赴いて、ルラキ湖に作るゴーレム塀の話し合いに参加して下さい」

 ロッコーさんと谷のお陰でウォーテック家との関係はすこぶる良好である。なによりアニエスから一度谷をウォーテック領に派遣して欲しいと矢のような催促が来ているのだ。


「エルフのロッコーさんはともかく、俺は関係ないだろ」

 谷君、そうは言うけどウォーテック家の人達は君に興味津々なんだよ。娘の想い人が神使と契約しているって分かったんだし。  

 ウォーテック家が谷の素性を調査しようとしたら、アーツアルトが降臨したそうだ。“谷崎祐一は私の契約者です。彼は人を救えばアニエスと同じ時を歩めますよ”そう告げたらしい。これでウォーテック家が谷に手を出す事はなくなった。


「ウォーテック家でお前に診て欲しい病人がいるらしいんだ。俺は新商品の開発や政務で手一杯になりそうだから頼むよ」

 正確に言うとウォーテック家が谷を呼ぶ為に、病人を見つけて来たんだけど。


 ◇

 春眠暁を覚えず……ゴーレム馬車の揺れが心地好すぎて睡魔が強襲してくる。知らず知らずのうちに生あくびが出てしまう。

 ……いざ蓋を開けたら手一杯なんてレベルじゃなかった。今日は高校の入学式だけど、連日のデスマーチのせいで寝不足です。


「ジョージ様、また徹夜をしただか?目の隈が凄いだよ」

 あまりに隈が濃く、ドンガに心配される始末だ。ゴーレム馬車には他にカリナ・アミ・リリル・ヘゥーボ・アイン・ユリアの八人が乗っている。

 小学校の入学式に向かう時はドンガと二人だけだった。今は王都で合流するヴェルデとラパンさんを加えると十人になる。

 学校関連ではこの十人が俺の味方だ。でも、ジョージパーティーにアインが加わる事になるとは思わなかった。

 そしてオリジナルメンバー三人の成長も著しい。

 ドンガは相変わらず小心者だけど、自分の意思をはっきり言えるようになった。

 ヴェルデはギリアム商会の稼ぎ頭になり、ラパンさんとの仲も好調との事。

 ヘゥーボの作る物は相変わらず残念な所があるけど、リリルや周囲の手助けのお陰で工業ギルドの人気商品になっている。


「大丈夫だ。昨日であらかた落ち着いたから」

 入学式は居眠りをせずに乗り切れると思う。何しろ今回の入学式では、お偉いさんの挨拶が続く。決して居眠りをする訳にいかないのだ。


 ◇

 入学式の最中にとんでもない事に気付いた。今回の入学式には、他国のお偉いさんがゲストとして招かれている。

 キミテでは入学式の後、ゴブリンとの戦闘(チュートリアル)があるのだ。

 入学式が終わると、主人公は神使ピュリアに頼まれて体育館裏に拠り所の木(セーブポイント)を見に行く。そこでジョージとゴブリンの戦闘が発生するのだ。

 そして、ジョージはゴブリンにボコられて気絶しまう……それはまだいい、そんなのは些事だ。諸外国のお偉いさんが集まる中、王都にゴブリンが出現したら大問題に発展してしまう。

 しかも今回は各国の新聞社も同行しているらしい。テレビ中継の入っている国際試合の会場に、暴漢が現れるような物なのだ。


(シロー君には悪いけど、チュートリアルイベントは潰させてもらう……式が終わったら、体育館裏にダッシュだ)

 閉会の挨拶と同時に、立ち上がって駆け出す。


「ちょっとジョージ、どこに行くんだい?」


「カリナ、ボルフ先生に体育館裏に来るように伝えてくれ」

 カリナに伝言を頼み、全速力で駆け抜ける。

 体育館裏に着くと、奇妙な事が起こった。空間の一部が歪み、突然ゴブリンが現れたのである。

 現れたゴブリンは全部で五匹。ちなみに入学式に出席する為、武器や防具は身に付けていない。持っているのは、ハンカチくらいだ。


「設置式の召喚術かよ……お前達には悪いけど、跡形もなく始末させてもらうぜ」

 ゲームでは現れたの一匹だけだったし、武器も防具も身に着けていなかった。しかし、俺の目の前にいるゴブリンは本格的な装備を身に付けている。普段なら装備を整えてから出直しているだろう。でも、そんな暇はない。


「ギョゲ、ギョーゲー」

 ゴブリンは興奮状態らしく、大声をあげて突っ込んできた。


「大声上げて誰かに気付かれたらどうするんだよっ」

 ダッシュでゴブリンとの距離を縮めて、背後に回り込む。ハンカチをゴブリンの口に押し当て、そのまま首をへし折る。


「温度は二百、飽和水蒸気量は最大……スチームドーム」

 真っ白な蒸気がゴブリン達を包み込む。かなりのオーバーキルだけど、一匹ずつ相手にしていたら誰かに気付かれてしまう。

 ちなみにこの魔法を考えたのは谷だ。この魔法で敵の顔を覆うだけで、確実に仕留めれるらしい。でも、確実に倒すには水蒸気の量を増やさなきゃいけない。ちなみに今回の魔法は俺の限界を超えている。


「そうなんだ。それならマリーナさんと昔会った事があるかも知れないね」

 聞こえてきたのは、シロー君の声。


「絶対に会ってるよ。これは運命の再会だね」

 多分、今喋ったのは神使ピュリアだと思う……やばい、もう限界だ。


「遠目で見ても大きい拠り所の木だね……って、ジョージ様、大丈夫ですか?」


「ゴブリンが五匹もいる?……なんで」

 ピュリアが驚いているが、知ったこっちゃない。俺はもう限界だ。疲労と眠気に加え、魔力を使い果たした所為で、意識が遠のいていく。


「ジョージッ!目を離すと、すぐに無茶するんだから」

 カリナの声が聞こえたかと思うと、温かい何かに包まれる。見ると涙目のカリナが俺を抱きしめてくれていた。

 そして、仲間の声が聞こえてくる。


「ジョージ様、無茶しすぎだよ」

 ドンガが呆れながらも俺を背負う。


「シロー、ここで見た事は誰にも言うなよ」

 アインが素早く、シロー君に釘を刺す。これもギリルの教育の賜物だ。


「召喚系のトラップすね。リリル、何か分かるっすか?」

 ユリアはトラップを調べながら、辺りを警戒してくれている。


「うーん、痕跡は見当たらないねー。ヘゥーボは何か分かる?」


「これは対象者の魔力に反応して、魔物を召喚するマジックアイテムだよ。でも、ジョージ様の魔力が強力で限界値を超えてしまったんだね。ヴェルデ君、どこで作られた物か分かる?」

「鑑定は後ですよ。今はゴブリンの始末とジョージ様へのお説教が先です。みんなに心配をかけたんですからね」

 ヘゥーボの言葉にみなが頷いた。


「ジョージ・アコーギが皆に慕われてる」

 そしてピュリア、なぜ驚く。それと同時に俺は意識を手放した……ゲームと同じで、結局、気絶かよ。



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