勇者シロー・ヨリック
やっと勇者が出ます。勇者いるのとか言われたけど、やっと出せました
拝啓、キミテ開発スタッフの皆様
開発スタッフの皆様、いかがお過ごしでしょうか。俺は今ゴルド領のグロリアスに来ています。リアルな町をゲーム上に作り出すと、皆様と頑張った日々は、自分にとって誇りだと胸を張って言えます……でも、グロリアスはリアルに再現しなくて良かったと思います。
敬具
システム担当プログラマー 榕木丈治
もしグロリアスをリアルに再現していたら、キミテは十八禁ゲームになっていたと思う。ただの十八禁ゲームじゃない、鬱展開満載の鬼畜ゲームだ。
街並みそのものは、とても綺麗だ。道は綺麗に掃き清められ、チリ一つ落ちていない。まだ日が高いからネオンにスイッチは入ってないが、商業が盛んらしく活気に満ち溢れている……ただ、露天で奴隷を売るのは止めて欲しい。
(奴隷の家族セット割りってなんだよ。魔物も売ってんじゃん?)
聞き耳を立ててみたら若い娘は比較的売れやすいけど、年老いた両親はよく売れ残る…だったら、娘の抱き合わせで両親も売ればいいじゃんって発想らしい。
前言、撤回。この町をリアルに再現していたら、発売許可が降りなかったと思う。降りても人権団体やPTAから苦情が殺到する。他社の製品なら、俺も苦情を入れると思う。
でも、グロリアスの人達は奴隷に目もくれない。正確には奴隷を買う時以外は意識さえしていない。多分、グロリアスの民にとって八百屋にキャベツがあるのが当たり前のように、道端で奴隷が売られているのも当たり前なんだろう。
そして領民の多くはシルクの服や高そうな毛皮を着ている。それと美味い物が集まる所為か、でぶ……ぽっちゃりな人が多い。見ただけで私達贅沢しまくってますと、伝わってくる。
「おや、そこを歩いているのは、ジョージ様じゃないですか?お優しい奴隷反対派なら、ここにいる可哀想な奴隷を買ってあげてはどうですか?」
話し掛けてきたのは、一人の奴隷商。ボルフ先生の話によると、これは奴隷反対派の貴族に対する常套手段らしい。断わったら冷たい貴族と揶揄される。買ったら最後、次々に可哀想な経歴を持つ奴隷を売りつけてくるそうだ。中には重い病に掛かって働けない奴隷を売られた貴族もいるらしい……在庫処理かよ。
「何か勘違いしていないか?俺は優しいから、奴隷を持たないんじゃない。ボーブルの制度と奴隷制が合わないから、持たないんだ。何よりボーブルに必要なのは身を粉にして働く者だ。地べたに座って憐れみを乞うだけの者はいらぬ」
うん、物凄く偉そうだ。凄く貴族している。しかも、奴隷制に表立って、反対していないから、ゴルド公爵の耳に入っても心配はない。
「貴族が身を粉にして……話には聞いていましたが、ジョージ様は面白い方ですね」
使っている言葉こそ丁寧だが、言葉にはかなり嫌味が籠められていた。まあ、普通の貴族は奴隷だけじゃなく民を家畜のように扱い、身を粉にさせて働かせている。
「今度ボーブルにお出でになったら、“ボーブルで一番働いているのは誰ですか?”と民に聞いてみて下さい。殆んどの者が領主のジョージ様だと答えると思いますよ」
ロッコーさん、あまり大きい声で言うのは止めましょう。
「ジョージ様は馬車で移動中も書類処理をされる方だぞ。夜中まで働いて気になる所があったら、深夜でも起きて仕事をする馬鹿……奇特な方なんだぞ。見ろ、目の下の隈を」
ボルフ先生、本音がだだ漏れです。書類と言っても、何人もの人生に関わるような物なんだ。夢でうなされて夜中に起きた事は一度や二度じゃない。
ちなみに、その日の夜も書類処理をしていた。町を探ったボルフ先生の報告によると、魔物と魔物……そして奴隷と魔物を闘わせる闘技場があったそうだ。そして魔物の餌は死んだ奴隷が使われる事もあるらしい。一度、人肉の味を覚えた魔物は積極的に人を襲うそうだ。
◇
ボルフ先生から面白い話を聞けた。悪意を持った人間がバウム村に行こうとすると、山中で遭難してしまうとの事。その所為かバウム村の人間はお人よしばかりだそうだ。そして村民は、村から出る事を極端に恐れているらしい。
「噂は本当かよ。どうやっても迷子になるような道じゃねえぞ」
ボルフ先生は地図を見ながら、いぶかしんでいる。バウム村までは一本道で、普通に進んで行けば迷いようがない。
「魔術の類が使われている感じはありませんね。人払いの為の噂だと考えるのが妥当です」
エルフのロッコーさんが言うのだから間違いないと思う。もしくはロッコーさんでも、気付かないレベルで隠蔽されているか。問題は誰がそんな噂を流しているかだ。現時点でシロー・ヨリックが勇者になると知っているのは、ごく少数の人間だ。つまり、シロー以外の人間を守る為と考えた方が自然である。
「ジョージ様、バングルの色が変わっていませんか?」
オデットさんに言われたので、腕輪を見てみると若干輝いているようにも見える。多分、バウム村を見れるので、テンションが上がっているのだろう。
「光の加減じゃないですか?念の為、ボルフ先生が御者をして下さい」
俺の予想では、さっきの噂は政治犯であるシローの父親をかくまう為だと思う。そうなると道中に罠が仕掛けれている可能性が高い。鼻のきくボルフ先生なら、事前に罠を感知できるはず……。
「……着いたんだよな。バウム村へ、ようこそって、看板があるし」
物凄いあっさり着きました。あまりにもあっさり着いてしまい、御者のボルフ先生も唖然としている。本当に一本道だったし、きちんと整備されていた。片道、約十分。しかも看板にはフレンドリーなイラストまで描かれていた。
「大きな拠り所の木があるし、そうだと思いますよ」
ゲームでも巨木として描かれていが、生で見ると圧倒される。屋久島の縄文杉並みの大きさなのだ。
「あら、貴方達、村の人間じゃないわね。みんなー、外の人が来たわよー。広場に集合して、話を聞かせてもらうわよー。さあ、こっちこっち。見ての通りここ田舎でしょ?娯楽もないから村外の人から話を聞くのが一番の楽しみなのよ」
中年のおばさんが俺の腕を掴みながら、一気にまくしたてる。田舎のおばさん独特のフレンドリーさと強引さで話が進められていく。
そして村の様子は至って普通。どこにでもあるのどかな農村だ。家は木製で、簡素。冬は隙間風が厳しいと思う。村人の服は麻のチェニック、継ぎが何か所も当ててある。そして村人は全員が痩せていた。なにもかもがグロリアスと違う。
「それならここにいるロッコー・ウォーターが適任だと思いますよ。彼はエルフですし、ハイードロの神官として色んな物を見てきましたから」
「エルフ?あたし生まれて始めて見たよ。ちょっと待ってて。村のみんなを集めてくるから」
おばちゃんはそう言うと、村の中へと物凄い勢いで走って行ったのだ。そしてものの数分で戻って来たかと思うと、自分が先頭に立ち、広場へと導いてくれた。声を掛けて回っただけなのに、おばちゃんもの凄いどや顔です。
広場には既に大勢の村人が集まっており、俺達の登場を今か今かと待っていた。その中で、ひと際目を惹く女性がいた。薄汚れたボロボロの服を着ているが、肌は貴婦人のように白く肉付きも良い。
(あそこにいるのがアイン・ルーベスの母親クレア・ルーベスです。オデットさん、クレアを母さん付きのメイドにしてもらえますか?)
クレアは男好きのする顔をしており、男と接する部署に配置すれば何らかのトラブルが起きると思う。
(洗濯場の人数が足りないので、あそこがよろしいかと……ジョージ様、勇者とアインはどこにいますか?)
俺もさっきから探しているんだけど、それらしい奴が見当たらない。シローはともかく、アインやフレーズはゲームと似た顔をしていると思う。
そんな時、勢いよく走ってくる少年の姿が見えた。明るい茶髪で、遠目でも引き締まった身体だと分かる。まだ幼さが残っているも整った顔立ちをしており、少年漫画の主人公を彷彿させる。
「アイン、フレーズ早く来いよ。俺、エルフを見るの初めてなんだ」
声も爽やかで、まさに主役って感じだ。どうやら彼が勇者シロー・ヨリックのようだ。すかさず鑑定し、シロー・ヨリック本人と確認する。
「シロー、走るのが早過ぎだよー。もう、私クタクタ」
疲れ切っているフレーズをアインがさりげなく支える。その頬に僅かに朱色がさした。
「シロー、少しフレーズにペースを」「フレーズ、こっちこっち。ほら、あそこが空いてるよ」
へとへとのフレーズの手を強引に引っ張っていくシロー、そして一人残されるアイン。シローの行動は無邪気そのもので悪気は一切感じられない。その所為か、アインは何も言えず寂しそうに苦笑いするだけだった。
おじさんはアイン君を応援します。
第二回人気投票の為、キャラまとめに入ります




