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嫌われ者始めました〜転生リーマンの領地運営物語〜  作者: くま太郎


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109/200

贈り物が胃痛を増やす?

 普段は夜でも活気があり賑やかなボーブル城だが、今夜は静寂に支配されている。多分、灯りがともっているのは俺の部屋くらいだろう。

(そろそろ時間だな……さてと、準備をしますか)

 パソコンから手を放し、ぐっと体を伸ばす。今日は十二月三十一日、大晦日だ。年末ギリギリに転移したせいで、こんな時間まで仕事をしていたのである。オリゾンに年越しにカウントダウンをしながら過ごす習慣はない。多分、城内で起きているのは夜警をしている兵士と俺くらいだろう。

 スエットの上にどてらを羽織り、年越しの準備を開始する。やかんに水をいれ火を沸かす。そしてこたつにグリーンのタヌキを置けば準備完了。こたつに潜り込み、新年が訪れるのを待つ。

 思えば今年も色々あった……奴隷にされている他国の令嬢を見つけ、国難を回避する為フライングシップを手に入れた。奴隷騒動は無事解決出来たけど、六魔枢の部下であるフーマ三姉妹の怨みを買ってしまったのはきつい。そして今年もヒロインズに嫌われまくった。特にベルは頭からドラ糞を降らせてしまったので、好感度は地に落ちたと思う。

 でも一番は日本に帰れた事だと思う。家族や友人にきちんと別れを告げる事が出来た……気になるのは真っ白な空間で出会ったジョージ・アコーギを名乗る少年。彼が本物のジョージだとしたら、ゲームに出て来た嫌われ者のジョージは誰なんだろう。

 感慨に耽っていると、どこからか演歌が流れてきた。


「その坂には名もない花が咲くという。儂は坂を超える時、お前を思い出して一筋の涙を零すやろ。涙が地に落ちた時、新たな花が芽吹くんや……失恋ざぁかー」

 歌っているのは和服に身を包んだミケ。異世界の神使が、なぜこぶしをまわせるんだ。


「さて、そろそろ三分経つな」

 大量に持って来たとはいえ、貴重なカップ麺がのびてしまったら大変だ。カップ麺の蓋を開け、スープの素を投入。グリーンのタヌキ独特の良い匂いが鼻をくすぐる。


「おいっ!演歌やぞ。日本の心やで。心して聞かんかい……し、信じられん。こいつ、後乗せの天ぷらをもう入れとる。せっかくのサクサクが無くなるやないか!」

 こいつは、なんで日本のカップ麺に詳しいんだ?俺の知識って、そんなに偏ってるんだろうか。


「俺はサクサクよりトロトロになった方が好きなんだよ」

 そして残ったスープにご飯を入れれば、二度楽しめるのだ。塩分に気を使う事も大事だけど、食事は美味しく頂くのが一番だと思う。


「あー、企業努力を蔑ろにしよった……さて、儂もおこたにお呼ばれしよ。あっ、儂はお揚げさんが入ってるのをもらうで」

 猫がキツネを食うのか。レッドなキツネにお湯を入れミケの前に置く。

 そうこうしてるうちに新年になったらしく、パソコンから鐘の音が聞こえてきた。十二時になると除夜の鐘が鳴るように仕込んでおいたのだ。

「相変わらず、下らん事に労力を使いおって……仮にも貴族なんやぞ。なんや、この庶民感満載な部屋は」

 ミケの目線の先にあるのは日本から持ってきた布団と漫画に占拠された本棚。この一角だけを切り取れば、日本の安アパートに見えるだろう。


「庶民が仮で貴族をしてるんだからしょうがないだろ。何より、この方が落ち着くんだよ。それにお前もこたつの魔力に魅了されてたんじゃないか?」

 豆炭の代わりに火の魔石を使っているから安全である。温度も魔力で調整出来るように改良してもらったのだ。


「な、なに言うてのや。儂は猫やなくて神使やぞ。おこたの中で丸くなりたいなんて、これっぽっちも思ってないわ……相談なんやけど、おこた儂にも作ってもらえへんか?」

 趣味で持ってきたこたつだが、城では中々好評である。特にアミはこたつに入りながら、勉強するのがお気に入りらしい。勉強に勤しむアミも可愛いくて、貴重な日本のお菓子をついついあげてしまう。


「評判が良いから量産する予定だよ。そう言えば日本から送った苗が見当たらないんだけど、どこにいったか分かるか?」

 不思議な事に日本から転移した物の中で、苗だけがどこを探しても見当たらないのだ。


「あれはラブーレ様が管理してくれとるで。植えれる時期になったら、送ってくれるそうや。やっぱり甘いお揚げさんは最高やな」

 オリゾンには保温室がないから、今(ふゆ)転移していたら枯れていたかもしれない。ラブーレ様が管理してくれた苗だと分かったら、サンダ先生が感涙しまくりだろう。


「そういや今日はなんか用事でもあったのか?」


「これをリヤン様から預かってきたんや。リヤン様が自らお作りになられて、祝福をお籠めになられた神具なんやで。ありがたーく頂戴するんや」

 ミケが恭しく取り出したのは真っ白な布で作られた腕輪。材質は絹だろうか上品な光沢がある。

 正直ありがた迷惑だ。どう見ても俺には似合わないし、汚れが目立つと思う。


「わ、わあー嬉しいな。でも、俺なんかが神具を持つのは不敬だよね。そうだ、オリゾンの国宝にしなきゃ。王様に届けよー」

 思いっきり棒読みではあるが、王様に押し付ける事が出来た。神様からの贈り物なんて持っていたら一時間で胃に穴が開いてしまう。


「何言うてんや。お前がきちんと身につけな礼儀に反するやろ!」

 ……そうは問屋が卸してくれないか。ミケがマジ顔で説教してきた。


「だって神様からの贈り物を失くしたりしたら、一大事だろ。無くさなくても汚しただけでも足を引っ張られる要因になるって。俺がもらうから金庫にしまっておいて良いだろ」

 レコルトは神使のミケにフレンドリーな対応を取っただけで、ガチ説教をくらう世界だ。リヤン様から頂いた腕輪に食べこぼしによる染みをつけでもしたら、死刑台に直行になってもおかしくはない。


「もし、失くしたら儂が責任をもって介錯したるから安心せい……こら、動くなちゅうの!パラライズッ」

 介錯って切腹確定かよ!必死に抵抗するが腕輪は俺の腕へと通された。


「マジかよ!長めの手袋探さなきゃ……あれ?」

 絹で出来た腕輪はいつの間にか金属製のリストバンドへと姿を変えていた。色は鈍色(にびいろ)である意味俺に似合っている。


「その神具はお前の状態に合わせて姿を変えるんや。ちなみに色は精神状態が反映されるんやで」

 新年が来るまで仕事をしていた俺の心の空は鈍色と……思いっきり曇天模様じゃないか。


「なんか自分の心が見透かされているみたいで怖いな……あれ?外れないぞ」

 リストバンドは俺の腕にジャストフィットしている。しかもどこにも留め具が見当たらない。まるで囚人に付けられる拘束具のようだ。


「それはもうお前の腕と一体化してるんやで。外すには腕を切るしかないで」

 つまり俺は一生囚人状態と……籠められているのは、祝福じゃなく呪いなんじゃないのか。


「絶対に皮膚がかゆくなるって。夏なんて臭いも凄い事になるし」

 “おじいちゃん、お口臭い”じゃなく、“お兄様、腕が臭いです”になってしまう。


「心配するな。それは文字通りお前の腕と一体化しとるから、洗っていれば痒なる事も臭う事もないんやで」

 さすがは神具。きっと性能もチートだろう。ここは鑑定の出番だ。


 鑑定結果:リヤンの腕輪 絆の神リヤンが作ったナウでヤングな腕輪。個人個人に合わせて変形するファジー機能つき。

 リヤン様、無理している感が満載で痛々しいです。変形する以外は特別な機能がない普通の腕輪らしい。


 ◇


 年末年始と重なった事もあり、日本土産を渡せたのはごく一部の人達だけだが、お土産は概ね好評である。

 書物はミケの計らいで所持登録した人のみ、日本語を知らなくても読めるようになっていた……リーズンはうし○ま君にかなりのカルチャーショックを受けていたけど。逆に祖父のイジワール公爵は、かなり気にいったらしく熟読しているそうだ。

 年も明けて今日は一月の七日。去年までなら年始の仕事も一段落していたけど、今年は胃痛に苛まれていた。


「ゴルド公爵邸で行われる新年祝賀会への招待状か……マジで行きたくねーな」

 今まで歯牙にもかけなかった俺を招待したのは、王様や爺ちゃんに贈った腕時計が原因らしい。研究用に買った安物の腕時計が何本か残っているから、それを流用すれば問題はない。俺自身はあからさまには対立していないが、俺はゴルド公爵率いる奴隷推進派と敵対している奴隷反対派に属している。それにボーンタ・オッニゾーリの件で奴隷推進派に痛手を負わせた過去がある。早い話がゴルド公爵のパーティーは、俺にとって思いっきりアウェーなのだ。


「しかし、ゴルド公爵の招待を断るのは得策ではありませんよ」

 サンダ先生の言う通り、ゴルド公爵と俺では力が違い過ぎる。俺のバックには爺ちゃん、イジワール公爵の二大巨頭がいるから、危害を加えられる事はないと思う。

 ちなみにサンダ先生は毎日ミューエさんにブラッシングしてもらっているそうで、毛が艶々としている。


「あら探しをされて、難題をぶつけられるだろうな」

 ボルフ先生が溜め息混じりでつぶやく。これが王家主催のパーティーなら奴隷反対派の貴族が助け舟を出してくるんだけど、今回それは期待できないと思う。

 

「今年も課題を一つずつクリアしていくしかないですよ。明後日にはベガル様が来ますし」

 何人か部下を連れて来るそうなので、専用の兵舎を新築するはめになった。それに人数が増えるとなると、食堂のキャパもきつくなるだろう。


「ベガルは問題を起こさないと思う。しかし、あいつの一番の目的は嫁探しだ。あの不器用者が仕事と並行して女を探すのは困難だと思うぞ」

 ミューエさんの左手の薬指には、サンダ先生が日本で買った指輪がはめられている。この二人の為にも、ベガルの嫁探しは成功させなければならない。


「ちなみにベガル様はどういう女性が好みか分かりますか?」

 ボーブル城では多くの女性が働いている。ベガルの好みの女性が分かれば接する機会を増やすのも手だと思う……しかし、問題がある。うちの城はリア充率が高く、パートナーのいる職員が殆んどなのだ。独身、彼氏なしの職員を脳内でリストアップしていく。


「大人しくて従順な女らしい。“女は男に逆らうな”なんて、女を馬鹿にしているよな。サンダ先輩の爪の垢でも飲ませてやれば、変わると思うぞ」

 そう言ってサンダ先生を見つめるミューエさん。サンダ先生限定ですが、充分従順だと思います。まあ、サンダ先生がミューエさんの意思を尊重しまくるので、バランスがとれているけど。

 ボーブル城は母さんを筆頭にオデットさん、ミューエさんと強く優れた女性が多い。ちなみに酷いセクハラやパワハラが発覚した際には、オデットさんが自ら粛清すると宣言している。

 独身、彼氏なしに加えて大人しい女性を条件に加えて絞っていく。


「そういやタニザキが女性職員に人気らしいぞ。顔も良いし、城主(おまえ)と親しくてもそれを鼻にかけないってな」

 谷は城の一角に診療所を開いて、日々頑張っている。落ち着いたらボーブルの町々に往診に行くそうだ。


「あいつは個人的事情があって、恋人を作らないと思いますよ」

 ベガルみたく選り好みしてるんじゃなく、ちょいと訳ありなのだ。


「それとベガルは顔が整って女にもてる男が苦手だそうだ」

 ボーブル城の男性は人気が高く、特にリーズンや谷の絵姿が飛ぶように売れているらしい。

 ベガルが大人しい女性を好むのは否定されるのが怖いからだと思う。イケメンが苦手なのは、今まで何度も煮え湯を飲まされてきたからだろう。

 ベガルが所長をしていた兵士養成所に顔が整った兵士もいたと思う。しかし、顔を理由に兵士を贔屓したって事はないそうだ。

 ベガルは公爵家の出である。当然、権力があるし、個人的にも優れた戦士だから力も強いだろう。その力を使えば女性を圧倒する事が出来るのだろうが、それを良しとしていない。

(強面の顔と口下手なのが原因か……個人的には応援したいんだけどな)

 さらに条件を絞ってリストアップしていく。そんな都合よく好条件な女性がいる訳なく、検索結果はゼロである。

 それにいたとしても、ベガルが好きにならなきゃ意味がないし、コルオシオン公爵家の御眼鏡に適わなきゃいけないのだ。特にベガルの姉妹や義理姉妹の審査は厳しいらしい。

 気のせいかアームカバーの色がさらにくすんでいた。

ちなみに今日は作者の誕生日。そして明日は二巻の発売。作者への誕生日プレゼントだと思って手に取ってもらえれば嬉しいです

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[一言] 貴族がウシジマくんハマるのかぁ
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