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惚れてまったやろー?

 漫画やラノベでは良くモテない男の子がアドバイスをもらって、彼女ゲットどころかハーレム展開になったりする物がある。でも、あの手の主人公はなぜ今までモテなかったんだってくらいのイケメンだ。しかもラッキースケベ属性持ちで、発動しても許されるどころか、さらに意識されてしまうんだから凄い。

 俺なんかラッキースケベを発動したらセクハラ問題に発展してしまうので、避けるどころかフラグを潰していたのに……転生も合わせると四十数年生きてるけど、ラッキースケベなんて数えるくらいしか経験してない。


「ジョージ様、そろそろベガル様が御着きになります」

 サンダ先生の言葉で姿勢を正す。俺が待機しているのは、最近出来たばかりのボーブルとフェルゼンを結ぶ縦貫道路。これにより物流だけでなく、人の行き来も盛んになった。特に女性専用総合商店とサキュバス娼館が人気である。

 特にサキュバス娼館は、地方に散ったサキュバスが集まってきており、かなりの盛況との事。後、二週間に一回、VIP専用ゴーレムリムジンを運行している。主な利用者はムー……ファルコ伯爵です。

 そうこうしていると、目の前に一台のゴーレムバスが停まった。バスから降りて来たのは、百九十センチをゆうに超える大男。縦にも横にもデカく、その筋肉で軍服がはち切れそうだ。弁当箱のような真四角な顔で、ごつさとあいまってロックゴーレムを彷彿させる。


「ベガル・コルエシオン様ですね。ようこそ、ボーブルにお越しくださいました……申し遅れました。私がボーブルで領主を仰せつかっておりますジョージ・アコーギで御座います」

 上目使いでベガルの反応を見てみるも、顔は岩のように固まったままだ。


「ベガル・コルエシオンだ。よろしく頼む」

 それだけかよ……しかし、待てど暮らせどベガルの口は動かない。口は真一文字に閉じたままピクリとも動かない。


「ベガル、久し振りだな。元気そうでなによりだ」

 他郷人ばかりに出迎えられて身構えてしまう危険性があるので、ベガルと同郷で既知でもあるミューエさんにも出迎えに参加してもらった。


「アイゼン殿、久し振りですね……隣のオークは護衛の重騎士ですか?それにしては鎧を身につけていないな」

 同郷人のミューエさんが相手だからなのか俺の時より口数が多い。しかし、かなり他人行儀だ。


「サンダ先輩が護衛の重騎士だと?サンダ先輩はオリゾンきっての秀才、いや天才なんだぞ。無論、ジョージ殿の盾として八面六臂の活躍もなされているが、その優れた叡智でボーブルの内政を担っている文官でもあるのだ……まあ、私のナイトであるのは間違いないがな」

 ミューエさんはベガルと一緒で普段は口数が少ない。なんでもフェルゼンではおしゃべりな人間は侮蔑な対象になるそうだ……でも、ミューエさんはサンダ先生の事となると俄然饒舌になる。そして人が変わったかのように乙女になってしまう。


「ア、アイゼン殿?」

 ミューエさんのあまりの変わりぶりにベガルも唖然としている。


「ご紹介にあずかりましたサンダ・チュウーロです。皆さん、コルエシオン様のお荷物を運んでもらえますか?」

 サンダ先生の合図に合わせてホームキーパー隊がなだれ込んでくる。

(あちゃー、近くに来られただけで、顔を真っ赤にしてガチガチに固まってんじゃん……ちょっと荷物を鑑定させてもらうか……マジ?)

 ベガルさんの荷物には身の回り品の他に大量の本が混じっていた。

 その内容は軍事教本・恋愛小説ローズナイトな貴方・恋愛ハウトゥーこれで今日から君をモテモテ・ロマンティックな決め台詞集・恋愛小説放課後の恋泥棒……ベガルさん、こじらせてるなー。


 ◇


 ベガル達には長旅の疲れを癒して下さいと伝えて、今日一日寮で休んでもらう事にした。その後俺が向かったのは谷のいる診療所。オデットさんから聞いた話では、ちょっとした事で診療所を訪れる独身のホームキーパーが増えているらしい。


「お前の受けた印象はどうだった?」

 何百人もの患者を診てきた谷なら、他の人違う何かに気付くかと思い遠目でベガルを観察してもらっていたのだ。しかも谷は医学系の鑑定能力がある。


「男子校卒の体育会系って感じだな。体は成人になっているが、異性に対する感覚は小学生レベルから成長してない。お前からもらった資料にも目を通したんだけど、昔の婚約者に振られたのがトラウマになって男しかいない環境に逃げたのが原因さ」

 医者って解剖するかのように他人の心の傷を分析していくよな。


「ベガルが持ってきた本は十代前半の女の子が愛読してる物らしい。失恋の痛手が大きすぎて、純粋な恋物語に救いを求めてるんだろうな。貴方だけいれば他に何もいらないなんてガキの絵空事なんだけどな」


「お前もまだまだだな。暴論に聞こえるかも知れないけど、医学的にみて恋愛はセロトニンとかのバランスが崩れた異常状態だって考え方もあるんだぜ。早い話が生存本能が理性を狂わせてるのさ。そうでなきゃリスクが高い不倫なんてする訳ないだろ。老いらくの恋って言葉もあるだろ」

 ここ十数年全てを投げ捨ててもいい恋愛なんてしていない……すでに俺の生存本能は休止状態なのか。


「そういやアントニオスもクレオパトラに骨抜きされて、滅茶苦茶したんだもんな。恋は遠い日の花火だと思っていたけど気を付けないと駄目か」

 晴香と付き合っていた時も恋愛より仕事の方に比重が傾いていたと思う。結婚する為には出世だと思い仕事に邁進していたら、彼女を盗られたんだからとんだ間抜けだ。


「それでどうするんだ。あの純情青年に嫁さんを見つけなきゃいけないんだろ?」

 谷の言う通り、俺はベガルの兄ジンガさんから弟に嫁を見つけてやって欲しいと頼まれている。うまくいけばフェルゼン帝国に太いパイプが出来るし、サンダ先生とミューエさんの結婚に力を貸してもらえるのだ。


「とりあえずオリゾンを案内するって名目で色々連れ回してみるさ。そういやサキュバスの事で何か分かった事はあるか?」

 サキュバス娼館が繁盛しているのは嬉しいが、精を吸われ過ぎて衰弱死したり夢中になり過ぎて身を崩されたりしたら大変である。だから谷にサキュバスと娼館に通っている男性を調査してもらっているのだ。


「サキュバスって凄いな。精の正体は分からないけど、一緒にストレスも吸収しているみたいだぞ。それに獲物が弱らないように、性欲も一緒に吸って管理してるんだってよ。俺もお前と一緒で利用禁止になったけどな」

 そりゃそうだ、おとこを殺してしまって一番困るのはサキュバスなんだし。谷の話では神使と契約した人間の精はサキュバスにとって毒らしい。


「それでファルコ伯爵は来る度に元気になってるのか」

 ムー君が腹上死する危険性はなくなったと……しかし、こうも都合が良すぎるとサキュバスも造られた存在に思えてくる。


「今度は俺から質問だ。魔法ってのは、何なんだ?特にヒールなんて医学の定説覆しまくりだぞ」

 まあ、魔法を掛けただけで血がとまったなんて信じろって方が無理だと思う。


「俺が聞いた話をまとめると大気中に存在するマナとか魔素って物質と自分の魔力を掛け合わせる事で一定の具象を起こすって感じだな。俺がヒールを使う時は、マナを絆創膏代わりにして出血をとめてるって感じだけど……どうした?」

 ヒールは感覚的に使っているところがあるから説明しにくい。ふと見ると谷が唖然とした顔をしていた。


「消毒もしないでか?それに皮膚だけ癒着して血管は治してないのか……きちんと体の構造を覚えるまではヒール禁止だ」

 よく考えれば雑菌ごと皮膚を閉じていた事になるのか。


「と、取りあえず魔法を使って見せる。窓を開けるぞ」

 どうせなら視覚的に分かりやすい魔法がいい。ここは新魔法を見せて谷の度肝を抜いてやる。


「お前に死なれたら飯が食えなくなるから、遠慮なく駄目だしするぞ」

 君の辞書に遠慮って言葉が載っているって初めてしったよ。


「水量は一ℓ。水流の中心地は木の枝…纏わり付く水ストーキング・ウォーター

 俺の手から放たれた水が球体に変化して木の枝に纏わりつく。やがて三十秒ほどすると水はマナに戻ったのか、跡形もなく消えてしまった。今の俺にはこれが限界なんです。


「溺死を狙ってるのか?あの程度の水量じゃ無理だろ。パニックになるかもしれないけど、確実性は薄いな……こんなのは出来るか」

 そう言うと谷は数式のような物を書き出した……医者って怖い。


「まあ、魔法はこんな感じだよ。自分のイメージしやすい詠唱を唱えた方が効果がでやすい。こっちの世界の人間はウォーターじゃなくハイードロになると思うぞ」

 俺の場合はハイードロよりもウォーターの方がイメージしやすいのだ。


「お前の事だからプログラムにして唱えると思ったんだけどな」

 谷君、それ既に実践済みです。


「詠唱をプログラム化するとあほみたく長くなっちゃうんだよ。今の魔法でいけば水の水温から枝に辿り着くまでの軌道。それに球体の直径。そんなのを全部盛り込まなきゃいけないんだぜ。しかも計算を一か所でもミスると、全部おじゃんになるし」

 計算機でもあるパソコンだから可能な技なのだ。


 ◇


 まずい、このままでは絶対にまずい。ベガルを色々と案内してみたが、女性が近くに来るだけでカチコチに固まってしまうのだ。会話どころか挨拶すら出来ていない。

中学生クラスメイトの方がまだましだぞ。会話させるところからスタートかよ)


「お疲れになられたでしょう?ここは俺が良く来る食堂なんですよ」

 ベガルを連れて来たのはカリナの店。おじさんに話があったから、丁度いい。


「いらしゃいませ……ジョージ様?カリナちゃん、ジョージ様が見えたわよー」

 出迎えてくれたのはカリナの姉スノウさん。スノウさんの言葉が食堂中に響き渡ったと思うと、カリナが大慌てで厨房から飛び出してきた。


「お、お姉ちゃん声が大きいって……ジョージ、後ろの人大丈夫?」

 後ろを振り向いてみると、顔を真っ赤にして固まっているベガルがいた。湯気でも出るんじゃないかってくらい真っ赤である。


「お客様、大丈夫ですか?」

 スノウさんはうんしょって感じで背伸びをすると、ベガルの額に手を当てた。スノウさん、それ反則です。ベガルの顔はますます赤くなりまるで夕日のようだ。


「だ、だ、だ、大丈夫です。不肖、ベガル・コルレシオン、身体の頑丈さだけが自慢です」

 ベガルはそうとドンと胸を叩いてみせた……こりゃ、確実に惚れたな。


「ベガル様は、お強いんですね」

 そう言って上目遣いで微笑むスノウさん。カリナの話だと、あれを無自覚でやっているらしい。スノウさん、怖いです。

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[一言] 腹上死wwwww
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