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嫌われ者始めました〜転生リーマンの領地運営物語〜  作者: くま太郎


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114/199

おぞ気がたつモノ

 さすがに感慨深い物がある。今俺がいるのはゴルド領と王都の境目、いわゆる検問でゴルド領に入る許可の申請中だ。

 ゲームでは、ここまで辿り着くとオープニングムービーが始まる。各キャラの紹介を兼ねたムービーのバックに流れるのはキミテの主題歌明日への一歩。それが終わると、タイトル画面になるのだ。

 目指すはゴルド領領都グロリアスの南西にあるバウム村。バウム村は山の中腹にある小さな村で、大きな拠り所の木が名物って設定だった。

 詳しく調べたところ、シローはブレイブ・アイデックの幼馴染みの少女ニアの子孫らしい。ニアがいつも大きな拠り所の木の下でブレイブを待っていたので、ヨリック姓になったとの事。ただ、ブレイブが死んだ後に妊娠が分かったらしく、ヨリック家は勇者の正式な子孫だとは認められていないらしい……この辺はゲームと同じだ。


「それでバウム村に行って何をするんだ?いきなりお前は勇者になるんだぞって言っても怪しまれるだけだろ」

 御者をしていないからなのか、ボルフ先生はくつろぎまくっている。領主である俺が目の前にいるのに、椅子にふんぞり返って座っていた。無礼のレベルで言ったら、自称勇者君を軽く凌駕していると思う。


「勇者シロー・ヨリックは人柄を見るだけにします……一番の目的はアイン・ルーベスとその母親クレア・ルーベスをボーブルに移住させる事です」

 戦力を強化する狙いもあるが、アインを自軍に勧誘出来ればシローと敵対する確率が少なくなるはず。ヒロインには嫌われても良いが、勇者にまで嫌われるのは避けたい。


「母親もボーブルに連れて行くのですか?移住させる人数は少ない方が良いと思いますが」

 ロッコーさんの疑問は、もっともだ。今、ボーブルへの移住を希望している人が増えており、制限を掛けている。そん中な見ず知らずの親子を領主特権で移住させたら、問題になるだろう。しかもクレアは大きな子供がいるとは思えない美貌の持ち主で、しかも未亡人。上手くやらないと、まじで問題になりかねない。


「アインが魔王軍に勧誘された原因は三つあるんですよ。勇者の活躍に対する嫉妬、幼馴染みフレーズに振られた事、そして母クレアの死です。ルーベス家は母子家庭で、お世辞にも生活は楽とは言えません。でも二人で頑張って生活していましたが、クレアが病気になって、帰らぬ人となってしまう。それが原因でアインの心に闇が生まれるんです」

 幼馴染みでライバルでもあった勇者の活躍を聞き、アインは嫉妬する。あいつと俺の戦闘能力は変らない。それなのに勇者の子孫だというだけで、幼馴染みは栄誉を手に入れた。

 しかも勇者はアインが恋い焦れているフレーズの心も持っていく。アインが諦めた高校に進学し、大勢の少女と親しくしているにもかかわらず、フレーズの心まで独占してしまうのだ。

 そんな中、母クレアが重い病に掛かってしまう。ルーベス家には薬を買う金どころか、精がつく食べ物を買う金すらない。何もできずに最愛の母クレアを見送ったアインにブリスコラが近づきこうささやく。“勇者から全てを奪え。お前にはその権利がある”と。そしてアインは魔王の配下となる。

 まあ、後からクレアが病に掛かったのはブリスコラの企みだと分かり、アインと勇者は和解するんだけど。


「それでアインを高校に進学させようとしたんですね」

 ロッコーさんの言う通り、高校進学基金を作った一番の狙いはアインの闇落ちを防ぐ為だ。でも、アイン一人を進学させては悪目立ちするので、ドンガやカリナも巻き込んだのだ。仲間が大勢いればヒロインズも俺に手を出せないと思う。


「でも、そいつ大丈夫なのか?自分が不幸になったからって、魔王軍に入ったんだろ?不幸に負けないで頑張っている奴は沢山いるぞ。ちょっと、視野が狭すぎないか?」

 ボルフ先生の言う通り、オリゾンにはアインより不幸な人間は大勢いる。失恋が原因で悪墜ちしていたら、俺は今頃大悪党になっていただろう。


「バウム村は小さな村です。あそこにいたら視野が狭くなるのは仕方ないですよ。それにボーブルには谷がいるんで、病気に掛かっても何とかなりますし」

 アインはイケメンだから、ボーブルに来れば新しい恋も見つかると思う。イケメンが増えるから、ドンガの新しい恋はさらに遠のくかもしれないけど。


「馬車が動いた?随分、早いな」

 ゴルド領の検問は許可が降りるのが早いので有名だけど、予想以上の速さだ。うちの検問だって、もっと時間が掛かる。


「確かに驚きの速さですね。聞いた話だと、人や物の流れをスムーズにする事で、経済の活性化をはかっているそうです。確かに経済は活発になりますけど、治安は悪くなるでしょうね。その辺をどう対応しているのか、見たいんですよね」

 今回はゴルド公爵の治世を見るっていう名目で来ているので、まず領都グロリアスに寄って行く。その後にバウム村に行く事になっている。時間配分はバウム村の方を多く取ってあり、まるで観光の方がメインになっている議員の出張のようだ。



 ◇


「しかし、こんな立派な休憩場を作るなんて、やっぱり公爵様は違うな」

 俺達が休憩を取っているのは、無料で使える休憩所。日本風に言えばやすらぎの駐馬場と言う感じだ。凄いのは無料なのに馬用の水飲み場が完備してあり、警備員が常駐しているらしい。その所為か、護衛をつけずに移動している貴族の女性もいた。

 ゴルド領領都グロリアス、そこでは金さえあれば手に入らない物はないと言う。金と欲が支配する町、それがグロリアスだ。当然、強力な装備も売っているが、ゲームで行けるのは後半になってからである。ゲームにはバランスが大切なんです。

 町のイメージは、ラスベガス。光の魔石を使ったネオンに、夜中も途切れない派手な音楽。ラスベガスをモデルにしているだけあって、カジノもある。オリゾンの文明レベルでスロットを作れるのはおかしいですって、突っ込むのは止めましょう。新しいミニゲームを開発するのは、大変なんです。

 そしてグロリアスは娼婦の町でもある。モデル級の娼婦がゴロゴロといるのだ。うちにも娼館があるので、グロリアスのシステムを学ぶ必要がある。これは出張なので、色々と学ぶ必要があるのだ。

 馬を休ませる為の小休止を利用して妄そ……グロリアスへ行った時の計画を練る。


「ジョージ様、日本のお母様から、この様な物を預かっております」

 小休止中に色々と妄想していたら、オデットさんが一枚の紙を差し出してきた。


『丈治譲渡状 息子と結婚してくれたら、丈治はカリナちゃんにあげます。だから丈治を焼こうが煮ようがカリナちゃんの自由。それともし丈治が浮気をしたら、母である私がぶん殴りに行かなくてはいけないんですが、それは無理なので、その役目を誰かに託します 榕木香』

 確か兄貴が結婚した時、似たような事を兄嫁さんに言っていた。てっきりネタだと思っていたんだけど。

 そして何故か、オデットさんがこれを持っている……つまりカリナは、オデットさんに委任状を託したと……笑えないって、絶対に瞬殺されるじゃん。


「あの、なぜこれを今出したんですか?」

 背中を冷たい汗が伝っていく。娼館見学も大事だが命はもっと大事だ。


「なぜでしょうね。でも、ジョージ様が何もしなければ、私も何もしませんので」

 オデットさんはそう言うとニコリと笑った。一瞬にして、息子が縮みあがる。

 グロリアスでの予定は変更だ。素材や調味料を見て回ろう。


「……うん?あいつ等、傭兵か?ジョージ、目を合わせるなよ。あいつ等、難癖つけて小銭稼ぎをするんだぜ」

 ボルフ先生の視線先にいたのは、四人組の熊人パーティー。全員、使い込まれた鎧を着ており、かなりの迫力がある。

 動きを見るだけでも、かなりの実力者なのが分かった。ここの警備員も強いと思うが、熊人の傭兵の方が確実に強い。ボルフ先生一人であのパーティーに勝てるだろうし、オデットさんなら瞬殺だと思う。確実に勝てるといって他領で好んでトラブルに首を突っ込むのは愚策でしかない。

 特に俺は、転生してからトラブルホイホイな体質になっている。相手の素性も分からないから、関わらない方が吉だと思う。


「貴族の姉ちゃん、こっちに来て酌してくんねーか?」

 熊人達は休憩に入ると同時に酒を飲み始めたらしく、一分もしないうちに女性に絡みだした。


「ここは公共の場です。お酒を飲むなとは言いませんが、他の方に迷惑を掛けるのは止めていただけませんか?お客様はあちらに避難して下さい」

 さすがに見かねたのか警備員が止めに入る。彼ほどの実力者なら、力の違いが分かるはずだが、怯える様子は一切ない。

(堂々としたもんだな……あれは隷属の首輪?)

 警備員の首には真っ黒な隷属の首輪がはめられていた。確かに奴隷ならどんな強敵にもひるまずに立ち向かっていく。


「あん?俺達はゴルド領に仕事に来たんだぞ。奴隷風情が生意気な口をきくんじゃねえ」

「おいおい、自分の実力が分かってんのか?しかも、こっちは四人なんだぜ」

 警備員は熊人の挑発に怯えるどころか、嬉しそうにニヤリと笑った。


「お前達の方が強いって分かってるさ。分かってるからケンカを売ってるんだ。この糞みたいな環境から解放される為にな」


 警備員はそう言うと腰に差してあった剣を抜いた。そして構えも取らずに、熊人達に襲い掛かっていく。


「正当防衛成立だな……死ねっ!……嘘だろ?」

 熊人が驚くのも無理はない。警備員は熊人が剣を構えたのを見ると、自らそこに突っ込んでいったのだ。熊人は剣を抜こうとするが、警備員の腹に深々と刺さっておりピクリともしない。剣を捨てて逃げても良いと思うのだが、全員警備員の迫力に飲まれてしまい一歩も動けないでいる。


「門が閉まったから、もう逃げれないぞ。後、数分で兵士が来る。これで……お前等も俺と同じだ。休憩地に縛られて残りの一生を過ごすんだ……」

 警備員の言葉通り、入り口の門は硬く閉ざされピクリとも動かない。さっきの貴族のご令嬢達が避難した先も、壁で閉ざされており近付く事が出来ないようだ。

 そして物の数分で兵士が到着した。

「ゴルド様の領地で狼藉を働くならず者め!!天が悪事を見逃しても、この勇者プレイブがいる限り悪は滅びる運命にあるのだ」

 兵士を率いていたのは自称勇者のタゴーサ……プレイブ。そしてプレイブは一瞬にして熊人達を倒した。しかも気絶させているだけ、余計な傷は一切つけていない。プレイブは次代の勇者を名乗るだけあって、かなりの実力者である。

「……マジかよ」

 熊人を拘束し終えたかと思うと、兵士は警備員の身ぐるみをはぎだした。


「これはこれはジョージ様。この者はゴルド領が所有している奴隷。そして衣服は貸与された物。回収するのは当たり前ですよ。ゴルド領にはゴルド領の法があります。まさか不満はありませんよね」

 後から聞いたところ、熊人達は奴隷にされ休憩地で警備をするらしい。一生無給で休みもなし。解放されるのは職務で死んだ時のみ。そして遺体は埋葬されず、きちんと使い道があるとの事。


「こうやってゴルド領の平和が保たれているんだな。万が一、警備員が負けても、それを上回る実力者が手に入ると……反吐が出そうだ」

 ボルフ先生の言う通り、胸糞が悪くなる制度だ。合理的でコストも良いが、非人道的すぎる。


「俺としては、貴族のお嬢様方の方が信じられないですよ。奴隷とは言え身を挺して守ってくれた警備員を一瞥もせずに行っちゃうんですから」

 感謝どころか軽蔑の眼差しもない。奴隷は私達の為に死んで当たり前だって感じだ。グロリアスでは大人しくしていた方が身の為だと思う。どこにどんな罠があるか分かったもんじゃない。

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