パーティーは胃痛を呼ぶ
嫌われ者始めましたのイラストレーターかれい様をモデルにしたキャラが出てきます
まずい。パーティーに参加する前から緊張で胃が痛くなってきた。今、フライングシップでパーティー会場へと向かっているんだが船内のメンバーが凄すぎる。
まずはファルコ伯爵家の面々、それに加えてコルレシオン公爵とランドル公爵家まで乗っているのだ。
有り難い事にゴルド公爵に招待された国外の貴族はボーブルに泊まってくれた。女性陣は総合商店がお目当てで、男性陣はサキュバス娼館がお目当てらしい。王都へ向かうゴーレム馬車も大盛況で嬉しい悲鳴をあげていた……まあ、それも昨日まではって話なんだけど。ちなみに今は胃が悲痛な叫びをあげている。
なんでもイリスさんとラフィンヌ様は、あの後文通をしていたらしく、今回ボーブルで会おうって事になったらしい。それは良い事だし、ボーブルを選んでもらえた事は非常に有り難い。
しかし、二人とも帰国してからフライングシップに乗った事を家族に話したらしく、私達もぜひ乗ってみたいって話になったそうだ。
領地が潤っているとはいえ、俺は爵位のない弱小貴族。国外の伯爵家や公爵家に逆らえる訳がない。
幸いな事にフェルゼンに行った時の間仕切りがそのままだったので、操縦席には俺しかいない。目的地はオリゾン城なので移動時間は短時間で済む。このままお偉いさんと会話する事なくゴールを目指す。
しかし、お約束のようにドアがノックされた。操船に集中していて聞こえませんでしたで逃げたらまずいだろうか。
「ジョージ殿、ちょっとお邪魔するぞ」
声の主はムー君だ。サユリママとの絡みもあって、ムート様とならさほど緊張せずに話ができる。
「ファルコ伯爵様、何かございましたか……?」
振り向くと同時に全身が強張ってしまった。ムー君に続いて、洒落にならないオーラを発してる方々が操船室に入ってきたのだ。入ってきたのは威厳たっぷりの初老の男性と高貴オーラだしまくりの老婦人、そして強面だが高貴さを感じさせる青年。その中に一人見覚えのある人がいた。ジンガ・コルエシオン、コルエシオン公爵家嫡男でベガルの兄にあたる方だ。
「ジョージ君、久し振り。僕の家族がどうしても君と話をしたいと言ってね」
僕の家族=コルエシオン公爵の方々ですよ。そうなると一番威厳のある男性がコルエシオン家のご当主なのだろうか……まじで勘弁して下さい。
「ダオメン・コルエシオンだ。単刀直入に聞く。息子が惚れたというのは、どんな女だ?」
ダオメン様が有無を言わせぬ迫力で迫ってくる。とても直答出来ない立場なんすよって逃げは許してくれない感じだ。
「ここは君の船の中だから地位は気にしなくて良いよ。それで弟の恋は上手くいきそうなのかい?」
逃げる前にジンガさんに退路を塞がれてしまった。
「女性の名前はスノウ・アイビス。年は十七歳で、種族は獅子人でございます。実家は王都で大衆食堂の長女です。それと上手くいくも何もまだ五回くらいしか会ってませんよ。ベガル様のご希望で家柄は内緒にしてますし」
まあ、その五回でさらにスノウさんに惚れたみたいなんだけど。
ベガルいわく
“スノウさんには一人の男として見てもらいたい。家柄や職ではなく、ベガル・コルエシオンという一人の男として見て欲しいのだ”
そう力説していた。
「それで息子はどんな話をしているのですか?あの子が好いた女性と上手く会話が出来ているか心配でなりません。当然、ジョージ殿はその女性がどんな話が好きかアドバイスをされたのですよね?」
「私がしたアドバイスは女性の話に耳を傾けるのが、仲良くなる一番のコツですよ。それだけです」
まあ、スノウさんとベガルが話せるように、色々と配慮した。おかげで俺はカリナと話す時間が激減している。
「口下手なベガルにはうってつけのアドバイスだね。ジョージ君、感謝するよ。それで弟の恋が上手くいく可能性はあるかい?」
絶対に上手くいく恋なんて存在しない。何回、向こうもお前に気があると思うぞってアドバイスを信じて自滅した事か。
「今のところ嫌われてはいないと思いますよ」
逃げではなく、これが精一杯の答えなのだ。打算がないと言えば嘘になるが、個人的にもあの不器用で優しい青年には幸せになって欲しい。
◇
針のムシロって言葉がある。今の俺の状態はまさしくそれである。さっきまで一緒にいたファルコ伯爵達は、ゲスト席にいるのでボッチなのだ。お見合いパーティーに参加したら、参加者が二十代ばかりで浮きまくりだった時を思い出してしまう。
「ジョージ・アコーギ?奴隷反対派のあいつがなんでいるんだ?」
「折角の素敵なパーティーが汗臭い匂いで台無しですわ」
パーティー参加者の敵意剥き出しな視線が突き刺さりまくりです。
(正に豪華絢爛、料理も酒も全て一級品。このパーティーを一週間も続けるんだから、物凄い財力だよな)
ちなみに俺が招待されたのは初日のみである。多分、ゴルド公爵は俺が贈った腕時計を飾って見せびらかすつもりなんだろう。俺は二大巨頭に負けない力を持っているって国内外にアピールしたいんだと思う。
パーティー会場は王都にあるゴルド公爵の私邸。私邸といっても、城並みに大きく、建材や内装は高価な物ばかり使われている。持っているジュースを零したりしたら、とんでもない賠償金を請求されそうで手が震えてしまう。
参加者の服装も華やかで、ねずみ色のスーツを着ている俺は服装でも浮いていた。不幸中の幸いとでも言うべきか、浮きまくりの俺に話しかけてくる人は誰もいない。
有り難い事に楽団が生演奏しており、目を閉じていれば音楽に聞き入っているようにも見えるだろう。
このまま、気配を消して壁と一つになるんだ。そして腕時計を献上したら、腹痛を理由に途中退席しようと思う。壁際で大人しく佇んでいたら、二人の男性が近付いてきた。
「やあ、ジョージ君。久し振りだね」
話し掛けて来たのはヌボーレ伯爵家の嫡男ヴァルム・ヌボーレ。さすがに今日はマルールさんは連れてきていないようだ。マルールさんの代わりに隣りにいるのは、二十代前半の青年。顔は整っているが、へらへらと軽薄な笑みを浮かべ口元はだらしなく緩んでいる。目に人間らしい温かみが一切なく、酷薄でぞっとするほどの冷たさを感じた。一言で言えば嫌な奴だ。
「お前がジョージ・アコーギか。噂通り冴えない顔をしているな。俺の名はエロ・カッパー、カッパー伯爵家の嫡男さ。俺は人種に関係なく、美しい者が好きだ。逆に言えば醜い者は反吐が出る程嫌いだ……俺が何を言いたいか分かるな」
まあ、早く帰れって言いたいんだろうな。でも、俺が曲がりなりにも招待客な訳で、お前の行動はゴルド公爵の面子を潰しているんだけど。
「エロ君はマルールの事を凄く褒めてくれるんだよ」
ヴァルムは嬉しそうに話しているが、ヴァルムを見るエロの視線には好意的な物は一切感じられない。お坊ちゃま独特の人の好さなんだろうが、見ていて痛々しい。
「お前にもいつか俺の奴隷コレクションを見せてやってもいいぞ」
「き、機会があればお願いしますね。でも、今年は受験勉強をしなきゃいけないので、来年にでもお願いしますね」
来年になったら、魔王軍が復活するからその機会は永遠にこないけど。
「良かったら、ジョージ君も一緒に絵姿を描いてもらわない?ゴルド様が国中の絵師を集めたんだって。ソカピ・ホッゴさんやカレイ・リクラゲさんもいるんだよ」
ヴァルムもエロも性格はともかくイケメンだ。並べて書かれた引き立て役にしかならない。
「俺、姿絵が苦手なんですよ。それにゴルド公爵様にいつお呼ばれるするか分かりませんし」
俺の言葉を聞いた瞬間、エロがにやりと笑った。
「そうつれない事を言うなよ。さっきヴァルムが言った二人はオリゾンどころか外国でも人気の高い絵師なんだぜ」
どうやってこの場から逃げようかと考えていたら、突然演奏の曲調が変わった。さっきまではゆったりとした穏やかなメロディーだったが、激しく荘厳な物に変わったのだ。
音楽に合わせるようにて、一人の男性が会場に現れた。鑑定してみると、どうやらあの男がゴルド公爵らしい。
軍人を彷彿させる精悍な顔立ちをしており、身のこなしにも一切無駄がない。それに常人にはあらがえない独特の威厳がある。
、
「ゴルド公爵に挨拶をされたい方は、こちらに並ぶように」
司会者がそういうと招待客が次々に列に並んでいく。
「すいません。私も挨拶にいかなくてはいけないので……失礼します」
このチャンスを逃してはならない。カレイ・リクラゲさんは俺でも知っている人気絵師だ。当然、作品の人気は高く姿絵はカレイさんが書いたオリジナルの姿絵は高値で取り引きされている。ちなみに姿絵を販売している店は人気絵師が書いた姿絵をお抱えの絵師に模写をさせて売っているのだ。
ゴルド公爵の挨拶を待つ列には独特の緊張感が漂っていた。ゴルド公爵は国内有数の権力者だ。もし無礼を働いたら、貴族でも無事では済まないと思う。
刻一刻と俺の番が近付いてくる。俺は無位なので、ゴルド公爵から話し掛けられるまで無言でなくてはいけない。
「次、ボーブル領主ジョージ・アコーギ」
ゴルド公爵の前に跪き、無言で腕時計を入れたカップ麺の容器を差し出す。これが日本だったら、速攻叩き出されただろう。
「ほう、噂の時計も凄いがケースも凄いな。ジョージ、褒美を取らせる。何か望みがあったら言ってみろ」
「それでしたら、後学の為公爵様の治める地を見学させていただけますか」
「よかろう。しかし、俺の統治はイジワールのように甘くはないぞ」
これで勇者に会える。生き残る為の大きな一歩だ。




